『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
これまでは軽くでしたが、話が分からなくなる可能性があるため、そちらを読了してからお読みいただくことをお勧めいたします。
前言撤回したことと、お手間をとらせてしまい、大変申し訳ございません。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。
担当アイドルではない花岡さんの単独ライブは、『SyngUp!』のライブとも藤田さんのライブとも負けず劣らずの大盛況で幕を閉じた。
オリジナル曲もなく、『初星学園』の曲だけだったのに他に負けないレベルの出来だったのは、偏に彼女の努力が実った結果だ。
そして、特筆すべきことは……あのわずかな期間で
それまでは、どれも高水準でまとまっているというのが私の評価だったのだが、ダンスの経験が豊富だということでダンストレーナーに自分でアドバイスを乞い、独自のレッスンをしていたようだ。
単独ライブをすることになった日から積み重ねていたそれが、あの会話をしてから急激に形になったらしい。
気合の入れ方が変わったのか、考え方が変わったのか、覚悟が決まったのか、藤田さんの得意なダンスで勝負したくなったのか…………あるいは、それら全てだろうか。
その結果……藤田さん以上のダンス力を身に着けていた。
それこそ、ダンサーとして食べて行けるようになるのではと思うぐらい、レベルをめきめきと上げていたので驚いた。
専門的なことはかじっただけなので詳しくはわからないが、動きのメリハリがはっきりしていて、
秦谷さんが一目見て同じように動くことはできていたが、力強い、とはまた違った印象になっていたのが感慨深い。
かっこよく勝ちたい、という彼女の願望を形にしたような、そんなダンス。
それに合った選曲を優先したセトリ……『初』『雪解けに』『冠菊』『ENDLESS DANCE』…アンコールで『冠菊』。
自己紹介と言ってもいい『初』、流れるように舞うダンスの『雪解けに』をアレンジして彼女らしさを交えてペースを上げていき、『冠菊』『ENDLESS DANCE』でテンションを最高潮にした。
アンコールの『冠菊』でも、ダンスのブレはほとんどなく、ずっとキレの良いダンスで見てて気持ちがいいライブだった。
藤田さんの時とは違い、ライブ後の控室には雨夜副会長が高めのテンションで激励していたのが印象的だ。
彼女のライブの方向性と、花岡さんのライブの方向性は『かっこいい』という括りでは似ているし……『H.I.F』で『ENDLESS DANCE』を披露した
私もつい最近知ったことだが、彼女は単独ライブの話が出てから1週間程度で雨夜副会長に『ENDLESS DANCE』を教えてもらいに行ったらしい。
雨夜副会長が『SyngUp!』のライブ後に激励と宣戦布告に来た理由は、この件もあったのだろう。
かっこいいライブ、と自分で考えて自分で上級生に教えを乞いに行く。
これができる生徒がどれだけいるだろうか。
その難しさを、雨夜副会長も理解していたから、花岡さんに教えてくれたのだ。
プロデューサーがいないアイドルの中では100点満点に近いのではなかろうか。
危うく藤田さん同様に秦谷さんの膝枕に吸い込まれかけたり、打ち上げと称してファミレスでお疲れ様会をしたりと、楽しく終わることができた。
前回もファミレスだったが、流石に週1ペースで打ち上げをしていると、毎回焼肉だのラーメンだのはアイドル的に難しい。
これでも結構ギリギリだ。
………さて、ここからは私の仕事だ。
『H.G.F』まで残り3週間ほど、既に関係各所にも十分話は通しているし、一般向けのチケットも既に先行チケットは規定枚数は掃けてしまった。
追加の席をいくつ用意できるか、といったレベルだ。
それに……『単独ライブ』は配信チケットの販売だったが、『H.G.F』はテレビ放送されることになったので、それの段取りも組むことになった。
『初星学園』は『H.I.F』を全国放送していることもあって、元々伝手があったので0から開拓しなくてよかったのは救いだ。
全体練習も始まった。
希望者は全員参加できる形になったこのイベントは、高等部のアイドル科の生徒も、中等部の生徒も衣装がまだない生徒も含め、ほとんどが参加する形だ。
アイドルを目指して入学した彼女たちにとって、大きな負担がなく参加できるイベントを心掛けたこと、十王会長が宣伝したこともあって、私が想定したよりも大きな規模になってしまった。
だが、却って授業の一環として全体練習を行えるようになったため、全体練習の練度が少しずつ上がっているので結果オーライと言ったところ。
ステージを3段構造にしても、人と人がぶつかりかねないレベルの密集地帯になるので、講堂本来の最前列は生徒で埋まる。
全体合唱の『標』は全員がダンスできるスペースは確保できないため、本戦出場者のみステージの一部でダンスをする形になる。
実質フェイクがあるだけのただの校歌になるかもしれない。
………フェイクがある校歌ってなんだよ。
いや、それはまあいい。
プロデューサー科でも少しずつ話題になってきて、私に……話しかけてくる者はいないが、裕が主導になってイベント運営の一部を担っているのも、思ったよりも規模が大きくなりすぎて、気づいたら『初星学園』全体という比喩が比喩じゃなくなってきたのも、それを見た『普通科』の生徒からも怯えられるようになってきたことも、黒井理事長も961プロのアイドルを連れて見に来ると言っていたことも、十王会長と学園長が悪ノリしてどんどん規模を大きくしているのも………言いたいことは色々ある。
………もしかすると…黒井理事長だけがまともか…?
真の敵は味方かもしれない。
まあいいでしょう。
多少の問題はあったが、とりあえず大きな問題なく進行できている。
そして、恐らくその件で呼び出されたのだが、先方はまだ忙しいようで少し待たされている。
そうしているうちに……
「待たせてしまったか。
久しぶりだな、『初星学園の
「その言い方はおやめくださいと……
ご無沙汰しております」
非常にいい声と共に現れたのは……十王龍正。
十王星南の父にして、十王邦夫の息子。
そして……100プロの社長だ。
彼は……『極月学園』以外の特別な営業先の一つだ。
『極月学園』への営業を終えた後に、別途営業に行ったことがある。
そして……いろいろな事情もあり、少々仲良くさせてもらっている。
さっきから言っている約束というものは、
「謙遜の必要はない。
既に方々にその名前で通っている。
今更取り繕うこともないだろう」
「否定はしませんが……
「学園長が言っている以上、仕方ないと諦めている。
何よりあっちの方が方々に触れ回っている」
勘弁してくれ……。
「……はぁ、まあいいでしょう。
それで、今日はどのような御用件ですか?」
「
まとめているか?」
「こちらに。
『SyngUp!』と藤田さん、花岡さんのライブ、その動員数。
そして、『H.G.F』のチケットの現状の販売数と、増枠の検討分です」
「拝見しよう。
……単独ライブは全て満席、『H.G.F』も先行分は完売か。
ふむ、見込み通り全て水準を超えている。
『H.G.F』は君が意図してか知らないが、『初星学園』の一大イベント…
この分であれば、開催を後押しすることもやぶさかではない。
約束通り、100プロで予定が空いているアイドルを観戦させよう」
……何とか彼との約束は果たせた。
『単独ライブ全てで9割以上の観客を動員し成功を収め、「H.G.F」の先行チケットを全て完売させる』こと。
対価は先程、彼が言った通りだ。
当然、彼女たちを売り出す以上その程度はできて当然だと思っていたが、少しの不安があったのは否めない。
それを知られないように、一抹の不安を押し殺して尊大に宣言する。
「私が企画したのですから、当然の結果です。
『SyngUp!』のプロデューサーとして、無様は見せられません」
「流石だな。
あの賀陽燐羽くんが君を気に入るわけだ。
取り逃がすつもりはなかったが、少々危うかった彼女を君は正しく導いた。
以前も言ったが、
「どの件も私のためにやったことですので、礼を言われるようなことではありません」
私が彼と仲良くなった理由の一つは、100プロと懇意である158プロダクションと私が仲良くしていることが一因だ。
彼も…158プロダクション、その社長のご子息の状況は当然知っている。
そして……
「それでも、だ。
本来、
特に158プロの件は……
「あなたと彼は相性が悪い。
その意図がなくても理詰めして相手を追い詰めてしまう、あなたの物言いでは彼の心は開かないと思います」
「
私も一度断ったのだが、あの時はまだ若く、断るに断れなかった。
星南から嫌われているのもわかっているのだが……どうしたものか」
そう言いながら、普段の仏頂面のまま頭を悩ませている彼は、社長であっても普通の人間なのだと思わされる。
こういう人間らしいところを見せれば、評価は改善すると思うのだが…。
彼はかなりのリアリストだ。
夢と現実をしっかり区別をつけるタイプで、情に流されることがない………ように見えるが、実際は娘のグッズを集めたりしている微笑ましい面もある。
仕事とプライベートを区別するタイプだが、『プロデューサー』が頼みこめば、娘の応援に駆けつけてくれることもあるぐらいには、まだ融通が利く方だ。
それを踏まえて私に言えることは…。
「とりあえず相手を利益だけで見るのは止めた方が良いかと。
駒のような物言いをすると、反感を買うのは当然でしょう。
特にこの世代の少年少女は多感です。
感情が結果を左右することもざらにある。
それは、十王社長もご存じでは?」
「ふむ、一理ある。
貴重な意見として受け止めよう」
「後は娘さんと仲良くなりたいなら、見栄とかそういうものも少し取り払った方が良いです。
試しに今度の『H.G.F』で十王会長のフル装備を用意しておきますので、それを着て全力で応援してみてください」
「……君が言うならそうなのだろう。
気持ちは嬉しいが、既に星南のグッズはすべて揃えている。
用意は不要だ」
大分軽口を叩いているのだが、何故か一定の信頼を勝ち取ってしまったようで、多少は話を聞いてくれるのが不思議だ。
どうせなら100プロのアイドルが見ている隣で、フル装備状態で推し活してほしい。
プロのアイドルだけではなく、彼を知っている人物がいたら全員二度見するだろう。
「であれば、『H.G.F』限定グッズを送らせてもらいましょう。
神棚にでも飾ってください」
「そうさせてもらおう」
答えは得たとばかりに頷いた彼を見て、本来の用事が何だったのかがわからなくなった。
一度…失敗してしまってから、却って仲良くなってしまったのが本当に面倒だ。
おかげで距離感を測りかねている。
「話は以上ですか?」
「主な目的は今の件だが、個人的に少し聞きたいことがある。
仮の話だが、今君の担当アイドル……『SyngUp!』を100プロに移籍することを提案した場合、君はどうする?」
「彼女たちの望むままに……と言いたいところですが、恐らくみっともなく泣いて縋ると思いますよ。
私を彼女たちの担当から外さないでほしい、と」
私の言葉を聞いた彼は、堅い顔をさらに険しくした。
「プロデューサーが担当アイドルにそこまで入れ込むのは褒められたことではない。
それに君はまだ学生で、100プロのプロデューサーの方が君よりも経験は遥かに豊富だ」
「ええ、理解はしてます。
ですが……それで止められるような物であれば、ここまで私が歩み続けることはできなかったでしょう。
私がここまで彼女たちと歩めた理由は、私が彼女たちに惚れ込んでいるからです。
頭の中の一部の回路では、常に彼女たちのライブ映像がリフレインしている。
彼女たちがさらに輝ける場所を、輝くための用意をすることしか考えられません。
私の頭の中は、未来の
担当を持ったばかりだったら、彼女たちの意思に全てを委ねていただろう。
いつ頃から……『H.J.I.F』が終わる前なら引き返せた可能性はある。
彼女たちにより良いプロデューサーがつく方が良いと、そのための『代用品』の偽物が私だと言っていただろう。
だが……もう、無理だ。
……男の嫉妬は見苦しいと言うし、独占欲を担当アイドルに向けるのは最低な行為なのはわかっているのに……どうしてここまで………。
今の私は、彼女たちの担当を外れるぐらいなら、
比喩ではなく、本気で。
昔は失敗した
「それに、経験豊富なだけでは『SyngUp!』のプロデュースは難しいと思います。
今の彼女たちが100プロ所属になれば、間違いなくトラブルを多発させるでしょう。
場合によっては、100プロのブランドイメージを失墜させかねない。
で、あるならば……彼女たちとの付き合いが一番長い私の方が、彼女たちを比較的トラブルなくプロデュースできます」
これも本心だ。
彼女たちのトラブル率は、相当高い。
それは彼も把握しているのか、一つ頷いた。
「ふむ、なるほど。
本来であれば一蹴する意見だが、それで君を手放す方が愚行だな。
それに、『SyngUp!』が並みのプロデューサーで担当が務まることではない、ということは私も重々承知している。
ここ最近も月村手毬くんの偽アカウントが炎上していたが、あれは本人だろう?」
「流石の慧眼ですね。
その通りですよ」
「事後対応も見事なものだった。
100プロのプロデューサーも対処はできるが、『SyngUp!』の問題行動の数々は私の耳にも届いている。
それを全て対処しながらプロデュースし、結果も出している君を私は非常に高く買っている。
ましてや、新規のイベントに加え単独ライブを3つ並行し準備をしながらとなると、他に類を見ない」
「恐縮です」
「ところで、君は卒業後の進路は決まっているか?」
卒業後の進路………詳しく考えたことはそこまでなかったが、私の望みは決まっている。
「彼女たちは100プロを望むでしょう。
で、あれば私もそちらの道に進みたいと考えています」
「そうか。
『SyngUp!』がプロデューサーごと手に入るなら、こちらとしても望むところだ。
だが、100プロのプロデューサーになるとしたら、『SyngUp!』は当然として他にも担当を持ってもらう可能性が高い」
「それぐらいなら構いません。
可能なら断りたいところですが、『首輪付き』になる以上は仕方ありません。
彼女たちの担当を外さないのであれば、どんな仕打ちも受け入れましょう」
「なるほど。
ならば、卒業前から手っ取り早く囲ってしまった方が早いな。
上手くいけば、藤田ことねと花岡ミヤビも手に入る」
「そういう物言いをするから嫌われると……はぁ、まあいいでしょう。
花岡さんは怪しいですが、今なら158プロの秘蔵っ子もついてきますよ」
「お買い得だな。
今のうちに予約しておこう」
「ご予約ありがとうございます」
本当にそうなるかはわからないが、『SyngUp!』の実力を目の当たりにすればそう思っても不思議ではないだろう。
それに……彼は『神童』と呼ばれていたときの大和も知っている。
他に渡すよりは囲った方が良いという判断は正しいだろう。
安いおまけとして私がいることは諦めてもらおう。
「最後に聞きたいのだが、君の目的は何か聞いても?」
「『SyngUp!』を、藤田さんをトップアイドルにすることです」
「
私は本心からそう言ったのだが、ノータイムで返されその返答に思わず返答を戸惑ってしまう。
「………何が言いたい?」
「君の妄信的なまでの担当である彼女たちへの信頼。
それが普通ではないことぐらい、君ならわかるはずだ。
見て見ぬふりをするのは自由だが、あまり賢い選択とは言えないな」
「………あなたが言うのであれば、
私としては、それぐらい彼女たちを信じる理由があるのですが……」
私が彼女たちを妄信している……否定はできまい。
中等部の彼女たちにここまで熱を上げているプロデューサーは他から見れば異質に映るのかもしれない。
それも十王社長が言うのであれば、私はやりすぎているのかもしれない。
だが………ドス黒いあの日常から『私』を引っ張り出した、彼女たちの光を、『私』が忘れることはないだろう。
それに…
「ですが、仮に私に他の目的があったとしても、それを言うのは
その後で必要があれば話しますが、誓ってあなた方に迷惑をかけるようなものではないとだけお伝えしておきましょう」
「……そうか、ならいい。
用件は以上だ、退出してくれて構わない」
「それでは、失礼します。
今後とも、よろしくお願いいたします」
そう言って頭をしっかり下げて、応接室から退出した。
………………どうしてこうなった。
いや、わかっている。
営業ついでに賀陽さんの話を軽くして、大和の話になり謝罪を受けた。
その過程で……少し感情を出しすぎてしまったことは否めない。
彼が大和に放った言葉が、気に障って言い返したあたりから、何故か好感触になってしまった。
結果的に何故か気に入られたからよかったものの、本来はこうやって話すことも烏滸がましいことだ。
大和が苦手だと言っていた人物の一人である理由はよくわかった。
………はぁ、考えても仕方ない。
にしても、目的…‥……目的、ね。
流石は『十王社長』と言ったところか、誰にも気づかれてないと思ったのだが…。
確かに、『目的』はある。
誰にも言っていない……『遺書』には書いてある目的が。
誰にも迷惑をかけるつもりはないし、
『亡霊』と言ってもいい人間。
そんな『亡霊』が望むべき場所があるとするなら……それは、
いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
少々モチベーションが低下気味なので、評価と感想を頂けるととても喜びます。