『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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68話目

 

 『H.G.F』の開催まで残り2週間を切るところ。

 

 今できることを大体やった気はするが、軽い『寄り道』のつもりが思ったよりも大きなイベントになってしまった。

 学内でちょっとした交流会で済ませて、ちょっと高等部の実力者と手合わせしてもらい、冬の『H.J.I.F』に向けての実力を作るためだった。

 それなのに、十王会長と話しているうちにだんだん規模が大きくなって、私がその気になってしまったのが原因だ。

 

 ………気づいたら、自分の進退を決めかねない事態になっているので、本当に面倒だ。

 

 元々『私』はそこまで出世欲はない。

 面倒ごとは嫌いだし、人並程度にできればいいと思っている。

 『プロデューサー』として大成したいとは正直そこまで思わない。

 だから、不誠実だとは思うが今抱えている担当アイドルがトップアイドルにさえなれば、後は適当にできればそれでいいと思っている(十王社長にはああ言ったが)。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今の私は『SyngUp!』と藤田さん(彼女たち)の担当プロデューサーだ。

 私の評価が落ちるということは、彼女たちの将来に影響が出てしまう。

 

 だから、こうやって何度も何度も何度も何度も何度も何度も……気の遠くなるような回数、確認を繰り返している。

 日を置いて再確認もして、十王会長と先生方と打ち合わせもしてもらっている。

 

 『H.G.F』の失敗は許されない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……………まぁ、気負うのはこの辺でいいだろう。

 あんまり抱え込みすぎても、良くない物が生まれるのも事実だ。

 むしろ、事前準備はある程度終わったと思って、今日は本来の業務をメインにしよう。

 

 悲しいことにここ最近はレッスンの様子を見に行くこともできないぐらいに忙しく、正直心は疲れ果てているだろう。

 彼女たちのプロデュースのために疲れた心を、彼女たちのレッスンとライブを見て回復する。

 

 永久機関が完成しちまったなアア~‼

 これでノーベル賞は俺んモンだぜ~‼

 

 ……だめだ。

 本当に、大分疲れてる。

 忘れようと思っていた『目的』を少し思い出してしまったせいだ。

 

 不純物を抱えたままプロデュースをすることは、彼女たちにとっても私にとっても良くない。

 しっかり切り替えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()を確認しよう。

 

 

 レッスン室に入ると、そこでは月村さんと賀陽さん、藤田さんに花岡さんがレッスンしていた。

 今日はボーカルレッスンの日で、中等部のトレーナーも付き添ってくれている。

 今は全員で声出しを兼ねて『標』を歌っている最中のようだ。

……ドア、いつの間に閉めたんだっけ?

 最近はよくてレッスン終わりにしかこれなかったので、全員少し驚いているように見える。

 それでも、すぐに歌う方に意識を切り替えているあたり、彼女たちの練度の高まりを感じた。

 

 『標』は『H.G.F』の最後に歌う曲だ。

 

 『H.G.F』の勝負の中で披露する予定はないとはいえ、『H.G.F』の最後で『初星学園』を象徴する曲になる。

 既に様々な場所で彼女たちはこの曲を歌ってきているので、全体的な練度は高い。

 歌唱メインの曲なので、発声練習としてもちょうどいいのだろう。

 

 『標』を歌い終わった彼女たちに私は拍手を送った。

 

「プロデューサー、珍しいですね」

 

「『H.G.F』の準備がようやく一段落したので、こちらにやっと顔を出すことができました。

 ボーカルトレーナーさんも、いつもありがとうございます」

 

 そう言って私はボーカルトレーナーさんを見た。

 高等部のボーカルトレーナー……『学マス』に出てくる『ボーカルトレーナー』とは違い、金髪のショートミドルで身長は160ぐらいだろうか。

 『初星学園』のトレーナー陣は『アイドル』の見本も兼ねているためか、美人ぞろいだ。

 

 そんな彼女が、少々怖い顔で私を睨んでいる。

 

「いいえ……それはいいんですが、秦谷さんが来ていないんですよね。

 ()()()()()

 

「………誠に申し訳ございません。

 何卒ご容赦いただきたく…」

 

「この前、ビジュアルトレーナーとダンストレーナーも同じことを言っていたんですよね~。

 あ、そうそう、この前おいし~いパフェを出すお店ができたんですよぉ~」

 

 なるほど、それで解決するなら安いものだ。

 私は懐から封筒を一通取り出す。

 

「ここに3人分の料金が入った封筒があります。

 これで何卒ご容赦いただきたく………」

 

 中には3万円ほど入っている。

 まさか、パフェが1万円もすることはないだろう。

 

 私が封筒を渡そうとすると、トレーナーは顔を真っ青にして拒否した。

 

「学生からお金を貰ったら、私が捕まります!

 ……はぁ、ちょっと憂さ晴らししようとしただけなのに、幾らなんでもデリカシーがなさすぎます。

 あなた達、大変ね」

 

 何が大変なのだろうかと思っていると、藤田さんが真っ先に反応した。

 

「ええ、本当ですよぉ~~~!

 プロデューサーってば、プライベートだと誘っても全然遊んでくれないですし~~~」

 

「電話は出てくれるけど、あんまり会ってくれないし」

「土日も仕事を入れてるわよ、そいつ」

「……担当を持つって大変ですわね」

 

「……?

 花岡さんも担当してもらってるんじゃないんですか?」

 

 何かよくわからないようなことを言っていたが、花岡さんの言葉にボーカルトレーナーさんは引っかかったようだ。

 ……裕からも言われたが、やっぱりおかしいのだろうか。

 

「いえ、私はプロデュース契約を結んでませんわ」

 

 以前も話通り花岡さんが否定すると、それに驚いたのはボーカルトレーナーさんだけではなかった。

 

「…へ?

 そうだったの?」

 

「は?

 藤田ことね、なんであなたが知ってないんですか?」

 

「いやいやいやいや。

 え?

 プロデューサー、冗談ですよね?

 あそこまでやっておいて、プロデュース契約してないわけないですよね?」

 

「してませんよ」

 

はぁぁぁああああああああああああ!?

 

 藤田さんは防音性の高いレッスン室を貫通せんばかりの声量で絶叫した。

 思わず隣にいた花岡さんが耳をふさぐ。

 

「確かに最初は契約してないって話は聞いてたけど、え、前回の単独ライブであれだけやってプロデュース契約結んでないってマジ!?

 ミヤビにあれだけ言っておいて!?」

 

「ちょ、藤田ことね!

 そのことは言わないでって言ったでしょう!」

 

 花岡さんはいつのまにか他の人にも話していたのだろうか。

 あまり自分から話すとは思えないが…もしかしたら、見てないところで詰められたのかもしれない。

 

「……プロデューサー、もしかして前に私たちに言ったことを気にしてるのかしら?」

 

 ばつが悪そうに賀陽さんが言うが、彼女たちのせいではない。

 

「それがないことは否定しません。

 あなた達には誠実でありたいと思っていますから。

 それに、秦谷さんにも花岡さんの担当をしないから、目をかけてほしいとお願いした身分です。

 勝手に契約を結ぼうものなら、五体満足でいられる自信はありません」

 

「……通りで美鈴がすんなり言うこと聞いてると思ったわ」

 

「ふーん…プロデューサーって私たちのこと、本当に好きだよね」

 

「ええ、大好きですよ。

 だから、こうやって寝る間も惜しんであなた達のプロデュースをしています。

 ですが、花岡さんのプロデュース契約をしていないのは、それに加えて2つほど別な理由があります」

 

「それって、何なのでしょうか?」

 

 ボーカルトレーナーさんも興味津々なようで、楽しそうに聞いてきた。

 こういうプロデューサーの裏話的なものに興味があるのだろうか。

 

「1つは『H.G.F』が控えているからです。

 あまり知る人がいるわけではありませんが、『SyngUp!』と藤田さんの担当が私であるということは『初星学園』において周知の事実。

 この界隈では少し知られているかもしれません」

 

「確かに、あなたのことはトレーナー間でも話題になりますね」

 

「『H.G.F』は私の担当アイドルのレベルアップを見込んでいると同時に、『初星学園』の知名度向上も狙っています。

 『初星学園』自体が素晴らしいものになれば、その中で輝く私の担当アイドルは更に素晴らしいと世界が知ることになります」

 

「………凄いこと考えますね。

 それを実行に移していることも含めて」

 

「彼女たちならできると見込んでのことです。

 ですが、中等部の本戦参加者が全員私の担当であると知られてしまえば、担当プロデューサーが居るアイドルが素晴らしいだけだと勘違いされるかもしれません。

 実際は彼女たちの実力なのですが、()()はそうは思わない可能性がある」

 

「だから、担当をしていない、と」

 

「ええ、ですが、中等部の本戦出場者同士で切磋琢磨すること自体は問題ないでしょう。

 トレーナーを入れているのもそれが理由の一つです」

 

「ほへー……。

 って、本当に『初星学園の黒幕(フィクサー)』そのものじゃないですか!」

 

「いつの間にか中等部じゃなくなっていたのは遺憾ですがね」

 

「ただの事実じゃないですか!」

 

 トレーナーさんまでなんてことを言うんだ。

 心外な言葉にどう返そうか悩んでいると、藤田さんたちが割り込んできた。

 

「プロデューサーって本当にあくどいこと考えますよね」

 

「それで、後の理由は何なのかしら?」

 

「そうですね、これが一番大きな要因ですが…()()()()()()()()()()()()()

 

 私のその一言で、レッスン室内は静寂に包まれる。

 なぜか全員が呆気に取られている中、一番早く復帰したのは花岡さんだった。

 

「………は?」

 

「彼女は一人でも十分に走っていけるタイプのアイドルです。

 そうやって、これまで独力で中等部の上位に食い込んだ。

 そんな彼女に、生半可なプロデュース能力しか持っていない私が積極的にスカウトすることは失礼でしょう。

 ですので、私は彼女とその話をしていないんです」

 

「……………」

 

 私が話していくにつれ、何故かどんどん空気が重くなっていくような気がする。

 花岡さんが徐々に俯いており、横目の私からは表情が見えなくなってきた。

 

「あくまで私の見立てですが『SyngUp!』も藤田さんも、そのままでは明らかな問題にぶつかることが明白でした。

 ですが、花岡さんはそう言ったことはなさそうですし、最低限アイドルとしては成功したでしょう。

 であれば、本人が希望しない中で私がプロデュース契約をする、ということは既に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになります。

 花岡さんも私の評価を上げるだけのダシに使われるのは嫌でしょう」

 

 私が話し切ると、花岡さんがプルプル震え始めた。

 

「……………っとうに…」

 

「?

 花岡さん?」

 

 何故か他の人たちも遠巻きに下がっている。

 ボーカルトレーナーさんに関しては、顔を青くしているように見えるが、そこから何か見えるのだろうか?

 俯きがちな花岡さんの顔ぐらいしか見えないような気がするが。

 

 そう思って彼女の方に向き直ったら、彼女はガバっと顔を上げた。

 顔を上げた彼女は顔を真っ赤にして声を荒げる。

 

「……ほんっとうにクソボケですわね!!

 

 なんてことを言うんだ。

 何で他の人たちまで頷いているんだ。

 

「そんな言葉、アイドルが使ってはいけませんよ」

 

「わかってます!

 ……はぁ、いえ、あなたはそういう人でしたね」

 

 そう言って頭を振ってから、私を睨んでいる彼女はどこか諦めたようにも見えた。

 

「この際だから言いますが、あなたは自分を低く評価しすぎです。

 何が原因でそこまで過小評価をしているのかわかりませんが、少なくともわたし(ミヤビ)はこの前の単独ライブの件、とても感謝しています。

 わたし(ミヤビ)はあなたにならプロデュースされても良いと思ってます」

 

 ……意外だ。

 彼女とそれなりに仲良くなれたとは思っているが、まさかプライドが高い彼女がそう言うとは思わなかった。

 

「それは光栄です」

 

「人の心をあれだけ辱めておきながら、そんな気が丸っきりないとは思いませんでしたが!」

 

 花岡さんの言葉の棘が痛い。

 担当アイドルたちからの視線もだ。

 

「プロデューサー?

 何をしたのかしら?」

「嘘だよね?

 プロデューサー?」

「ぷ~ろ~でゅ~さ~??」

 

「落ち着いてください皆さん。

 ボーカルトレーナーさんも、通報しようとするのはやめてください」

 

「弁明はパトカーの中で聴きますよ」

 

 このままでは本当に通報されてしまいかねない。

 ……この場で助けを求めるべきは…。

 

「花岡さん、助けてください」

 

「よくもまぁ、わたし(ミヤビ)に言えましたね!?

 はぁ、ボーカルトレーナー、気持ちはありがたいですが通報は結構です。

 ただ…誰にも言えなかった本心を曝け出されただけですわ」

 

「…花岡さんがそう言うのであれば止めておきますね。

 プロデューサーさん、私が言うことではないと思いますが、担当アイドルではないアイドルの心をかき乱しすぎるのは如何なものかと思います」

 

「……そう、ですね」

 

 身に覚えがないわけではない。

 人が殻を破るには、『普通』じゃないことをしなければならない。

 これまで通りのことをしたところで、簡単に殻を破れるのならばたいした成長にはならないだろう。

 

 だから、花岡さんの心をかき乱してしまった自覚はある。

 彼女が普段言わないで秘めていることを曝け出させた。

 

 ……その責任は、確かに私にある。

 しかし……担当アイドルにこれ以上担当を増やさないと話している以上、増やすのは……。

 

「はぁ……プロデューサー、私は…この子なら担当を増やしても文句は言わないわ」

 

 葛藤している私にそう言ったのは賀陽さんだった。

 意外なことに藤田さんと月村さんもそれに同調した。

 

「ていうか、今まで担当してると思ってたから、あたしも同じ気持ちで~す♡

 ……絶対に負けないけど」

 

「プロデューサーがどうしてもって言うなら、ミヤビならいいよ。

 足を引っ張らないなら、だけど」

 

「……意外です。

 皆さん、担当を増やすことには反対だったのでは?」

 

「そうですけど~、あたしも後から入ったクチだから文句はないですよ~」

「最初はそう思ってたわ。

 でも……この子の負けず嫌いで突っかかってくるところ、結構嫌いじゃないのよね」

「同じく、全力で向かってくるから倒し甲斐があるしね。

 私たちの相手になる相手なんてそうそういないですから」

「……プロデューサーがどうしてもとおっしゃるなら、本当に、本当に……業腹ではありますが、いくつかお願いを聞いていただけるならお許ししましょう」

 

 ………担当全員にそこまで背を押されてしまっては………また一つ、背負うしかないのかもしれない。

 

「皆さんの気持ちはありがたいですが、もし担当にするとしても『H.G.F』が終わってからです……ね……、秦谷さん、いつからいました?」

 

「担当アイドルが来たことにも気づかないなんて、酷い方。

 事務所でお昼寝しようと思っていたのですが、いらっしゃらなかったのでこちらかと思い、覗きに来ました。」

 

 本当に何時からいたのだろうか。

 目のハイライトが少し消えかけている秦谷さんは大層ご立腹だ。

 無理もない、今回に関しては私が100悪い。

 

 だが、ご立腹なのは彼女だけではなかった。

 

「は~~た~~や~~さ~~ん!!

 またレッスンをサボりましたね!!」

 

「まぁ、サボっただなんて人聞きの悪い。

 少し、遅れてしまっただけ、ですよ」

 

「さっきお昼寝しようと思ったって言ってましたよね!?」

 

「まぁ、ふふ」

 

「笑って誤魔化さないでください!」

 

 いつも通りにトレーナーさんから逃れている秦谷さんは、笑ってはいるが、目は一切笑ってない。

 トレーナーさん以外はそれを察しているのか、レッスン室の空気はまだ重い。 

 秦谷さんが静かに怒っていることを、その場の誰もが感じ取っていた。

 




いつも誤字報告、評価や、感想、ここすきなど、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

前回の最後にモチベーションが低下気味と書きましたが、皆さんの評価、コメントが筆者にとっての『自己肯定感爆上げ↑↑しゅきしゅきソング』になって大分回復してきました。
毎日毎日ありがたく読み返しています。

お気に入り登録もしていただけると、とても励みになりますので、よろしければお願いします。
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