『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
学園長室に向かう途中で、担当アイドルのグループチャットに呼び出しがあったので、遅くなることを伝えて学内を歩く。
すれ違う人が訝しげに私を見ている気もするが…流石に自意識過剰だろう。
学園長室に着いた私は、三回ノックをして中から返事が聞こえたことを確認して、中に入る。
「失礼します」
中に入ると、学園長と十王会長がいた。
……となると、用件は苦情ではなさそうだ。
「お久しぶりです、学園長。
『H.J.I.F』ではご迷惑をおかけしました。
十王星南会長もお元気そうで何よりです」
「昨日も打合せしたばかりじゃない」
「よく来たのう、まあそこに座るがよい。
じゃがおぬし、『H.J.I.F』の件は不問とすると言ったじゃろ?」
これで用件は確定した。
…どうやら、『運命』は私に味方しているようだ。
「では失礼して…。
そういうことであれば、御用件は『中等部高等部交流会』の件でよいですか?」
「流石に察しが良いわね。
高等部と中等部の承認は得たから、さっそく学園長に話したのよ。
そうしたら」
「こんな面白そうなこと、先にわしに話さんか!」
「こんな感じでノリノリなのよ…」
そう言ってテンション高めにはしゃぐ学園長と、やれやれというように肩をすくめる十王会長。
…どちらに転ぶか少しひやひやしたが、幸いなことに良い方向に行ったようだ。
十王会長から話してもらうようにしたため無下にすることはないと思っていたが、思いのほか乗り気なのは好都合。
「これは失礼しました。
…ですが、先に学園長に話してしまうと段階を踏み飛ばしてしまうものになってしまいます。
そうなると、会長が職権乱用を疑われてしまいかねません」
「相変わらず堅いの、おぬし。
言ってることはわかるんじゃが、ちとつまらんわい。
まあよい。
『N.I.A』の時は、わしの息子と黒井の小僧に除け者にされたからのう…。
今回はそうはさせんぞ」
「お気に召したようなら何よりです。
それと、もっと軽いノリで言っていいのであれば、お望み通りにいたしましょうか?」
「それは気持ち悪いからやめておきなさい」
「見てみたい気もするがの…」
「不敬罪で他の教員方から反感を買いそうなので控えましょう。
…先の話通りであれば、承認していただける、という認識で間違いありませんか?」
少し弛緩した雰囲気を引き締めるために、改めて確認を取る。
学園長は大きく頷く。
「うむ。
『中等部高等部アイドル交流会』……ちと長いの。
『
どうじゃ?」
「いいですね。
名前は仮決めだったので、正式に『H.G.F』として進行させていただきます。
『H.I.F』に寄せたほうが、『初星学園』のイベントとしてわかりやすいでしょう。
学園長の名の下に、アイドルコースの中等部とアイドル科の高等部の親睦をより一層深めることを目的とし、より高いレベルでの研鑽を行うことを約束します」
正式に名前が決まり、学園長からの許可も下りたので学園長に宣誓する。
十王会長から伝えてもらったとはいえ、私が持ちかけた企画に乗ってくれるのだから、誠意を見せるべきだと思った。
同じように、十王会長も同じように宣誓を始めた。
「私も高等部の生徒会長として、そして『
「ハーハッハッハッ!
まさか教師からではなく、生徒からこんな楽しそうなイベントを持ち込んでくるとは思わなかったわい!
面倒事はわしがある程度引き受けよう。
じゃから…おぬしたちの好きなようにせい!」
「学園長の厚遇に最大限の感謝を。
ではさっそく…こちらをお願いします」
そう言って私は手提げかばんの中から、
学園長は楽しげにそれを受け取ったが、その表情はすぐに崩れることになる。
「ほっほう、なんじゃこれは…………なんじゃこりゃぁあ!?」
「ちょ、ちょっと、プロデューサー!
あなた、何を渡したの!?」
「学園長にお願いすることのリストです。
好きなようにしていいとおっしゃったので、可能な限り使える権力は使おうかと」
「見させてもらうわ…………………何よこれ!?」
学園長から書類を抜き取ってみている十王会長は、学園長と同じように目を見開いて絶叫した。
アイドルが他所様にはあまり見せられないような表情をしている。
「先ほど言った通りですよ」
「『学園長が○○日に行く会食で、可能なら『交流会』の宣伝をしてください』、『極月学園の黒井理事長を来賓枠で招待してください』『交流会で必要な予算案』『トップアイドルへの招待状』……色々ツッコみたいところがあるのだけど、あなたさっきまで職権乱用がどうとか言ってなかったかしら!?」
「話に乗ってもらった以上は、大手を振って歩けるので問題ないと思って、あらかじめ用意しておりました」
仕掛けの一つが無駄にならずに済んでよかったと内心で胸をなでおろすが、目の前の『
学園長も同じ顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「怖いわよ!
何で詳細にここまでまとめてるのよ!?
1つの依頼に対して、紙1枚以上使ってるじゃないの!」
「お願い事をする以上は、事前の段取りは必要でしょう。
ですので、調べられる範囲はまとめました」
「そもそも、なぜおぬしがわしの予定を知っているのじゃ!?」
学園長が絶叫する。
十王会長とそっくりな反応で見ていて面白い。
「懇意にしている音楽業界の方から聞きました。
ちょうどいい機会なので、宣伝できるならと思っていますが、相応しい場なのかはわからないので、可能なら、です」
「黒井理事長を呼びたい理由は何故かしら?」
少し冷静さを取り戻した十王会長から問い詰められる。
「初星学園の力を、極月学園に見せつけるいい機会でしょう?
ライバルは強力であればあるほど良いですし、相手にも対抗意識を持ってもらいましょう」
「予算案を私だけじゃなくて、学園長にも見せた理由は?」
「財布のひもが緩そうな今なら(多少盛っても)通るかなと」
「うむ。
正直なところは好感が持てるのう。
じゃが、それとこれとは話が別じゃ」
「承知しています。
ですので、こちらをお渡ししておきますので可能なものだけ対応していただければと思っています。
正直、無理だと思っていますが通ればラッキー、といったものも入れておりますので、あくまで一つの提案だと思っていただければ」
これは本当にそう思っている。
予算は出せるなら出してほしいが、出所が他のアイドルたちに回す分のお金であると言うのなら話は別だ。
無理やり予算を捻出してまで、ゴリ押して大々的にやりたいイベントというわけではない。
外部からのお客様を呼ぶため最低限の礼節を尽くしたいが、重要なのはあくまで内部だ。
規模を広げすぎて、それが疎かになってはいけない。
なので、本心からそう言っているのだが、あまり信じてもらえていないようで、呆れたように会長は続けた。
「最後よ、『トップアイドルへの招待状』は?」
「来てくれたら皆さんモチベーションが上がるかなと。
それに、未来のトップアイドルの卵たちのライブを見てみたいと思っていただける方もいるでしょう。
ですが、お忙しいとは思うので、来てくれたらラッキーぐらいです」
「ラッキー…で済ませるには、こと細かく、出す相手とその相手の公開スケジュールの穴がまとめられているのだけれど?」
「?
招待する相手を間違えてもいけませんし、相手が情報公開している中で被っているのに招待すると失礼でしょう」
本当に何を言っているのだろうか。
招待状を送る相手のスケジュールを可能な限り把握しないと、送り先の相手のライブ予定と被っていたりなんかしたら失礼極まりないだろう。
十王会長は先の学園長と同じように絶叫した。
「細かすぎて怖いのよ!
招待状の件もだけど、なんで学園長の会食の内容まで把握してるのよ!?
『18時来場、19時会食開始なので、その間の時間は準備が多少あれど、比較的暇になるはずです』って、具体的過ぎて怖いわよ!」
「わしも会食の細かいスケジュールまでは知らんのじゃが」
「先んじて、会食の主催の方が送付しているスケジュールを軽く見させてもらっただけですよ。
出来る限りのことを、出来る範囲でさせてもらいました」
「わしのところにもまだ来てないはずなんじゃが…?」
「使える伝手に、たまたま引っかかっただけですよ。
現に、他の会食のことはあってもわかりませんでしたので、含めてません」
本当に運がよかった。
伝手で教えてもらった彼が、主催と近かったおかげで降りてる情報は私の方が多かったらしい。
そんな幸運の元でできたことだったのだが、学園長と十王会長が二人揃って顔色を悪くしている。
「星南よ、わしはこやつが恐ろしく思えてきたぞ」
「学園長、私はとっくの前から思っています」
何で二人から引かれているのだろう…。
出来ることを精いっぱいしただけなのに…。
これは一度弁明しておいた方がよさそうだ。
「以前学園長にも話させていただきましたが、担当アイドルのためなら、腹を裂くことも構いません。
その覚悟を持って、プロデュースに臨ませてもらっていますので、出来る限りの手を尽くすのは当然かと」
「重すぎるわよ!」
「重すぎるわい!」
「お孫さんとの仲が良好なようで結構です」
息ぴったりの二人にそう返すが、私の内心は少し混乱していた。
おかしい…『学マスのプロデューサー』も同じぐらいはするはずだし、
いや、『学マスのプロデューサー』は大概おかしい部類ではあるから、プロデューサー科では一般的ではなかったりするのか…?
そもそも、私とは比較に出すことも烏滸がましい。
彼ないし彼女は、若くして『初星学園プロデューサー科』の数多くの試練を乗り越えて入学した猛者だ。
対して、私は
『プロデューサー』として何とか取り繕っているだけなのだ。
だからこそ、
担当アイドルのためなら、命を投げ出すぐらい簡単なはずだ。
そうじゃなければ……トップアイドルになんかできない。
そうなるなら、死んだほうがマシだ。
学園長は疲れたような顔をして思案しながら呟いた。
「フム…そこまで考えているのなら折角じゃ。
プロデューサー、おぬしを『H.G.F』開催委員会の委員長に任命する!」
「開催委員会…よくある学校の文化祭実行委員みたいなものでいいのですか?
てっきり、生徒会主導でやるかと思っておりましたが」
開催委員会…『昔』、内申点稼ぎに高校の文化祭の実行委員をしたことがあったが、あれと似たようなものだろうか。
規模が違い外部からの集客が必要なので、仕事量は大幅に違うだろうが。
「そんなに難しく考えんでいいわい。
ここまで段取りを取っているなら、おぬしが先導したほうが話が早いじゃろう。
なに、ただの肩書じゃよ、肩書。
その方が、おぬしも動きやすかろう」
「そうね。
私もその方が良いと思うわ。
生徒会も生徒会で業務があるから、全員駆り出すわけにもいかないのよ」
それはそうだ。
寧ろ、会長と副会長を頻繁に駆り出していた今の状況が、運がよかったと言えばその通り。
生徒会主導でやるものだと勝手に思っていたが、幾ら生徒会でも中等部と高等部を股にかけて、外部の客も呼ぶとなると規模が大きい。
その上、彼女たちはアイドル科の生徒でもあり、人気もあるアイドルたちだ。
スケジュールが多忙なことは想像にたやすい。
そんな彼女たちを矢面に立たせ続けることはマズイと言うことに、言われてから今更気づいてしまった。
元々全力で手助けする方針ではあったので異論はない。
「そういうことであれば、謹んでお受けします。
委員は私が募集してよろしいのでしょうか?」
「そこも踏まえて、好きにしてくれい」
「生徒会からは、既に関わっている私と燕は委員として参加させてもらいます。
後の人員は…必要に応じて委員として参加してもらうわ」
少し心が痛いが、今までも打ち合わせをしてきた二人が参加することに少し安堵した。
それを欠片も表に出さないで、頭を下げる。
「ありがとうございます。
では、さっそく行動に移させてもらいます」
「うむ。
プロデューサーよ、おぬしのプロデュースと、おぬしの担当アイドルたちの活躍を期待しているぞ!」
「感謝の極み」
最後にそう言って席を立ち、大袈裟にマジシャンがカーテンコールの際にするようにお辞儀をして学園長室を出る。
さて、見えを切って学園長室を出たが、少し予想外のことが発生したため困っている。
委員の選別だが…正直アテが少ないのと、私の悪評、交友関係の広さと、張り紙で募集をかけるデメリットを考慮すると………数人しか心当たりがいない。
これまでの話し合いで、中等部と高等部の許可を得ており、会場となる講堂の予約は問題ない。
オーディション審査員のトレーナーも頼んであるし、当日の審査員も見繕ってある。
既に、イベントの開催スケジュール自体は問題なく段取りを取り付けている。
必要なのは、広報と当日のアナウンスや物販辺りが主。
さっそく心当たりにチャットで連絡を入れて、アポを取り付ける。
近くなったら会場設営関係も考えよう。
正式にゴーサインが出た以上、情報公開を渋る理由もない。
明日辺りに生徒会と公開範囲をすり合わせて、明後日にでも公開してしまおう。
交流会…『H.G.F』は9月末開催予定。
オーディションは8月中旬。
今は7月の半ばに差し掛かろうと言ったところ。
これからのスケジュールはかなり過密だ。
時期が時期なので、あまり規模を大きくできるとも思えないが、少なくとも学園全体が関わる規模にする。
他所のお客様を呼ぶ以上、下手なことはできない。
また、これからできる範囲のことを全力でやるだけだ。
全ては、私の担当アイドルたちのために。
私の持てる全てをもって、彼女たちに『生贄』を捧げよう。
『試練』には、それが必要だ。
できないなら死んでしまえ。