『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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63話目

 

 控室に入って真っ先に目にしたものは、轟沈した月村さんと月村さんに膝枕をしている秦谷さん。

 その隣で呆れたようにため息をついている賀陽さんだった。

 

 いつもの光景になりつつある。

 

 わかり切っていたことだが…アンコール2曲目の『Luna say maybe』あたりから体力の限界に来ていた月村さんは、控室に戻って力尽きたのだろう。

 私たちはわかり切っていたことなのでそこまで動じてないが、花岡さんはこの状態の月村さんを見るのは初めてだっただろうか。

 

「お疲れ様でした、みなさん。

 最高のライブでしたよ」

 

「大丈夫ですか!?

 月村手毬!」

 

「あ、ミヤビだ。

 うん、大丈夫」

 

「気にしないでいいわ。

 いつものことだから」

 

「……本当に?」

 

「ええ、いつものことです」

 

「いつも通りだナ~」

 

「ええ……?」

 

 同い年の幼馴染にここまで甘えられる人を、私は他に知らない。

 そう言わんばかりにドン引きしている花岡さんの心境は、察して余りあるものがある。

 ……慣れてきてしまっていたが、これが普通の反応だろう。

 

「……まぁいいです。

 流石は『SyngUp!』、と言ったところでしょうか。

 先程のライブ、素晴らしいものではありました。

 ですが……わたし(ミヤビ)も負けるつもりはありません。

 わたし(ミヤビ)のライブ、楽しみにしてなさい」

 

「あたしも!

 いつまでも後ろにいると思ったら、大間違いだからナ~!」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

「………本当に大丈夫です?」

 

「まりちゃんは、ライブの後は本音が出やすいんですよ。

 ね、まりちゃん?」

 

「別に…そんなんじゃないから」

 

「……そういえば、あの時もライブの前後でしたわね。

 本当に、あなた方が気にかけるわけです」

 

「あげませんよ?」

「そんなんじゃないわよ」

 

 賀陽さんはそう言っているが、それが本心じゃないことはここにいる全員が知っていた。

 思いついたように花岡さんが意地悪な笑みを浮かべた。

 

「あ、そうだ。

 賀陽燐羽」

 

「何よ」

 

 賀陽さんが花岡さんの顔を見たと同時に、花岡さんがニマァ~とした笑みを浮かべて賀陽さんの顔を覗き込んだ。

 

「あなた方のMC、と~~~っても面白かったです。

 ね、月村手毬」

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 忘れてたんだから、思い出させないで!!」

 

「ねぇ、どんな気持ち?

 ねぇ、どんな気持ち?」

 

「こ、こんの~~~~~!」

 

「はいはい、そこまでですよ~。

 燐羽、あんまり怒ると眉間の皴が残っちゃうゾ~?

 ミヤビもあんまり煽ると、後でレッスンでボコられるよ?」

 

 調子に乗りすぎた花岡さんを藤田さんが制す。

 花岡さんも流石にやりすぎたと思ったのか、それ以上煽るのは止めた。

 

「……そうでした。

 これ以上は……勝ってから勝ち誇ることにします。

 わたし(ミヤビ)、相手を負かせて勝ち誇ることが好きなので」

 

「趣味悪!」

 

「もっと言うと、勝って勝ち誇って、煽り散らかすのが好きです」

 

「性格悪!」

 

「あなた方のプロデューサー程ではありません」

 

 何で急に刺してくるんだ。

 藤田さん、何とか言ってくれ。

 

「………否定…できない………!」

 

「そこは否定してください」

 

 苦々しい顔をしながらも、否定できないと言い切った藤田さんに文句を言いたかったが、賀陽さんに後ろから肩を掴まれた。

 

「自分の所業を思い出しながら、胸に手を当てて考えてみなさい」

 

「………さて、では講評を始めましょうか」

 

「話を逸らしたわね」

 

 賀陽さんの言葉をスルーして、私は今回のライブの講評を始めた。

 

「月村さん」

 

「はい」

 

 私の言葉に答えた彼女は、秦谷さんの手をよけて秦谷さんの隣に座りなおした。

 秦谷さんが少し私を睨んでいるが、今は抑えてほしい。

 

「前回よりも全体的に歌も、ダンスも上達……成長していました。

 それも、レッスンを常日頃見ている私でもわかるほど、ライブを通して成長していた」

 

「えへへ…」

 

「ですが……後先考えずに歌う欠点は、相変わらず抜けませんね。

 MC、本当にハラハラしてましたよ」

 

「うぐっ」

 

「秦谷さんのファインプレーに感謝してください。

 賀陽さんも、迷惑をかけたのですから、きちんとお礼を言いましょう」

 

「…うん。

 美鈴、燐羽、その……迷惑…かけて、ゴメン。

 あと……ありがとう」

 

「こちらこそ、一緒に歌えて楽しかったですよ、まりちゃん」

「気にしなくて……いえ、受け取っておくわ」

 

「月村さん、最後に……3人で歌う時、今でも二人が煩わしいですか?」

 

「プロデューサーは意地悪です…。

 そんなこと、もう思ってません。

 むしろ…3人で歌うのはとっても楽しいですから」

 

 そう言って花が咲くように微笑む彼女は、思わず藤田さんたちも魅入ってしまうほど美しかった。

 

「そうなれたようでよかったです。

 秦谷さん」

 

「はい」

 

 返事を返しながら、また月村さんを自然な手つきで膝枕に持っていくあたり、いつも通りの秦谷さんだ。

 賀陽さんが呆れているが、もうそういうものだと思って諦めた方が良いだろう。

 

「正直、何を言えばいいのかと思うぐらいには、仕上がっていましたね。

 ……あなたが誰よりも『SyngUp!』を愛していることが、ファンの皆さんにも伝わる、良いライブでした」

 

「満足いただけたようで何よりです」

 

「月村さんのフォローをしながらも、自分を出すことも十分にできていましたし、最後に『ツキノカメ』を持ってきたこともあって、来ていただいた観客の皆さんに『秦谷美鈴』を刻み込むことができたでしょう。

 強いて言うなら……MCを丸投げした私にも非がありますが、話題は別のものが良かったですね」

 

「まぁ、みなさん、とても満足されていましたよ?」

 

「私以外がね」

 

「賀陽さんが流石に不憫です。

 もう少し、リーダーを敬ってください」

 

「考えておきますね」

 

「もし次やったら、美鈴の恥ずかしい話暴露大会をSNSでするから、覚悟してなさい」

 

「り、りんちゃん?

 冗談ですよね…?」

 

「冗談に見える?」

 

 賀陽さんの目が本気だ。

 やると言ったらやる『スゴ味』がある。

 もしされたら、後処理をするのは私になるのが目に見えているので絶対にやめてほしい。

 

 秦谷さんもそれを感じ取ったのか、顔を少し青くした。

 

「も、もうしません。

 ね、まりちゃん」

 

「う、うん」

 

「…………はぁ、今回だけよ。

 次は絶対に許さないから」

 

「うう…りんちゃんが冷たいです」

 

「自業自得です。

 いくらユニットメンバーでも、やっていいことと悪いことがあると理解してください。

 特に……長く続けたいなら、下手なことで仲間割れしてしまうと、それが原因で解散する可能性も0じゃありません。

 私がいる以上はさせるつもりはありませんが、可能性は潰しておいてください」

 

「……わかりました」

 

 秦谷さんは少し不満げながらも、言っていること自体は理解してくれたようで、首を縦に振った。

 あまりきつく言うつもりはないが、多少は締めておいた方が賀陽さんの精神的にもいいだろう。

 

 珍しく賀陽さんから尊敬の眼差しを感じる。

 彼女もそれなりにトラブルを作るが、それ以上に苦労してきたことが伺える一幕だ。

 

「賀陽さん」

 

「ええ」

 

「まず、『H.J.I.F』の時よりも格段に成長していたのは月村さんだけではありませんでしたね。

 成長幅で言えば、賀陽さんの方が大きいかもしれません」

 

「当然よ。

 あれから……本気で()()()()してるもの。

 そこの二人なんてすぐに追い抜くつもりでやってたわ」

 

「それでいて、二人を支える視野の広さ。

 自分が中心となった時の力強さ。

 ソロでもユニットでも色褪せることのないその輝きは、あなたのこれまでの印象を塗り替えるに余りあるものだったと思います」

 

「お褒めにあずかりどうも。

 それで?」

 

「正直なところ秦谷さん以上に欠点らしい欠点を見つけることもできませんでした。

 ファンサも完璧でしたし、ステージの上で好き放題する二人を率いるリーダーとしてもしっかり役割をこなしてました。

 期待を裏切らない、私が来ていただいた方々に見せたいものを見せてくれました。

 流石は賀陽さんです」

 

「……」

 

「いかがしましたか」

 

「何でもないわ」

 

「りんちゃん、照れてるんですね。

 本当にかわいい」

 

「そこ、うっさい」

 

「月村さん、秦谷さん、賀陽さん」

 

 耳が赤くなっている賀陽さんに場が和んでいる中、私は今日の主役である3人に声をかける。

 3人とも私の方を見たのを確認してから、切り出した。

 

「今日のライブは楽しかったですか?」

 

「さいっこうに楽しかった!」

「これまでのライブの中で、一番楽しいひと時でした」

「……ええ、久しぶりに……楽しいライブだったわ」 

 

「その気持ちを忘れないでください。

 ライブは、『ファン』を楽しませることも重要ですが、中心である『アイドル』も楽しむことが重要だと思っています。

 今日は本当にお疲れ様でした。

 次は『H.G.F』のオーディションです。

 頑張っていきましょう」

 

「「「はい」!!」」

 

 月村さんと賀陽さんはこういう時に勢いよく返事をし、秦谷さんはいつも通りに返事をする。

 こういうところでも個性は出るが、ステージの上では全員声を張り上げていて可愛らしいものだ。

 

 3人を見ながらそんなことを考えていると、不意に控室の扉が開いた。

 近くにいた花岡さんと藤田さんが、ずれながら驚愕の表情でそこにいた人物を見ている。

 そこにいたのは……十王会長と雨夜副会長だった。

 

「失礼するわ」

「邪魔するぞ」

 

「おや、いかがなさいましたか?

 十王会長に雨夜副会長」

 

「かわいい後輩たちのライブを折角見に来たのだもの。

 労いに来たのよ」

 

「私は付き添いと……宣戦布告をしに来た」

 

 労いに来たものの顔ではないだろうと思っていたが、雨夜副会長の言葉で納得した。

 そうか……彼女たちのライブは、眠れる獅子を目覚めさせつつあるらしい。

 

「改めて自己紹介するわ。

 初星学園高等部2年、生徒会長にして『一番星(プリマステラ)』の十王星南よ!」

 

「同じく生徒会副会長の雨夜燕だ。

 まず、賛辞をやろう。

 先程のライブ、見事なものだった」

 

「どうも。

 私たちの自己紹介は不要よね?」

 

「ええ、あなたたちのプロデューサーから話は聞いているわ」

 

「それで?

 今、宣戦布告って聞いたんだけど?」

 

 初対面の副会長相手にも、一切物怖じしないで言い返したのは賀陽さんだ。

 藤田さんがそんな賀陽さんに駆け寄った。

 

「ちょ、ちょっと燐羽!

 相手は『一番星(プリマステラ)』と副会長だよ!」

 

「だから何?

 ライブ後の疲れてる相手に対して、喧嘩を売りに来たって言うような人たちに、気を遣う必要なんてないでしょ」

 

「話に聞いていた通り、随分生意気な奴だ。

 だが、言っていることは正しい。

 疲れているところ悪いが、少し話せないか?」

 

「手早くね」

 

「感謝します。

 まずは燕と同じくお礼を。

 『初星学園中等部最強ユニット』の名に恥じない、素晴らしいライブでした。

 あなた方を後輩に持っていること、誇りに思います」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 いつの間にか秦谷さんの膝枕から逃れていた月村さんが、顔を赤くして返事をした。

 

 秦谷さんは……そろそろ人一人殺せそうな視線で、二人を見ている。

 ボソッと『邪魔ですね、あの人たち』と言っているのが聞こえてしまった。

 同じく聞こえていたであろう、花岡さんの顔が青くなっている。

 

 気づかない方が幸せなこともあるだろう。

 十王会長はそれに気づくことなく続けた。

 

「そして……そこのプロデューサーが『H.G.F』の企画を持ってきた意味も、本当に正しく理解しました。

 あなたたちが来年、『一番星(プリマステラ)』を狙っている、というのは本気なのね」

 

「…当然です。

 私は、当時の『一番星(プリマステラ)』に憧れてアイドルを目指しました。

 『一番星(プリマステラ)』は私の…いえ、私たちにとって特別なものです」

 

「そう……フフ、なんだか照れくさいわね」

 

「おい星南」

 

 話が脱線しそうな雰囲気を感じた雨夜副会長が話を戻させる。

 やはり…二人は良いコンビだ。

 ライバルでもあり、友でもある。

 羨ましい関係と言ってもいいだろう。

 

「わかってるわよ。

 コホン、あなた達の気持ちはわかりました。

 であれば……手始めに、あなた方がどこまでできるのか、『H.G.F』で試してあげましょう。

 高等部と中等部の違いを、今の『一番星(プリマステラ)』の力を、それに追従する者たちの力を、あなた方に教えてあげましょう。

 勝つのは…この一番星()よ!」

 

「臨むところ!

 勝つのは、SyngUp!(私たち)です!」

 

 十王会長と月村さんが火花を散らす中、雨夜さんと賀陽さん、秦谷さんも同じように睨みを利かせている。

 秦谷さんは別の意味も籠ってそうだが、努めて気にしないことにした。

 藤田さんは少し心ここにあらずで、花岡さんはそんな藤田さんを少し心配そうに見ていた。

 

「それから…藤田ことねさん、花岡ミヤビさん」

 

「はい!

 ……藤田ことね」

 

「ふぁ、ひゃい!」

 

「フフ、そんなに緊張しなくていいわ。

 あなたたちの単独ライブも、観させてもらうことにしたわ。

 楽しみにしているから、励みなさい」

 

「「はい!!」」

 

「当然だが、私も見させてもらう。

 腑抜けたライブをしないようにしろよ?」

 

「「はい!!」」

 

「いい返事だ。

 邪魔したな、プロデューサー。

 『H.G.F』がより楽しみになった。

 失望させるなよ?」

 

「こちらのセリフです。

 ……私たちにとって、せいぜい跳ねのいい踏み台になってください」

 

「ハッ!

 その言葉、そのままそっくり返してやろう!」

 

「フ……フハ………」

「クックック……」

 

「フハハハハハハハハハ」

「ハーッハッハッハ!!」

 

 打てば響く相手とのやり取りは楽しいものだ。

 彼女はどこか心に少年を飼っているようで、ノリが良い。

 相手をしていて楽しい人物の一人だ。

 

「本当に仲が良いわね、あなたたち」

 

「え、プロデューサーっていつもこんな感じなんですか?」

 

「たまに、燕となんか高笑いしているわ。

 楽しそうなんだけど……うるさいのよね」

 

「……やっぱり、邪魔ですね、あの人

 

「は、秦谷美鈴さん?」

 

「……ふふ」

 

「(え、怖)」

 

 なんか秦谷さんと十王会長も交流を深めているようだ。

 …興が乗りすぎた。

 そろそろライブ終わりの彼女たちを無理させすぎてはいけない。

 

「さて、そろそろお開きにしましょうか」

 

「む、そうだな。

 月村、賀陽、秦谷。

 星南も言っていたが、先ほどのライブは素晴らしかった。

 『H.G.F』も楽しみにしているぞ」

 

「「「はい」!」」

 

「フフ、本当に楽しみね。

 これで失礼するわ」

「ああ、いくぞ星南」

 

 そうして二人は控室から出て行った。

 二人が出た後、藤田さんはへたり込んでしまった。

 

「き、緊張した~~~」

 

「ことね、大丈夫?」

 

「う、うん。

 いきなり星南ちゃんが来るなんて……しかも、あたしのライブ観に来るって言ってなかった!?」

 

「言ってた。

 ……恥かかないように、頑張りなよ」

 

「うげぇ~~~」

 

「……プロデューサーの差し金ですか?」

 

 花岡さんにそう問いかけ、他の全員が私に視線を向ける。

 

「いえ、招待はしましたが、わざわざ来てくれるとは思ってませんでした。

 『SyngUp!(あなた方)』のライブに感化されたのではないでしょうか?

 大分…滾っているようでしたので」

 

「ならいいです。

 どっちにしろ…やることに変わりはありません」

 

 花岡さんがそう言うと、藤田さんもようやく立ち直ったようで頬を叩いて気合を入れなおした。

 

「…よし!

 切り替え終わり!

 びっくりしたけど、とりあえずは来週の『H.G.F』選抜オーディション!

 気合入れていくゾ~!」

 

「その次は単独ライブですけどね」

 

「今それを言うな~~~~!!」

 

 そう言って藤田さんが憤慨した。

 …一人で切り替えれるようになったのあたり、彼女も成長しているのだろう。

 私は花岡さんも含め、彼女たちの成長を噛み締めた。

 

 彼女たちを残して、関係各所にお礼を言いながら片づけをした。

 そうして、後片付けも終わり、最後に打ち上げとして彼女たちを食事に連れて行った。

 

 賀陽さんが不憫な目にあっていたので、月村さんには悪いが賀陽さんの好きなところに連れて行こうとしたのだが、賀陽さんが月村さんの好きなところで良いといったため、最初の予定通り焼肉になった。

 賀陽さんに飛びついた月村さんを引き剥がしながら歩く賀陽さんは、身長差もあって大型犬に飛びつかれている幼女の構図になっていた。

 口に出してないのに、脛を蹴るのはやめてほしい。

 

 花岡さんも諦めてついてきたが……後悔するのにそう時間はかからなかった。

 





 
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