『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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57話目

 

 昨日の放課後、レッスン室を1つ借りて担当アイドルたちと花岡さんを集めた私は、レッスン前に今後のスケジュールの話をすることにした。

 花岡さんにも関係ある話なので、レッスン時間を潰してしまうが付き合ってもらうことにした。

 

「レッスン前ですが、さっそくミーティングを始めましょう。

 『H.G.F』に向けての話になりますが、後1ヶ月もしないうちにオーディションが始まります。

 既に公表している通り、『初』を通しでしてもらいます」

 

「『初』なのは、中等部合同で最初にするからかしら?」

 

「ええ。

 同様の理由で、高等部では『Campus mode‼』でオーディションを行うことになっています。

 本戦出場者は、合同の場面でもセンターに近いポジションになりますので、そのつもりで」

 

「わかりました。

 プロデューサー、期待してていいよ。ここにいる全員で、センターを奪い取ってやります」

 

 オーディションについての説明をして、月村さんが力強く宣言し、それに他のアイドルたちも頷く。

 昼休みの時は、まだ飲み込めていなかったようだが、今は全員『H.G.F』に向けての意識が高まっているようで安心した。

 

「頼もしいですね。

 既に察しているかもしれませんが『SyngUp!』の皆さんは、ユニットの練習よりも、ソロの練習をしてもらうことになります」

 

「…わかってはいましたが、少し残念ですね」

 

「諦めなさい。

 丁度いいから…美鈴にもレッスンをつけてあげるわ。

 『H.J.I.F』の借りを返すのと、私たちに黙ってプロデューサーと悪だくみしていたお仕置きをしなくちゃね」

 

 賀陽さんが秦谷さんに悪い笑みを浮かべながら不敵に笑うが、秦谷さんは意にも介さない。

 

「まぁ、悪だくみなんてひどい言い草ですね。

 プロデューサーからのお願いでしたよ?」

 

「乗ったのは美鈴でしょう?

 隠そうとしなくてもわかってるわよ」

 

 秦谷さんがのらりくらりと躱そうとしているが、賀陽さんはそれを許さない。

 秦谷さんが言う通り、私のせいなのだが秦谷さんから目で合図が来ているので大人しくしておこう。

 

「ふふ、バレてしまっては仕方ありませんね。

 ……久しぶりですね、りんちゃんから歌を教えてもらうのは」

 

「もう教えてあげるようなことも、そこまでないでしょうに」

 

 そう言いながらも、賀陽さんの顔は笑っている。

 お仕置き、と賀陽さんは言っているが秦谷さんにとっては賀陽さんとのレッスンは苦にならないだろう。

 何せ…彼女たちは賀陽さんについてくることができたから、ユニットを組むことができたのだから。

 

 そして、案の定月村さん二人に飛びついた。

 

「美鈴だけずるい!」

 

「はいはい、手毬にも教えてあげるから我慢しなさい。

 ……ことねとミヤビもついでに鍛えてあげるわ」

 

「うげぇ…燐羽のレッスン、厳しいんだよなぁ…」

「え、わたし(ミヤビ)もですか?」

 

「嫌って言うなら別にいいわ。

 私の()()についてきたのは、そこの二人しかいないし」

 

 ……賀陽さん、もしかして『SyngUp!』以外のこの二人にも、あの特技を披露するつもりなのだろうか。

 以前藤田さんに少しレッスンをつけたと言っていたが、その時は普通に教えるだけだったと聞いた。

 それをする、ということは彼女たちを賀陽さんが認めていることに他ならない。

 

 藤田さんは呆けているが、花岡さんは予想がついたのか表情が歪み始めた。

 

「アレって何?」

 

「……もしかして……昔、中等部の生徒の心を片っ端から折ったアレです!?」

 

「酷い言われようね。

 でも、恐らくあってるわ。

 ……私が『SyngUp!』を組む気になった理由の一つは、この子たちだけは私の隣で歌うことを嫌がらなかったからよ」

 

「……りんちゃん」

「?

 もしかしてアレって、燐羽が私の声で歌う練習のこと?」

 

 賀陽さんはそう言いながら、月村さんと秦谷さんを見て儚く微笑む。

 彼女にとって、それは嬉しくもあれば悲しくもある記憶なのだろう。

 

 秦谷さんをそれを察して賀陽さんに寄り添うが、月村さんは何でそう言っているのかが理解しきれていないようだ。

 

「へ?

 燐羽ってそんなこともできるの!?」

 

「なんで同じクラスにいたあなたが覚えていないんですか!

 あの頃はみんな中等部に入学したばかりで、少し歌が上手いとかダンスが上手いからとか顔が良いからとかで入学して…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、燐羽そんなことしてたの?」

 

「そんなこともあったわね」

 

 藤田さんの質問に花岡さんが答えるが……花岡さんの言葉で賀陽さんがとんでもないことをしていたことを理解した。

 『SyngUp!』が恐れられるようになった原因は……彼女たちの実力の高さ、素行の悪さなどもあるだろうが、元々は『賀陽燐羽』に対する恐れだったのかもしれない。

 

 入学当初の彼女は、良くも悪くも無我夢中だったのだろう。

 それこそ、周囲からどう思われるかも構わず、自分の特技を使って相手の長所を吸収し成長してきた。

 それは…。

 

「あの頃、片っ端から勝負して、相手の技術も歌も全部吸収して成長していく賀陽燐羽の姿は、対戦相手の心をへし折って、観るもの全てを恐怖に震え上がらせるほどでした。

 中等部はおろか、学園中にその名声は響き渡るほどです」

 

 当時の様子を思い出しながら花岡さんは語る。

 少しずつ感情を出して、苦汁を呑んでいるかのように語る彼女は少し震えていた。

 そこには…恐らく、()()()()()()()()()()()()()()ことは、容易に想像できた。

 

 だが、秦谷さんと月村さんの目線が少し厳しくなったことに気づいたのか、賀陽さんが少し寂しい表情をしたことに気づいたのか、もしくは彼女自身が今の状況に気づいたのか、正気に戻った彼女はすぐに頭を下げた。

 

「……あ。

 …言いすぎました、ごめんなさい」

 

「気にしなくていいわ、事実だもの。

 で、どうするの?

 その心を折るレッスンを、あなた達につけてあげるつもりだけど、どうするのかしら?

 私がこれをやって、アイドル続けている人はそこの二人しかいないけど」

 

 最後の一言を聞いて、藤田さんも花岡さんも怯んでいる。

 だが、花岡さんはプルプル震えたかと思ったら、爆発したように叫んだ。

 

「……やります!

 今日にでもやりましょうや!

 ()()()…負けた雪辱を、『H.J.I.F』の借りもつけて返してやります!」

 

「あ、あたしも当然やるから!

 歌が下手なのはわかってるから…燐羽に鍛えてもらわないと、先輩たちに勝つなんて夢のまた夢だしナ~!」

 

 腹を括って叫びをあげる二人に、賀陽さんは笑う。

 

「精々頑張りなさい。

 後悔しないように、ね」

 

「「上等!!」」

 

「いい意気込みです。

 さて、話を戻させてもらいます」

 

 全員、表情が引き締まっている。

 あえて彼女たちの会話に割り込まなかったのは、彼女たちの関係性から口を挟まなくても良い方向に進むと踏んでいたからだ。

 一瞬止めようかとも思ったが、予想以上に良い方向に進んでいるあたり、彼女たちの関係性は非常に良好だ。

 

「レッスンの方針は、必要であれば修正しますが、話していた通り賀陽さんが他の人にレッスンをつける形式でいきましょう。

 同様に、空いている人は基本的にマンツーマンでお互いに指導しあう形でいきましょうか。

 お互いをライバルとして、互いに強みを学び、弱所があれば教えあって補強していく。

 私も様子を見にきますし、トレーナーの立ち合いをお願いしています」

 

「第三者の目も入れて、間違ったトレーニングにならないようにするってわけね」

 

「その通りです。

 それと……藤田さん、花岡さん」

 

「はーい、なんですか?」

「なんでしょうか?」

 

 さて…『H.G.F』前にしなくてはいけないことの話をしよう。

 冬の『H.J.I.F』前に済ませる予定だったが、それより早く『H.G.F』を企画してしまった以上、急ぐ必要が出てしまった。

 

 彼女たちには、より成長してもらわなければならない。

 

「『SyngUp!』の皆さんに比べて、あなた方に不足しているものが何かわかりますか?」

 

「う~ん……歌とかですかね?」

「たしかに、歌唱力ではまだ分が悪いです」

 

「確かにそれも一つでしょう。

 ですが、それ以上に明確に不足しているものがあります」

 

 中等部上位と言われてもおかしくない彼女たちが、『H.I.F』上位者との明確な差。

 二人ともぱっと出てこないようだ。

 

「「?」」

 

「ライブの経験です。

 花岡さんは中等部上位の成績でしたが、それでも『SyngUp!』の方が知名度の兼ね合いでライブ経験は豊富です。

 藤田さんは言わずもがな。

 ソロとユニットでは勝手が違う、ということを踏まえてもです」

 

「あー…それは、そうですね」

「……否定はしません。

 それなりにはしてきましたが、プロデューサーがいないので自力で参加できるライブ、オーディションの数はそこまで多くはありません。

 『SyngUp!』みたいに知名度があれば、学園からの紹介も多いですが、その下だったわたし(ミヤビ)の経験が不足しているのは間違っていません」

 

「もっと言うと、高等部の皆さんの方が露出機会が多く、『H.G.F』本戦に上がってくるような方たちはより経験も豊富でしょう。

 必然的に『H.I.F』上位者が多く参加することになると思いますので」

 

 初期案では高等部は2年生以下にしたかったのだが、高等部全体に範囲を広げた以上、『H.I.F』の上位者が『H.G.F』に参加する可能性が非常に高い。

 そこには、十王会長と雨夜副会長はほとんど間違いなく入ってくるだろう。

 

 だから、急ごしらえではあるが経験を積んでもらう。

 

「……そうですね」

 

「ですので、藤田さん、花岡さん、『SyngUp!』の皆さんで、それぞれ単独ライブを行います。

 藤田さん、花岡さんは文字通りの単独。

 『SyngUp!』はユニットとしての単独ライブですが、その中でソロ曲も披露してもらう形です」

 

 そのための箱は用意した。

 藤田さんの箱を用意することも、彼女が中等部の定期試験で実績を出したことにより、そこまで難しいことではなかった。

 

「………え、単独ライブ…?」

 

「ちょっと待ちなさい!

 わたし(ミヤビ)はあなたの担当になったつもりはないです!」

 

 花岡さんの言葉にわたしも頷いて同意する。

 

「ええ、承知の上です。

 私もあなたを担当に持った覚えはありません」

 

「ですから、そこまでして貰う義理はありません!」

 

「いえ、逆ですよ」

 

「逆?」

 

 彼女は納得していない様子だが、私からするとこの企画はコケてはいけない企画だ。

 それに…彼女の成長は、私の担当アイドルにとっても益になる。

 

「あなたが無様を晒す方が、私にとって困るということです。

 もっと言うと、彼女たちの足を引っ張らないでいただきたいのです」

 

「なっ!!??」

 

「それに花岡さんは、私の担当でないにもかかわらず、私の企画した『H.G.F』に乗ってくれました。

 ですので、それに対する誠意を見せる必要があるでしょう」

 

「あれは借りを返すと言ったはずです!」

 

「でしたら、()()()()()()()()()()

 …無理に、とは言いませんよ。

 折角用意した機会を、無為にするというのであれば止めることはしません」

 

 言いながら笑う。

 暗にここでしなければ、彼女たちに追いつくことはできないのだと。

 それを理解した彼女は、ぐぬぬと言わんばかりに顔を歪ませている。

 

「……あなたって本当に性格が悪いです」

 

「そうそう、覚えておいてほしいことですが、他人に負い目はあまり作らない方が良いそうですよ。

 私も実感していますが、負い目というのは借金みたいなものです。

 その上、定量化できないので、いつ完済するかもわからないので気が済むまでいいようにされかねません」

 

「本当に性格が悪いですね!」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

「褒めてません!」

 

 彼女もだいぶいい反応をするようになった。

 これで予定調和だ。

 

「……これってまずい?」

「まずいかもしれないわ」

「まずいかもしれませんね」

 

「?

 どうかしたの、美鈴?」

 

「なんでもありませんよ、まりちゃん」

 

 なんか担当アイドルたちがコソコソ話してる。

 それについて言及したい気もあるが…時間は有限だ。

 

「では、先の話通りに皆さんには、それぞれ単独ライブを行ってもらいます。

 既に箱は抑えていますし、公式SNSでの周知もこれから始めましょう。

 花岡さんは、SNSでの周知はご自身でお願いします。

 不安があれば聞いてください」

 

「了解です」

 

 流石に担当アイドルじゃないアイドルのSNSの管理まではするつもりはない。

 一応フォローしているので、まずい発言がないかだけは見ておこう。

 

「オーディションと並行して練習してもらうことになります。

 なので、それぞれ単独ライブでも『初』は必ず含めましょう。

 開催日はそれぞればらけさせますが、オーディションを挟むことになります」

 

「うげぇ…確かにスケジュール的にそうなりますよねぇ…」

 

「オーディション前には『SyngUp!』のライブ、後に藤田さんと花岡さんのライブにします」

 

「何でですか?」

 

「オーディション用に『初』の練習を優先的にする時期と、本戦用に他の曲も練習しておく時期で分けることを考えたときに、『SyngUp!』は既に『H.J.I.F』でそれぞれソロ曲を披露していますが、あなた方はしていません。

 花岡さんも『初』以外の曲の手札はありますが、単独ライブ用に手札を増やしておいた方が良いでしょう。

 なので、単独ライブの練習がそのまま『H.G.F』の練習になれるタイミングを見た結果です」

 

「なるほど」

 

「月村さんたちは、逆に早めに単独ライブをしてもらうことで、本戦の練習により力を入れてもらう形です。

 先程、ソロの練習をしてもらうと言いましたが、単独ライブまではユニットの練習も力を入れてもらわなければなりません。

 久しぶりにユニットでのライブになるので、楽しんでください」

 

「わかりました。

 オーディション前のいいウォーミングアップです!」

「まだ数カ月しかたってないのに、随分久しぶりな気がしますね」

「優勝ライブはユニットでやったけど、あれはイレギュラーだったし、今の私たちの合わせもしておきましょう」

 

「では、今日もレッスンをしていきましょう。

 まずは『初』の習熟を優先していきますよ」

 

「「「「「はい」!!」」」」

 

 

 そうして、昨日は彼女たちのレッスンに立ち会った。

 花岡さんと藤田さんが賀陽さんによって早くも心を折られそうになったり、月村さんが賀陽さんに歌をねだり始めたり、秦谷さんと賀陽さんが勝負と称して歌いあったり、復活した花岡さんが疲れてきた賀陽さんに宣戦布告してまた負けたり、藤田さんが月村さんから歌を教えてもらったりと、中々に濃いレッスンだった。

 

 そう考えている間に、初星学園についた。

 今日も彼女たちは……藤田さんはバイトだった。

 

 藤田さんを除いた彼女たちは、まだレッスンをしているだろう。

 時間も遅いし、最後だけ見てそのまま寮まで送り届けよう。

 

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