『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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75話目

 

 壇上で学園長が話している内容は、事前に打ち合わせしていた通りの内容で特に問題はない。

 強いて言うなら、一瞬何かを見てしまったのか、話している最中に噴出していたぐらいだ。

 一瞬むせたように咳払いしてから、何事もなく挨拶をしていたが何かあったのだろうか?

 

 視線を向けていた先は……100プロダクションの皆様がいるところか。

 そう言えば、学園長には十王社長の格好については伝えていなかったような気もするが……まあ誤差だろう。

 実の息子がいきなり孫娘のフル装備をしている姿を見て、恐れ戦くといい。

 

 学園長が盛り上がるようにアイドルのライブに対する期待感を高めつつ、根緒先生に諸注意のアナウンスを振る。

 全体アナウンスは中等部の学年主任(いつもの)人にお願いしているが、諸注意のアナウンスは別にした。

 

 根緒先生は、緊張を欠片も感じさせずに会場内での注意事項を説明した。

 これは、私がお願いしたことで企画を進めているうちに『あっち』でのライブを思い出したので、根緒先生に直接依頼した結果だ。

 最初は快諾してくれた先生も、話が大きくなるにつれてだんだん余裕がなくなっていったのが印象的だったのだが……それを表に出さないでやり切る辺り、流石はプロデューサー科の教師だ。

 

 根緒先生が学園長に再度バトンを渡し、学園長がまた話し始める。

 煽りを入れながら………ん?

 やっぱり目があったような気がする……なんか、ニヤッと笑った……?

 

「この『H.G.F』に関してなのじゃが……わしと星南も準備をしてきたが、実は持ち掛けたのはたった一人の初星学園の生徒じゃった。

 彼はこれまでになかった『初星学園』のイベントをたった一人で企画を作成し、生徒会長である星南に持ち掛け、わしをその気にさせた」

 

 オイコラまてじじい。

 こっちを見るな。

 それ以上口を開くな。

 

「その人物をわしは『H.G.F開催委員長』に任命し、今日のこの日に向けて彼は存分に準備をしてきた。

 彼の尽力があったからこそ、わしは今この場に立ち、皆に初星のアイドルたちを見てもらう機会ができたといっても過言ではない。

 折角なので、その人物にも挨拶をしてもらうことにしよう。

 篠崎プロデューサー、よろしく頼むぞ!」

 

 そう言うと、いつの間にか私を包囲していた先生方によって、私はステージに誘導された。

 躊躇いないその行動に、私は嵌められたことを理解する。

 やけに私が誘導された場所がステージに近いと思っていたが……!

 

 それと同時に、壇上にいた学園長がニヤニヤしながら私を見ていることに気づいた。

 

 このクソカスどもがァーッ‼

 

どいつもこいつも…この私を苛立たせる…!

 

 インカムをオンにして、小声で繋がっている者全てを呪う。

 耳に入ったであろう、隣にいる先生方は私から二歩距離を取った。

 

 賢明な判断だ。

 

 平静を装っているが、こんなことで『H.G.F』にケチが付いたら、関わった全員を殴ってやらなくちゃあいけなくなってしまう。

 二度と日の目を浴びれない程に徹底的に痛めつけないと、気が済まなくなる。

『こっち』ではそんなことしてこなかったのに。

 ステージの下までで誘導は終わり、学園長が早く来いと言わんばかりに手招きをしている。

 

 会場内は騒めきに包まれている。

 当然だろう、プロデューサー科の人間は表に出てくることなんてほとんどないし、学園長から軽く紹介したといえど、急に知らない人物が壇上に上がることに一般の方々は困惑しているだろう。

 意識を切り替え、物騒な考えを抑え込んで私がとるべき行動をすることにした。

 

 私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最初はざわめきに包まれていた場内が、私の行動に注目が集まり、徐々に静寂が訪れる。

 粛々とした場、静寂の中でコツーン、コツーンと壇上の端から中央に向かって歩く音だけが響く。

 

 会場の意識が私に集まってくるのを感じとり、急ごしらえの雰囲気づくりとしては上々だと思った。

 学園長でさえ、私が壇上に上がるとニヤついた顔をやめて少し怯えの色が見えている。

 私は緊張で手足が奮えるのを表に出さないように、努めて堂々として壇上を目指す。

 

 これは『試練』だ。

 担当アイドルに乗り越えさせる以上、プロデューサーも打ち勝てという『試練』と私は受け取った。

 人の成長は…………

 未熟な『己』に打ち勝つことだとな。

 え? お前もそう思うだろう?

 十王邦夫。

 

 目が合った学園長は、何故か怯えながら顔を逸らす。

 おいおい、喧嘩を売ったのはそっちだろう?

 

 壇上に上がると舞台袖には、同じく仕込みに参加したであろう十王会長や雨夜副会長が私を窺っている。

 両者とも、どこか怯えているのは私の怒気を感じ取ってか。

 

 ……はぁ、()()()()()()()()

 

 私が多方面に迷惑をかけながらこのイベントにこぎつけたのは事実だ。

 スポンサーのわがままぐらい、聞き入れなければならないだろう。

 ()()()()()()()、担当アイドルを想えばどうということはない。

 

 学園長からマイクを受け取り、私は観客に向き合った。

 入れ替わるように学園長は私の後ろに下がる。

 

「お初にお目にかかります。

 学園長からご紹介にあずかった、『H.G.F開催委員長』初星学園プロデューサー科1年の篠崎士野です。

 まずは、今日という日を迎えることができたこと、会場に来場された皆様、テレビでご覧になられている皆様に最大限の感謝を贈らせていただきます。

 誠にありがとうございます」

 

 そう言って頭を最敬礼の角度で下げ、頭を下げる。

 会場から疎らに拍手が起こり、しっかり5秒経ってから頭を上げた。

 会場内を見渡すと、満員の観客の中で話すということは緊張するものだと実感する。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()

 全ては些事だ、『H.G.F』が成功する(私の担当アイドルのため)ならば。

 

「私がこの『H.G.F』を開催するに至った理由はいくつかありますが、一番大きなものは、『初星学園』をより強く強大なものにし、大きくしたかったからです」

 

 言いながら左手を掲げ、ステージを指して『初星学園』を強調する。

 そして、私自身に手を向ける。

 

「私はプロデューサー科の生徒です。

 担当アイドルも持たせていただいています。

 彼女たちの成長のためには、『初星学園』が更に強力なものとなり、切磋琢磨していくことが必要だと思いました」

 

 マイクを持ち、壇上を歩きながらそう語る。

 静寂な中で私の声は嫌に広い会場に響いた。

 

 壇上に向かうまでに、話すことを考えていたが……やはり、()()()()()()()()()()()

 これは私に課せられた『試練』なのだから…借り物の言葉ではなく、自分の言葉で話そう。

 

「初星学園は、中等部ではアイドルコース、高等部ではアイドル科がある大きな学園です。

 ですが、思いのほかその交流の場面は少ない。

 折角ですから、後輩は先輩に胸を借り、先輩は後輩に背中を見せる場所があってもいいのではないかと思いました。

 そうすることで、お互いにより高めあうことができると」

 

 歩きながら語っていた私は、正面を向き観客を見据えた。

 

「お互いに意識し、高めあうライバルという意識を持つことで、お互いが越えなければならない壁…『試練』になります。

 そう言ったぶつかり合いを繰り返して成長していくこと、それがトップアイドルを目指すために必要だと考えました。

 そうして、そのぶつかり合いを他のアイドルの方にも見てもらうことで、更なる強敵が立ちはだかり、更なる『試練』が訪れるでしょう」

 

 私は会場を見渡し、白草さんや100プロダクションのトップアイドルの面々に視線を向ける。

 

「その『試練』を乗り越えることで、成長をしてほしいと思っています。

 アイドルとしても、人としても。

 その積み重ねこそが、『初星学園』の成長が、トップアイドルになるための道になると、私は信じています」

 

 そして、一度目を瞑って再度開く。

 

「ですので、『私の担当アイドルたち(私たち)』が『高等部とトップアイドルの皆様(あなた方)』の『試練』になれるように」

 

 言いながら左手で私を指してから、会場全体と舞台袖から見に来た十王会長を含めた高等部の生徒のみなさんを指す。

 

「そして、『高等部とトップアイドルの皆様(あなた方)』が」

 

 今度は、逆に会場全体と舞台袖にいる高等部のみなさんを指し

 

「『私の担当アイドルたち(私たち)』の」

 

 私を指しなおす。

 

「『試練』となることを、心より楽しみにしております」

 

 そうして再度礼をする。

 明確な宣戦布告だ。

 会場に来たトップアイドル、高等部の生徒に向けた、紛れもない宣戦布告。

 何も知らない一般の方からすれば、初星学園から他所に向けた言葉にも受け取れるであろう。

 

 彼女たちが超えることができると確信しているからこそできるパフォーマンスだ。

 それを、これから彼女たちに証明してもらう。

 

 会場内が異様な静寂に包まれる。

 私の発言に呑まれているようにも見えるが、概ね私が突拍子もないことを口走ってしまったせいだろう。

 白草さんは楽しそうに笑っているが、そろそろ締めに入ろう。

 

 礼をして顔を下げている間に努めて柔らかい表情を作り直す。

 顔を上げて、先ほどまで意識していた硬い表情を崩し、爽やかさを意識して柔らかい笑顔を会場に向けた。

 それまで堅くしていた声色を、柔らかくして口を開く。

 

「っと、いろいろ言いましたが、最後に一番大事なことをお話しさせてもらいます。

 今日、会場に来たみなさん、テレビでご覧いただいているみなさんには、この時間だけでも『初星学園』のファンになってもらいます!」

 

 にっこりと笑顔を浮かべながら、会場全体にそう宣言する。

 なにぃ!と某所で叫びが上がっているが、大人しくしてほしい。

 だが、返って会場内の雰囲気が弛緩したので良しとしよう。

 

「『アイドル』が人を楽しませることが仕事であるなら、『ファン』は楽しむことが仕事です。

 今日は目いっぱい楽しんで、最高の一日にしましょう!」

 

 私がにこやかにそう言って天高く左手を掲げると、一瞬の間はあったが会場は爆発するような歓声で包まれた。

 2回も長話があったせいで、会場のボルテージは最高潮になっている。

 もうそろそろ観客たちも我慢の限界だろう。

 

「以上で私の挨拶とさせていただきます。

 今日という日が、『H.G.F』が、来ていただいた、見ていただいている皆様にとって特別なものになれたら、それ以上の幸福はありません。

 それでは皆様、どうぞごゆるりとお楽しみください」

 

 そう言って私は黒井理事長にやったように、マジシャンのように大袈裟に礼をしてから、振り返る。

 少しの間を置いて、疎らに拍手が起こり、それが盛大なものになっていく様を背に受けながら、向き合った学園長はにこにこしながらマイクを受け取った。

 どうやら、期待に応えられたようだ。

 

 すれ違う時にボソッと呟く。

 

次はありません

 

 だが、次に同じことをしたら殺す。

 そう言わんばかりの殺意を込めて、睨みつけるようにそう言った。

 

 ビクッと学園長の肩が跳ねるが、無視してそのままステージを降りて暗がりに紛れる。

 慣れないことをしたせいで、手の汗はじっとり滲んでいるし、口もカラカラだ。

 

 ………ドッと冷や汗が出てくる。

 本来、私は日陰者でこのような場に立つことはまずないし、なかった。

 担当アイドルたちを想って奮起したが……流石に限界は近かったようだ。

 

 手は震えているし、立ち止まれば膝も震えている。

 座り込んだら立てなくなりそうなほど疲弊していることが、自分でもわかる。

 

 ……担当アイドル(彼女たち)に言われて十分な休養が取れてなければ、壇上で倒れ伏していたかもしれない。

 何とか虚勢を張り切って、担当アイドル(彼女たち)のパフォーマンスに全てを委ねる形で喧嘩を売るだけ売って丸投げした。

 こう聞くと最低のプロデューサーだろう。

 

 事実、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 担当アイドルの実力に物を言わせて、高々中等部を支配して初星学園を支配した気になっていると。

 

 その評価は強ち間違いではない。

 彼女たちの実力がなければ、実際私はここまで無茶なことをしなかっただろう。

 担当アイドルが優秀だからこそできるごり押しも多いし、秦谷さんに頼り切って健康管理を疎かにもしていたのだから、言われてもおかしくはない。

 

 だが、それでは彼女たちの評価に傷がついてしまう。

 

 それだけはあってはならないのだ。

 だからこそ……()()()()()()()だった。

 

 『H.G.F』を開催させた主犯が私であること、それに学園長が感謝を示したこと、大衆の前で見栄を張りきったこと。

 

 同じことができるならぜひやってほしい。

 

 その方が私の担当アイドルが活躍できる場も増える。

 口だけのカスに関わるのは時間の無駄だ。

 変なやっかみが実害になる前に、成果を目に見える形で出して釘を刺せたことは想定外の幸運だった。

 

 ………いや、これは…もしかすると、それを込みで十王家(あの二人)に嵌められたか?

 

 発起人は十王会長あたりで、実働は学園長か。

 流石にこの業界で海千山千の学園長には策略で勝つのは難しいな。

 

 ヒートアップしていた頭がだんだん冷静になってきたことを感じ、そろそろ最初の曲が始まるころだと思い出す。

 学園長が最後に私が言ったことと同じように、『盛り上がっていくんじゃぞー!』と叫びをあげ、会場が奮えるほどの歓声が巻き起こる。

 長い間お預けした分、最初からかなりのインパクトがある絵面で最初の曲のお披露目だ。

 

 中等部アイドルコース、全員参加による『初』だ。

 開幕の狼煙にはちょうどいい。

 さあ、私も楽しむことにしよう。

 




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