『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
大変申し訳ございません。
明日は20時投稿になるので、ご了承ください。
「え? え?
…………?????」
目が覚めた私の視界に入ってきたのは、平静を装っているものの耳まで真っ赤になった賀陽さんだ。
一瞬膝枕されていたのかと思ったが、ただ頭を撫でられているだけ……いや、まずい。
こんな状況を見られでもしたら、一発で私の首は飛ぶ。
最悪『H.G.F』も中止になりかねない。
そうなれば、物理的にもどこかの建物から飛ぶしかなくなってしまう。
いや、なんでそもそも賀陽さんが私の部屋……に………ん?
ここは事務所か…じゃあ、この布団は………秦谷さんが持ってきたものか。
………余罪が増えた。
バレなきゃ犯罪じゃないとは言うが、これはまずい。
とりあえず…。
「賀陽さん、その手をよけてもらってもよいでしょうか?
アイドルが不用意にプロデューサーと接触することは褒められたことではありません」
「ええ、そうね。
でも元を質せば悪いのはあなたじゃない。
美鈴の…担当アイドルの前でこんな無防備な姿を晒していたのは誰かしら?」
そう言いながら、賀陽さんは撫でるのを辞めて私の顔をぐにぐにと揉みくちゃにし始めた。
柔らかい手の感触が私の顔を占領している。
このままでは本当にどうにかなってしまいそうだ。
「それは…そうなのですが……こんなところを誰かに見られてしまっては、私の首が飛んでしまいます。
お願いですから、開放してください」
「……はぁ、仕方ないわね。
はい、好きにしなさい」
賀陽さんはそう言って手をよけてくれたので、私は急いで布団から飛び出した。
賀陽さん……だけじゃないな。
全員集合しているし、なぜか全員が名残惜しそうに私と布団を見ている。
これ、もしかしなくても全員に寝顔を見られて撫でまわされていたのか……?
私の顔に血液が集まっているのがわかる。
目を覚まして賀陽さんと目が合った時から、ずっと顔は赤いままだろう。
なんて様だ。
中等部の生徒にいいようにされる大学生……しかも、中身は成人済みだぞ?
その上プロデューサーが担当アイドルに、なんて。
貴方は犯罪者です!
刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!
いいですね!
なんて言葉が頭に浮かんだ。
冗談じゃない。
少しずつ、寝る前の記憶を思い出してきた。
そうだ、流石に睡眠時間を削りすぎたみたいで、秦谷さんに寝かされたんだった。
ブラック企業時代の、『
レッスン室から出たのは16時過ぎ、今は18時過ぎか。
2時間ぐらい寝ていたらしい。
少し寝て頭がすっきりしてきた。
やはり、睡眠時間を削るのは良くないことを実感する。
生活リズムも戻していかなければならない。
「そうですよ、プロデューサー。
睡眠は大事だと、前にプロデューサーもおっしゃっていました」
「心を読まないでください。
……秦谷さん、皆さんにどこまで話しましたか?」
「プロデューサーが無理をしていたことは既に話しましたよ。
目元も拭ってしまいました」
そう言われて事務所にある鏡で確認すると、そこにはコンシーラーが拭いとられて、多少薄くなったもののクマが残っていた。
そうして振り返ると、般若のごとき表情をしている藤田さんが仁王立ちしていた。
「プロデューサー、正座」
「何故でしょうか、藤田さん」
「聞こえなかったんですか?
せ・い・ざ」
「はい」
あまりの圧に私は敗北を喫した。
床の上で正座をして藤田さんに見下ろされる私は、十王社長や学園長が見たら目を疑われるだろう。
以前、勝手にSNSで宣伝した時とは比じゃないぐらい怒っている。
他の全員が関わらないように、顔を青くして距離を取っているぐらいだ。
「ぷ~ろ~でゅ~さ~??
あたしぃ、とぉ~~~~~っても怒ってるんですよ~~~???」
「大変申し訳ございません、藤田さんの怒りは尤もです。
あなたに休みをいっぱいとるように言ってこの体たらく、プロデューサーとしてあってはならないことでした」
言いながら土下座する。
言葉は気持ち柔らかいが、目が一切笑っていない藤田さんは新鮮だ。
どこか秦谷さんを彷彿させるのは、彼女たちが仲良くなったからなのだろうか。
何が悪いかはわかっている。
散々藤田さんにきちんと寝るように言っておいて、プロデューサーが見本になれないようでは失格だろう。
「ちょ、ちょ、頭を上げてください!
それがわかってるなら、きちんと休みを取ってください!
あたしが言えることじゃないかもしれないですケド、寝不足を隠すなんて、ダメですからね!」
「承知しました。
これからは極力8時間を目安に睡眠をとるようにします」
「そうしてください!
はい、もう普通に座っていいですよ」
とりあえずは納得してくれたらしい。
それでも、まだぷんすか怒っているので、本当に反省しなければならない。
そうして立ち上がって椅子に座ろうとしたところで、肩に手を置かれて立ち上がることはできなかった。
振り向くと、そこには目のハイライトが抜け落ちた秦谷さんがいた。
どうやらラウンド2があるらしい、聞いてない。
「さて、プロデューサー?
参考までにお聞きしたいのですが、今週一週間の睡眠時間はいかほどでしょうか?」
「………日に3時間ほどですね。
寝ていない日もあったような気もします」
「へぇ?」
「は?は?は?」
「は?」
「へ?」
「はい?」
「「「「「は?」」」」」
怖い、すごく逃げ出したい。
全員目のハイライトが消えている。
花岡さんまでそっち側に行くなんて思わなかった。
「逃げてもよいですよ。
どこまでも、
正座のままでいる私を取り囲むように彼女たちが包囲する。
全員頷いているあたり、もう手遅れなのかもしれない。
「心を読まないでください。
いえ、その……誠に申し訳ございませんでした」
ここまで心配されているとは思わなかったので、そのまま頭を下げる。
きちんと手もついて……土下座の体勢だ。
もう謝るしかできない。
「プロデューサーは、これからわたしたちが管理をしましょう。
まずは、おはようとおやすみをメッセージで送ってもらいましょう」
「GPSも入れた方がいいわね」
秦谷さんと賀陽さんがとんでもなく恐ろしい会話をしている。
「いや、それはさすがに人権侵害では……?」
「言うこと聞かないプロデューサーが悪いでーす。
文句を言うなら、毎日寝かしつけに行っちゃいますよ♡」
なけなしの抵抗は、藤田さんに却下された。
私の人権は何処に………。
「ご飯も一緒に食べるようにしようよ。
テレビ通話繋いで」
「寮の食堂でやったら迷惑になるでしょう。
やるなら、誰かの部屋で集まって食事を摂るようにしましょう」
おかしい、なんで花岡さんまで乗り気なんだ。
前はこういったやり取りに入ってくることはなかったはずなのに……。
私が寝ている間に和解するにしても、馴染みすぎだろう。
元々素質があったのだとしたら、私は引き合わせてはいけない人を引き合わせてしまったのかもしれない。
「わたしとまりちゃんの部屋に集まるようにいたしますか?
少々狭くはなりますが、全員入ることはできると思います」
「なら、座布団とか用意しないといけないわね。
それに、騒がしすぎたら他の子たちに迷惑になってしまうから、静かにするようにしなさいよ」
本格的に話が進んでいる。
これ、本当にやるつもりなのか…?
「ええ、当然です。
プロデューサーもご自身のことがきちんとできないというのであれば、わたしたちと一緒に過ごしましょう。
安心してください、お仕事でお外に行く間はGPSは切ってもいいことにします。
守秘義務もあると思いますから」
「それがダメって言うなら……押し掛けてプロデューサーの家で直接見張ることにするわよ」
「それだけは勘弁してください」
再び正座したまま、頭を下げる。
今日だけで三回も土下座している。
既に私の尊厳はズタボロだ。
これが『初星学園の
諦めるしかない…か。
「……わかりました。
元々、担当プロデューサーと担当アイドルは一心同体、一蓮托生、死なば諸共です。
流石に直接、とはいきませんが共同といきましょう。
おはようからおやすみまで、食事も極力一緒に取るようにします。
ですが、それで他の生徒のみなさんに迷惑をかけるようであれば、止めるということは覚えておいてください」
「了解よ。
そのうち、全員同じ部屋にした方が良いかもしれないわね」
賀陽さんが言った言葉に私は内心驚いた。
前は拒否したはずだし、心境の変化があったにせよ……賀陽さんは自分の時間も大事にするタイプだと思っていたが……。
「あー…前にそんな話もしてたナー」
「それって、
「あなたが良いならそれでもいいわ。
はぁ、折角の1人部屋だったけど……仕方ないわね」
「変わりましたね、賀陽さん、月村さん、藤田さん。
以前は、同室にしようとした時は全員嫌がっていたのに、今はむしろ一緒にいようとしている。
プライベートは干渉しすぎないようにしていたと思っていましたが……」
私の疑問に答えたのは、意外なことに月村さんだった。
「あの時は、ことねのことそこまで詳しく知らなかったし……今みたいに……その……仲良くなかったから」
「へー……手毬は、今は仲良くなったって思ってるんだ?」
「あ、べ、別にそんなんじゃないから!」
月村さんはしまったとばかりに、言い直した。
だが、そこには隠しきれない本音が見え見えだ。
藤田さんもそれを感じ取って、にこにこと満面の笑顔だ。
「くぅ~~~~~~!!
ほんっと、手毬のこういうところが可愛いんだよナ~~~!」
「ちょ、ちょっとくっつかないで!」
「ことねさん、まりちゃんはあげませんよ」
「勝手に貰うからいいで~す。
美鈴ちゃんも、一緒にぎゅ~~」
「も、もう!
それで誤魔化されませんよ!」
「照れてる~~~美鈴ちゃん、か~~わいい~~~♡」
「も、もう!」
藤田さんはいつぞやのように月村さんに抱きついたまま、秦谷さんも取り込んで三人で抱き合っている。
正確には、藤田さんが二人を無理やり抱き留めている形だ。
前は月村さんは突き飛ばしていたが、今回は突き飛ばさないで諦めて受け入れているように見える。
秦谷さんも顔を赤くしているが、どさくさに紛れて月村さんと藤田さん二人の頭を撫でている。
「藤田ことねも、こんなことするんですのね」
「そういえば、手毬と最初に勝負したときも抱き着いてたわね。
ほっぺにキスしたら顔を真っ赤にして可愛い反応するのに」
「舌なめずりしないでください。
身の危険を感じます」
「あなたも可愛い顔をしてるわね。
前よりもさらに素敵になってるし……」
「ちょ、ちょっと!?
賀陽燐羽!?
それ以上近づかないでください」
よそ見をしている間に、最近成長著しい花岡さんをロックオンした賀陽さんが、花岡さんににじり寄っている。
だんだんカオスになってきた。
もう少し様子を見ようかと思ったが、花岡さんが少し涙目になっているから止めた方が良いかもしれない。
流石にキスは親しい友人でも受け入れられない人もいるだろう。
少しずつ壁際に追いやられた花岡さんは、いつの間にか壁に背中をつけていた。
涙目になって必死に首を振っている花岡さんも可愛いのでもう少し見ていたいが……賀陽さんだとこのままなら絶対にやる。
『SyngUp!』の性欲担当は伊達ではない。
「賀陽さん、花岡さんが嫌がっているのでやめてあげてください。
誰彼構わずやっていいわけではありません」
「むぅ、仕方ないわね」
「プロデューサー、もっと早く助けてください!
……でも、礼は言います」
「いえいえ、担当アイドルの暴走を止めるのもプロデューサーの仕事ですから」
「あっちは止めなくていいんです?」
「そろそろ我慢できなくなった月村さんによって、自然解消する頃なので気になさらず」
「あー!
もう!
いい加減うっとおしい!」
私が言ったのと同時に、月村さんが藤田さんと秦谷さんを突き飛ばした。
藤田さんはいつぞやのようにコロンと転がり、秦谷さんは何事もなかったかのように椅子に座りなおした。
「ほら」
「ほんとですわね」
だが、怪我の可能性もなくはないので後で注意しよう。
月村さんも本気で突き飛ばしたわけでもないし、二人もそろそろだと思ったのか奇麗に受け流しているので、今は注意しなくていいだろう。
そうして私もようやく立ち上がって椅子に座ろうとしたのだが、立ち眩んでしまい崩れ落ちるようにして椅子に座り込んでしまった。
「っとと」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?」
「少々、無理をしすぎてしまったようです。
今日はもう帰って寝ることにしますので、皆さんも帰りましょう」
「わかったわ。
もし、次に無理やりクマを隠したりして無理をするようなら……覚悟する事ね」
「プロデューサー、本当に大丈夫ですか?」
「本当に心配をかけてしまって申し訳ありません。
少し焦ってしまって冷静ではなかったようです。
もう大丈夫です」
みんなに心配をかけてしまったようだ。
担当アイドルのみならず……いや、もうやめよう。
「プロデューサー、手伝えることがあったら言ってもらえればお手伝いしてあげます」
花岡さんはまだ心配してくれているのだろう。
あまり迷惑をかけたくはないが……いや。
「今は大丈夫だと思っていますが、必要があればお願いするかもしれません。
秦谷さんからも、もっと頼ってほしいと言われてしまったので……必要があればお願いしようと思ってます」
「ふふ、きちんと反省出来て、えらいえらいですよ」
「頭を撫でないでください。
それでは、今日はもう解散しましょう。
明日の朝の走り込みに少し顔を出させてもらうので、今日のレッスンの話はその時に聞かせてください。
食事の件は明日からにしましょう、今日は早く寝るので」
「仕方ありませんね」
「はーい、また明日も、よろしくお願いしますね~!」
藤田さんが元気よく返事をして、全員変える準備に取り掛かる。
戸締りをきちんと済ませて、全員を寮まで送り届けてから私も帰宅した。
……最悪の気分だ。
担当アイドルたちとのことではない。
彼女たちとの語らいは素直に楽しいし、正直言われても仕方ない部分が多かった。
良い思いもしたし、土下座して許してもらえるなら安いものだ。
それに、管理と言うが私も担当アイドル同士で生活リズムを整えるように言ったのでお相子だろう。
それではなく……事務所で見た『夢』の件だ。
家に帰ってくるまで何とか表情に出さないように我慢していたが、『夢』の内容を今も鮮明に覚えている。
恐らくあれは、『私』がこっちにくるまでの『篠崎 士野』の過去なのだろう。
……哀れと言うべきか。
『大学生活』にいい思い出がないのは私もだが……いや、よそう。
彼の人生は彼だけのもので、私が評価を下していいようなものではない。
だが、これまでの『ストーリー』の『夢』と違って整合性もわからない。
辻褄は辛うじて合うだろうが、如何せん主観が強すぎて、正しいかどうかまではわからない。
わからないことだらけだ。
これまでも調べてはいたが、それよりも優先することが多かったので後回しにしてしまった。
『H.G.F』が終わったら、本腰を入れて調べよう。
『彼』と違って私はそこまで善人ではない。
精々彼が残したものを利用させてもらう。
因縁はいつか必ず断ち切るが。
『彼』の目的が『輝く』ものに近づきたいというのであれば、『私』が彼女たちを誰よりも輝かせて見せよう。
正しいかはわからないが、それがせめてもの弔いだ。
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。