『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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72話目

 『H.G.F』まで残り1週間を切った。

 既に会場設営の流れも粗方決まっているし、グッズも事前販売分はとっくに販売しているし、リハーサルも始まっている。

 思いのほか大きな規模になってしまったため、準備のために奔走してきたが、こうしてイベントが確実に形になっていく様を見ていると、少し胸に来るものがある。

 

 あれからはきちんと有言実行して、夜の7時半頃には眠りにつき、3時半に起きて彼女たちの走り込みに付き添うようにしている。

 彼女たちがいるグループラインで、おやすみとおはようを言い合っている。

 朝と昼は事務所で一緒に食事を摂り、夕食もテレビ通話をつけて摂ることでお互いに生活リズムを合わせている。

 本当であれば朝は一緒に走りたい気持ちもあるが、残念ながら家でやる予定の減らした分を朝に持ってきているので、ノートパソコンがお友達だ。

 

 後必要なことは……彼女たちの仕上がり具合だろう。

 

 今回、彼女たちには自分でする曲を自分で決めてもらっている。

 花岡さん以外は全員、自分のソロ曲でいくとのことで、花岡さんは自分が一番気に入っているらしい『ENDLESS DANCE』にした。

 『冠菊』と迷っていたが、雨夜副会長に手ほどきを受けたことで彼女に自分の成長具合を見せたいとのことだ。

 単独ライブから『H.G.F』までの期間はそう長くはないが、ライブをこなしたことで成長することもある。

 

 実を言うと、私の担当アイドルの系統はだいぶ『かっこいい』寄りになっている。

 『SyngUp!』は全体的にそっちよりで、花岡さんもそう。

 『かわいい』に全振りなのは、藤田さんぐらいだ。

 

 本来、『月村手毬』には『Unhappy Light』、『秦谷美鈴』には『たいせつなもの』の2曲があって、それらは『かわいい』寄りと言ってもいいかもしれないが、まだその二曲は二人に教えていない。

 ソロアイドルで行くなら、彼女たちに持ち歌として教え込んだのだろうが、ユニットに比重を置きたいのでソロ曲ばかり増やしても……と思っていた。

 

 そんな中で、藤田さんは一人で『かわいい』を貫いている。

 単独ライブで魅せた『世界一可愛い私』は、『H.G.F』に向けて更に仕上がってきている。

 この分であれば、藤田さんには追加の曲を開放してもいいだろう。

 

 花岡さんには……『H.G.F』が終わって暫くしたら担当契約を結ぶことにした。

 担当全員からの許可を得たこと、ご両親からの許可も得たので、問題はないだろう。

 冬の『H.J.I.F』は藤田さんとソロ部門で優勝を争ってもらうことになる。

 

 そして……そのために、()()()()()()()()()()()()()

 相変わらず褒められた行為ではないのはわかっているが、これしかできないので仕方ない。

 彼女のダンスが映える曲で考えているが……。

 『H.G.F』には流石に間に合わないので、これが終わってから冬の『H.J.I.F』に向けて習得してもらうつもりだ。

 

 特筆するべきは……秦谷さんと月村さんに()()()()()()()()ことぐらい。

 前日までの仕上がりで、どちらでも行けるようにはしているので、後は彼女たち次第だ。

 賀陽さんにも一つ仕込もうかと思ったが、形にするのが間に合わなくなる可能性が高いため泣く泣く諦めた。

 

 最初はそこまでするつもりはなかったのだが……雨夜副会長の評価を改めた秦谷さんからの要望だった。

 花岡さんが格段にレベルを上げた要因の一つとして、雨夜副会長による指導があった。

 そのため、彼女は下に見ている先輩たちの中でも多少は上だと評価を改め、全力で叩き潰すためにと相談を持ち掛けてきた。

 一緒に月村さんも十王会長と全力でぶつかるために相談に来たので、一つの提案として掛け合った。

 

 二人とも喜んでいたが、あまり期間がないので本人たち次第だ。

 こんなこともあろうかと準備を進めていたので、その点は抜かりない。

 日頃の心がけが良かったと言うべきか……まあ、それはいい。

 

 毎日毎日彼女たちとかかわりを深めている今、彼女たちのコンディションはベストに近づきつつある。

 この分なら、週末に控えた『H.G.F』でピークを迎えられるだろう。

 

 つまり、彼女たちの仕上がり、と言ったが私の担当アイドルたち(将来も含む)はもうかなり仕上がっている。

 

 では何を懸念しているか……その答えは、私が今いる場所が答えだ。

 

「十王会長、今お時間よろしいでしょうか?」

 

 ここは『初星学園高等部生徒会室』。

 今いるのは、十王会長だけだった。

 

「あら、ごきげんよう、『初星学園の黒幕(フィクサー)』さん。

 『H.G.F』の件なら、もう打ち合わせも必要ないぐらいに仕上がっていると思ってたけれど」

 

「ええ、打ち合わせは今は必要ありません。

 直前の最終打ち合わせ程度でいいでしょう。

 後必要なものは、()()()()()()()()()()()()()()ぐらいです」

 

「それなら、あなたの担当アイドルたちの心配をした方が良いのではないかしら?

 中等部の生徒が、ここまで正面切って高等部の生徒に喧嘩を売る機会はない。

 『交流会』と銘打ってはいるけど、あまり情けない姿を晒すと来年以降の評価に関わるわ」

 

「ご心配いただきどうもありがとうございます。

 ですが、心配は不要です。

 今の彼女たちのコンディションは完全に把握していますし、『H.G.F』に向けて整えていますので」

 

 実際、彼女たちは一緒にいる時間が増えたからこそわかるが、前よりも調子が良く見える。

 それはトレーナーたちからも言われていて、何をしたのか聞かれたときに正直に話したら、凄いドン引きされたが……まあ、いいでしょう。

 

「そう、それなら用件は何かしら?」

 

「時に十王会長、お聞きしたいことがあるのですが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ええ、もちろんよ。

 …鏡を見れば嫌でも見えるわ。

 自分自身の能力値(ステータス)と、残された潜在能力(ポテンシャル)が、ね」

 

 『ストーリー』でも出た話だ。

 彼女は『一番星(プリマステラ)』を獲った段階で、成長限界を迎える。

 

 それは、彼女の『能力看破』とも呼ぶべき能力によって、自分自身の能力が見えてしまっているからだったはずだ。

 気持ちうろ覚えだったが……()()()()だ。

 

「なるほど……だからですか」

 

「何が言いたいのかしら?」

 

「夏の『H.I.F』を制し、『一番星(プリマステラ)』としてあなたが活躍していることは理解しています。

 ここ2、3カ月、生徒会長としても、『一番星(プリマステラ)』としても仕事をしているあなたの活躍ぶりには、目を見張るものがありますが……その活躍ぶりを見ればわかりますよ。

 意図してトップアイドルたちとの直接対決を避けていることぐらい」

 

「何のことかしら?」

 

「とぼけなくていいですよ。

 様々な伝手を作りましたので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これらは事前知識があったものの、可能な限り調べ倒して精査したものだ。

 使えるコネを最大限に使い……彼女が『白草月花』をはじめとした上位層のアイドルと直接ぶつかるようなイベントを避けていることは、リスト化すればわかることだった。

 

「……相変わらず、恐ろしい調査力ね」

 

「才能の差に打ちひしがれでもしましたか?

 以前話していた『アイドルパワー』の差に怯えでもしましたか?

 負けて無様を晒すところを見られたくない虚栄心ですか?」

 

「……あなた、本当に性格悪いわね」

 

「他の人からもそう言われますが……まあいいでしょう。

 本来、私が口出しするべきではありません。

 実際、『一番星(プリマステラ)』が無様に負ければ『初星学園』の格が落ちることは確実ですし、『一番星(プリマステラ)』を目指すものも減るかもしれません」

 

「わかっているなら口を「ですが、これまでの『一番星(プリマステラ)』は皆さん挑戦的でした」……」

 

 『一番星(プリマステラ)』を背負って、トップアイドルも含めるイベントに参加することがどれほど怖いものか、プロデューサーの私が知ることはないだろう。

 それでも、歴代の『一番星(プリマステラ)』は様々な挑戦をしてきた。

 『賀陽 継』だって、『賀陽 燐羽』に追いかけられ続けたのだ。

 だが

 

「それが良いとは言いません。

 事実……折れてしまった方も一人や二人ではない。

 私が言いたいのは、あなたが選んでそれをしているのかどうかです。

 自分で決めた道ならば、私も文句は言いません。

 ですが、今の私にはただあなたが怯えているだけにも見えました」

 

 私の言葉で、彼女は俯いてしまった。

 いきなり生徒会室に押しかけて、心の傷を抉られたらそうなってもおかしくはないだろう。

 

 もう一押しか。

 

「そんなに怖いんですか?

 『アイドルパワー』が高い相手が」

 

「怖いに決まってるじゃない!」

 

 私の度重なる挑発で、遂に十王会長は声を荒げた。

 だが、次の瞬間に見せるその表情は、怯えの色が濃く出ている。

 

「私は……『一番星(プリマステラ)』よ。

 私が負けたら、『一番星(プリマステラ)』に憧れる初星学園の生徒たちを、失望させてしまうかもしれない」

 

 ……彼女は、『一番星(プリマステラ)』としての責務を果たそうと、その身に重責を背負っている。

 それは、『十王家』であること理由の一つかもしれないが、高等部の生徒でそこまで抱え込むのはそう簡単なことではない。

 

「………思い知らされたわ。

 『一番星(プリマステラ)』になって、トップアイドルの方々に会う機会が増えて……()()()()()()()()()()()()……私は凡人よ。

 最高の環境で最高のサポートをここまでやってもらって、トップアイドルになれない凡人。

 『一番星(プリマステラ)』を獲ることが精いっぱいで……この称号に憧れを抱いてくれる子たちに、情けない姿を見せることは許されないわ」

 

 そう独白する少女は、『一番星(プリマステラ)』ではない彼女自身なのかもしれない。

 普段の彼女とは違う、等身大の少女は年相応な弱さを抱えつつも、自分の責務を果たそうとする気高さを感じる。

 

 だが、訂正しなければならないことは訂正しておこう。

 

「一つ言っておきますが、本当の凡人はどれだけサポートされても『一番星(プリマステラ)』を獲れないということは覚えておいてください。

 ハッキリと言いますが……あなたは自分のそれを信用しすぎです」

 

 何故アイドルをしている者たちは、揃いも揃って自己肯定感が低いのか。

 秦谷さんを見習ってほしいとまではいかないが、月村さんも藤田さんも十王会長も、自己肯定感が低すぎる。

 そして、そういう者に限って『実績』だの『才能』だの持っているのも皮肉なものだ。

 

 ……いや、だからこそ、なのかもしれない。

 

「……『アイドルパワー』がわかる、この目のことかしら?」

 

「ええ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アイドルは、そんな簡単なものじゃないと私は思っています。

 ダンスができて歌が上手くて顔が良い。

 人がアイドルに惹かれるのは、それ()()ではないはずです」

 

「……それは…そうかもしれないわ。

 でも、だからといってどうすればいいのよ」

 

「さあ?

 私はあなたのプロデューサーではありませんので、そこまでの答えを持ち合わせてはいませんよ」

 

 本当はその答えの一つを教えることもできるが、それは私の役目ではないだろう。

 

「ですが、あなたは『選ぶ』必要があります。

 1つは、これまで通り『一番星(プリマステラ)』を最強の偶像にするために、直接対決を避けること。

 そうすれば、『一番星(プリマステラ)』は『一番星(プリマステラ)』を目指すアイドルたちにとって最高の偶像であり続けられます」

 

 私は人差し指を立てて彼女に指の腹を見せながらそう言った。

 そして、中指も人差し指の隣に立てる。

 

「2つ目は自分の実力を高めるために、上位のアイドルにも挑戦することです。

 ですが、負けたとしたら、先にあなたが言ったように『一番星(プリマステラ)』の偶像に傷がつく可能性は高いです。

 順当に行けば格上に喧嘩を売るのですから負ける可能性の方が高いでしょう」

 

 もしかしたら、『数値』以外の何かが身について勝つかもしれないが、私がそれをわざわざ教える必要はない。

 そして、私は彼女に背を向け、ドアと向き合いながら続ける。

 

「私は担当アイドルたちに挑戦させ続けています。

 担当間でも、中等部でも、相手が足りなかったので高等部にまで。

 全部が全部勝てているわけではないです。

 それでも、彼女たちは選択しています。

 挑み続ける道を選び、『一番星(プリマステラ)』を、トップアイドルを目指している」

 

 私は十王会長に振り向いて向き合った。

 彼女の目はまだ自信を見失ってしまったままだった。

 

 だが、ここまでヒントを与えれば……後は『H.G.F』で私の担当アイドルたちが、彼女の答えの助けになるはずだ。

 『一番星(プリマステラ)』はこんなところで墜ちていいものじゃない。

 

「答えは今だしてもらう必要はありません。

 悩み続け、考え続けてください。

 ただ、私が言いたいことは……あなたは素晴らしい『一番星(プリマステラ)』で、自分が思っているよりも羽ばたくことができると、私は思っていますよ」

 

 と言うよりは、勝手なことだがそうでないと困るのだ。

 折角目指す『一番星(プリマステラ)』が、弱くては成長に繋がらない。

 

 彼女にも成長してほしい。

 『まだまだ伸びしろあります』が彼女の担当なのだから。

 

「…()()()()()()()

 

「あなたを担当に持った覚えはありませんが、なんでしょうか?」

 

 暫く俯いていた彼女の言葉に、私は誤解を生まないように訂正しながら聞き返した。

 

「もし、私があなたにアドバイスを求めたら、応えてくれるのかしら?」

 

「先にも言いましたが、私はあなたの担当ではありません」

 

「……そうよね」

 

 私が冷徹に返した言葉に、何故か十王会長は寂しそうにそう言った。

 ……流石に、少しフォローした方が良いか。

 

「ですが……()()()()()()()として、相談に乗るぐらいはしますよ。

 『H.G.F』の件でもお世話になりましたし、私の担当アイドルたちの成長には、より強い強敵が必要ですから」

 

「!

 そう、そうよね!

 フフ、その時はお願いしようかしら」

 

「ええ、お互いに相手を利用し合いましょう。

 折角同じ学園に所属しているのですから、利用し合わなければ損でしょう」

 

 彼女は笑顔で承諾してくれたので、私も利用し合う口実を言ったのだが、彼女のお気に召さなかったようだ。

 ため息を一つついた彼女は、いつものセリフを吐き出した。

 

「はぁ……やっぱり、あなたのこと嫌いよ」

 

「前も言いましたが、好いてもらおうとは思っていないのでご自由にどうぞ」

 

「まったく…………こほん、話は分かりました。

 プロデューサー、安心しなさい。

 『H.G.F』には万全を期してあなた達を迎え撃つことを約束しましょう」

 

「期待していますよ。

 もし、どうしても決まらなければ、『H.G.F』の他のアイドルのライブを見てから考えても良いと思います。

 何せ、『アイドル』とは人々に希望を与えるものですから」

 

 そう言って私は生徒会室から退室した。

 十王会長は少し考えるそぶりをしていたが……これでいいだろう。

 

 彼女は他の『初星学園の生徒』が素晴らしいライブをすれば、自分もそれに負けないようにと、限界を超えることができる……()()だ。

 『月村手毬STEP3』で、『月村手毬』と『秦谷美鈴』を下したのは、()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 ならば、それを先んじて『H.G.F』で行うことで、彼女の成長を促し来年の『H.I.F』で更に強敵に仕立て上げ、撃ち落とし、『一番星(プリマステラ)』をトップアイドルの称号にした上で()()()()

 

 殻を破った彼女は、初星学園の枠を飛び越えていけるだろう。

 もし、飛び越えなかったとしても、『一番星(プリマステラ)』を絶対勝者の称号にしてくれるはずだ。

 

 『試練』は強大であればあるほど、良い。

 

 そのためなら、私は彼女(強敵)の成長の支援さえする。

 それに……十王星南が、こんなところで挫折を味わうのを見ているだけなのも、気に食わない。

 藤田さんが憧れた存在は、こんなところで墜ちていいものじゃない。

 

 もっと高く、一番光る星を撃ち落とし、この手に収める。

 そのためなら、私は全てを捧げよう。

 

 ………ボーカルトレーナーにこの前言われたことは、聞かなかったことにしよう。

 

 

 さあ、ここからは私の一世一代……いや、一世()代の大勝負だ。

 『H.G.F』を成功させ、私の担当アイドルたちは次のステージに進む。

 

 『H.G.F』(試練)が始まる。

 

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