『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
「Luna say maybe」
『学マス』における、「月村手毬」の1.stソロ曲。
「月村手毬」の代名詞と言ってもいいそれは、かなり難易度の高い歌唱技術を求められる。
サビで叫ぶようにリズムが早くなったり、ラスサビ前の転調など、テンポに変化をつけなければいけない。
ラスサビは、いつ息継ぎするのかわからないほどの勢いで、最後にロングトーンで〆る。
だから、今のように最初から全力で歌いすぎると、後半まで体力が持たず、歌いきることが難しいのだ。
途中で息切れをしてしまい、形だけではあるが、歌い終わった月村さんは床に座り込みそうなほど疲弊しており、肩で息をしている。
「…やはり、体力面の課題がありますね。
ソロ曲をする以上、これまでのようにフォローを貰える環境ではありません。
ライブの時に一人で歌いきるのは、これ以上に体力を消耗します」
私の総評に、月村さんは悔しそうな顔をしてこちらを睨みつけている。
「はあ…はあ…わかってます…」
「ですが、音源もなしに私が一度お手本を見せただけで、ここまで再現できる点は素晴らしいです」
「…これぐらい当然です。…でも、ありがとうございます」
恥ずかしそうにそっぽを向いてはいるが、褒められると嬉しいのだろうか。
順当な評価だと思うのだが、昨日から感じていたこと同様に、周りの2人のレベルが高すぎて自己肯定感が低いのだろう。
そんなことを考えながら、彼女に今後の課題を提示する。
「月村さんの課題は体力づくりとペース配分ですね」
「…体力づくりはわかるけど、ペース配分ですか…」
息を整え終えて、彼女は改めてこちらを見る。
「はい。今の月村さんは、全力で最初から最後まで歌っています。
言い方は悪いですが、手を抜けるところでは手を抜いていくことも必要かもしれません」
「…でも…それは…」
言っている意味はわかるが、受け入れたくない。
彼女の雰囲気からは、そんな内心が表面に出ていた。
秦谷さんからすれば、頑張りすぎている彼女のことを考えると嬉しいのだろう。
だが、彼女自身、そんなのんびりしたことを言っていられるような人ではない。
「ええ、月村さんの歌い方にはあまりあってないでしょう。
勝手ながら月村さんの歌の魅力は、
ペース配分を意識すると、上手く歌おうとする意識が出てしまい、全身全霊の心構えが難しくなる可能性があります」
私の言葉に月村さんは俯いた。
後ろで、先ほどは感じなかった秦谷さんからの凄まじいプレッシャーを感じる。
全力で走る彼女を心配する秦谷さんからすると、全力で走り続けることを推奨するようなことを言ったからかもしれない。
だが、『SyngUp!』を解散させないようにするためには、まず
「…じゃあ、どうしろっていうんですか?」
「この場合の選択肢は2つです。
1曲を全力で歌いきるだけの体力を身に着けるか、
月村さん、どっちがいいですか?」
現状で現実的なのは後者だ。
いくらトレーニングを積んだとしても、すぐに効果が表れるものではない。
それは彼女も薄々わかっているだろう。
だが、彼女の答えは私の予想を超えてきた。
俯いた顔をあげた彼女の眼には、決意がにじみ出ている。
「私は…両方やってみせるよ。
歌いきれるように体力づくりは継続…ううん、今以上にやる。並行して、ペース配分しながら感情を歌に込めれるようにする。
それぐらいできないと、トップアイドルになんてなれっこない」
やはり、彼女はトップアイドルになるに相応しい人材だ。
自分で自分を必要以上に追い込むのは、自分を食いつぶしてしまう悪い点もあるが、それ以上に自分自身を成長させるだろう。
挑戦さえしない人間は、成長するチャンスすら与えられない。
私ができることと言ったら、それを手伝うことと危うすぎない程度を見極めることだ。
「…わかりました。
かなり厳しく、困難な道になりますが、いいですね?」
「何度も言わせないで、二言はないよ。
それに…もう足を引っ張りたくないから…」
「わかりました。
今している練習のメニューを、こちらの紙に書き出してもらっていいですか?
それを元に、今後の体力づくりのメニューを組み立てます。
それと、賀陽さん」
「何?」
「月村さんにペース配分をしながら感情を歌に込める技術を教えてあげてください」
「はあ? なんで私が…」
そう言いながらも、彼女は薄々気づいているだろう。
私が彼女にお願いしている理由が。
後ろでトレーニングメニューを書き出している月村さんは、キラキラした目をして賀陽さんを見ている。
「歌を月村さんに教えることに関しては、賀陽さん以上の適任はいないと思います。
どうしても無理ならトレーナーを探しますが、恐らくすぐには見つからないでしょう。
それに
そう言うと、少し頭を傾げて迷っている。
私の言っている言葉の真意を探っているのかもしれない。
だが、それ以前に自分以外の適任がいないと察したようで、諦めたようだ。
「…ふーん、いいわ。
でも、ひと月だけよ。それ以上は面倒見切れないわ。
私も、自分のソロ曲の練習が必要でしょう?」
「ええ、構いません。
1か月もあれば、月村さんならコツを手に入れるはずです」
「やったー!! 燐羽! 一緒に頑張ろうね!」
私にトレーニングメニューを書き出した紙を押しつけた彼女は、賀陽さんに飛びついた。
鬱陶しそうな顔をしながらも、賀陽さんは口で離れなさいというだけで、実力行使はしなかった。
「よかったですね、まりちゃん」
「あら、あなたには教えてあげないわよ。
一度に二人も教えるのは、嫌」
「ええ、わかっていますよ。
…プロデューサー、わたしには何かありませんか?」
そう言って秦谷さんは私に意見を求める。
だが、私は段階を踏んで、彼女のレッスンメニューを見極めていく必要があると思った。
「その前に聞きたいのですが、秦谷さんはどの程度まで練習に本気で取り組めますか?」
「…どういう意味でしょう?」
秦谷さんは少し、むっとした顔を向けて問いかけてくる。
「極論を言うと、月村さんと同じ練習メニューをこなせるのかということです。
休憩は最低限に、ここに書いているメニュー通りなら、朝の4時に起きて走り込みを行うそうですが、同じことをできますか?」
私の言葉に、納得したようで少し頭を悩ませた彼女は、ゆっくりはっきりと言った。
「…できるかできないかで言ったら、
ですが、恐らく長続きはしませんよ」
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「わたしにはわたしのペースがあります。
それに、
「なるほど…色々詳しく聞きたいですが…いえ、とりあえずわかりました」
彼女の明確な拒絶の意思に対し、私は今はここまでだなと判断した。
抽象的な言葉で濁しているようにも聞こえたため、他のメンバーがいる前で踏み込むには早いと思ったからだ。
それに、秦谷さんは月村さんと足並みを揃えて練習するようなタイプではない。
本来、歩くのと走るのでは、同じレッスンをするでも進み方が違う。
そんな彼女に、月村さんに合わせて全力で走るようなレッスンを組んだところで、ストレスが溜まっていくのは目に見えている。
中等部時期は品行方正で通っていたというが、本来サボり癖がある彼女にストレスをかけすぎると、結果的にレッスンをサボるようになり、レッスンが進まなくなるだろう。
本当はもっと踏み込んだことを聞きたいが、他の二人がいるため、またの機会にすることにした。
「ちょっとプロデューサー!
それでいいんですか!?」
だが、それでよしとしなかったのは、月村さんだった。
全力で走り続ける彼女からすれば、練習中に休憩ばかりしている秦谷さんはサボっているようにも見えるだろう。
実際にサボっていることもあるだろうが、全員が同じペースで走り続けることは難しい。
それを、月村さんにも秦谷さんにも理解してもらう必要があるかもしれない。
「月村さん、人は誰にもその人のペースがあります。
月村さんが全力で走るのが、
秦谷さんも、秦谷さんのペースを私は尊重しますが、それを他の人に押し付けてはいけません」
「…どういう意味でしょう?」
「月村さんが如何に危なっかしくても、月村さんには月村さんのペースがあるということです。
本当に危なそうなときは、私が無理やりにでも止めます」
実際にどこまで止められるかはわからないが、こうでも言わないと秦谷さんは月村さんをサボらせようとするだろう。
心配性な彼女からすると、月村さんの全力で練習に取り組み続ける姿は、怖いものがあるはずだ。
だが、それぞれ自分のペースで走り、歩くことが彼女たちの成長を一番促してくれる。
無理をして、ペースを合わせてユニット活動をしても、いつか無理が来て衝突する。
少しむすっとした秦谷さんに、どう伝えたらいいかと考えていると、月村さんが私の目の前に来ていた。
「…ねえ、私ってそんなに危なっかしいように見えるの?」
…月村さんは自分がどのように見られているか、あまり自覚していない様子だった。
レッスン中の月村さんは、レッスンでも常に全力で歌唱しており、終わった後の疲労感が他の二人に比べて格段に大きい。
それこそ、昨日もレッスン終了直後は倒れこみそうになっていたし、今のソロ曲の練習でもそうだ。
これが、ライブ本番だったらと思うと胃が痛くなることは間違いないだろう。
「ええ、少なくとも、まだ2回しかレッスンを見ていないのに、歌っている最中に倒れこむんじゃないかと思うぐらいには。
…直接ライブを見てたら、心労で死ぬかもしれません」
「そうですよ。いつも、まりちゃんにはハラハラさせられてます」
私の言葉に便乗して、秦谷さんも自分の気持ちを言葉にした。
幼馴染にも指摘されてしまい、ようやく自覚したのか、賀陽さんに助けを求めたそうな顔をしている。
「…りんはぁ」
「…手毬、私がレッスン中に倒れたあなたを何回寮まで運んだか、覚えてる?」
だが、現実は非情だった。
というより、恐らく一番迷惑をかけているであろう人物が、賀陽さんだろう。
「うぅ…」
「ですが、おそらくそれが月村さんのペースなんです。
今更、そのペースを変えろって言うのは、秦谷さんに常に全力でレッスンを受けろと言っていることと同じです」
「…そんな美鈴はちょっと気味悪いわね」
「それは…そうかも…」
私の例えを想像したのか、言い出した月村さんでさえ、それはちょっと…といった感じになっている。
そんな二人に黙っていられないのが秦谷さんだ。
「りんちゃん? まりちゃん?
お二人はわたしのことをなんだと思っているんですか?」
「外面だけよくしてるサボり魔ね」
「サボり魔でしょ」
「りんちゃん、後でお話があります。
まりちゃんの今日のお夕飯はニンジンのソテーです」
「冗談よ」
「嘘だよね美鈴!? 冗談だから、許して!」
「許しません」
ぷいっと顔を背けた彼女は、怒っているようには見えない可愛さがある。
どっちかというと拗ねているという方が近いだろう。
必死に月村さんが懇願するが、彼女はぷいっ、つーんと言って取り合わない。
そんな光景をほほえましく見ていたいと思っていたが、話の腰が折れてしまってどんどん捻じ曲がっていることに気づいた。
「秦谷さん、月村さんをいじめるのはその辺にして、話を戻しましょう」
「…わかりました。今は、一度怒りを抑えます」
そう言って彼女は表情を引き締め、私の方を向く。
月村さんは半泣き状態だが、まじめな話の雰囲気を察して引き下がった。
「秦谷さんには、『ツキノカメ』を歌う上で重要になる、表現力に重きを置いたレッスンを受けてもらいます。
昨日の私の歌だけでは恐らくわからないと思うのですが、『ツキノカメ』はかなり転調が激しい曲です。
ダンスも激しい部分とローテンポに合わせる部分がある予定ですし、歌の表現力も向上させていく必要があります。
本格的に動くのは、音源ができてからになりますが、それに向けての練習をしてもらいます」
「表現力…ですか…」
表現力と言っているが、恐らく彼女は現状でも相当な表現力があるはずだ。
だが、今の私はまだライブ映像と昨日のレッスンの様子しか知らない体。
それに、ユニット曲とソロ曲では歌い方を変える必要がある。
基本的にサポートに回っていた彼女では猶更だ。
「はい。
ライブ映像を先程改めてみたのですが、秦谷さんと賀陽さんは月村さんのサポートをしている場合が多かったです。
ですが、ソロ曲を歌いきるとなると、自分が主体的になって歌うことが求められます。
ユニット曲ではユニットとしての調和が求められるとすれば、ソロ曲では自我を出した方がいいということです。
秦谷さんは、見に来てくださるファンの方々に、
「…それは、どんな思いでもよろしいのでしょうか?」
「構いません。
歌に乗せる思いは、同じアイドルでも千差万別です。
秦谷さんは自分のペースで、自分が歌いたいように歌ってみてください。
そこに良いも悪いもありません。
そうすることで、表現力の向上に繋がるはずです」
この言葉に込められる意味は、秦谷さんにとっては普通のものと同じではない。
『ストーリー』通りであれば、彼女は『世界中の皆さんが、わたしだけを、見てくれるように』することが夢だ。
だが、いい思いも
「わかりました。
それでは、そのようにしますね」
「レッスンメニューは後程作成して、チャットアプリで送ります。
後は中等部のトレーナーから通常通りにレッスンを受けてください。
今日は…普段通りのレッスンで、好きなように歌ってみてください」
彼女はにっこり微笑んで、そのままレッスンに戻っていった。
そうしているうちに、月村さんと賀陽さんは二人でレッスンをしていた。
まだ少し時間の余裕があるので、あまり長くはいられないがレッスンの様子を見てから、事務所の手続きをしに行くことにした。
先ほど月村さんの歌を聴いたとき同様に、一人で歌い始めた秦谷さんを正面から見ることにした。
学マスのストーリーはどの程度進めていますか
-
アプリをそもそも入れていない
-
どのキャラも親愛度10未満
-
特定のキャラのみ親愛度10まで
-
特定のキャラのみ親愛度20まで
-
全キャラ親愛度20まで
-
特定のキャラのみ親愛度27まで
-
解放可能なキャラ全て親愛度MAX