『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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52話目

 朝の走り込みに参加していることは、既に校内で話題になっているらしい。

 なんでそんなことが話題になっているのかは些か疑問ではあるが、暇人が多いのだろう。

 初日こそ最後まで走り切れずに後れを取ったが、女子中学生に負けたままではいられないので、気合を入れなおして次の日からは最初から最後まで走れるようにした。

 

 そのせいか、十王さんと雨夜さんとの打ち合わせの時に何故か評価が上がっていたのはよくわからない。

 別にプロデューサーが走ったからと言って、プロデュースへの影響は……どちらかと言うと悪影響の方が多い。

 単純に他に使えるリソースを体力錬成に使うということは、他のことに割ける時間を削るということで、よっぽど余裕がある状態じゃなければやらない方が良い。

 

 今回それでもやったのは、担当アイドルとの交流の場を設けるためだ。

 初日はサポート側に回ったが、それ以降は今日まで何とか完走している。

 しているのだが…。

 

「はぁ…はぁ…月村さん…」

 

「はぁ…はぁ…なんですか?」

 

「…はぁ…何で今日は昨日よりも…はぁ…1周多くしてるんですか…?」

 

「……昨日、食べ過ぎ…はぁ…ちゃったから…ちょっと多く走ろうと思って…」

 

「…はぁ…そういうことは…早く言ってください…」

 

 月村さんと並走しながら話す。

 考え事をしながら走っていたら、気づいたら周回数がこれまでより1回多かったことに今更気づいた私は、既に限界がかなり近い。

 

 走りながら話すことは体力を過剰に消耗するため、一見無駄なことに見えるかもしれないが、アイドルのライブはそれをステージ上で常に行うようなもの。

 問題を上げるとするなら…私の体力が持つかどうかだが、意地でも持たせる。

 担当アイドルの前で無様を見せるぐらいなら、死んだほうがマシだ。

 

「はぁ…はぁ…花岡さんと賀陽さんは…はぁ…だいぶ先に行ってますね…」

 

「…はぁ……はぁ…燐羽はともかく…はぁ…ミヤビも大概体力お化け…はぁ…はぁ…その上負けず嫌いだから…はぁ……多分、燐羽と競ってる…はぁ…はぁ…」

 

「はぁ……はぁ…元気でよろしい…」

 

 今日は藤田さんはいない。

 昨日はバイトだったため、朝の走り込みは参加しないで睡眠時間を確保するためだ。

 この走り込みに参加して気づいたことは、走るペースの速さは多少調子によって前後するものの、賀陽さん>花岡さん>藤田さん=月村さんの順だということ。

 残念ながら、今の私には月村さんのペースで並走するのが精いっぱいだということ。

 

 月村さんのペースが他に比べて遅めなのは、シンプルに賀陽さんと花岡さんが早すぎるだけで、決して月村さんが遅いわけではない。

 最近は、体重も筋肉量を考えると十分基準内に収まるようにできており、体力は少しずつ着実についてきている。

 

 …秦谷さんは今のところ参加しているところを見たことがない。

 元々、たまにしか参加しないで朝食の用意などをしていると聞いているので、それ自体は問題ない。

 参加してくれれば御の字だったのだが、望みすぎだろう。

 それに、『H.J.I.F』が終わってからはユニットでのレッスンも行ってもらっている。

 そっちの予定に穴をあけたことは1度もなく、彼女が如何に『SyngUp!』が大好きかを物語っていた。

 

 花岡さんは思った以上に努力家だ。

 気高さを持ち合わせつつも、勝つためなら宿敵とも言えるプロデューサーからのアドバイスも受け入れる柔軟さもある。

 …そうでなければ、『SyngUp!』の下、『中等部No.4』と呼ばれる実力にはならないのだろう。

 良い意味で、初星学園の生徒らしいと思う。

 そして、地道に努力を続けてきた結果が、今の彼女なのだろう。

 

 地力は十分ある。

 あと少しのきっかけで化けそうなぐらいだが…私にはきっかけ(それ)がわからない。

 『花岡ミヤビ』は『学園アイドルマスター GOLD RUSH』で登場したぐらいしか知らない。

 アレは週間連載だったはずだから…もしかしたら新刊(追加の情報)があるかもしれないが、()()()()()()()()()

 

 どうせなら、『雨夜燕』の件じゃなくてそっちの方が今は欲しいのだが…ないものねだりをしても仕方ない。

 それに、私は深入りしないと決めたのだから、これ以上首を突っ込まない方が良いだろう。

 

 月村さんとひーひー言いながら走り続け、初星学園の校門が見え始めた。

 既に、賀陽さんと花岡さんがクールダウンをしている途中だ。

 秦谷さんもボトルとタオルを用意している。

 藤田さんはギリギリまで睡眠時間を確保しているのだろう。

 

 時刻は7時半を越えたあたり。

 今日は1周多く走ったせいでギリギリの時間になってしまった。

 普段は7時頃に終わり、ここからシャワーを浴びたり朝食を摂ったりして、登校するのが朝のルーティーンになる。

 

「お疲れ様、プロデューサー。

 …手毬には付いてこれるようになったわね。

 思ったよりも走れるじゃない」

 

「はぁーはぁーはぁー…流石に今はこれが限界です。

 お恥ずかしい限りですが」

 

「ワイシャツで走るからでしょ。

 もっと動きやすい服装にしなさい」

 

「はぁ…はぁ…それは…遠慮しておき…ます…」

 

「最初は汗だくのプロデューサーも新鮮でよかったけど、もう別にありがたみもないし、とっとと動きやすい服装にした方が良いわよ」

 

「…はぁ‥はぁ…ありがたみって何ですか?」

 

「ことねか美鈴にでも聞きなさい」

 

 まだ息が絶え絶えな私も、賀陽さんの言葉に引っかかって思わず返してしまうが、藤田さんか秦谷さんならわかるらしい。

 そういえば、最初の方は朝練のたびに写真を撮られていたような気がする。

 

 ………気づかなければよかったのに、少し余裕が出てきて気づいてしまった。

 背筋が寒くなってきた事実から目を背けるために、私は地団太を踏みかねない勢いで憤っている花岡さんに視線を移した。

 

「くっ、今日も追いつけなかった…!

 明日、明日こそは追いつきます!

 賀陽燐羽!」

 

「朝から暑苦しいわ。

 追いつきたければお好きにどうぞ、待ってあげるつもりはないから、勝手に頑張れば?

 今日まで一回も追いついてないけど、いつになるのかしらね?」

 

「こ、この~~~!」

 

 賀陽さんと花岡さんがじゃれあっているうちに、秦谷さんが私と月村さんにボトルとタオルを持って近づいてきた。

 

「まりちゃん、こっちがスポーツドリンクですよ。

 少し薄めてぬるめにしていますから、飲みやすいはずです。

 濡れタオルもありますから、軽く顔を拭いてくださいね」

 

「はぁ…はぁ…あ、ありがとう美鈴」

 

「どういたしまして。

 プロデューサーの分もありますよ」

 

「はぁ…いつもありがとうございます。

 秦谷さんは参加しないんですか?」

 

「朝はのんびりしたいですし……ご飯の用意があるので」

 

 秦谷さんは面倒そうに私の提案を断った。

 多分違うとは思うのだが、念のため確認しておきたいことができてしまう。

 

「…私の分が負担になっていると言うのであれば、止めていただいていいですよ?」

 

「プロデューサーはわたしの楽しみを奪うというのでしょうか?」

 

 珍しく一息で言い切った彼女の眼は笑っていない。

 

 私が負担になるなら止めてほしいのだが、彼女にとって楽しみになっているのなら仕方ない……。

 本当はもっと自分のことをしてほしいのだが、彼女がそれで止まるような人ではないのは良くわかっている。

 それと…

 

「楽しみになっているのであれば止められませんね。

 毎日、楽しみにしている私もいるので…止めるべきなのですが、少し安心してしまっています。

 いつもおいしいご飯をありがとうございます」

 

「喜んでいただけて何よりです」

 

 一人暮らしだとどうしても、食事に手を抜くことが多くなってしまうので、秦谷さんのご飯は色々な意味で助かっている。

 本気で負担になっているなら止めるが、秦谷さんの言葉で安心してしまっている私がいるのは事実だった。

 食材費は当然出しているし、時々品質の良い食材を見繕って秦谷さん宛に寮へ送ったり、直接渡したりしている。

 

 そんな私たちのやり取りを見て、花岡さんがふと零す。

 

「……疑問なのですが、なぜ、秦谷美鈴はこの調子であなた方と並んでいる…いえ、一歩先を行っているような状態なのですか?

 あなた方とレッスンをして、秦谷美鈴が月村手毬に普段勝ち越していることは見てわかります。

 レッスン量が実力差になるわけではないこともわかっていますが…」

 

「秦谷さんはあまりそう見えないかもしれませんが、努力家ですよ」

 

「本気で言ってます!?」

 

 私の言葉に冗談じゃないとばかりに絶叫する花岡さん。

 だが、私が彼女を見ている限り、彼女は努力家だ。

 

「サボることも多いですし、朝練も参加していませんが、それは彼女のペースではないからです。

 その分、と言っては何ですがレッスン中の習熟力は目を見張るものがあります。

 ()み込みが早い、だけでは説明がつかないでしょうから、私の分析を話しましょう」

 

「へえ、ちょっと興味があるわね」

 

 賀陽さんがそう言って私の言葉を待っている。月村さんも花岡さんも納得できない顔をしているが口を挟まないで見てくるだけだ。

 

「秦谷さんは、レッスン中に考えながらレッスンを受けています。

 トレーナーからの指示だけではなく、何故その指示をするのか、その指示がどういうふうに効果があるのか、であればよりどうしたほうが効率がいいのか。

 そう言ったことを考えて、考えながらレッスンを受けているからこそ、短時間で上達することができるのです。

 これを努力と言わずに何と言えばいいでしょうか」

 

 秦谷さんは異常なほど()み込みが早い。

 だが、それは感覚的なものではなく、理論立てて理解していることの方が多いと気づいたときに、私はこの見解に達した。

 

「……なるほど、確かにそういうことであれば理解はできます」

 

「そうなの、美鈴?」

 

「………そうですね。

 あまり意識はしていませんでしたが、言われてみればプロデューサーのおっしゃる通りかもしれません」

 

「逆に月村さんはそこまで考えないで体を動かすタイプです」

 

「プロデューサー!?

 わ、私がまるで、何も考えないでレッスンを受けてるって言うんですか!?」

 

「いえ、まるっきり考えなしで動いているわけではないことはわかっていますよ。

 むしろ、同年代の他の方と比べたらよく考えてレッスンに取り組んでいることはわかっています。

 ですが、秦谷さんのように相手の真意を細かくは考えていないでしょう」

 

「それは…そうですね。

 同じようには、たぶんできません」

 

「その分を練習量でカバーしています。

 これがペースが違う、ということです。

 みんながみんな、それぞれのペースでいいんです。

 合っていないようであれば調整しますが…花岡さんは自分を弁えていますね」

 

「当然です。

 オーバーワークは体に悪いですし、一度崩れると戻すまで時間がかかることも知ってますから」

 

 そう言って自信満々に胸を張っている。

 私はそんな彼女が賀陽さんに追いつこうと無理にペースを上げていることを知っているが、そこはツッコまないでおこう。

 

「その年で自制ができるのは素晴らしいことですよ。

 賀陽さんと月村さん、藤田さんは放っておくと無制限にレッスンをしますから」

 

「ちょっと、手毬たちと一緒にしないで頂戴」

「私だって自制ぐらいできますから!」

 

 賀陽さんはそう言っているが、私は忘れてないぞ。

 

「月村さんの寝言はともかく、賀陽さんも『H.J.I.F』のレッスン中に何回か私が運ぶ羽目になったじゃないですか。

 以前に言ってた、月村さんよりも無謀にレッスンしてたっていうのが、冗談じゃなかったことに驚いたんですよ」

 

「え、燐羽、そんなことしてたの!?」

「わ、忘れなさい!」

 

 恥ずかしそうに叫ぶ賀陽さんに秦谷さんが昔を懐かしむように微笑んだ。

 

「ふふふ、昔のりんちゃんに戻っちゃったんですね」

 

「そういえば、賀陽燐羽は1年生の頃とはキャラが違いますね」

 

 花岡さんの言葉で、ふと思い出した。 

 

「あ、花岡さん、昔の賀陽さんの写真とかありませんか?

 あまり見せてくれないので」

 

「う~ん…流石にそこまでわたし(ミヤビ)は賀陽燐羽と仲良くなかったので…」

 

「ちょっとプロデューサー!

 ミヤビも、勝手に渡したら承知しないわよ!」

 

 賀陽さんが必死に止めているのを見て、花岡さんは口角をニヤッと上げた。

 

「あ、そういえば入学式の時に撮った全体写真ならあった気がします」

 

「是非見せてください」

 

「ダメよ!

 ダメだから!」

 

「ええ~~~?

 どうしようかしら~~?」

 

「こ、こいつ…!」

 

 必死に止めている賀陽さんに煽るようにすごい顔で花岡さんが覗き込んでいる。

 …ちょっとやりすぎたか。

 

「そろそろ賀陽さんが本気で嫌がりそうなので止めておきましょう。

 ですが賀陽さん、私は前の賀陽さんも好きですよ」

 

「…………!?!?!?」

 

 前に秦谷さんにも言ったし、もう隠す必要もないと思ってそう言ったが、賀陽さんは予想に反してフリーズして顔を真っ赤にした。

 秦谷さんと月村さんも釣られて顔を赤くしている。

 

「プ、プロデューサー!?

 それってどういうことですか!?

 プロデューサーが燐羽のこと好きってこと意味ですか!?」

 

「賀陽さんだけではなく、皆さん大好きですよ。

 そこは勘違いしないでください」

 

「そ、そうよね。

 わかってるわよ」

 

「そ、そうだよね!

 ………燐羽、顔真っ赤だよ」

 

「う、うるさい!」

 

「ああ、りんちゃんまでプロデューサーの毒牙にかかってしまいました…」

 

「秦谷美鈴、もしかしてあなたがこの前の授業で様子がおかしかったのは」

 

「…お察しの通りです。

 詳しくは言いませんよ。

 あれは、わたしとプロデューサーだけの秘密です」

 

「……はぁ…なんで本当にわたし(ミヤビ)はこんな方たちに負けたのでしょう…」

 

 余計な一言を言ったせいで、場が混沌としてしまったことを察した。

 ふと時計を見ると、もうそろそろ一度帰らないとまずい時間に差し掛かろうとしている。

 

「そろそろいい時間ですね、それでは私は一旦失礼します。

 またお昼休みに会いましょう」

 

 そう言って彼女たちとあいさつを交わして逃げるように帰宅した。

 朝から有意義なコミュニケーションを取れたと思う。

 ……今逃げないと、またズルズルとダベってしまいそうだ。

 

 寮住まいの彼女たちとは違って、私は走り込みが終わったら一度帰宅して、身支度を整え直してから登校している。

 学園のシャワールームは女性用は多くあれど、男性用は職員用ぐらいしかないからだ。

 正確には各校舎の部室棟にはあるだろうが、どの部活やサークルにも所属していない私が勝手に使ってトラブルになっても面倒だ。

 

 なので、手間ではあるが一度帰宅して、シャワーを浴びて秦谷さんからもらっている朝食を食べてから、登校するルーティーンにした。

 これに伴って、ワイシャツとズボンを買い足した。

 ジャージでもよかったのだが、いつまで続けるかわからないことと、ワイシャツとズボンは嵩張っても使用できるからそうした。

 これを1ヶ月続けると、ジャージやトレーナーを用意しなければいけないだろう。

 

 幸いなことに、大学生は1限目でも9時前に教室にいれば問題ない。

 本音を言えばもっと早くについて、交流を深めるべきなのだろうが、残念ながら下手に警戒されてしまって、裕以外に話す相手がいない私にはちょうどいいという悲しい現実もあった。

 

 

 そうして、普段通りに授業を受けて、最後に根緒先生の言葉から事件は始まった。

 

「それでは、今日はここまでです。

 あ、『SyngUp!』と藤田さんのプロデューサー君、学園長が呼んでいますので、お昼休憩に入る前に学園長室まで行ってくださいね」

 

 教室内のざわめきが大きくなる。

 裕も、今度は何をやらかしたとばかりにわたしの方を見てくるが……心当たりがいくつもあって、どの件で呼ばれるのかがわからない。

 

 『H.J.I.F』での秦谷さんの発言の話かもしれないし、今更『H.J.I.F』のソロ部門の優勝ライブをユニットでやったことかもしれないし、私も把握していない月村さんと賀陽さんが何かやらかしたことかもしれない。

 事務所を担当アイドルのたまり場にしている件かもしれないし、事務所に布団を敷いたことがばれたのかもしれないし、担当アイドルに食事を作ってもらってる件かもしれない。

 『初星学園』経由で紹介してもらった作曲家に変なことを教え込んだ件かもしれないし、彼の父に暴言を吐いた件かもしれないし、『学園長』の愛孫をからかい過ぎた件かもしれないし、彼女と仲が良い幼馴染を挑発した件かもしれない。

 

 ………改めて考えると、余罪が多すぎて眩暈がしてきた。

 どの件でも言い逃れできるように、言い訳を用意はしているが……覚悟を決めよう。

 

「承知しました。

 今から伺います」

 

「学園長室はご存じですか?

 もしわからなければ、先生が案内してあげますよ?」

 

「以前も呼び出されたことがあるので、大丈夫です」

 

「あはは…そういえばそうでしたね…」

 

 再度教室内のざわめきが大きくなる。

 裕は私を見てくるが、気にしなくて良いと目配せして、面倒事をすべて放棄してそのまま学園長室に向かった。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

月村手毬のSTEP3実装と賀陽燐羽の3Dモデル実装……最高すぎて、幻想(ユメ)じゃないかと思いました。
もうすべてが最高すぎて……『一体いつから』を見すぎて、執筆の手が止まってます。
ありがとう…ありがとう…ありがとう…
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