『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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56話目

 

 私は今、()()()()に来ていた。

 学園というよりはビルに近い物件のそれは、初星学園とはまるっきり別の施設に思えた。

 自動ドアが開き、そのまま窓口に向かい、事務員と思わしき方に声をかける。

 

「受け付けはこちらでよろしいでしょうか?」

 

「こんにちは、いかがなさいましたか?」

 

「本日、()()()()()とアポイントを取らせていただいた、初星学園プロデューサー科の篠崎士野と申します。

 黒井理事長にご確認願えますか?

 初星学園のプロデューサーが来た、と」

 

「………少々お待ちくださいませ」

 

 周囲にいた学生たちから騒めきの声が聞こえる。

 そこまで多くはないが、初星学園の人間が何をしに来たのだろうといった憶測が飛び交っていそうだ。

 

 ここは『極月学園』、『初星学園』とは対立関係にあると言ってもいい、『アイドル養成校』の一つだ。

 『初星学園』は『学び舎』という言葉が似合う一般的な学校のイメージだとするならば、『極月学園』は『専門学校』と言ってもいいかもしれない。

 初星学園とは違い、『普通科』は存在しないため、必然的に所属している学生はアイドルを目指すものが占めることになる。

 961プロを筆頭としたいくつかのプロダクションが合同設立・運営しており、最大出資元の961プロの社長…『黒井 崇男(くろい たかお)』が理事長を務めている。

 

 普通科がないため人数も少ない代わりに少数精鋭とは言うものの、『学マス』においては何かと噛ませ犬扱いされるようなことが多かった記憶だ。

 エリート集団のはずなのだが、欠点があったり、弱点を突かれたり、本調子じゃなかったり、やる気がなかったり、といった結果になっていた。

 

 ここからは考察だが……少数精鋭であるために、実力者が上位になることの多いこの界隈で、それが更に精鋭化した結果、格下をどこまでも見下すようになってしまったり、相手を陥れることに力を入れるようになったことが原因だと思われる。

 もちろん、全員が全員ではないし、『学マス』において『極月学園』のアイドルが出たのはごく一部だ。

 だが、その一部は極月学園の上位層だったことを考えると……そういった傾向があることも想像できる。

 

「大変お待たせ致しました。

 確認が取れましたので、ご案内いたします」

 

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。

 よろしくお願いいたします」

 

 受付の方の先導で極月学園内を進む。

 周囲の騒めきは大きくなる一方だったが、時間の無駄になるので無視して進んだ。

 

 外観は完全にビルだったが、中は初星学園のレッスン室と教室が入り混じっている場所が多いようだ。

 今の時間は放課後にあたるため、教室内は人がいないがレッスン室はほとんど埋まっている。

 先程いた生徒たちは、レッスンがない休養日なり営業に向かう途中だったのだろう。

 きょろきょろしないぐらいに視線だけで周囲を探っていると、エレベーター前に着いた。

 

 誘導されて中を進み、エレベーターで最上階まで進む。

 最上階…もしかすると、理事長室に案内されるのだろうか。

 てっきり応接室だと思ったが、理事長室にそのまま通されるのかもしれない。

 

 チンっと高い音がエレベーター内に響き、先導を受けて歩みを進める。

 幸か不幸か、予想通りたどり着いた部屋は『理事長室』と書いてあった。

 

「こちらに黒井理事長がおります。

 どうぞお入りください」

 

「ご親切にどうもありがとうございました」

 

 部屋の前まで案内してくれた受付の方は、そのままエレベーターを使用して下に降りて行った。

 別に人払いを頼んだわけではないが、この方が都合が良いことも確かだ。

 

 色々と思うところはあるが、気後れしていても仕方ないのでとっととノックする。

 

「入りたまえ」

 

 中からイイ声で返事があったことを確認し、ドアノブを捻る。

 

「失礼します」

 

 中に入ると、学園長室にもある物に近い、黒革の椅子と高級そうな低めの机。

 奥にあるデスクに座っている人物が、黒井理事長だ。

 

「貴様があの老いぼれが寄こしたプロデューサーか」

 

「お初にお目にかかります、黒井理事長。

 初星学園、プロデューサー科1年の篠崎士野と申します。

 この度は、謁見する機会を頂きまして、誠にありがとうございます」

 

 いきなりの挨拶だが、それに過度に反応する必要はない。

 余裕をもって、挨拶をして会釈する。

 

「ほう……噂に聞く『初星学園の黒幕(フィクサー)』がどんなものかと思っていたが…存外、礼儀正しいじゃないか」

「……今何と?」

 

 表情には出さないようにと思っていたが、聞き捨てならない言葉が聞こえたので思わず返してしまった。

 ちょっと待ってほしい。

 

「ん?

 ああ、『初星学園の黒幕(フィクサー)』のことか。

 最近、色々と悪だくみをしているそうじゃなあいか。

 100(十王)プロ御用達の158(十五夜)プロダクションも使って、関係各所に『初星学園』の新しいイベントを企画、宣伝している者がいることは、既に一部の界隈では有名だぞ?

 これまでの初星学園らしくないやり方だとな。

 誰か、まではわかってないようだが、老いぼれがわざわざアポを取り付ける人物だ。

 貴様のことなのだろう?」

 

「『中等部の黒幕(フィクサー)』とは言われたことがありましたが…まさか学外にも広まっているとは知りませんでした。

 過分な評価を頂いているようで、恐縮です」

 

 少々宣伝の仕方が露骨すぎたか。

 急ピッチで進めたせいで、普段の100プロのやり方ではないと思われてしまったのは、致し方ない。

 そのせいで、裏にいる人物を透けさせてしまったのだろう。

 少し誤算ではあるが、許容範囲内だ。

 

「己の評価はきちんと受け止めたまえ。

 見て見ぬふりをしても、後で苦しむだけだぞ?」

 

「肝に銘じます。

 さて、折角お時間を頂いているので、さっそく本題に入らせていただきます。

 先ほどお話にあった、『初星学園の新イベント』。

 その名を『中等部高等部アイドル交流会』…『Hatsuboshi(初星) Gathering(交流) Festival()』、略して『H.G.F』に『黒井理事長』と、『極月学園』の皆様をご招待させていただきたいのです」

 

「ふむ……たしか、貴様の担当アイドルは『SyngUp!』。

 中等部No.1ユニットなどと言われていたな。

 たかが中等部のアイドルが、高等部のアイドルに喧嘩を売ったということか」

 

 流石に頭の回転が速い。

 こんなに少ない情報で、そこまでたどり着ける人物はそう多くないだろう。

 それに私が誰の担当をしているかを話してはいない。

 初星学園の情報は常にチェックしているのかもしれない……それはもうファンなのでは?と思ったが、口には出さないでおこう。

 

「ええ、仰る通りです。

 来年、『一番星(プリマステラ)』を獲る予行演習にちょうどよかったので」

 

「クックック、言うではないか!

 十王星南と共同で進めていると聞いているが、袂を分けたのか?

 あの小娘が、この私を招待するとは思えないが」

 

「いいえ、きちんと話を通して招待することは伝えていますよ。

 それに共同で進めているということは少し語弊があります。

 『H.G.F』実行委員長は私になりましたので、主導権は私にあります」

 

 実際は彼女の意向は十分取り入れているが、嘘は言ってない。

 

「クックック……。

 ハーッハハ!」

 

 黒井理事長は具体的には10回ぐらい(何度も)聞いたあの高笑いを披露してくれた。

 相当機嫌がよいと見える。

 

「お気に召されましたか?」

 

「たかがプロデューサー歴、数ヶ月の新人風情と侮っていたが、ただの犬になるわけでもなく、あの小娘も出し抜くとは、存外やるではないか!」

 

「出し抜いたわけではありませんよ。

 彼女はアイドルで、私はプロデューサーですので、イベントの企画は本来プロデューサー(私たち)の仕事です。

 生徒会役員で十王家の人間だとしても、アイドルには変わりません。

 私含め、多くの人がそれを勘違いしているだけです」

 

 これは自戒も含めている。

 開催を取り付けるだけでなく、企画面でも様々な手を回してもらったが、アイドルにやらせることではなかった。

 

 黒井理事長も同意するように大きく頷いた。 

 

「なるほど……貴様の言うとおりだ。

 仕事分担、という意味では正しい」

 

「ええ。

 それで、如何でしょうか?」

 

「動機はわかった。

 が、それをして我々に何の得がある?」

 

 気分が高揚していても、本質を見誤らず駆け引きを続けてくる。

 当然、先方にとってのメリットも考えてきている。

 

「来年、『N.I.A』に参加する予定がある、『初星学園中等部』の有力候補を見繕うことができます。

 また、高等部の実力者もライブを行いますので、初星学園の実力を測るいい機会では?」

 

「………ふむ、なるほど。

 確かに悪くはない話ではあるな。

 では、なぜ貴様は我々を招待しに来たのだ?

 我々以外にも、アイドル養成校はある。

 それに、『極月学園』と『初星学園』の関係性を知らないわけではあるまい」

 

「知っているからこそです。

 勝手ながら、私は『極月学園』と『初星学園』はよいライバル関係を作れると思っています。

 互いが互いを意識しあい、お互いに相手を超えようと思い鍛錬を続けることで、よりよいアイドル人生を送ることができる。

 そのための『試練』になれる関係だと」

 

 以前から…私は担当アイドルたちにとってのライバル育成を急務だと考えている。

 人は闘いの中でこそ成長する生き物である。

 

 藤田さんが、月村さんとのダンスバトルで成長したように。

 月村さんが、秦谷さんとの激戦を経て成長したように。

 

 成長には『試練』がつきものだ。

 

 私のその言葉に、楽しそうではあるが一種の怒りを滲ませながら黒井理事長は口を開く。

 

「我々極月学園を初星学園の当て馬にしたいと、そう言いたいのかね?」

 

 確かにそう思われても仕方ないかもしれない。

 だが、それは正確ではない。

 

「いえ、滅相もありません。

 お互いにライバル意識をもって、競い合い、()()()()()()()()()

 

 私の言葉で、黒井理事長はまた面白そうに口角を上げる。

 

「ほう……続けたまえ」

 

「私は初星学園のプロデューサーですし、初星学園が勝利する方がよいとは考えております。

 ですが、それとは別に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 頂点に立つべき人物は、それに相応しい実力があるべきです。

 それに相応しい実力を身に着けるためには…成長には『試練』がつきものです。

 ですので……初星学園(私たち)極月学園(あなた方)の、極月学園(あなた方)初星学園(私たち)の『試練』になることを心より祈っております。

 『試練』は「強敵」であるほど()い」

 

 『十王星南』は『一番星(プリマステラ)』をトップアイドルの称号にしようとした。

 頂点に立った者の意気込みとしては素晴らしいものだ。

 彼女は、『一番星(プリマステラ)』として相応しい実力、模範として『初星学園』を先導していた。

 

 であれば、彼女に続く『一番星(プリマステラ)』も同様でなければならないだろう。

 少なくとも『一番星(プリマステラ)』に相応しい実力、『十王星南』よりも上だと誰にも思わせるほどの実力が必要だ。

 

 『極月学園』に負ける程度であれば、それに相応しくない。

 

「それで貴様の担当アイドルが負けたとしても、同じ言葉が吐けるか?」

 

「負けるのであれば、それまででしょう。

 そうなれば、極月学園(あなた方)の成長の糧になっても文句は言えません。

 そこで折れてしまうのであれば、そこまでのアイドルだったというだけです。

 もっとも、私の担当アイドルは闘ったとしても負けませんがね」

 

 これだけは自信を持って言える。

 担当アイドルが負けると思うようなら、プロデューサー失格だ。

 

 だから、ただの当て馬なんて不要。

 欲しいものは『試練』であり『強敵』であり『ライバル』なのだ。

 

「……クックック」

 

「黒井理事長?」

 

「クックック……ハーッハハッハハハハハーッハハ!」

 

 どうやら気に入ってもらえたようで、非常にいい笑顔といい声で高笑いを続ける黒井理事長は、暫く理事長室中に響く高笑いを響かせた。

 さっきよりも響き渡る高笑いは、ここが理事長室じゃなければ周囲から訝しげに見られること間違いないだろう。

 少しして落ち着いたようで、一息ついてから口を開いた。

 

「ふぅ、貴様、改めて聞こう。

 名を何という?」

 

「篠崎士野です」

 

「あの生ぬるい初星学園に置いておくには、中々惜しい人材だ。

 直接敵地に乗り込み、そのトップにそこまで大言を吐き出す胆力!

 それをするに相応しい舞台づくり!

 才能あるアイドルを育成し、短期間で実績を残す能力!

 ……やはり惜しいな、どうだ?

 961プロに移籍するというのは?

 今ならトップアイドルを担当としてつけてやってもいいぞ?」

 

 ……まさかの展開だ。

 言われてみると凄い危ない橋を走り続けているような気がしてきたが、今更止まることもできない。

 将来を考えると大変魅力的な話だし…()()を考えるとコネはあった方が良いだろう。

 

「他の担当アイドルを持つつもりはありませんが、移籍自体は考えておきましょう。

 正直なことを言うと、私自身は961プロでも100プロでもどちらでも構わないのですが…担当アイドルたちは100プロが好きなので」

 

「クックック……ますます惜しいな。

 気が向いたらいつでも連絡をよこすと良い。

 悪いようにはしないぞ?」

 

 そう言って黒井理事長はかっこよく名刺をトランプのように投げてきた。

 人差し指と中指だけでそれを受け止め、そのままサーカスのマジシャンのように大きくお辞儀をする。

 

「恐悦至極」

 

 そのまま顔を上げると、彼は非常にいい笑顔で笑っている。

 思わず乗ってしまったが…いい加減用件を済ませてしまおう。

 

「さて、ここに招待状を30枚ほど用意させていただきました。

 『極月学園』関係者全員とは流石に行きませんが、来年の主力候補分はあるかと」

 

 そう言って封筒を机の上に置く。

 中には特別招待状として、関係者枠の一部を割いた席を割り振った。

 

「よかろう。

 その招待状とやらを貰ってやる。

 精々後悔しないことだ」

 

「感謝いたします。

 それでは、これで」

 

「ああ、また来るが良い。

 その気になったら、いつでも歓迎してやろう」

 

 そうして、私は理事長室から退出した。

 予想よりも感触がよかったが、これが吉と出るか凶と出るかはそのうちわかるだろう。

 

 とりあえず、最低限の目標は達成できた。

 『アイドルマスター』シリーズにおいて、『黒井理事長』もとい、『黒井社長』はあまり評判がよくなかったはずだが、少なくとも『学マス』においては直接妨害などの卑劣な手をしていた記憶はない。

 油断していい相手ではないので、引き続き警戒はしていくが、他にやらなければならないことが多いのも事実。

 順調に進んだため、戻ったらギリギリレッスンに顔を出せるだろう。

 

 ………しまった。

 好感触だったらサインをもらいたかったのに、すっかり抜けてしまった。

 直接聞くとなおさらだが……黒井理事長は声が良すぎる。

 あの分なら、ねだったら1枚ぐらい書いてもらえたかもしれないのに…!

 

 次に会った時は、ダメもとでも忘れないようにする決意をして、鞄の中に厳重にしまっている白紙のサイン色紙に思いを馳せた。

 そして、帰りの電車に揺られながら、今後の予定の調整も兼ねて、スケジュールをつけながら昨日の放課後の話し合いを思い出すことにした。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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