『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
『H.G.F』当日。
担当アイドルたちは、生徒会主導で中等部、高等部のアイドルコース、アイドル科の生徒たちで集まっている。
最終確認を兼ねて、中等部の全体曲、本戦、高等部の全体曲、最後の曲、アンコール用の流れを再度説明している。
かなり多くの人数が関わるため、人の流れをスムーズにできないと事故につながりかねない。
十王会長のカリスマ性があれば問題ないとは思っているが、最終確認は必要だ。
会場設営は裕が主導して、プロデューサー科の先輩や同級生たちが率先して行っているようだ。
プロデューサー科が主導して、ボランティアで参加している普通科の生徒たちもいる。
好きにやってくれとは言ったが、ここまで人を多く使うとは思っていなかった。
ただ、少し様子を見に来ただけなのに蜘蛛の子を散らすように逃げるのは止めてほしい。
それを見て爆笑する裕を見て、頭を叩く。
普通科の生徒たちが、さらに震えあがって逃げ出ていることに気づいたが、もう諦めた。
もうそろそろ一般入場が始まるが、その前にしなければならないことがある。
インカムで先生から悲鳴にも似た連絡が来たので、この場を裕に任せて私はその場を後にした。
思ったよりも早い到着だと思いながら、私が受付に向かうと、そこにいたのは極月学園御一行だった。
以前話していた通り、少人数だが
それを周囲の生徒や先生方は遠巻きに見ているだけで、主に対応していた
私に気づいた黒井理事長は、さっそく私に声をかけてきた。
「久しぶりだな、『初星学園の
貴様の望み通り、来てやったぞ」
「お久しぶりです、黒井理事長。
極月学園の方だけではなく、961プロのトップアイドルの方までご来訪いただけるとは……誠にありがとうございます」
「礼は不要だ。
こちらとしても、こうして堂々と敵地に乗り込む機会はそうそうない。
未来のトップアイドルが生まれるのか否か、この目で確かめてやろう」
「ええ、期待していてください。
彼女たちはアイドルです。
期待に応えるのがアイドルですから」
私が自信満々にそう言うと、極月学園御一行は少し表情を険しくしていた者もいたが、黒井理事長にはウケが良かった。
「相変わらず、言うではないか!
このメンツを前にして、そこまで言えるものはそういないぞ?」
「出来なければ、どっちにしろトップアイドルになんてなれませんから。
それでは、こちらに案内します」
「待て」
私が彼らを案内しようと、身を翻すと黒井理事長の後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにいたのは…白草月花だった。
ラフなTシャツに無造作に伸ばされた銀髪。
だが、そのラフな格好とは裏腹に、トップアイドルのオーラが出ていて思わず気後れしてしまいそうだ。
彼女は『学マス』でも登場していた、最強格の敵であり、既にトップアイドルと呼ばれる人物だった。
自分の興味がない者以外にはどこまでも冷酷になれる反面、興味が湧いた者にはイベントに乱入してまで勝負を仕掛けるほどに好戦的。
そして、自分のお気に入りになればきちんと『推す』……非常に面倒な人物だ。
冷酷な面がある一方で、アイドルとして正しいことをし続けるので、なおタチが悪い。
そして、当然『今』の彼女についても調べている。
「あなたは……白草月花さんですね。
極月学園に在籍しながら、既にトップアイドルに
恐らく、彼女はもう少しで拠点を海外に移し、トップアイドルとしてその名声を響かせるだろう。
今はその直前とも言っていい期間だ。
……もしかすると、『
まあ、今は置いておこう。
「世辞はいい。
黒井理事長からわざわざ呼び出されて、雛鳥たちの戯れを見せられるだけだと思っていたが……なるほど。
優秀な
少しは期待できそうだな」
私のどこを見てその評価をしたのかまでは推し量ることはできない。
しかし……
私がそう言われるだけならまだいいが、私の担当アイドルを低く見られるのは困る。
どうせなら…
「もし、私のことを
私が育てているのは、見た目麗しい愛玩用のペットではなく……
この名を名乗るのは烏滸がましいと思いますが……私をそう呼ぶぐらいなら、
「くくっ良い!
良いぞ、
黒井理事長が気に入るのもわかる。
十王星南以外見る価値のない、ただの暇つぶし程度に思っていたが、楽しみが増えた」
「なるほど、確かに貴様が育てているのだから雛鳥、などと言うかわいいものではないな。
だが、月花を越えるのはそう簡単なことではないぞ?」
「確かに、あなたを超えるのは骨が折れそうです。
ですが…
自分を踏み越える者ぐらい、見ておいた方が踏まれ甲斐もあるでしょう?」
私が挑発するようにそう言うと、白草さんも黒井理事長もくつくつと笑い始めた。
思わず私も釣られてしまう。
「くくっ……」
「クックック……。
「フ……フハ………」
「ハーッハッハッハ!!」
「ハーッハハ!」
「フハハハハハハハハハ」
彼女たちのノリに併せて売り言葉に買い言葉で言ってしまったが、楽しそうに笑っているので掴みは上々だろう。
だが招待をした以上、礼を失してはいけない。
「失礼しました。
折角招待させていただいたのに、要らないことを言いました。
改めて謝罪を」
「構わん。
月花とこうも打ち解けるとは思わなかったが……クク、やはり初星学園にやるには惜しいな。
だが、吠えたからにはそれ相応のものを見せてもらおう」
「ああ、余興にしては楽しめた。
期待させてもらうぞ?」
「お褒めにあずかり恐悦至極」
そう言って大袈裟にマジシャンのようにお辞儀をする。
なぜか、961プロから来たトップアイドルの方までドン引きしているようにも見えるが……気のせいだろう。
遠巻きに見ているだけで留めていたあたり、素でも常識人の部類の方のようだ。
因みに初星学園の先生方は白目を剥いていたし、生徒たちは全員近くから消えて、怯える小動物のように物陰からこちらを窺っていた。
先生は半泣きになっていたが、まだ仕事はいっぱいあるので気合を入れてほしい。
会場内は少し混雑しているが、私を先頭とした極月学園御一行を案内していると、まるでモーセにでもなったかのように人が割けていくのが面白い。
黒井理事長と白草さんがずっと笑っているのが見なくてもわかる。
軽く騒ぎになった程度の問題はあったが、何事もなく招待客用の席に案内する。
そして、注意事項やお手洗いの場所などの必要事項を説明をして、一礼してから席を外す。
次の来客対応があるからだ。
インカム越しに受付をしている
受付に戻ると、そこにいたのは
先頭にいるのは十王社長だ。
「十王社長、それに100プロダクションの皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。
ご案内させていただきます、初星学園プロデューサー科1年、『H.G.F』開催委員会委員長、篠崎と申します」
「久しぶりだな、プロデューサー。
君との約束通り、手が空いている者は可能な限り来てもらっている。
元『初星学園』の生徒も多く、今日を楽しみにしていた者も多い。
今日は楽しませてもらおう」
「ええ、楽しみにしていてください。
私の担当アイドル、あなた方のかわいい後輩たちが、次世代のトップアイドルを担う存在だと知らしめてくれるでしょう」
「私は身に合わない大言壮語は嫌いだ。
君がそうだとは思っていないが…君の言葉が真実かどうか、見極めさせてもらう」
「そうしてください。
ですが……折角来ていただいたのですから、先に言われた通り今日は楽しんでください。
そうしていただけると、準備した甲斐もあるというものですから」
「それもそう、か。
そうだな、総評を下すのはこれが終わってからにしよう。
とりあえずは……」
言いながら、十王社長はスーツの上着を脱ぎ始めた。
周りの100プロダクションの方々は、ギョッとして彼を見ているがワイシャツのボタンを外していくと、だんだん中に隠していたものが露になり、更に言葉を失った。
そのままビジネスバッグから、ある物を取り出し頭に巻き始める。
そして、最後にバッグから丁寧に畳まれた
「これで準備は万全だ」
「……改めてみると、絵面がすごいですね」
そこにいたのは、十王星南のフルグラTシャツを着て、十王星南の法被を羽織り、『十王星南』カラーの黄色い鉢巻をして、ペンライトとうちわを持った十王社長の姿だった。
周囲の先生方は目を丸くして見ているし、100プロダクションの皆様も笑いを必死にこらえていたり、茫然としたりと反応は様々だ。
そんな中でもひときわ度胸があるらしい、調べた中にいたトップアイドルの一人が十王社長に話しかけた。
「うわ~…社長、それって娘さんのグッズですよね?」
「ああ、折角娘が参加するのだから、それに相応しい格好をしてきた」
「ええ……………これって、キミの悪知恵?」
そう言って私の顔を覗き込んでくる。
「人聞きが悪いですね。
娘に嫌われていてどうしよう、などと言っていたどこかの誰かさんに正直になればいいと言っただけですよ」
「意外~!
社長ってそんな感じだったんだ……知らなかったなー」
「そこまでは言ってない」
「同じ意味だったでしょう。
少なくとも、私はそう思いました」
「君は読解力があると思っていたが、思い過ごしだったようだ」
どうやら十王社長の機嫌を損ねてしまったようだが、素直にならない方が悪い。
それに
「その格好で凄んでも面白いだけですよ。
さあ、そろそろ行きましょう。
受付を封鎖しすぎると、他のお客様への迷惑になります」
「……そうだな。
さっそく案内してもらおう」
そうして100プロダクション御一行を案内していると、先ほどの度胸があった一人がこっそり私の隣に来て、小声で耳打ちしてきた。
「………社長がこんなに楽しそうに話してるの、初めて見たから、これからも仲良くしてあげてね」
……十王社長は部下に慕われているようだ。
わざわざ、自分のプロダクションの社長を気にかけているアイドルもそう多くはないだろう。
普段の言動から冷酷に取られることもあるだろうに、集団から抜け出してこう言ってくれる人がいることは幸福なことだ。
私もそれに応えなければならない。
「無論です。
寧ろ、お世話になっていますから、これからも御贔屓にお願いしてもらいますよ」
「キミ、本当にプロデューサー科1年生?
若く見えるけど、実は現役プロデューサーだったとか?」
努めて堂々と言うようにしていたからか、察しがいいのか、痛いところをツッコまれた。
「去年までは高校生だった、業界歴1年もないプロデューサー科の1年生ですよ。
ですので……私は担当アイドルのために必死なんです」
「必死だけで、ここまでできる人はそうそういないと思うけどねー」
中々鋭い。
中身は社会人経験途中だったとバレる可能性もあるが、わざわざ言うことはない。
「みたいですね。
最近、ようやくそれを理解してきました」
「自覚なしでやってたの……?」
「さぁ? どうでしょうね。
と、着きました。
皆様の席はこちらになります」
なぜか戦々恐々としている彼女をそのままにして、彼女たちに用意した席に到着した。
先程説明したように、彼女たちにも必要事項や注意事項を説明し、後は自由にしてもらうことにして席を外した。
当然だが、極月学園御一行とは反対側の配置にして距離を取っている。
このような場に持ち込むようなこともないとは思うが、下手に近くにしてしまって両者が楽しめなくなってはもったいないと思ったからだ。
それからも招待したお客様で、面識がある人には直接挨拶をして、必要であれば誘導もした。
広報周りは主に私が担当していたし、営業じみたこともしていたのでこれは必要なことだ。
そうこうしている間に、すっかり一般のお客様も入場誘導が進み、もうそろそろ私も持ち場につかなければならないだろう。
だが、その前に最後に彼女たちに打ち合わせをしないと間に合わない時間だ。
アイドルたちの準備も既に万端だと聞いているが、彼女たちは中等部の本戦参加者がいる控室に集まっている。
私は、走らない程度に急いで彼女たちの待っている控室に向かった。
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