『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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61話目

 

 『SyngUp!』の単独ライブ。

 その口火を切った曲は、『初星学園』を代表する曲の一つ、『初』。

 『H.G.F』の中等部オーディションの曲でもある。

 

 これまでも『H.J.I.F』で数回披露しているが、私が『SyngUp!』の『初』をライブで見るのは初めてだ。

 映像では見たことがあるが、ユニットとしてのライブは初めて見るのだから当然と言えば当然だ。

 その感動は、私だけではなく隣にいる花岡さんと藤田さんにも伝わっているだろう。

 

 彼女たちそれぞれのソロの『初』も素晴らしいが、ユニットでの『初』はまた違った良さがある。

 それに、ソロの練習を優先していたにもかかわらず、彼女たちの息はぴったり合っていた。

 ソロで身に着けた実力を、ユニットでも応用しているのがよくわかり、月村さんを主体としながらも以前よりも秦谷さんも賀陽さんも自らの強みを生かす歌い方をしている。

 そんな彼女たちの『初』は開幕のスタートダッシュを盛大に駆け出した。

 

 オープニングと言ってもいい『初』が無事に終わり、そのまま2曲目の『標』へと移る。

 校歌でもある『標』は集団歌唱…()()()()()()()()()()()()()()()()

 ましてや、『SyngUp!』は歌唱力に特化したと言ってもいいユニット。

 その力が、ダンスの激しさが少ないことも相まって、彼女たちの歌唱力が十全に発揮された。

 『初』で加速したスタートダッシュを、『標』がさらに会場の熱を高めた。

 

 そして、フェイクを月村さんが存分に歌い切り…最後のフレーズを3人で歌い切って、曲が終わりMCに移る。

 本来は月村さんが開幕で話すのだが、疲弊した彼女にはそれができそうになかった。

 

 2曲連続というのに全力を出しすぎたのだ。

 いつも通りである。

 

 そんな状態を察した秦谷さんが、マイクを手にした。

 

「ご来場の皆様、わたしたち『SyngUp!』のライブにお越しいただき、ありがとうございます」

 

「『H.J.I.F』ではソロ部門に出場したから、こうしてユニットで出るのも久しぶりね。

 どうだったかしら?

 挨拶代わりの『初』と『標』は?」

 

『最高~~~~!!!!!』

 

 賀陽さんも月村さんの疲弊具合を察して、秦谷さんと即興でMCを繋いだ。

 煽りも素晴らしく、熱心な彼女のファンと一緒に会場全体が一体となる。

 私の中で一抹の不安が宿るが、彼女たちなら大丈夫だと信じて、会場に合わせて歓声を上げる。

 

 その間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 このタイミングなら…ギリギリ何とかなるだろうか?

 いや、大分きわどいが秦谷さんなら大丈夫だろう。

 

「会場も十分温まってきたわね。

 ほら、いつまでバテてるの?

 手毬?」

 

「バ、バテてないから!」

 

 会場内が笑いで包まれる。

 月村さんは必死に否定しているが、否定すればするほど面白いことに気づいていないのだろう。

 会場の反応が薄くなってから、賀陽さんがマイクを持った。

 

「なら、とっととマイクを持ちなさい。

 足を引っ張るなら…殺すわよ?」

 

「ふん、燐羽こそ、私の足を引っ張らないでよ。

 『H.J.I.F』じゃ私より下だったんだから」

 

「はぁ…生意気。

 ほら、会場のお客さんも困ってるじゃない。

 早く続けなさい」

 

「あ…こほん。

 失礼しました」

 

 発言がライン越えにかなり近いが…まぁ、いいでしょう。

 コントのような掛け合いで、会場内ではまた笑いがこぼれている。

 月村さんも思い出したのか、会場の()()()()()()()()()()話し始めた。

 

「今日は久しぶりの『SyngUp!』でのライブです。

 ソロでのライブも楽しかったけど、やっぱり『H.J.I.F』の最後にもやったように、ユニットで…この三人で歌うのはとっても楽しいんです!

 会場の皆さんも、今日は楽しんでいってください。

 私の、私たちの、全身全霊をお見せします!」

 

『うおぉぉぉおおおおおおおお!!!』

 

 会場が歓声に埋め尽くされる。

 その間に、賀陽さんがバックステージを一目確認した。

 歓声がおさまると、賀陽さんが口を開く。

 

「今日は『SyngUp!』のライブだけど……()()()()()()()()()()()()、私たちのソロ曲もするから、楽しみにしてなさい」

 

『うおぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!』

 

 再び歓声が上がる。

 そう、今回のライブは全員のソロ曲をやることも事前に告知していた。

 サプライズにすることも考えたのだが……それよりも先に告知したほうが客の入りがよさそうだという、マーケティング戦略だ。

 その甲斐あってか……発売二日目でチケットは完売御礼。

 何とか席を増やした分も、完売するという盛況具合だ。

 

 歓声が引き、賀陽さんが続けた。

 

「それじゃあ、そろそろ次の曲に行こうかしら?」

 

「そうだね。

 それじゃあ……美鈴、お願い」

 

 月村さんがそう言って、賀陽さんと月村さんが舞台を掃けていく。

 その間、歓声が沸くと同時にライトが落ちて……会場が一転して『夜』に包まれた。

 

 そして、会場内が静寂に包まれるころ、ステージに上がった秦谷さんは『初』の衣装から『ツキノカメ』の衣装に着替えている。

 会場内で煽りを多くいれ、時間稼ぎに徹し、着替える時間を作っていたのだ。

 

 衣装替えのタイミングは、ソロ曲をしている間にならできるが、そうじゃない一人目だけこうやってMCでつなぐ必要があった。

 月村さんが張り切りすぎてしまったため、少しハラハラしたが、無事に進んでホッと胸をなでおろす。

 

 そして、『ツキノカメ』が始まった。

 先程までの会場の熱気が、静寂の世界に包まれる。

 幻想的なライトの色合いと、耳に心地よい音楽が、会場を秦谷美鈴で塗りつぶしていた。

 彼女の声が、会場に響くたびに心が彼女に奪われる。

 

 そんな状況だったのだが…転調が始まる。

 それまでの透き通った世界とは一転して、激しい曲調に変わり彼女の世界がまた変わる。

 彼女に塗りつぶされた世界が、また彼女で塗りつぶされる。

 『SyngUp!』のライブ会場に来たはずなのに、秦谷美鈴のソロライブに迷い込んだのではないかと疑うほどだ。

 藤田さんと花岡さんを見ても、二人とも彼女に心が奪われている。

 

 そうして、彼女の出番が終わり、彼女の世界が終わった。

 その彼女の世界を塗りつぶしたのは……『Luna say maybe』の衣装に着替えた月村さんだ。

 秦谷さんとハイタッチしながら入れ替わった月村さんが、マイクを持ちながらステージを歩くだけで場内が歓声で埋め尽くされる。

 

 『ツキノカメ』のライトアップから、『Luna say maybe』のイントロが流れ始めて、ライトが断続的に切り替わる。

 ここからは彼女の出番だ。

 

 気持ちのいいテンポで、月村さんの叫びとも言える歌声が場内に響く。

 彼女の内心を曝け出したような、感情を込めた歌声は観客の心を、秦谷さんで染め上げられたそれから奪いつつある。

 『夜』の闇で染まった会場を、月が優しくも力強く照らし始める。

 

 『月村手毬』のプロデューサーは『Luna say maybe』を聞くたびに涙を流すと言っても過言ではないぐらい、彼女のこの曲に込められた力は凄まじい。

 それは……『SyngUp!』の古参ファンにも言えるのだろう。

 会場には、感動のあまり涙ぐんでいる人が私だけではなく、複数人いる。

 

 彼女の歌に魅せられながら、あっという間に曲の終わりが来てしまった。

 最後のロングトーンを気持ちよく伸ばし切り、彼女は清々しい顔で歌い切った。

 そして、そんな彼女と入れ替わるのは賀陽さんだ。

 ステージに向かう途中の彼女は、月村さんの方を一瞥もしないで右手だけ上げる。

 それに月村さんは嬉しそうにハイタッチして、舞台袖に消えていった。

 賀陽さんは託されたその右手を見て、力を籠めるように手を握りしめる。

 

 曲が流れ始め、マイクを口に近づけて彼女は歌を奏で始める。

 『ツキノカメ』とも違うようなローテンポのゆったりした曲は、普段の彼女の印象からはかけ離れているかもしれない。

 だが、これまでの二人に歌を教えた彼女の歌唱力の高さを引き出すのに、これほど適したものはないだろう。

 『H.J.I.F』の時よりも、格段に成長していることが伺えるその歌は、秦谷さんと月村さんが染め上げたそれぞれの夜を明けさせた。

 

 『太陽』

 

 彼女に託した曲で、私が知っている中で彼女にマッチした曲。

 『SyngUp!(ユニットメンバー)』の二人が染め上げた夜を明けさせ、場内を太陽(彼女)で包み込み始める。

 それまで場内は、暗い中でライトの灯りが主張を強めていたが、今は賀陽さんを中心に複数のライトが重なり合い、少しずつ夜が明けて場内は白い光に包まれつつある。

 最後に歌い切って、曲の終わりを舞うように踊って締めた。

 その時に携えられた微笑みは、先ほどまでの挑発するような表情は欠片もなく、彼女の柔らかな優しさを全面的に押し出していた。

 黄色い歓声を上げていた彼女の熱心なファンたちでさえ、思わず息を呑んでしまうような、そんないいライブだった。

 

 場内が明るいライトで満ちたまま、賀陽さんは最後のポーズから、マイクを持ち直した。

 

「どうだったかしら、私のソロ曲は楽しめた?」

 

『最高~~~~!!!!!』

『燐羽様最高~~~~~~!!!』

 

「ふふ、私のファンの子たちも満足できたみたいね。

 ま、私が『SyngUp!』のリーダーなんだから、あの子たちより上なのは当然よね」

 

 そう言った賀陽さんは満足そうにしている……が、その途中で舞台袖から()()()()月村さんと秦谷さんがステージに上がった。

 ここからのMCは彼女たちに任せているのだが、突進していくように賀陽さんに飛びついた月村さんを見て、早くも失敗だったことに気づいた。

 

「燐羽!

 燐羽!

 凄いライブだった!

 燐羽ぁぁあああああああ!!」

 

「ちょ、ちょっと手毬!

 離れなさい!

 みんな見てるでしょ!」

 

「まぁ…りんちゃん、私たちよりも上だなんて……もう一度わからせないといけないようですね」

 

「ちょっと美鈴!

 そんなこと言ってないで、手毬を剥がしてちょうだい!」

 

「そうでした。

 まりちゃん、りんちゃんから離れてください。

 後で思う存分していいですから」

 

 秦谷さんが月村さんを賀陽さんから引き剥がす。

 歌っているときは素晴らしい歌唱力で会場を虜にしていたが、今の月村さんとのギャップで、花岡さんが困惑しているのが見て取れる。

 

 恐らく、『H.J.I.F』優勝者のライブを見に来た客も、同じように思っているだろう。

 

「……そうだった。

 コホン、燐羽凄いライブだったね。

 でも、私の方が盛り上がってたよね?」

 

「今更取り繕っても遅いわよ…。

 そう言うなら、会場のみんなに聞いてみればいいじゃない?

 私が一番だったわよね?」

 

 賀陽さんの煽りに、彼女のファンを筆頭にレスポンスを会場全体で返す。

 

『燐羽様~~~~!!!』

 

「ほら」

 

「私の方が一番だったよね!」

 

『手毬ちゃん最高~~~~!!!』

 

「いいえ、わたしが一番でした。

 そうですよね?」

 

『美鈴ちゃ~~~~~ん!!!』

 

 全員分のレスポンスが会場を沸かす。

 満足そうにした秦谷さんが、二人に煽るように言い放った。

 

「ふふ、わたしが一番みたいですよ?」

 

「私だって!」

 

「このままじゃ埒が明かないわ…。

 とりあえずは引き分けってことにしましょうか。

 また今度、ケリをつけましょう」

 

「むぅ……」

 

「仕方ないですね。

 りんちゃん」

 

 そう言って秦谷さんが賀陽さんを見る。

 賀陽さんもその合図で気づいたようだ。

 

「それじゃあ、私も一度着替えてくるわ。

 早いけど…次が最後の曲になるわ。

 もう気づいているかもしれないけど、最後の曲は、『Campus mode!!』よ」

 

『うおぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!』

 

 そう、月村さんと秦谷さんは『Campus mode!!』衣装に着替えていた。

 秦谷さんのインナーカラーまでは変えれなかったので、『ツキノカメ』の青いインナーカラーになっていることが、また普段と違っていて良い。

 

 そして、賀陽さんは舞台袖に向かって二人に手を振った。

 

「じゃ、手毬、美鈴、MC頼んだわよ」

 

「任せてよ。

 ほら、早く着替えてきて」

 

「はいはい」

 

 賀陽さんが舞台袖に消えていき、秦谷さんと月村さんだけが残る。

 

「……さっきはああ言ったけど、美鈴の『ツキノカメ』ってやっぱり凄かった。

 一緒に歌うのも楽しいんだけど、こうやって競い合うのも楽しいんだよね」

 

「ええ、わたしも、まりちゃんとぶつかり合うの、大好きです。

 本音で話し合えるような気がして、まりちゃんの成長を特等席で見れてとても嬉しいです。

 …『Luna say maybe』、また前よりも上達していましたね。

 えらいえらいですよ」

 

「えへへ…

 って、子ども扱いしないでくれる!?」

 

「まぁ、ふふ」

 

「笑って誤魔化すなー!!」

 

 会場内がまた笑いに包まれる。

 少し心配していたが、大丈夫そうで安心した。

 

「それに…燐羽の『太陽』も、本当に凄かった!

 燐羽は私のお手本で憧れで…『H.J.I.F』の時は私の方が上だったけど、もう抜かされちゃったかも…」

 

「そうですね…。

 確かにりんちゃんも素晴らしかったです」

 

「だよね!」

 

「でも……わたしはもっと凄いので、またりんちゃんを追い抜きますね」

 

 秦谷さんはそう言いながら、月村さんに微笑む。

 

「うわぁ…出たよ、美鈴の傲慢」

 

「まりちゃんは、りんちゃんに抜かされたままでいいんですか?」

 

「……良いわけない。

 うん、私も、また燐羽を追い抜くから!」

 

「その意気です。

 では、追い抜くために手始めに、りんちゃんの物まねをしましょう」

 

 ちょっと待て。

 二人のやり取りを微笑ましくファンの皆さんと見守っていたのだが、秦谷さんがとんでもないことを言った気がする。

 

 気のせいだろうか。

 

「うん!」

 

 ……賀陽さんのご冥福を祈ろう。

 

「フ……今の、燐羽に似てたよね?」

 

「ええ、かっこつけてる時のりんちゃんにそっくりですよ」

 

「だよねだよね!

 あと…こうやって…」

 

 そう言いながら、月村さんは手で髪をまとめ始める。

 それを両手に持って、ツインテールのようにまとめた。

 

「見てみて、燐羽と同じ髪型~~」

 

「まぁ、とっても可愛いですよ」

 

「えへへ~~。

 美鈴、髪留めもってる?」

 

「残念ながら持っていません。

 …折角ですので、りんちゃんが来るまではこうしてましょうね」

 

「うん!」

 

「うん、じゃない!!!」

 

 急いで着替えてきたのだろう。

 肩で息をしながら、賀陽さんが顔を真っ赤にしてステージに飛び出してきた。

 

「あ、燐羽」

 

「はぁ…はぁ…『あ、燐羽』…じゃないわよ!

 何してんの!?」

 

「何って…燐羽の真似。

 似てるよね?」

 

 そう言いながらツインテールにしている髪を手で押さえたまま、賀陽さんに見せびらかす月村さん。

 非常に可愛らしいが、それを見た賀陽さんは顔を真っ赤にして絶叫した。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

「燐羽、ライブ会場でもステージでそんなに叫ばない方が良いよ」

 

「さいっあく………美鈴!」

 

「まぁ、どうしましたか?」

 

「美鈴の差し金でしょ!

 止めなさいよ!」

 

「さっきまりちゃんに抱きつかれていたので、仕返しです」

 

「手毬が勝手にやったんじゃない!」

 

「まりちゃんを言い訳にしてはいけませんよ」

 

「事実なんだけど!?」

 

 ……流石に賀陽さんが不憫に思えてきた。

 今日のご飯は、月村さんには焼肉に連れて行こうと言っていたが、賀陽さんの意見を尊重しよう。

 

 やけくそ気味に頭を振った賀陽さんは、二人に向き合った。

 

「はぁ…もういいわ。

 二人とも、準備はいいのよね?」

 

「当たり前」

 

「ええ、いつでも万全ですよ」

 

「それじゃあ、始めるわ。

 みんな、随分待たせたわね。

 これが最後の曲よ。

 最後まで、楽しんでいきなさい!」

 

『うおぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!』

 

「それでは聞いてください」

 

「「「『Campus mode!!』」」」

 

 そうして、最後の曲が始まった。

 

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