『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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62話目

 

 『SyngUp!』の『Campus mode!!』は、私の中で特別な曲と言っていいだろう。

 私が『こっち』に来て、最初に聞いて観た曲。

 これに焼かれてしまったから、私は今ここにいると言っても過言ではない。

 

 あの時よりもレベルが上がったそれは、彼女たちの実力の向上を表していた。

 高等部の生徒でさえ、このレベルに仕上げている者は少ないだろう。

 楽しそうに表情をころころ変えながら、激しい動きでステージ上を動き回るその様は、先程まで歌主体で勝負していたユニットとは思えない程の動きだった。

 

 彼女たちの一挙手一投足に目が離せない。

 動きが激しい上に、それまでソロ曲を順番にやってきた彼女たちの歌は、決して掠れるようなこともなく、透き通っていた。

 まさに、青春の1ページを刻み付けるようなその曲は、破天荒な彼女たちも『初星学園』の伝統を継承していることを示している。

 

 この分であれば、今日来てもらった十王会長、雨夜副会長にとっての宣戦布告としても十分だろう。

 『学園アイドルマスター』にとって、『初』が「オープニング」なら、『Campus mode!!』は「エンディング」だ。

 それぞれのストーリー親愛度10で流れる曲であり、終わりを象徴する曲。

 

 彼女たちのライブの幕引きと()()()()()相応しい曲だろう。

 激しい動きに合わせながら、奇麗に歌い切った彼女たちは、最後に手で『C』を作るポーズをとって、曲が終わった。

 

 曲が完全に終わり、月村さんがマイクを口元に持っていく。

 

「本日は、私たち『SyngUp!』のライブにお越しいただき」

 

 そう言って両脇の二人を見る。

 二人とも、月村さんを見て頷き、マイクを持ち口元に近づけた。

 

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 盛大な拍手と共に、彼女たちが舞台から掃けていく。

 本来であれば、最後にはファンサを会場の端から端に贈ってから掃けるのだが……()()()()()()()()()()

 

 ライトもまだ完全についてない、仄暗い会場で誰かが『アンコール!』と叫んだ。

 それに追従するように、会場内のあちこちで『アンコール!』と声が上がる。

 私も、隣の二人も同じように声を張り上げた。

 

 暫くそのままアンコールが続き……やがて、さっき舞台袖に掃けた彼女たちが現れた。

 爆発するような歓声が会場を満たすと同時に、先程まで仄暗かった会場のステージに、()()()()()()()

 

 そして、『Campus mode!!』の衣装に身を包んだまま、彼女たちが歌い始めた曲は『太陽』だ。

 『H.J.I.F』の最後と同じように、彼女たちは3人でソロ曲を歌う。

 『太陽』は歌詞を割り振るよりも、合唱のように3人で歌いあうように仕上げた。

 

 『SyngUp!』のリーダーである賀陽さんに託した曲。

 それを3人で歌唱する時に考えたことは、『SyngUp!』の由来を『学マス』で『あさり先生』が推測していた内容から考えた。

 

 『Sing Up(歌い上げる)』と『Sync Up(同調する)』を合わせて『SyngUp!』。

 

 ゆったりしたこの曲を、『3人で同調しながら歌い上げる』。

 歌に感情を込めることが得意な3人組のユニットだからこそできることだ。

 それは、一人で歌っていた先程の賀陽さんの()()とはまた違い、『SyngUp!』が出せる全力を叩きつけたと言っても過言ではない。

 

 そして、3人で歌うことが本当に楽しいとばかりに、月村さんも賀陽さんも秦谷さんも顔が綻んでいる。

 ライブだということを忘れているのではないだろうかと、()2()()()()()()そんなに全力でやって大丈夫だろうか月村さんと、思うところは多々あるが……まぁ、乗り越えてもらおう。

 私が見たかったライブの一端を見ることができて、心労もあるが()()()()()()()()()()()

 

 涙で視界が滲んでいるし、彼女たちのライブで情緒が滅茶苦茶になっている自覚はあるのに、どこか思考はクリアだ。

 透明だ…気分がいい。

 

 少しハイになりそうな私は、会場のファンと一緒にペンライトを激しく振ってコールしていた。

 もうちょっと、今はもうちょっとだけこのライブに身を委ねていたい。

 どうせ後で振り返りでライブ映像は見るのだから、今ここでしか見れないものを目に焼き付けよう。

 

 彼女たちが最後のフレーズを歌い切り、曲の終わりまでステージ上で舞うように踊る。

 既にステージ上にはスポットライトの光が重なり、彼女たちが会場を照らす『太陽』になったかのような錯覚。

 そのまま最後に彼女たちがポーズを決めて、また会場内が爆発するような歓声に包まれる。

 

 私も涙を拭うが、その感動もつかの間、会場のライトが()()()()()()

 薄暗い中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、月村さんのあの言葉で、アンコールの2曲目が始まった。

 

『あのね。』

 

 アンコールで2曲目があることを想定していなかった観客もいただろう。

 何度目かわからないほどの爆発的な歓声が会場を満たす。

 

 『H.J.I.F』の優勝ライブの感動を、今ここに。

 

 そう言わんばかりに月村さんが『Luna say maybe』を歌い始める。

 隣の二人はそんな月村さんを見守り、場内にファンサをしながらステージの端から端を踊るように移動していた。

 月村さんの曲の盛り上がりに合わせて、ファンサで会場のファンを煽る。

 賀陽さんのファンサで、彼女の熱心なファンが卒倒しそうになったり、秦谷さんの微笑みに心奪われてファンになっている人が増えた頃、最初のサビが終わりに近づいた。

 

 それまでファンサをしていた二人が、ステージの中心に集まり『H.J.I.F』の優勝ライブでしていた時と同じ歌詞振りで歌い始める。

 月村さんに寄り添い、月村さんを導くように二人が支えて歌う光景は、『これまでのSyngUp!』を表していると言っても過言ではないだろう。

 

 月村さんはそれを煩わしいと思うだろうか。

 

 いいや、今の彼女はそうは思わないはずだ。

 何せ、彼女を止めるために支えているのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 二人に支えられながら、伸び伸びと歌う彼女はさっきの『太陽』を歌っていた時よりも生き生きとしていた。

 

 そんな彼女の『光』に中てられ、さらに輝こうとする二人。

 彼女たちの輝きが、会場中を照らし、最後の歌詞を月村さんが紡ぎ、伸ばしきる。

 歓声が会場内を響き渡り、ステージ上の彼女たちがファンに手を振りながら、()()()()()()()()()()()につく。

 

 既に予想している者も多いだろうが…最後は『ツキノカメ』だ。

 この曲は…正直、3人で歌唱することを想定するような曲ではないと思う。

 『Luna say maybe』もそうだが、ソロ曲はソロ曲の良さがあるのだ。

 『ツキノカメ』は『秦谷美鈴』による『秦谷美鈴』のための曲。

 

 なので、提案をするだけはしたが、結局丸投げした。

 我ながら、『プロデューサー』としてどうかとは思うが、彼女たちのやりたいように案を考えてもらい、秦谷さんが主導となって好きにアレンジしていいと伝えている。

 そして、秦谷さん主導の元、アレンジしたものを私とトレーナー陣とで監修し、完成したものがこちらだ。

 

 秦谷さんが歌を紡ぎ、歌詞に合わせて月村さんと賀陽さんに手を振ったり、微笑む。

 二人も、それに合わせて微笑みながら舞うように踊る。

 最初は『Luna say maybe』と同様に、秦谷さんを中心として展開し、彼女の世界で会場を満たす。

 

『さよなら』

 

 そして…転調が始まる。

 ライトが赤く光り、激しい曲調に切り替わる。

 その瞬間に中心になる人物が、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 激しいダンスをしながら切り替わり、秦谷さんを中心にしていたそれが賀陽さん中心に変わる。

 歌詞がなくダンスで魅せる部分を、賀陽さんが主体となって他の二人がそれをサポートするように立ち回る。

 世界が徐々に賀陽さんに移っていくような錯覚に陥る。

 

 そして、曲の激しさが収束し、次に賀陽さんと月村さんが入れ替わる。

 

『わたしのままで』

 

 この歌詞を月村さんに歌ってもらうことを、秦谷さんは渇望していた。

 あなたのままでいい、と秦谷さんが月村さんに思うようになったからこそ、彼女はこの部分を月村さんに歌ってほしいと願ったのだ。

 

『それでもいいの』

『それでもいい、と』

 

 自分に言い聞かせるようにも聞こえるそれは、月村さんの心境の変化と……月村さんが感じている、秦谷さんの想いを受け取っているからこそだ。

 そして、テンポアップしていくとともに、月村さんから秦谷さんにバトンが渡り、3人が秦谷さんを中心に横並びになる。

 

『『『わたしはわたしでいたいから』』』

 

 3人揃って声を合わせたそのワードを皮切りに、会場全体から響く歓声。

 再びの転調と共に、2人が秦谷さんのダンスに合わせてシンクロさせているそれは、彼女たちのダンスがさらに成長している様をありありと会場の観客に見せつけていた。

 

 そして…秦谷さんが二人に向き合う。

 

『あなたのままでいい』

 

 この歌詞も、秦谷さんが彼女たちに贈りたかったものだ。

 ありのままの二人でいい、と秦谷さんの想いを乗せて届けたその歌は、思わず涙が零れてしまう。

 知っていたのに、こうしてライブで見るのとはまた別だ。

 

 そのまま秦谷さんが歌を紡ぐ。

 二人も途中から合わせるように歌を重ね、最後は秦谷さんの世界に引きずり込まれる。

 

『ミチハツヅキ アスヲシルノ…』

 

 最後の歌詞を紡ぎ、3人でポーズを決めて本当に最後の曲が終わった。

 会場はツキノカメの最後のライトで締めているため、全体的に暗い。

 

 『太陽』から始まったアンコールは、明けた夜を徐々に夜に戻し、静寂の夜で終わった。

 

 会場の観客が余韻に浸り、会場内を不思議な時間が流れる。

 秦谷さんに支配されたと言ってもいいそれは、秦谷さんの手で終わりを迎えた。

 

「…アンコール、ありがとうございました。

 みなさん…わたしで満たされてくれましたか?」

 

『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

「ふふ、みなさん、満足いただけたようで何よりです。

 名残惜しいですが…今のが、本当に最後の曲でした」

 

「これで本当に今日はおしまい。

 次は……既に告知が始まっている、『H.G.F』。

 『SyngUp!(私たち)』も参加するつもりだから…またそこで会いましょう?」

 

 賀陽さんはお願いしていた通り、『H.G.F』の宣伝も忘れずにしてくれた。

 これで熱心なファン…今日来てくれた人たちの心に残ってくれれば、『H.G.F』成功の一歩になるだろう。

 

 月村さんは……力尽きかけているが、まだ少しはもつだろう。

 息を切らしながらも、何とか最後に声を上げた。

 

「はぁ…はぁ…みんな!

 応援に来てね!」

 

『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

「これで、本当におしまいです!

 今日は、私たち、『SyngUp!』のライブにお越しいただき」

 

「「「ありがとうございました!!!!」」」

 

 3人がステージ上で頭を下げる。

 会場を揺らすほどの歓声が沸き、拍手と歓声が会場を満たした。

 その間にライトが少しずつついて、会場内が明るく端まで見通せるようになった。

 

「それじゃあ、帰る前にサービスしないとね」

 

「燐羽!

 あれやってあれ!」

 

 月村さんにせがまれて、賀陽さんは手を口元に持っていき、そのまま投げキッスをファンにした。

 

「ちゅっ♡

 はい、これでいいかしら?」

 

 受けた彼女のファンは黄色い声を上げて卒倒しかけている。

 それを見た月村さんは、賀陽さんに飛びついた。

 

「私も!

 私もやる!」

 

「ダメですよ。

 まりちゃんにはまだ早いです」

 

「子ども扱いしないでくれる!?

 私だって…」

 

「まりちゃん」

 

 月村さんは真似しようとするが、秦谷さんの圧が尋常じゃない。

 ここにいる私たちにも伝わってくるほどだ。

 

「ううっ…わかったから」

 

「まりちゃんは手を振っているだけで十分、かわいいですよ」

 

「そ、そうかな…?」

 

「はいはい、次は美鈴がこっち、手毬はそっち。

 入れ替わるわよ」

 

「ええ」

「はーい」

 

 そうして会場内にファンサをしていく彼女たち。

 時々、私たちの方を見るたびに手を振っているあたりがとても可愛らしい。

 そういう見せ方をしているので当然ではあるのだが、ファンとしては嬉しい限りだ。

 

 時間をいっぱい使ってファンサをしていき、最後にステージの中心に集まった。

 三人で改めて一礼し、ステージから掃けていく。

 彼女たちの姿が見えなくなるまで、歓声と拍手は鳴りやまなかった。

 

 ……こうして、『SyngUp!』の単独ライブは終わった。

 私は当然満足しているが、隣にいる二人は……二人とも嬉しそうだ。

 自分たちのライバルはこうでないと、ぐらいに思っているのかもしれない。

 

 私たちは彼女たちを労うために、控室に向かった。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
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