『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

80 / 92
74話目

 

 控室に到着して扉を開く。

 そこには、闘志充分な私の担当アイドルたちが本番直前に向けて、各々思い思いに過ごしていた。

 私の入室に気づいた藤田さんが、真っ先に私の元に飛び出した。

 

「プロデュ~サ~♡

 お疲れ様で~す♡」

 

「お疲れ様です。

 いかがですか?

 もう30分もしないうちに開会式が始まりますが……あまり緊張はないようですね」

 

「あ、わかります?

 さっきまで、燐羽が私たち全員に気合入れてくれたんですよ~」

 

「ちょ、ちょっとことね!

 内緒にしてって言ったじゃない!」

 

「いつもキスしてくるお返しで~す。

 文句は受け付けませ~ん」

 

「日頃の行いのツケです。

 諦めなさい」

 

 花岡さんまで藤田さんの援護射撃をして、賀陽さんはやれやれと言わんばかりに首を振った。

 

「ホント調子いいんだから。

 さっきまで緊張していたくせに言うじゃない」

 

「燐羽が緊張をほぐしてくれたからナー。

 流石『SyngUp!』のリーダー!」

 

「はぁ、手がかかる子ばっかり増えるわね」

 

「ほんとだよね。

 ことねもミヤビも、手がかかって困っちゃうよ」

 

「あんたがいっちばん手がかかってるんだけど?」

 

「そ、そんなこと…ないから!」

 

「昨日、プロデューサーに迷惑かけたくない~って、夜中に電話かけてきたのは誰だったかしら?」

 

「そ、それは内緒にしてって…」

 

「だめですよ、まりちゃん。

 りんちゃんに迷惑をかけるぐらいなら、わたしが聞いてあげますから」

 

「……美鈴は隣で電話してても、ちっとも起きなかったけど?」

 

「まぁ」

 

「さて、みなさんその辺にしてください。

 そろそろ出番も近づいてますので、最終打ち合わせをします」

 

 私の言葉で、弛緩していた空気が急に引き締まった。

 それまでのワイワイした雰囲気は消え、彼女たちが持つ威圧感にも似た、圧が控室内を満たしている。

 

 それは、『SyngUp!』の面々はもちろん、藤田さんも花岡さんもその圧を彼女たちに負けない程に出していて、力を高めていることが良く分かった。

 

「まず今日、みなさんは『初星学園中等部を代表するチーム』だと思ってください。

 『SyngUp!』は元々ユニットですが、藤田さんも花岡さんも含めた一丸となって、高等部の先輩方、来ていただいた多くの方々にあなた方を知らしめる日になります」

 

「わかってるわ。

 だから、この子たちも含めて気合を入れてあげたんだから」

 

「流石は賀陽さんですね。

 秦谷さんは常日頃から私含めた皆さんのサポートをしてくれていますが、賀陽さんのリーダーシップにも助けられています。

 おかげで、月村さん、藤田さん、花岡さんが伸び伸びとレッスンに取り組んでこれました」

 

「礼はいらないわ。

 ()()()()()貰うことにするから」

 

「なら、話を続けましょう。

 流れは以前話していた通りですが、本戦の順番を改めて伝えましょう」

 

「トップバッターが雨夜燕副会長ですよね?」

 

「ええ、その次が秦谷さんです。

 あなたには、最初に出てくる高等部上位実力者の雨夜副会長を呑み込んで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が目的です。

 覚悟はできてますか?」

 

 私が秦谷さんに目配せすると、彼女はおっとりしたペースで、それでも尚わかるぐらいに力強く、チームメイトたちに宣言した。

 

「お任せください。

 私で、彼女も、会場の方々も包み込んでさしあげます。

 そして、教えてさしあげますね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと」

 

 秦谷さんの出す圧がまた上がっている。

 ここまでくると……ただ『アイドル』としての圧、だけではない。

 彼女自身が持っている、『人間』としての圧……それも合わさっているように感じる。

 

 さっき案内した時に感じたものよりも、思わず後退ってしまいそうなほどに。

 

「秦谷さん」

 

「はい」

 

「何も心配していませんが、一言だけ。

 頂点に相応しい者が誰かを思い知らせてください」

 

「承知しました。

 先輩方に、宣戦布告をして参ります」

 

「期待しています。

 そして、次は高等部の先輩です。

 『H.I.F』で本戦にまで昇りつめた実力者で、冬の『H.I.F』でも優勝候補の一人に数えられています」

 

「うへー…やっぱりすごい人ばっかり参加してますよね……。

 あれ?

 もしかして、ですけど」

 

「ええ、その次が藤田さんです。

 あなたは必然的に比較されるでしょう、その優勝候補の先輩に」

 

「まー、そーなりますよね~」

 

「落ち着いてますね。

 もう少し取り乱すかと思ってましたが」

 

「緊張はしてますよ?

 そりゃあ、高等部の先輩で『H.I.F』の優勝候補の一人、なんて前のあたしからしたら雲の上の存在で、こうやって対バン形式でライブするなんて思ってもみなかったですし」

 

「では、何故?」

 

「美鈴ちゃんは雨夜副会長と、手毬は星南ちゃんとやり合うんです。

 ミヤビも燐羽も、相手は同じように『H.I.F』の実力者ですし……あたし、最近気づいたんですけど、思ったより負けず嫌いなのかもしれないです。

 だって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 藤田さんの言葉で、他のメンバーの口角が少し上がった。

 私も同じようになっているだろう。

 

「藤田さんは、この短期間で良く成長しています。

 あたしなんか、と言っていたのが嘘みたいに向上心を持って、周囲に助けられながら、()()()()()

 

「あたし、助けられてばっかで助けた覚えなんてないですよ?」

 

「本人はそう思っても、周りはそう思わないことは多いみたいですよ?」

 

 そう言って私は花岡さんに視線を送る。

 花岡さんは恥ずかしそうに目を逸らしたが、目を逸らすということは自覚はあるのだろう。

 

「あー…プロデューサーもそうですもんねー」

 

「そうみたいです。

 お互い、自虐的になるのはやめていきましょう」

 

「はーい!

 見てろよぉ~、アイドル業界!

 初星学園!

 ぜーったい成り上がって、大金持ちになってやるからなぁ!」

 

 藤田さんの気合を入れたその叫びに、花岡さんたちは微妙な顔をしているが、私はそれこそが彼女の原動力の一端になっていることを知っている。

 

「ええ、藤田さんならなれます。

 最後になりますが、藤田さんには十王会長も認めるほどのアイドルの才能がある。

 それを、今日見せつけてください」

 

「はい!」

 

「そして、その次は()()()()の出番です」

 

「そういえば、何故高等部の先輩方と、わたし(ミヤビ)たちで交代交代じゃないんですか?」

 

「理由はいくつかありますが、一番大きいものを話します。

 花岡さんが藤田さんに強いライバル意識を持っているからです」

 

 私がそう言うと、花岡さんは呆けて暫く固まった。

 少しして、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「は、はぁ!?

 な、なにを言ってるんですか!?」

 

「別に隠すようなことじゃないと思いますよ?

 この前の単独ライブ前の話し合いの後、藤田さんに宣戦布告した話は私も耳にしていますので」

 

わたし(ミヤビ)が気にするんです!」

 

「何故ですか?」

 

「そ、それは………だって……恥ずかしいから

 

「~~~~~~!

 ミヤビかっわいい~~~~!!」

 

 藤田さんが花岡さんにとびかかろうとするが、花岡さんは必死に藤田さんを抑え込んでいる。

 そのまま必死に話を逸らそうと、花岡さんは口を開いた。

 

「そ、それで、わたし(ミヤビ)が藤田ことねにライバル意識を持っていることが、なんで理由になるんです!?」

 

「直前に藤田さんがライブをするんです。

 会場は藤田ことね一色で染まっていることでしょう。

 定期試験で一時的に『SyngUp!』の上にも立った彼女は、SNSを通じて一瞬とはいえ有名になりましたし、藤田さんの実力を鑑みれば、そうなる可能性は非常に高い」

 

 私が真剣に話すと、誰かが固唾をのんだ音が控室に響いた。

 

「その後の()()()()()()()()()

 藤田ことねに染まった会場は、あなたと藤田さんを比較するでしょう。

 事実上、ここだけ『中等部高等部交流会』ではなく、『藤田ことねと花岡ミヤビの』、ガチンコ勝負です。

 どうです?

 このシチュエーションは?」

 

「!

 それは……それは、とっっても熱いですね。

 プロデューサーはわたし(ミヤビ)のことをよくわかっています」

 

「それに、こう言っておけば藤田さんもよりやる気になるでしょう。

 情けない姿を晒せば、花岡さんに負けることになりますから」

 

「プロデューサーって本当に人のやる気を引き出すのが上手いですよね~。

 もうテンションMAXだったのに、オーバーフローしそうです!」

 

「あげすぎて勝手に自滅しないでくれます?

 藤田ことねは、わたし(ミヤビ)が倒します」

 

「負けて吠え面かくなよ~~?」

 

 お互いにライバル意識を持っている二人は、相手をリスペクトしながらも睨み合っている。

 ()()()()()()()()()()()()()、そういう想いは力になる。

 

「二人とも、昂るのはその辺にしておいてください。

 後はライブでぶつけてください」

 

「「はい!!」」

 

 二人の声が控室に響く。

 お互いやる気に満ち溢れており、気合は十分だ。

 

「最後に、花岡さん」

 

「はい」

 

「あなたは、これまでも常に努力を続けてきました。

 あなたを慕っている人がいるのも、ただ上位に食い込んでいるからだけではなく、その努力する姿を見ている人がたくさんいるからです。

 あなたに負けていった人の想いも、全て背負って高みに挑んでください」

 

「任せてください。

 わたし(ミヤビ)は……期待してくれている人たちを失望させることだけはしません」

 

「楽しみにしています。

 花岡さんの次は、高等部の先輩方が2連続です。

 この二人は『H.I.F』のユニット部門での優勝ユニット、『一番星(プリマステラ)』こそ逃しはしたものの、その実力は初星学園最上位と言っても過言ではありません。

 今回は二人ともソロでのライブですが、『H.G.F』のオーディションに他の『H.I.F』ソロ部門本戦出場者を差し置いて勝ち取った猛者です」

 

「それが、私の相手ってことね」

 

「ええ、賀陽さんはその二人の後にライブをしてもらいます。

 ユニット部門優勝者だけあって、知名度は十分あるので十王会長、雨夜副会長を除いた目玉と言ってもいいでしょう。

 残念ながら、中等部よりも知名度は高いので」

 

「中々の強敵ね」

 

 普段なら、賀陽さんは呆れたように言うであろう台詞を、好戦的な笑みを浮かべたまま言った。

 

「そういう割には楽しそうですよ?」

 

「楽しみに決まってるじゃない。

 ……ようやく、()()()()()が終わって本気のライブがこんな舞台よ?

 ワクワクしないわけないじゃない、アイドルだもの」

 

「!

 燐羽、錆び落としって、もしかして…!」

 

「随分待たせちゃったわね。

 ここからは……1()()()()()()

 全力でついてこなかったら、振るい落とすわ」

 

 賀陽さんは…ようやく、先に進めたようだ。

 アイドルに戻るだけではなく、ゼロに戻って、プラスに向かって歩み始めた。

 そろそろだろうかとは思っていたが、彼女自身からその言葉を聞くまでずっと不安だった。

 

 それは、私だけではないだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「りんちゃん。

 ……期待しても、いいんですか?」

 

「……美鈴、今まで長いこと心配かけたみたいね。

 安心しなさい、期待に応えてこそアイドルよ」

 

「ふふ、本当に、お寝坊さんですね。

 おかげさまで、負け犬の遠吠えを聞くことができました」

 

 涙が零れそうなのを堪えながら、秦谷さんは賀陽さんを挑発する。

 

「言ってなさい。

 ………足を引っ張ったら、殺すから」

 

「まぁ、お言葉が強いですよ。

 前も言ったように、何度でも言ってさしあげます。

 わたしが上で、あなたが下です」

 

「美鈴だって言葉が強いじゃん。

 燐羽、楽しみにしてるから」

 

「期待してなさい。

 プロデューサー、心配することは何もないわ。

 ………色々考えたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私は先に進む。

 ずいぶん遠い寄り道だったけど……あなたが導いてくれたから、私は前に進むことに決めたわ」

 

「賀陽さん、あなたの成長とその覚悟に、私は敬意を表します。

 一度折れてから立ち直るのは、そう簡単なことではありません。

 他の人の力を借りたとしても、立ち上がったのは()()()()()です。

 私はそれが誇らしい」

 

 感慨深く瞼を閉じれば、これまでの彼女とのやり取りが脳裏に浮かぶ。

 最初にレッスン室で話したこと、事務所で初めて話したこと、月村さんに歌を教えたこと、『H.J.I.F』でのこと、藤田さんを鍛えてもらったこと、花岡さんもレッスンに入れてもらった時のこと、その他のことも様々な思い出が浮かぶ。

 

 瞼を開き、賀陽さんを含めた、メンバー全員を見据える。

 

「最後に、賀陽さん」

 

「なに?」

 

「私はあなたが本来の実力を取り戻せば、今すぐにでも『一番星(プリマステラ)』になれると思っています。

 証明してくれますか?」

 

「任せなさい。

 高等部の先輩方に、誰を相手に喧嘩を売ったのか教えてあげるわ。

 他の生徒の前で、泣きべそをかかせてあげる」

 

「信じていますよ。

 そして、賀陽さんの番が終わったら、月村さんの番です。

 『H.J.I.F』のソロ部門優勝者と、『一番星(プリマステラ)』の最終決戦です」

 

 最後に月村さんに目線を移すと、彼女は力強く頷いた。

 

「ようやく、だね。

 プロデューサーはどっちが勝つと思ってますか?」

 

「無論、月村さんです。

 ()()()()()()()()()()()()()、月村さんが勝つことはそう難しいことではありません」

 

「……なんか気になる言い方なんだけど」

 

「『一番星(プリマステラ)』になる、ということは簡単なことではありません。

 特に、中等部でもそこまで芽が出なかったものが、高等部に入ってから急に覚醒したわけでもなく、彼女はこれまでの下積みがあってこそ輝いた星です」

 

「それが何だって言うんですか?」

 

「彼女は……『他のアイドルのライブを見て覚醒する可能性がある』。

 それは、『一番星(プリマステラ)』としての意地でそうなるかもしれません」

 

「そうなったら、私が負けるって思ってるんですか!?」

 

「……どうでしょう。

 そうなってみないとわかりませんが……月村さん」

 

「………なに」

 

 だんだん不機嫌になってきた月村さんがぶっきらぼうに返事をした。

 自分だけ私が信じてないと思ってるのかもしれない。

 

「私は、月村さんの歌唱力に胸を打たれて、あなた方のプロデュースを志したと言っても過言ではありません。

 そんなあなたが負ける可能性を考えるのはナンセンスですし、負けることを考えて勝負をすることなんてありませんが、相手はあなたが憧れた『一番星(プリマステラ)』の称号を手にしたアイドルです。

 あなた方に立ちはだかり、来年も『一番星(プリマステラ)』を阻んでくるであろう、強敵です。

 過小評価はできません。

 例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ふ、ふーん。

 プロデューサーって、私の歌に惚れてるんだ……」

 

「ええ、ですので、今日来ているトップアイドルの方々に見せつけてください。

 あなたが、あなたたちがトップアイドルに相応しい器だと」

 

「安心していいよ、プロデューサー。

 私は、私たちはトップアイドルになります。

 会場に来た人全員に、それを証明して見せますから」

 

「期待しています。

 それでは、もう少しで開演ですので……皆さん」

 

 言いながら全員に目線を送る。

 彼女たちは、全員私と目を合わせ、自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。

 

「私は、今日あまりここにはこれません。

 ですので、最後に」

 

 たっぷりためてから、静まり返った控室に響くように言った。

 

「勝利と、あなた方の成長を願っています。

 『試練』に打ち勝ってください」

 

「「「「「はい」!!」」」」

 

「ここにはあまりこれませんが、ライブはしっかり見ています。

 それでは、ご武運を。」

 

 そう言って私は後ろ髪を引かれる思いで、控室を後にした。

 

 大分長居してしまったので、時間がほとんどない。

 既に、開会式が始まる時間だ。

 

 インカムでも時々呼び出しがあったが、うっとおしかったので途中で電源を切ってしまった。

 電源を入れ、一言謝罪をして急いで持ち場につく。

 会場内は暗くなって、もう開会式が始まっていた。

 

 

 学園長が壇上で話しているが……目が合った?

 こんな暗い中だから、気のせいだと思うが……。

 何か、非常に嫌な予感がする……。

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

私事ですが、ここ最近パソコンの調子が悪い状態が続いています。
もし、急な故障等で投稿できなくなった場合は、あらすじか最新話の前書きにて周知いたしますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。