『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
学園長が舞台から掃けると、暗がりの中でもわかるほどの大移動がステージ上で行われた。
中等部のアイドルコースの生徒たち、総勢約100名近くが段組みしたステージとステージとして扱っている本来最前列になる観客席に集まる。
ステージのセンターは本戦出場者……私の担当アイドルたちが占領し、それなりに動けるスペースが確保されているが、他の段に立っている生徒はそうではない。
あまり大きくミスをすると、他の生徒同士で手足がぶつかってもおかしくない状況だ。
実際、練習段階では何回かお互いの腕がぶつかる事故があったが、最後のリハーサルでは通しで問題なくできていた。
足が絡むような振りは極力排除しているため、多少手がぶつかる程度なら大丈夫ではあるが……間違えて顔に手がぶつかるなどの事故だけは勘弁だ。
やはり、十王会長の意を汲んで希望者全員参加にしたのは失敗だっただろうか…?
そんな不安を胸に抱きながら『初』が始まったが、
なぜなら……リハーサルの時も壮観だったが、何故か中等部の生徒全員の顔つきが、練習の時のそれとは大きく違っている。
本番になって覚悟が決まったのか、何かきっかけがあったのだろうか?
センターのさらにその中心には月村さんが立っており、両脇を賀陽さん、秦谷さん、その隣を藤田さん、花岡さんと続く。
中心の彼女たちは周囲の生徒よりも一際気合が入っているように見えるのは、気のせいじゃないだろう。
最近、彼女たちと長い時間を過ごしているので、気合の入れ具合が違うことはよくわかる。
……これが終わったら、雨夜さんのライブ、その後には彼女たちもライブを控えているのだが、大丈夫だろうか。
まあ、その辺は心配しても仕方ない。
月村さんが多少力を入れすぎても、自分の出番には間に合うように。
秦谷さんなら、どれだけ飛ばしたとしても自分の番を忘れるようなペース配分はしないことの信頼だ。
それに……開幕の狼煙としては十分すぎる。
会場のボルテージは既にかなり高まっていたこともあり、中等部の生徒による『初』のインパクトはやはり強く、観客たちのテンションは最高潮だ。
月村さんたちは3年生だから当然といえば当然なのだが、あの中の3人に1人が中等部の1年生……去年まで初等部、小学生だった子たちもいると聞いて、信じる者がどれだけいるだろうか。
今回の『H.G.F』で初めてステージに上がって人前に出る者もいるだろう。
やはり、相応しいステージというものは、人を大きくしてくれるらしい。
上級生程ではないにしても、全体の輪を乱さない程度に自らの役割をしっかり果たしている。
それに……
最初は少し張り詰めたような表情だったが、徐々に柔らかくなってきている。
やはりこんな人数でライブをすることなんてないからか、隣に同じ学園の同級生、先輩、後輩がいる中でするライブは楽しいのだろう。
そんな楽しいライブも、あっという間に終わってしまった。
『初』のラスト。
全員が手を掲げて絞るように握りこむ。
曲の終わりの余韻を一瞬楽しんで、その後には爆発するような歓声が会場を沸かせた。
アイドルたちが舞台袖に徐々に掃けていき、中心には
……おかしいな、月村さんにMCをしてもらう予定だったのだが…疲れが出ていたのか?
それにしては移動がスムーズだった。
確かにMCの適性は賀陽さんの方があるだろうが、『H.J.I.F』で優勝した月村さんの方が認知度も高いだろうと思っての人選だった。
彼女たちにも考え合ってのことだと思うが……。
「改めて、初星学園中等部3年賀陽燐羽よ。
まずは私たちの『初』。
どうだったかしら?」
彼女の煽りに、会場全体からレスポンスが弾ける。
「今日は『H.G.F』。
またの名を『初星学園中等部高等部アイドル交流祭』。
初星学園、中等部と高等部の先輩方との
歓声で包まれていた会場が一転、ざわめきに包まれる。
なんてことを言うんだ。
確かに月村さんには煽るようなことは言ってもらうように言ったが、そこまでじゃなかったはず。
…………これ、もしかしなくても私の責任か?
私がさっき余計なことを言ったせいな気がしてきたぞ?
ステージ上の彼女は、さらに続ける。
「わかってると思うけど、殴り合いって言っても物理的なことじゃない。
お互いにライブでぶつかり合うだけよ。
私たちがどこまで挑めるのか、先輩方の胸を借りさせてもらうわ」
不遜に笑う彼女の顔は、余裕…だけではなく、強者の笑みが浮かんでいる。
「今の『初』はその挨拶よ。
だから……次はあなたの番よ。
私たちを失望させないでちょうだいね」
口元に手をあてながら舞台袖を見つつ、悪役令嬢もかくやと言った悪い顔で笑いながら賀陽さんはそう言った。
そのままステージから彼女も掃ける。
もしかして……私がさっきあんなことを言ったせいで、対抗心に満ちているだろうか。
そして……喧嘩を売るなら、月村さんだと過激になりすぎてしまうかもしれないから、賀陽さんが自分のイメージ的にも合っていると思って代わりに前に出た……?
……後で賀陽さんに謝っておこう。
私が余計なことをしたせいで、彼女に負担をかけてしまった。
だが、幸いなことに、リハーサルと少し違う流れではあったものの舞台裏での動揺は思ったよりも少ない。
学園長のこともあったからか、リハーサルでしていないことにも対応しつつあるのかもしれないな。
私も振り回しているが、学園長が常日頃から周囲を振り回しているのだろう。
また、私の希望で全体リハーサルの時には、
これはお互いに手の内を明かさないように、という意図なのだが……それもあってか、事前にリハーサルにないことにも対応できるようにしているのかもしれない。
流石は『初星学園』だ。
『H.I.F』をはじめとした各種イベントを毎年行っているだけある。
そして、彼女と入れ替わるように現れたのは……雨夜副会長だ。
会場からは黄色い歓声が上がる。
彼女はマイクを構えると、そのまま口元に持って話し始める。
「知っている者もいると思うが、初星学園高等部アイドル科2年。
初星学園生徒会副会長の雨夜燕だ」
……これも予定と違う動きだ。
本来は曲を披露してからのMCだったはず。
しかし、彼女の性格からしてさっきの宣戦布告に応えないことはないとは思っていた。
「賀陽燐羽の宣戦布告、しかと受け取った。
中等部の生徒が魅せてくれたのだ!
我々高等部も……本気で行くぞ!」
そして、彼女の雄たけびと共に会場から盛大に歓声が上がる。
それと同時に、曲がかかり始めた。
彼女が披露するのは……『H.I.F』でも披露していた、『ENDLESS DANCE』か。
花岡さんにも受け継がれた彼女の『ENDLESS DANCE』は、『H.I.F』でも上位……高等部2年にして、『No.2』と噂されるほどの完成度だ。
キレのあるダンスは、開花を待ちながらも彼女の秘めた才能をありありと見せつけている。
『H.G.F』本戦のトップバッターを務めるに相応しい。
観客たちも大いに盛り上がっている。
『H.I.F』での上位層ということもあって、今日来た観客の中でも彼女を見に来ている者は多いだろう。
そして……
雨夜副会長の『ENDLESS DANCE』もそろそろ終わりが近づいてきた。
観客たちもいい感じに盛り上がってきているし、ライブの熱は順調に高まっている。
先程の中等部の『初』も中々インパクトがあってよかったが、やはり『初星学園』は『H.I.F』出場者が優れている、と。
観客の多くはそう思っているだろう。
高等部の方が、中等部よりも優れていると。
その幻想をここでぶち殺す。
雨夜副会長が『ENDLESS DANCE』を締めると、会場が弾けるような歓声で揺れる。
彼女は再度マイクを持った。
「私の『ENDLESS DANCE』は楽しんでもらえたか?」
『最高ーーーー!!』
「ハハハ!
そうだろう、そうだろう!
まだまだ後進に道を譲るには早すぎるからな!」
そう言いながら、彼女は舞台袖を見る。
そこには、既に待機しているのだろう。
次の出番である……秦谷さんが。
「さあ、見せてくれ!
大言を吐きだした、貴様たちの力を!」
そう言って、ライトが落ちると同時に彼女は舞台袖に消えていった。
会場は『雨夜燕』一色になっているが、私は……ワクワクした気持ちが止まらなかった。
雨夜先輩の『ENDLESS DANCE』が終わり、MCでわたしたちを煽ると、わたしと入れ替わるためにわたしの方に向かってきました。
「秦谷!
次は貴様の番だ。
まあ高等部No.2にまで昇りつめた私の後だと気後れしてしまうかもしれないが、貴様たちのリーダーとプロデューサーがあそこまで言った以上、下手なライブをすることは許さんぞ?」
雨夜先輩はそう言って不敵に笑うので、わたしも同じく微笑みながらお返しをしました。
「ご心配なく、雨夜先輩。
あなたが誰だとしても、わたしは負けませんよ。
あなたが作り上げたこの会場の空気ごと、余すことなく頂きます」
「くっくっく、サボり魔で有名な貴様が良く言う。
その言葉、飲み込むことは許さんぞ」
雨夜先輩は不敵に笑いながら、高等部の先輩方が控えている控室に向かって行きました。
控室に行くよりも、ここで見ていかれた方が良いと思いますが……いえ、構いません。
プロデューサーは、
プロデューサーはわたしたちだけを見ていればいいのですから。
ですので……手始めにプロデューサーを安心させてあげましょう。
恐らく、リハーサルでしてこなかったことばかり起こっているので、不安に思っているでしょうから。
それもこれも……
プロデューサーが急に壇上に上がったことは驚きましたが、あの学園長の表情からしてプロデューサーも予期していなかったことでしょう。
なのにプロデューサーは、表に立つことなんてほとんどなかったでしょうに、震える身体を抑え込んで立派にやり切っていました。
まさか、先輩方に喧嘩を売るようなことを、プロデューサーが正面切って宣言するとは思いませんでした。
わたしたちならできると、言外にそう言っていたことが、その信頼が嬉しかったのです。
それは、わたしだけではなく他のみなさんも感じ取っていました。
そのおかげで……わたしたちの中の炎がより一層激しく燃え上がりました。
そして、それは
りんちゃんは、今日限り『中等部』のリーダーとして、プロデューサーがお願いした通りの役割を果たしました。
恐らく、プロデューサーは
それは、今日のこの日が、彼女たちの成長のためになるように。
プロデューサーが何よりも願ったことを実現させるために。
だから、わたしも証明しなければなりません。
わたしたちがこれまで積み上げてきたものは無駄ではなかったのだと。
あなたが担当しているアイドルたちが、世界に羽ばたくにふさわしい人物だと。
あなたは常にわたしたちにそう言ってくれますが、こういった場でもなければ客観的に証明することは難しいですから。
わたしがステージに上がると、会場からまた歓声が上がりました。
雨夜先輩程じゃないにせよ、『SyngUp!』の知名度はそれなりにはあります。
プロデューサーが主導になってくれた、『SyngUp!』の単独ライブもあって、会場にはわたしを知っている人もそれなりにいることでしょう。
ですが、わたしを知らない人もいるでしょうし、わたしを知っている人の中にも、雨夜先輩の後のライブで大丈夫なのか、不安に感じている人もいるでしょう。
会場にいる人たち、このライブを見る人たち全てに、わたしが誰かを教えてさしあげましょう。
ここを
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
すっかり忘れていたのですが、『アイマス世界』では規模の大きいライブは『配信』でのライブ視聴よりも『テレビ放送』の方が主流だろうということに気づきました。
そのため『H.G.F』に関しては『配信』ではなく『テレビ放送』に変更することにしました。
前話以降も、修正しておりますので何卒ご了承ください。