『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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54話目

 

 昨日はあの後、担当アイドルのレッスンに合流して彼女たちのレッスンを見ながら、委員を見繕うために連絡を取り付けた。

 途中で抜けることもあり、彼女たちのレッスンを集中してみることができなかったことは恥ずべき点だ。

 

 しかも、委員を見繕おうとしたのだが、結局捕まえられたのは1人だけだった。

 当然のごとく、裕だけである。

 というのも、冷静に考えたら教員は対象外だったことを忘れていたのである。

 

 担当アイドルの担任(中等部3年の学年主任)を顧問に据えることに成功したため、多少はマシだろう。

 月村さんの件で呼び出されたついでだったのだが、こちらから出向くことには変わらなかったので都合がよかった。

 先生は最初嫌がっていたものの、秦谷さんが最近出席が増えているのは私の必至な説得の結果と話したら、泣きながら承諾してくれた。

 生徒想いの素晴らしい先生だ。

 彼女のような先生がいることは、学園長も鼻が高いだろう。

 別に中等部は義務教育だから欠席が増えても進学には問題ないんですよね、とか言ってない。

 

 そんな彼女にお願いしたことは、当日のアナウンスを行う人選だ。

 『H.J.I.F』でアナウンスをすることもあり、先生方の良い練習になると思ったのでお願いした。

 他にも一人心当たりがあるのだが……いろいろと問題が起きそうなので、やるにしても準備が足りないためいったん保留だ。

 後、用意した告知用のポスターを貼ることの許可を取ったので、中等部への張り出しをお願いした。

 これは、今日の始業後に貼ってもらうようにお願いしたので、HRなどでも話があるだろう。

 

 本来、明日公開する予定で進めるつもりだったが、十王会長からレッスンを抜けている途中に連絡が入り、予定していた公開範囲で直ぐに公開する方向で進めてほしいと来た。

 そのため、用意していたポスターをとりあえずコピー用紙に印刷して張り出すことにしたのだ。

 もうちょっとイラストなどを入れて見やすくする予定だったのだが、その時間が取れなかったため情報だけをわかりやすく出した簡素なものになってしまった。

 

 先生もそれぐらいなら…と言って承諾してくれたが、いったい何をさせられると思っていたのだろうか。

 お望みであればもっと無茶ぶりしようかとも思ったのだが、勘弁してくださいって泣かれてしまったので、今後もお世話になることを考えて自重した。

 

 先にも述べたが、委員にできたのは裕だけだった。

 彼は、『H.J.I.F』の物販でも協力してもらったこともあり、今回は仕事の規模を増やせるため承諾してくれた形だ。

 彼のおかげで、既に当日の物販、列誘導の人員は決まりつつある。

 伝手もあるので、販売したいものがあれば意見を出してもらうようにもしている。

 

 そして、私のメインは広報周りにした。

 裕にも分担するが、外部のお客様を呼ぶにしても、あくまでメインは『初星学園』生徒。

 その線引きを他の人に任せるのは難しいと判断したため、私がその線を引くことにした。

 

 ………さて、そろそろ現実に戻ろう。

 今はお昼休み、授業が終わって事務所内でノートパソコンを開いていたが、廊下から複数人が走ってくる足音が聞こえてくる。

 ドアを開けなくても、担当アイドルたちが来るのがわかる。

 足音の数的に、花岡さんもいそうだ。

 

 勢いよくドアが開き、月村さんと藤田さんを先頭にして、花岡さん、賀陽さん、秦谷さんが入ってくる。

 秦谷さんだけはリュックを背負っており、いつも通りみんなの分のお弁当と私の夕食と朝食を持ってきてくれているのだろう。

 

 そんなことを考えていたら、月村さんが一番槍を切った。

 

「プロデューサー!

 一体どういうことですか!?」

 

「お疲れ様です、皆さん。

 どういうこと、とは何の話でしょうか?」

 

 月村さんに詰め寄られるが、敢えてしらを切ってみる。

 

「『H.G.F』の件ですよぉ!

 あたしたち、何も聞いてないんですけどぉ!?」

 

「言っていませんからね」

 

「しかも美鈴だけ知ってたって、どういうことですか!」

 

 月村さんのその言葉で、秦谷さんを見る。

 秦谷さんは私の隣に腰を下ろして、のんびりリュックの中のお弁当を机に広げ始めた。

 蓋はあけていない辺り、まだ当分食べられなさそうなことを察しているようだ。

 

「秦谷さん、話してしまったんですね」

 

「りんちゃんに問い詰められてしまいましたので…無理に隠す必要も、もうないでしょう?」

 

 情報公表までは口止めしていたが、それ以降は確かに口止めしなかった。

 とはいえ、なにもなければ話さなかったであろうに、話したと言うことは賀陽さんの勘が鋭かったのだろう。

 そして、今回はいつも通りのメンバーに加えて、担当ではないが花岡さんも詰め寄ってきていた。

 

「最近レッスンを一緒にしていたせいで、わたし(ミヤビ)も共犯扱いにされてます!

 きちんと全て話してもらいます!」

 

「さて、白状してもらいましょうか?

 美鈴にだけ話をしたことも踏まえて……殺されないうちに、ね」

 

 賀陽さんの表情が今にも人を殺しそうなほど鋭い。

 秦谷さん以外の4名は、とてもアイドルとは思えない表情をしている。

 元々隠し通すつもりもなかったので、大人しく白状しよう。

 

「では説明しましょう。

 まず、私が『H.G.F』開催委員会、委員長です。

 よろしくお願いします」

 

「プロデューサーが開催委員長!?

 何やったんですか!?」

 

「プロデューサー?

 わたしも初めて聞きましたよ?」

 

「昨日学園長からの指名により、急遽決まりました。

 さて、『H.G.F』…元の名前を『中等部高等部交流会』は、私が十王星南生徒会長に持ち掛けたものです。

 きっかけは、来年『一番星(プリマステラ)』を獲るために、生徒会室に乗り込んで生徒会長と副会長に喧嘩を吹っ掛けたことから始まります」

 

 私の告白で、事務所内が静まり返る。

 厳密には正面切って喧嘩を売ったわけではないかもしれないが…彼女たちにわかりやすく伝えるには、こちらの方が都合が良いだろう。

 

「……は?」

「え」

「何してんですか!?」

「……はい?」

 

「まぁ、ふふ」

 

「秦谷さんはご存じでしょうに。

 折角、中等部と高等部で分かれているとはいえ、同じ初星学園にいるんです。

 来年、トップアイドルレベルに進化しているであろう、『一番星(プリマステラ)』に挑むためには、事前に高等部の雰囲気に慣れておく方が良いでしょう」

 

「だからって、いきなり新『一番星(プリマステラ)』に喧嘩を売る人がいますかぁ!」

 

「ここにいます。

 買ったのは主に副会長ですが」

 

 藤田さんの叫びにそう答えると、花岡さんが慄きながら叫んだ。

 

「ほ、本気で言ってるんですかこの人!?」

 

「突拍子もないことをやるのは、いつものことではあるわね」

 

「………プロデューサー、本気で勝てると思ってるんですか?」

 

「勝率を出すなら…3%もあればいいところでしょう。

 相手は高等部の実力者たち、身体的にも、精神的にも格上。

 それに『H.J.I.F』で上位を取ったとはいえ、『H.I.F』の方が知名度は圧倒的に高く、ホームなのにアウェイに感じることもあるでしょう。

 その中での上澄み中の上澄みが、あなた方に立ちはだかる」

 

 月村さんの質問に真摯に返答する。

 これは私が現状からの成長性を加味して想定したものだ。

 ……()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう内心で呟きいていたら、賀陽さんが呆れたように口を開く。

 

「そんな勝ち目がない勝負を、わざわざさせようっていうわけ?」

 

「勝ち目ならありますよ。

 3()()程度」

 

3()()()()ないじゃないですか!」

 

「これを当日に向けて伸ばしていきます。

 客観的な分析だけでアイドルの実力が図れないことは、既にあなた方が証明しているでしょう。

 …それに、以前に花岡さん以外には話しましたね、『寄り道』をすると」

 

「……まさか」

 

「これが『寄り道』です。

 『寄り道』であり『試練』です。

 あなた方には、冬の『H.J.I.F』を制すにあたり、より困難な道を歩んでもらいます」

 

 ライオンはわが子を谷に突き落とすらしい。

 であれば、担当アイドルをより困難な道に突き落とすことも、プロデューサーとして時には必要だろう。

 軽く突き落とすぐらいなら、すぐに這い出てきそうなので、()()()()()()()()()()()()だ。

 『地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)』じゃないだけ良心的だろう。

 

 藤田さんが露骨に顔を顰めて叫ぶ。

 

「うげぇ~~!

 話の流れで予想できましたけど、マジで言ってます!?」

 

「あ、頭がおかしいんじゃないんですか!?

 わたし(ミヤビ)まで巻き込まないでください!」

 

 叫ぶ藤田さんと花岡さんにどう説得しようかと考えていると、私の予想に反して入ってきた時とは違い、冷静な月村さんから問いかけられた。

 

「……プロデューサー、本気で私たちが勝てると思ってるんですか?」

 

「当然です。

 むしろ…これぐらい、乗り越えてもらわないと困ります。

 トップアイドルになるのでしょう?」

 

「……そうだね。

 いいよ、プロデューサーのお望み通り、高等部の先輩方を蹴散らしてトップアイドルへの道を駆け上がります!」

 

 ……素晴らしい。

 

「つ、月村手毬!?

 本気で言ってます!?」

 

「プロデューサーの無茶ぶりなんて、今に始まったことじゃないから。

 どっちにしろ、今の『一番星(プリマステラ)』は来年倒さなくちゃいけないんだから、早いか遅いかの違いだし、来年の『H.I.F』に向けての()()()()()にちょうどいいよ」

 

「…相変わらず、手毬のくせに口だけは立派じゃない」

 

「燐羽だってわかってるんでしょ?

 プロデューサーは突拍子もないこと言うけど…いつも、私たちのために場を用意してくれてるって。

 それに…プロデューサーが期待してくれてるから、私はそれに応えたい。

 期待に応えるのが、()()()()()()()

 

 月村さんの成長性は本当に素晴らしい。

 先程まで、藤田さんたちと一緒に叫ぶだけだったのに、もう受け入れて高等部の先輩方を倒すための覚悟を決めている。

 これまでにも行った様々な無茶ぶりによって、慣れたのか信頼関係ができたのか、いずれにせよ私を信頼してくれているのだから、私はそれにさらに答える必要がある。

 

 そして、彼女が周りに与える影響力も素晴らしいものだ。

 

「……そうね。

 いい加減そろそろ本調子に戻したかったし、ちょうどいい相手ではあるかしら」

 

「ほ、本気で言ってるんですか!?

 相手は『H.I.F』の上位、高等部の上位成績者たちが相手になるんですよ!?」

 

「ミヤビは怖気づいたの?

 別にいいよ。

 先生も言ってたけど、『H.G.F』は『H.J.I.F』とかと同じ、任意参加のイベントだから参加しなくても誰も文句は言わないよ」

 

「ええ、私たちは全員参加するけど、無理にとは言わないわ」

 

「え、あたしも参加する方向!?」

 

 月村さんに感化されて乗り気になっている賀陽さんとは別で、藤田さんはまだ受け入れ難いらしい。

 だが、既に流れはできている。

 

「当然でしょ。

 プロデューサーが主催するのに、担当アイドルである私たちが参加しない選択肢はないわ。

 プロデューサーの期待を裏切りたい、ていうなら話は別だけど」

 

「それだけは絶対嫌!

 …………はぁ~~~~~~やってやる!

 やぁーってやりますよぉ!!

 『一番星(星南ちゃん)』でも、高等部の先輩でもなんでもかかってこいやーー!!」

 

「藤田ことねまで!?」

 

 覚悟を決めて宣言するように事務所内に響き渡る声で叫んだ藤田さんを、花岡さんが驚愕の表情で見ている。

 

「ふふ、この子のこういうところが良いのよね」

 

「流石ことね、初対面で私に喧嘩を売っただけはあるね」

 

「あれはプロデューサーが吹っ掛けたんですぅ~~!」

 

「でも、結局2時間もダンス勝負してたじゃない。

 負けを認めれば何時でも止められたのに」

 

「それは…その……負けたくなくなっちゃったから…」

 

 藤田さんも心構えさえきちんとすれば、結果を出せるタイプのアイドルだ。

 ノリにノった彼女の底力は、月村さんとのダンスバトルと定期試験1位という実績が証明している。

 

「花岡さん、無理にとは言いません。

 私が吹っ掛けたもので、私の担当アイドルたちのために用意したイベントです。

 花岡さんも参加していただければ、とは思いますが、あくまであなたの自由意思にゆだねます」

 

 担当アイドルたちは参加する方向になったが、花岡さんがどうしてもというなら断られても仕方ない。

 だが、()()()()()()()()()()()

 

「………はぁ…わかりました。

 『H.G.F』、わたし(ミヤビ)も参加します」

 

「よいのですか?」

 

「あなたの担当アイドルになった覚えはないですし、月村手毬たちはいずれ越えますが…冷静に考えたらいい機会であることは確かです。

 高等部の先輩方のライブを間近で見る機会もですし、今のわたし(ミヤビ)がどこまで通用するのかを試す機会としても。

 それに……あなたに恩があるのも事実です。

 ここでそれを返しましょう」

 

「恩ですか?

 心当たりはありませんが」

 

「あなた方のレッスンに参加させてもらったこと、わたし(ミヤビ)の現状を整理して打開策を考えてくれたことです」

 

「それぐらいならどうってことないですよ」

 

わたし(ミヤビ)が気にするんです。

 黙って受け取りなさいな」

 

 予想通り、彼女は参加してくれることになった。

 恩を意識して売ったわけではないが、彼女が成長しやすい環境を整えたのも事実。

 プライドが高い彼女が、曲がりなりにもアドバイスをもらった相手の頼みを断ることはないと踏んでいた。

 私の担当アイドルに煽られて、ただ引き下がることもないとも。

 これで頼みごとを断りづらくする地盤は整えていた。

 

 それを表情に出さないように抑え込む。

 

「そういうことであれば、ありがとうございます。

 …さて、話を戻しましょう。

 十王会長に話を持ち掛け、紆余曲折あって開催する方向にまとまりました。

 中等部と高等部の上位層でライブを行うイベントとし、先ほど勝負…と言ったのですが、残念ながら中等部と高等部での勝敗を明確にはしない形にしています」

 

「え、そうなんですか?」

 

「『H.I.F』と同じようにするより、中等部と高等部を交えることで、初星学園全体のお祭り感を出して、楽しんでもらうことを重視する方向になったのです。

 ですが、対バン形式…中等部と高等部で交互にライブを行う以上、比較はされるものだと思ってください。

 明確に勝敗の発表こそしませんが、審査員は見繕ってありますので、後日講評は出ます」

 

「それを聞いて、チョーッとだけ安心しました」

 

「どうせなら勝敗を明確にした方が良いと思ったのですが…中等部との差をつけすぎたらまずいだろう、とは副会長の言葉です」

 

 因みにこれは本当に会議で言っていた。

 内心穏やかではなかったが、まあ後でわからせるからいいかと思って割り切った記憶がある。

 

 私の言葉で全員不機嫌そうな顔をしているが、中でも秦谷さんだけは目が笑ってない。

 

「……へぇ」

 

「ですので、秦谷さん、お願いしますね」

 

「お任せください。

 副会長…『高等部No.2』を蹂躙すればよいのですね?」

 

「ええ、徹底的に。

 ()()()()()()()、わからせてください。

 遠慮なく、好きなように、存分にお願いします」

 

「それでは…遠慮なく、頂きますね」

 

「こわ~…」

「これを冗談で言ってないのが恐ろしいところですね」

 

 不機嫌そうな顔をしていた彼女たちは私と秦谷さんの会話で怯え始めた。

 本来であれば、すでに『高等部No.2』と呼ばれつつある副会長相手に勝てる前提で話す中等部の生徒なんて、大言壮語も良いところだろう。

 だが、それが冗談でもなんでもないことは秦谷さんをよく知っている人からすれば、わかりきったことだった。

 

 賀陽さんでさえ、少し顔を青くしているが…本題に戻ろう。

 

「さて、後は概ね周知されているとおりです。

 『H.J.I.F』のようにオーディションを行い、中等部5名、高等部5名の枠で本戦の出場者を決めます。

 当日は、()()()()()()()()()()開幕に『初』をやってもらいます。

 その後に本戦として、本戦の出場者が中等部高等部交互にライブを行います。

 そして、本戦後は高等部の希望者で『Campus mode‼』をやってもらいます。

 最後に、全員で『標』を歌唱して終了です。

 アンコールがあれば…本戦出場者だけでもう1曲ぐらいやってもいいかもしれませんね」

 

「全員参加って、またすごいですね」

 

「これも賛否あったのですが、会長の言葉で折角だからやる気がある人は参加してもらう方針になりました。

 私の目的ともかみ合っているので、そのまま推し進める形にしました。

 全員参加とは銘打っていますが、可能な限り、という一文が付きます。

 極力応募者全員が参加できる仕組みにするつもりですが、講堂は広いとはいえスペースは有限なので、場合によっては足切りする必要が出てくるかもしれません」

 

 全員参加を表明されると、人数が多すぎるため、ステージを壇上にしたりと工夫する必要が出てくる。

 そのため、参加希望者は7月中には参加希望を取り付ける手はずになっている。

 8月末にはオーディション結果も出ているため、その頃には全体練習を行う予定だ。

 

 その練習は中等部、高等部のトレーナーに既に話を通してある。

 十王会長が話を通したので問題なく通ったが、少し難しい顔をしていたのは当然だろう。

 

 私の言葉に月村さんが違和感を覚えたようだ。

 彼女の言葉に身構えながら、次のことに思考を回し始めた。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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