『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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66話目

 

 藤田さんのライブの反響は想定よりもかなり良かった。

 本人は暫く沈んでいたが、打ち上げのご飯で持ち直してくれた。

 藤田さんの希望でファミレスだったのだが、大勢で行くとどこでも楽しいのかもしれない。

 騒がしくなりすぎないようにと注意はしていたが、十王会長ショックが尾を引いたのか、あまり騒がしくすることもなく平和に事が終わった。

 

 そして、元々少しのきっかけがあれば弾けると踏んでいた彼女は、想定よりも大きく話題になった。

 『H.G.F』という単語が、一瞬だけだがトレンド入りしたほどだ。

 

 それは、藤田さんのライブを見てファンになった者と、『SyngUp!』のファンがそれを見て反応したことによる相乗効果と言ってもいいだろう。

 ……この分であれば、()()()()()()()()()()()()()で少し安心した。

 

 まあ、その件はおいておくとして……最後の単独ライブは花岡さんだ。

 ……不本意ながら、既に私の担当アイドルと思われているときもある彼女だが、彼女とはプロデュース契約を結んでいない。

 それを裕に言ったところ、正気か?と言われたが、『学マスのプロデューサー』だって自分の担当アイドルのためなら身を粉にして働いていた。

 

 『秦谷美鈴』のプロデューサーを思い出してほしい。

 何が悲しくて、担当でもないアイドルの炎上処理をしなければならないのだ。

 一度体験したからわかるが、あれは爆発物処理と同じようなもので、一歩間違えたら他も大爆発しかねない。

 ましてや、担当じゃないアイドルの炎上が、自分の担当アイドルに飛び火してしまったら最悪だ。

 

 そんな危険な爆弾処理をずっとやっていたのは、偏に担当アイドルのため……。

 『愛』と言ってもいいだろう。

 月村さんの可愛さに目覚めたとか、炎上の処理が大好きとかの、よっぽどの変態じゃない限りはそのはずだ。

 

 だから、比較的手がかからない花岡さんに少しアドバイスをして担当アイドルとレッスンを受けさせているぐらいは可愛いものだと思う。

 そして、私が口出ししたのだから、彼女のライブも成功させなければならない。

 

 今のままでも彼女のライブは十分程度には成功するだろう。

 

 ()()()()()()()()()()

 勝つことが好きと公言する彼女は、自分に定期試験で勝った藤田さんを問い詰める程だ。

 そして、『SyngUp!』と藤田さんと切磋琢磨している彼女は成長してはいる。

 

 してはいるものの……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは才能の差なのか、努力の差なのか……残念ながら『才能』の差、というしかないだろう。

 月村さんたちとほとんど近い努力を重ねている、彼女の成長が遅れているのはそういうことだろう。

 

 ………そんなことを考えてしまう()()()()()()()()

 

 『才能』は大事だ。

 藤田さんをプロデュースした理由の一つもそれだ。

 だが……()()()()()()()()()

 

 本当に『才能』が全てだというのであれば、『初星学園』のアイドル科の生徒は()()()()()()()()()()()()

 『極月学園』のように、限られた少数をエリート教育したほうが方針としては理にかなっていると思う。

 トップアイドルとは本当に選ばれた上澄みの一握りだ。

 

 それを踏まえて言いたい。

 

問 才能がなければトップアイドルになれないか?

 

答 最低限の才能はトップアイドルに()()()

  しかし、才能だけでトップアイドルに()()()()()()()()()

 

 これは私の考えだが……『学園アイドルマスター』のストーリーを読み進めていた時に、『才能』についてはよく考えさせられた。

 

 『才能がない姉』『才能がある妹』『才能がある姉』『才能がない妹』『才能がある幼馴染』『才能がない幼馴染』『才能がある後輩』『才能がない先輩』『才能があるNo.2』『才能がないNo.1』。

 

 少し言い換えるだけで、これだけ対比構造があると言ってもいいだろう。

 才能がない、と言っても学園1位だの首席合格だのしているあたり、本当に才能がないわけではない。

 『初星学園』も入学できるか否かの足切りがあると考えれば、最低限の『才能』は必要だと思っていい。

 

 

 では、(あくまで比較的だが)『才能』がない側に分類されるであろう花岡さんが、『SyngUp!』と藤田さんの後にライブをして成功できるかどうか。

 それは彼女次第だろう。

 彼女のブレイクスルーも……この際してほしい。

 その方が、藤田さんの強力なライバルになれる。

 

 だから…彼女とも話しておこう。

 

 事務所で仕事をしながら今後のことについてまとめているうちに、事務所前に人の気配を感じた。

 ノックをしてきたから…呼び出しておいた花岡さんだろう。

 

「失礼します」

 

 そのまま入ってもらうように勧め、予想通り花岡さんが私の対面に座る。

 秦谷さんたちは隣に座ってくることが最近多いので、少し新鮮だ。

 

「ようこそお越しくださいました」

 

「前置きは結構です。

 それで…何の用です?」

 

「単独ライブ前に話をしておきたいと思いまして」

 

「……わたし(ミヤビ)はあなたの担当になった覚えはありません。

 余計なアドバイスなら結構です」

 

「このままだと藤田さんのライブ以下で終わるとしても?」

 

 私が煽るようにそう言うと、彼女のこめかみがピクっと動いた。

 彼女は礼儀正しいが、沸点は低い方なのは知っている。

 

わたし(ミヤビ)が藤田ことねに負けると?」

 

「既に一度負けたでしょう?

 定期試験で。

 どうして次は必ず勝てると思ってるんですか?」

 

 図星を指された彼女は、顔を露骨にゆがませた。

 その反応が彼女の藤田さんに抱いている感情を示唆させる。

 

「……本当に性格が悪い。

 ですが、なぜ担当アイドルの敵に塩を送るような真似をするのですか?

 もう知ってると思いますが……わたし(ミヤビ)は藤田ことねをライバルだと思ってます。

 絶対に勝たないといけない相手だと」

 

()()()()()、です。

 絶対に勝たないといけない相手……藤田さんも同じように思ってるでしょう。

 そんな相手が、興ざめなライブをしたらテンションも下がるじゃないですか」

 

 そう言いながら煽るようにため息をつく。

 だんだん苛立ってきた彼女はこうまで言えば、引き下がらないだろう。

 

「はぁ………困るんですよ。

 『H.G.F』前にモチベーションが下がるのは」

 

「ほんっとうに厭味ったらしいですね!

 わたし(ミヤビ)だってわかってます!

 藤田ことねが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 花岡さんは叫びながら机を叩いて立ち上がる。

 その顔には……怒りもあるが、それだけではない複雑な色が混ざっている。

 

わたし(ミヤビ)の後ろをついてくる人の一人だったあの子が!

 守ってあげないといけなかったあの子が!

 いつの間にかわたし(ミヤビ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぐらい……わたし(ミヤビ)が……一番よく……わかって……ます…」

 

 話しているうちに少しずつ勢いが落ち……指摘しないが、少し涙声になってきている。

 守ってあげないといけなかった…とはあまり聞き馴染みのない言葉だ。

 彼女の本心の一部なのかもしれない。

 

 だが、私が聞きたいのはそういうことではない。

 

「それでいいんですか?」

 

「いいわけないでしょう!

 ですが……わたし(ミヤビ)よりも、藤田ことねの方が……認めたくありませんが、『才能』がある。

 今ならわかります、あなたが『中等部No.4』であるわたし(ミヤビ)じゃなくて、藤田ことねをプロデュースした理由が。

 わたし(ミヤビ)よりも、藤田ことねのほうが才能があるなんてこと……本人の前では絶対言いませんけど、もうわかってるんです。

 同じように……いえ、藤田ことねがアルバイトに精を出しているときもレッスンを積み重ねているわたし(ミヤビ)を追い抜いているんです……から……」

 

 やはり、花岡さんは何か勘違いしているようだ。

 

「私がプロデュースするのを藤田さんにした理由は、()()()()()()()()()()()()()()

 『才能』だけを見て判断したわけではありません」

 

「……は?」

 

 呆気にとられた彼女は、呆けた顔で私を見ている。

 

「そんな顔をしないでください。

 白状しますが、私が花岡さんのことをスカウトしなかった理由は、あなたのことを詳しく知らなかったんです。

 それに比べ、彼女は()()()()()()()()()()()

 その目的も、才能も含めて。

 そして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『能力』と言った段階で、それまで半分泣いていた彼女の目が、胡散臭いものを見る目つきに変わった。

 

「……十王星南みたいなことを言ったら怒ります」

 

 そう言われたら仕方ない。

 

 私は右手を右目の上に持ってくるようにして、話しながら人差し指と中指の間を開き、空いた隙間から彼女を見る。

 丁度、前に十王会長がやったポーズと対照的になるよう意識した。

 

「私、未来が視えるんです」

 

「怒るって言ってるでしょう!

 そのまま続けないでください!」

 

「未来が見えると言っても、不確定なものです。

 恐らく、私がその未来を見て行動している段階で、既に私の未来は見た通りにはなりません。

 私が見た未来では……『藤田ことね』はトップアイドルに近い実力者になっていました」

 

「………わたし(ミヤビ)は?」

 

 先程まで怒っていたのに聞き返したあたり、気になるのだろう。

 ……正直に花岡さんに言うのは酷だが、聞かれて言わないわけにはいかない。

 

「良くて『藤田ことね』のライバル。

 悪いとほとんど情報が出てこない、といった状態です」

 

「………そう……ですか…」

 

 今考えると、『学マス』の世界線はかなり多い。

 それぞれの担当アイドルの軸で『13』、『サポートカード、イベント時空(P不在軸)』『初星コミュ』『GOLD RUSH』で最低『16』ある。

 

 その中で、『花岡ミヤビ』がネームドとして活躍するのは『GOLD RUSH』のみだ。

 それも……私が知っているところは、彼女が最初の方で噛ませ犬のごとく出てきた程度。

 その後どうなっているのかは、知る由もない。

 

 だから……これからは、花岡さんをこれまで見てきた私を信じるしかない。

 これで折れるなら、それまでのアイドルだったということだ。

 

 ………そうなるとは思ってないが、万が一そうなったらと思うと胸が痛い。

 だが、もう後には引けない。

 

「それで、これを聞いてどうしますか?

 『花岡ミヤビ』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを聞いて、()()()はどうしますか?

 シッポをまいてかえるのもいいでしょう。

 高等部に進学するのではなく、普通の高校生になる選択肢もあります」

 

「…………わたし(ミヤビ)は」

 

 ショックを受けた花岡さんは俯いて……ぽつりとつぶやいた。

 

「それでも、わたし(ミヤビ)はトップアイドルになります。

 わたし(ミヤビ)()()()()()()()()()()()()

 

 ……花岡さんは負けず嫌いだ。

 それはここ数カ月、担当アイドルと一緒にレッスンをさせてきたからよくわかる。

 朝の走り込みも、常に賀陽さんを抜こうと虎視眈々と狙っているし、歌でもダンスでも毎日何かしら勝負を仕掛けているのを知っている。

 

 そう簡単に折れる彼女ではない。

 この分なら、私が見込んだ通り…。

 

わたし(ミヤビ)は……勝つことが大好きなのです。

 わたし(ミヤビ)()()()()()()()()()()()()

 

「……はい?」

 

 聞き間違いだろうか。

 先程まで考えていた負けず嫌いでストイックな彼女から出たとは思えない言葉は、私の想定を超えるものだった。

 

わたし(ミヤビ)に負けた子たちは可愛くて愛おしいんです。

 わたし(ミヤビ)は彼女たちを守ってあげないといけないんです。

 わたし(ミヤビ)に負けたから仕方ないって、諦められるようにしてあげないといけないんです」

 

 そう言いながら頬を染めて恍惚の表情を浮かべる彼女は、とてもストイックにレッスンに励む彼女とは思えない。

 まさか……これが素の彼女なのだろうか。

 さっき一部見え隠れしていたものを隠さなくなるとこうなるのか…?

 

 思ったよりヤバイのが出てきたな、どうすんだこれ。

 

わたし(ミヤビ)に敗れて慕ってくれる子たちもいるんです。

 わたし(ミヤビ)を慕ってくれる子たちを失望させません。

 わたし(ミヤビ)は一番になって、勝者の責任を果たすんです」

 

 彼女の言葉が少しずつ勢いを増していく。

 徐々にペースを上げていくそれは、彼女の言葉に力強さが込められていく。

 

 そして、彼女は爆発した。

 

「だから……わたし(ミヤビ)はトップアイドルを諦めません!

 『才能』が何だって言うんですか!

 ()()()()()()()()()()()()()()!!

 これまで以上に、()()()()()()()()()()()()

 わたし(ミヤビ)は、藤田ことねにも、『SyngUp!』にも、『一番星(プリマステラ)』にも勝ちます!」

 

 ………なるほど、そういうタイプだったのか。

 『ノブレス・オブリージュ』という言葉があるが……彼女の原動力はそれに近い。

 まさか、勝者の責任という言葉を、中等部の生徒から聞くことになるとは思わなかった。

 

 さらにその根幹にある物は……根っからの負けず嫌い。

 これは……彼女たちと嚙み合うわけだ。

 それに。それぐらいのエゴを出さないと、頂点を目指し続けることは難しいだろう。

 

「……あなたのことをまた一つ知れました。

 普段のレッスンから、月村さんに近いと思っていましたが、秦谷さんの方が近いとは、この私の眼をもってしても見抜けなかったです」

 

「一緒にしないでください。

 わたし(ミヤビ)わたし(ミヤビ)です。

 彼女たちとも、あなたが言う『花岡ミヤビ』でもありません。

 仮に『花岡ミヤビ』がトップアイドルになれなかったとしても、わたし(ミヤビ)はトップアイドルになります」

 

「そうですね。

 ……失礼しました。

 今、私はあなたを試すようなことをしてしまいました」

 

 私は席を立って花岡さんに深々と頭を下げる。

 しっかり3秒ほど頭を下げてから、頭を上げて彼女を見ると、ポカーンとした顔で私を見ていた。

 

「『才能』という言葉一つで、人の可能性を否定することは簡単でしょう。

 『未来』を知って、自分の夢を閉ざすのも簡単な道でしょう。

 ですが……それだけで、()()()()()()()()()()()()

 『戦いこそが人間の可能性』なんです。

 諦めてしまえば、その可能性はゼロになってしまう」

 

「……わたし(ミヤビ)が諦める人物かどうか、試したんですか?」

 

「ええ、簡単に諦めてしまうようであれば、彼女たちのライバルに相応しくもありません。

 『中等部No.4』に甘んじるような人物であっても同様です」

 

「舐められたものですね。

 それで、嘘までついてわたし(ミヤビ)を試すなんて」

 

「嘘はついてないですよ。

 私が未来を見れることは、月村さんたちも知っています」

 

 私の言葉で、彼女は狼狽えた。

 まさか本気で言っているとは思わなかったのだろう。

 

「………冗談ですよね?」

 

「信じるかはあなた次第です。

 私は担当アイドルに嘘はつかないようにしています、とだけは言っておきましょう」

 

「…上等です!

 やってやろうじゃないですか!

 わたし(ミヤビ)が一番のアイドルだって証明してみせます!」

 

「……来年、6人ほど藤田さんクラスの人材が入学してくるので、本気でやらないと『No.4』の座すら簡単に奪われますよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。

 『No.4』なんて半端な数字じゃなくて、『No.1』がわたし(ミヤビ)には相応しい。

 あなたには悪いですが、『一番星(プリマステラ)』はわたし(ミヤビ)が獲ります!」

 

「期待していますよ。

 あなた方は強敵と切磋琢磨したほうが、より良く成長できる。

 私の担当アイドルと、上級生を食い荒らして貪欲に成長してください」

 

 花岡さんは立ち上がったまま、私を睨みつけて頷いた。

 彼女の瞳には、全てを焼き尽くさんとするが如く、メラメラとした炎が宿っていた。

 さっき泣き出しそうだった少女と同一人物とは思えない程、その瞳には輝きが宿っている。

 

「本番前の話は以上です。

 週末の本番、頑張ってください。

 チケットも無事に完売していますから……みんなが、あなたを待ってますよ」

 

「当然です。

 期待してなさい、あなたの担当アイドルがボコボコにされる姿を!」

 

「精々あがいてみてください。

 そのあがきぶりを、私は期待していますよ」

 

 花岡さんはそう言って意気揚々と事務所を出て行った。

 本来はここまで言うつもりもなかったのだが……いいや、白状しよう。

 

 私も彼女に大分引き込まれている。

 

 彼女は自分の才能が藤田さんに劣っているというが、勝利に対するハングリーさは彼女も負けてない。

 その原動力が……自分に負けた人たちが可愛くて愛おしいから、という理由には少し…かなり驚いたが、まあいいでしょう。

 原動力は人によって違うものだから、それに良いも悪いもない。

 

 自分の才能が、輝く星に比べて劣っているかもしれないと知った彼女は、どうやってそれを覆すだろうか。

 きっかけは与えることができたと思う。

 答えは、彼女自身で見つけないといけないだろう。

 

 そんな彼女の人間的な魅力に、私も大分魅了されているようだ。

 やはり……アイドルとは素晴らしい。

 こんなにも輝かしい世界があったなんて……もっと早く知ってたら………いいや、それでも『私』は変わらなかったか。

 あるいは、変われたのなら、ここにはいないだろう。




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

『初星音楽祭』とても最高でした。
今回も最高をありがとうございます。
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