『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

65 / 92
60話目

 

 早いもので、『SyngUp!』の単独ライブ当日になった。

 あれからも通常通りプロデュース業を続けながら、『H.G.F』の準備に勤しんでいた。

 

 特筆すべき様な問題は……普段から事件は多いが、その中でも特筆すべきものがあるとしたら、この前の会話のせいで()()()()()S()N()S()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 賀陽さんから至急来るように言われていったが、大急ぎで走り出して着いたときには既に初投稿をした後だった。

 何でそんなに可燃性の物体をばらまけるのかが不思議だが、派手によく燃えて、燃えすぎて逆に月村手毬本人だとは思われる前に消火できたのが救いだろう。

 

 『SyngUp!』公式アカウントで、悪質な偽アカウントを取り締まる旨を周知したうえで、彼女のアカウントを凍結させた。

 そして、親御さんに連絡をした上で、各種SNSアプリを入れられないようにロックをかけて、少なくとも中等部にいる間は解禁させないことにした。

 

 月村さんは終始反対していたが、他の二人にも迷惑がかかるので頼むからやめてくださいと頼み込んだら渋々納得してくれた。

 普段であれば、彼女の擁護に回る秦谷さんでさえ苦笑したまま助け舟を出さなかったと言えば、ことの重大さがわかるだろう。

 藤田さんもネットの炎上こえーと言って、自分の公式アカウントの発信は私が確認してから行うようにすると決めたらしい。

 

 花岡さんは、なんでこんなのに負けたのかと打ちひしがれていた。

 

 そんなこんながありつつ、なんとか単独ライブ開催にまでこぎつけることができた。

 あのまま炎上していたら、最悪中止しなくてはならなくなったかもしれないと考えるとゾッとする。

 

 ライブ中止もそうだが、既にライブ限定グッズを発注した後の出来事だ。

 あのまま在庫を抱え込んだら、流石の私も破産しかねない。

 そうなると、後の藤田さんのライブにまで影響が出てしまう。

 

 本当になんとか消火できて良かったと思いながら、()()()()()()()()()()()()控室を開ける。

 中には、『初』の衣装に身を包んだ『SyngUp!』メンバーと、激励に来た藤田さんと花岡さんが待っていた。

 

「お待たせしました。

 関係各所のあいさつ回りも終わりましたので、最終打ち合わせをしましょう。

 お二人は見ていてください」

 

「はーい」

「わかりました」

 

「遅かったねプロデューサー。

 時間もないし、早くして」

 

「ええ、手早く済ませましょう。

 まず……先日も話した通り、今回の単独ライブの目的は、『H.G.F』に向けて皆さんの実力を向上させることです。

 ライブの場数を踏んで、困ることはないでしょう。

 そして、『SyngUp!』の単独ライブではありますが、ソロ曲を全員行ってもらいます。

 ソロ曲とユニット曲を両方行うため、『H.G.F』と冬の『H.J.I.F』に向けての練習を同時に行える、と考えてもいいでしょう」

 

 そう、今回の単独ライブはどちらかというと練習の側面が強い。

 だが、()()()()()()()()()()()()だろう。

 

「ですが…当然、練習の側面が強いからと言って手を抜くようなことはしないように。

 根強い『ファン』からすれば、久しぶりの『SyngUp!』の単独ライブ。

 新規の『ファン』からしたら、初めての『SyngUp!』の単独ライブかもしれません。

 『H.J.I.F』から『ファン』になったかたもいらっしゃるはず。

 皆様、今日のライブを楽しみにしてこられたことでしょう」

 

 『プロデューサー』としての私は、練習として考えている面が強い。

 だが、『ファン』としての私からすれば、今日のライブを楽しみにしてきた。

 覚えはないが、気分はさながらクリスマスプレゼントを待つ子供のようなのだろう。

 

「それに…今回、十王会長と雨夜副会長もご招待しております。

 その他にも、複数名の方をご招待しています。

 あなた方の曲を作っていただいた方も、配信越しですが見ています。

 『ファン』のためにも、招待した方々のためにも、無様を晒さないでください」

 

 挑発するように3人に言い放つ。

 3人ともそれで怯むような、軟な鍛え方はしていない。

 

「手を抜くなんてするわけありません。

 来てくれたファンのためにも、私自身のためにも、全身全霊で打ち込みます」

 

「ええ、今日来ていただいた皆さんの心を、わたしで満たしてさしあげます。

 もちろん、あなたの心も、わたしで満たしてあげますね。

 プロデューサー」

 

「へぇ…ちょうどいいじゃない。

 高等部の頂点に立ったと思い込んでいる人たちに、誰が上か教えてあげるいい機会ね。

 誰に喧嘩を売ったのかを、わからせてあげなくちゃ」

 

「グッド!

 やる気は十分ですね。

 …月村さん」

 

「はい」

 

 私の言葉に、月村さんは真剣なまなざしで私を射抜く。

 

「あなたは夏の『H.J.I.F』で頂点に立ちました。

 そのおかげで、既に中等部ナンバーワンアイドルの称号はあなたが持っていると言っても過言ではないでしょう。

 十王会長含め、多くの方はあなたの調子を見に来ていると言ってもいいです」

 

「当然の結果です。

 二人を追い抜いて中等部ナンバーワンの座を手に入れたんですから、そうなってくれないと困ります」

 

 自信満々に頷く彼女に、私も頷きながら続く。

 

「中等部ナンバーワンアイドルとしても、()()()()()()()()、あなたが頂点に立つにふさわしい存在であることを示してください。

 あなたが自分に胸を張れるように、自分を好きになれるように、あなたの力を高めましょう。

 これまでにぶつかり合って得たものをぶつけ、さらに高く飛んで、あなただけの輝きで、見に来た人全ての度肝を抜かせてください」

 

「はい!」

 

 月村さんが闘志に満ち溢れた声で勢いよく返事をする。

 今の月村さんは、やる時の月村さんだ。

 この状態の彼女なら、何も心配はいらないだろう。

 

「秦谷さん」

 

「はい」

 

 秦谷さんは私の声に答えると、柔らかな返答とは裏腹にその眼には力強いものがある。

 

「あなたの今の評判は、決して良いものではありません。

 授業とレッスンのサボり、『H.J.I.F』での発言。

 それに尾ひれも多少ついた結果、その悪名は中等部にとどまらず、高等部どころかプロデューサー科でも話題になるほどです」

 

 なぜ今そんな話をするのかとばかりに秦谷さんの目つきが鋭くなっていく。

 賀陽さんと月村さんも同様だ。

 後ろからは困惑したような雰囲気も伝わってくる。 

 

「ですが…誰一人として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 『H.J.I.F』前は月村さんのワンマンユニットだと思われていた『SyngUp!』ですが、今もそう思っている人はいないでしょう。

 歌はもちろん、ダンスも、表情も、全てにおいて高等部の上位にいてもおかしくないぐらいの実力者。

 それが、秦谷さんです」

 

「まぁ、ふふ、お褒めにあずかり光栄です」

 

「このライブで、『H.G.F』であなたを相手にする人に、あなたが誰かを刻み付けてください。

 その方が、『H.G.F』で更に手ごわくなって立ちはだかってくれることでしょう。

 そして…それを乗り越えて、成長してください。

 あなたは既に上位の実力を持っていますが…トップアイドル、いや『世界』を獲るなら、それぐらいで満足されては困ります。

 手始めに、会場全体をあなたで塗りつぶしてください」

 

「ええ、お任せください。

 ()()()()()()()を、わたしで満たすために、この頼もしい仲間たちともっと成長して見せます。

 ですので…一緒に歩いていきましょうね、プロデューサー」

 

「ええ、最近、自分の未熟さを痛感していますので…あなた方と、一緒に歩ませてもらいますよ」

 

 秦谷さんの優しい笑顔を見ながら、私も同じように笑って返す。

 

「賀陽さん」

 

「何?」

 

 賀陽さんも私と目を合わせるが、他の二人と同様に私を見る視線は、他の二人とは違って私を試すかのように不遜だ。

 何を言うのか、試されているようにも見える。

 

「最近、以前よりも調子を取り戻しつつありますね。

 恐らく、もう『H.J.I.F』の時よりも『アイドル』に戻ったのではありませんか?」

 

「その通りね。

 私についてきてくれるこの子たち。

 私を目の敵にしているその子。

 いじめ甲斐のある良い環境だし…あなたたちが負けたくないって思わせてくれたから、本腰を入れてレッスンしてるわ」

 

 そう話す彼女は、最初の方に二人で話したときの弱弱しさはもうない。

 アイドルをやめる、と言っていた人物と同一人物には到底思えない輝きが、彼女の瞳にはあった。

 

「素晴らしい。

 ……最初の方に言った言葉を覚えていますか?

 憧れるのをやめてもらうと」

 

「忘れるわけないでしょ。

 憧れを追い抜かなくていいように、憧れになってもらうって話だったわね」

 

「なれてますか?

 あの時の自分に恥じない自分へ」

 

「そうね。

 まだ道半ばだけど…」

 

 そう言って賀陽さんは、両隣の二人と、私の後ろに控えている二人へ視線を向ける。

 両隣の二人は力強く頷いているのが、私からも見えた。

 後ろの二人は…片方は恥ずかしそうに目を逸らしているだろう。

 

「あなたと同じよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 これまでも、これからもね」

 

 ……とても感慨深い。

 最初は…賀陽さんがアイドルをやめたくなくなるようにすることが、目下の課題だった。

 その彼女が、ここまで言えるようになったのは、紛れもなく他のユニットメンバーのおかげだろう。

 

「本当に、良く成長してくれました。

 あなたの輝きは初星学園どころか、アイドル業界、いえ観るもの全てを焼き付けることができるでしょう。

 『一番星』は夜空で一等輝く星ですが、『太陽』はその輝きを遥かに凌駕するものです。

 思い知らせてください。

 『SyngUp!』のリーダーは誰かを、卒業生の講師に打ち勝ち『Campus mode!!』を解禁させた、あなたの実力を」

 

「任せなさい。

 あなたが私たちを選んで正解だったって、そう思わせてあげるわ」

 

 3人ともやる気十分。

 今にも弾けそうなほどまで、闘志を高めている。

 

「期待しています。

 さあ、もう間もなく開演時間です。

 皆さん、頑張ってください」

 

「「「はい」!」」

 

 そう言って、3人を舞台袖まで送り届けた。

 花岡さんと藤田さんも付き添って、彼女たちを最後まで激励していた。

 分かれる直前まで、彼女たちの眼には『H.J.I.F』の時と負けないぐらいの闘志が宿っており、やる気に満ち溢れている。

 

 そんな彼女たちを見送ってから控室に戻った。

 関係者席にあるグッズを身に着けるためだ。

 グッズを二人に渡していると、花岡さんの顔が歪んだ。

 

「うげぇ…。

 まさか……ミヤビ(わたし)が『SyngUp!』のフル装備をする羽目になるなんて……」

 

「嫌でしたか?

 無理にとは言いませんよ」

 

「うぐぐ…。

 恩があるのは確かです。

 甘んじて……受け入れます……」

 

「そうだゾ~。

 あたしはもう何回か着ちゃったから慣れちゃったけどナ~」

 

「藤田ことね……」

 

 そう呟きながら、哀しいものを見る目で花岡さんは藤田さんに視線を向ける。

 

「そんな目で見るな~~!」

 

「はいはい、お二人ともあんまりはしゃぎすぎると、ライブで声が出なくなりますよ」

 

「……」

 

 そう言って二人を宥めていると、花岡さんが変なものを見る目で私を見てくる。

 

「いかがなさいましたか?」

 

「いえ……きちんと、プロデューサーなんだなと思っていました。

 正直、今まで突拍子のないことをする変人だと思ってましたので」

 

「否定はしませんよ。

 私よりも、他のプロデューサー科の生徒の方が、プロデューサーとして立派でしょう」

 

 酷い言われようだが、彼女の言うことは間違っていない。

 他のプロデューサー科の生徒はあの難関を乗り越えて入学している上に、多くの場合はすでに実績を出しているプロデューサーだ。

 

 そう思ってのことだったのだが、私の言葉を聞いた彼女の目線がかつてないほど鋭いものになった。

 

「自分を卑下するのはやめなさい。

 先程の言葉で、『SyngUp!』のコンディションは万全に整ってました。

 直前にベストコンディションに持っていけるのは、そう簡単なことでありません。

 ましてや、高等部の実力者に見られながら…と考えると、ミヤビ(わたし)でも緊張すると思います。

 それができているということは…あなたと『SyngUp!』の関係が、確かなものであるということ。

 あまり卑下すると、『SyngUp!』に失礼です」

 

 彼女の言葉で、私は自分の言葉がどういう意味を持っているのか気づいた。

 ……言われるまで気づかなかったあたりが、まだまだ未熟なのだと自覚させる。

 

「……失礼しました。

 すぐにネガティブになるのは、私の悪い癖です」

 

「そうですよ~。

 プロデューサーはす~ぐネガティブになるんですから」

 

「藤田さんに似たのかもしれませんね」

 

「そういえば、あなたもすぐにネガティブになりますわね」

 

「この流れであたしが刺されることあるの!?」

 

 唐突な流れ弾に月村さんの鉢巻きを撒いた藤田さんが叫ぶ。

 流れで言ってしまったが、間違いなくこれは元からの性格なので完全に巻き添えにしただけである。

 

「冗談です。

 では、そろそろ観客席に行きましょうか。

 あなたたちも……自分の一番のライバルが、今どれだけやれるのかを見ておくべきでしょう」

 

 そう言いながら、準備が整った彼女たちを引き連れて、ドアの前まで歩く。

 そこで、立ち止まってから振り返る。

 何故止まるのかと、一瞬困惑した顔の彼女たちが私の視界に入った。

 

「そして、再来週以降のあなた達の単独ライブでは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 最初に単独ライブをした『SyngUp!』と、あなた方は比較されるでしょう。

 似たタイミングで、同じ中等部の生徒が単独ライブをするのですから」

 

 私の言葉を聞いて狼狽えたのは、意外にも花岡さんだけだった。

 藤田さんは、何をいまさらと言わんばかりに私をジト目で見ている。

 

「あ、あなた、そこまで考えていたんですか!?」

 

「当然です。

 逃げるのであれば今ですよ。

 見なければ、超える壁を知ることもありませんから」

 

「ここまで来て逃げれるわけないでしょう!

 あなた、ほんっとうに性格が悪いですね!!」

 

「『一番星(プリマステラ)』に喧嘩を売ったんですから、これぐらい乗り越えてもらわないと困るのです。

 最低限、『H.I.F』の上位者とぶつかってもらうんですから」

 

 勝手に喧嘩を売って巻き込まれた彼女からすれば溜まったものではないだろう。

 藤田さんが諦めたようにぼやいた。

 

「本当にプロデューサーって、逃げ道をふさぐのが上手ですよねぇ」

 

「あ、あなたはいいんですか!?

 藤田ことね!」

 

「ん~…。

 良いってわけじゃないけど…『SyngUp!(あいつら)』を越えなくちゃいけないって覚悟は、あたしはとっくの昔に決めたから。

 それが早まっただけだし~。

 それに……プロデューサーの期待を裏切ることだけはしたくないから」

 

「……それもそうですね。

 はぁ…大事なことはもっと先に言うべきです」

 

「それは本当にそう」

 

「考えておきましょう。

 では、覚悟ができたのであれば、そろそろ行きましょうか。

 あなた達の最大のライバルを見物しに」

 

「「はい!」」

 

 彼女たちの返事に頷き、私たちは控室を出た。

 観客席に入ると、既にライトは落ちきっており後は彼女たちがステージに上がるだけだ。

 

 席に着くと同時に、暗闇の中でステージ上に3人が上がった。

 それに気づいた前列の観客が黄色い声を上げる。

 

 そして、『SyngUp!』の単独ライブ、そのライブの幕が開けた。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。