『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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注意:今更ですが、オリキャラが数名出ます。
   ご了承いただける方は、そのままご覧いただければと思います。


78話目

 衣装を身にまとった花岡さんは、藤田さんと入れ替わりでステージに立つ。

 彼女の衣装は、ノースリーブの黒いへそ出しインナーに、左腕だけ肘から袖がついており、首元にはチェーンが一巻きされ、更にシンプルなペンダントを身に着けている。

 下はズボンスタイルで動きやすさを重視し、上半身は体のラインが良く見えるため、スタイリッシュに仕上がっており、彼女のダンスの動きを見せるのに適している。

 

 そんな花岡さんの曲は『ENDLESS DANCE』。

 本戦のトップバッターだった、雨夜副会長と同じ曲だ。

 

 それにがっかりする人もいるかもしれないが……彼女のダンスを見ればその気持ちは変わるだろう。

 

 雨夜副会長仕込みの『ENDLESS DANCE』を、更に彼女用にコンバートしてあるそれは、ダンスが非常に際立つものになっている。

 元々かっこよさがウリの曲だが、彼女の緩急の作り方や、動きのキレ、アイソレーションなどの技術を盛り込んだダンスは会場を徐々に彼女色に染め始めた。

 

 彼女の動きに合わせて、観客がペンライトを激しく振る。

 彼女の跳ねるような動きに合わせて、観客も縦揺れを起こすようにホップする。

 彼女のクラップに併せて、観客も手拍子をしている。

 

 『可愛い(藤田ことね)』で支配されていた会場が、『かっこいい(花岡ミヤビ)』で染め上げられていくのがよくわかる。

 

 何も知らない一般の観客は、ただただダンスが凄いと漠然に思っているだろうが、関係者が見ればわかるだろう。

 彼女のそれは、彼女がこれまで実直に積み上げてきたものが開花した姿であることが。

 彼女のダンスに、どれほど彼女の努力が背景にあるのかが。

 

 そして、それを可能にしたのは()()()()()()()

 

 藤田さんが秦谷さんの支配を解き放ち、彼女の色で染め上げたからこそ、花岡さんはそれに負けじと自らの輝きを高めていた。

 彼女の目には、目の前の観客だけではなく、彼女がこれまで打ち勝ってきた同級生や、同じアイドルたちが映っているだろう。

 

 彼女たちの思いを、彼女たちの敗北を無意味にしないために、彼女は勝者として、オーディションを勝ち上がった中等部の本戦出場権を勝ち取った『選手』として、そして何より皆の期待を背負った『アイドル』として、今そこに立っている。

 

 その事実こそが、彼女の背中を押して、彼女を更なる高みに押し上げていた。

 

 今この時も、輝きを増し続けている彼女は、観客全てを魅了し続けている。

 秦谷さんの圧倒的な支配力でもなく、藤田さんの可愛さでもなく、彼女が魅せるのはかっこよさと……彼女がこれまで積み上げてきた『努力』。

 

 それがわかってしまったからこそ……私はここまで胸が打たれてしまったのだろう。

 藤田さんの時も込み上げてくるものがったが、今はもう決壊し始めている。

 これまで彼女を追ってきたファンや、同級生も同じ気持ちだろう。

 

 彼女も最後まで勢いを堕とすことなく踊り切り、最後の決めポーズを決める。

 会場全体から歓声と拍手が彼女を祝福するように響き渡った。

 彼女はそのまま会場に向かい合った。

 

「わたくしは初星学園中等部3年、花岡ミヤビ!

 いずれ『一番星(プリマステラ)』になり、トップアイドルになる者です!

 覚えておきなさい!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 彼女がかっこよく右手を掲げ、指を天に突きさす。

 会場は爆発するような歓声で埋め尽くされ、彼女はそれを存分に浴びて余韻に浸ると、くるっと振り返ってステージを後にする。

 最後に舞台裏に消える直前、彼女はこぶしを掲げ、再び観客から黄色い歓声が上がり、今度こそ彼女はステージを後にした。

 

 次のライブは……『H.I.F』のユニット部門優勝ユニット。

 その名を『クーホリン』。

 『星野(ほしの) 聖菜(せいな)』、『古川(ふるかわ) (くう)』の二名からなるユニットだったか。

 

 インカムからは、少し機材調整で間が空くことが流れてきた。

 と言っても数十秒ほどで終わるみたいなので、大丈夫だとは思うが…。

 

 そう思っていると、()()()()()()()()()()()()()()()

 この場でもスーツを着ているということ、関係者席にいることからプロデューサー科の生徒だろうか。

 年は今の私より少し上、男性物のスーツ。

 顔は暗がりで細かくは見えないが、整っている部類だ。

 中性的な顔で、性別は正確にはわからない。

 

 ……ああ、そういうことか。

 そう思っていると、()は私に声をかけてきた。

 

「隣ご一緒しても?」

 

「構いませんよ。

 あなたは……()()()()()()()()()()()()()()()ですね?」

 

 声は中性的で、本当に男性かどうかはわからなかった。

 私の返答に、()が驚くようなことはなかった。

 

「ご存じでしたか」

 

「いえ、正直知りませんでしたよ。

 『クーホリン』のお二方にプロデューサーがついていることは知っていましたが、下手に嗅ぎまわることは失礼だと思っておりましたので。

 ただ、今のタイミングで私のところにわざわざ来るような人に、他の心当たりがなかっただけです。

 お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

風間 緋色(かざま ひいろ)です。

 お好きなようにお呼びください。

 『初星学園の黒幕(フィクサー)』さん」

 

 何故、先輩方まで私のことをそう呼ぶのか。

 本当にいいのか?

 後輩が『黒幕』の学園で。

 

「その呼び方はあまり好みではないのですが……まあ、いいでしょう。

 では、風間先輩と呼ばせていただきます」

 

「噂に違わず肝が据わっていますね。

 ぼくが1年生の時に先輩にこうやって絡まれたら、そんな滑らかに返事はできませんでしたよ?」

 

「優秀な担当アイドルがいますから。

 担当アイドルに恥じないようにしているだけです。

 風間先輩も、そうではないのですか?」

 

「……なるほど。

 噂は所詮噂、ということですか。

 やはり、直接見ないとわからないですね」

 

 彼は、そう言いながら口元に手を当てて考え込むようなポーズを取っている。

 

「私に対して、良くない噂が出回っていることは知っています。

 それに踊らされている人が多いことも、私を低く見ている者が多いことも」

 

「なら、何故訂正しないのですか?」

 

()()()()()()()()()

 寧ろ、下に見てもらった方が相手を思い通りに動かしやすいですから。

 ただ、いつまでもそのままでは私の担当アイドルの評価に傷がついてしまうので……ここで、私の担当アイドルの優秀さを思い知らせようと思いました」

 

「それで、『H.G.F』を企画したと」

 

「ええ。

 尤も、それは副産物で本当の狙いは先程話した通りですよ。

 彼女たちをトップアイドルにするためなら、私はどんなことでもします。

 これは、そのために用意したものですから」

 

 私がそう言い切ると、(暫定)は顔をひきつらせた。

 

「……訂正します。

 噂通りの黒幕ぶりでかなりドン引きです」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

「褒めてはないです」

 

「それで……先輩がここに来たのは、それだけではないですよね?」

 

 私の言葉で、彼の目つきが変わった。

 

「察しが良いですね。

 ぼくが来たのは、この『H.G.F』は君だけのものではないと伝えに来たのです。

 『クーホリン』はユニットですが、『H.I.F』のソロ部門に参加しても上位に入ることは間違いない実力があります。

 それに……さっき秦谷さんの後にライブをした『天城(あまぎ) 日和(ひより)』さんは、彼女たちのお友達でもあったんです」

 

 ああ、()()()()()()()()()()()

 正直、一番印象が薄かったから忘れてた。

 声に出したら怒られるのは確実なので、黙っておこう。

 

「彼女の敵討ちも兼ねて、ぼくたちが勝ちます」

 

「期待していますよ。

 人の成長には『試練』が必要で、『試練』は強大であればあるほど良いです。

 あなた方が奮起してくれることこそが、私にとって何よりも幸福なことですから」

 

 私が柔らかく笑みを浮かべると、彼は一歩後退った。

 そんなに怖い顔はしていないと思うのだが……努めて柔らかく笑顔を浮かべているはずなのに。

 

 そう話している間に、もう次の準備が終わったようだ。

 ステージ上で誰かが上がったのか、会場が騒めき始めている。

 

「ほら、もう始まりますよ。

 あなたの担当アイドルのライブが」

 

「……ああ、そうだね」

 

 そうして、私たちはステージの上に目を移した。

 

 ステージに上がったのは『古川 空』。

 クリーム色の髪を、秦谷さんぐらいの肩までかかるぐらいに伸ばしており、ウェーブがかかっている。

 ぽわぽわした雰囲気の彼女は、ダウナー系なのか、間延びした話し方をする人物だったか。

 萌え袖をフリフリさせながら、マイクを握る姿は小動物のようで可愛らしい。

 

 そんな彼女がライブで披露しているのは『ハッピーミルフィーユ』。

 可愛さを売りにしていることもあり、私から見てもとても可愛くできている。

 会場も、彼女のセリフパートの部分で爆発するように沸いている。

 

 面白いのは、隣にいる彼がセリフパートのたびに私の手を引っ張って一緒に叫ばせようとすることだ。

 いつの間にかスーツの上を脱いで、『クーホリン』の法被とフルグラTシャツ、ペンライトに鉢巻きまで装備していた。

 

 マジで隣にいたのに一切気づかなかった。

 彼は私に言っていたが、大概そっちもおかしいだろう。

 プロデューサー科の人間は一癖も二癖もあるというが、常識人に見えた彼も例にもれなかったようだ。

 

 彼がペンライトを一本私に渡してきたので、礼儀だと思い私もそれを振ることにした。

 担当アイドルに見られたら怒られるかもしれないが、彼にも月村さんと賀陽さんの時にペンライトを振ってもらうことにしよう。

 

 それまで担当アイドルが隣に付き添ってくれることはあったが、こうやってほとんど知らないアイドルのライブを、ほとんど知らない人と見るのも悪くない。

 

 終始テンションが高かった風間先輩が、ライブが終わると同時に涙を流していた。

 真顔で涙を流している姿は、どう冷静に見ても怖い。

 情緒が不安定すぎるだろう。

 

 ………もしかして、私もこんな感じだったのか?

 

 とりあえず、ハンカチは私が自分で使うので、ポケットティッシュを渡す。

 彼はそれを受け取ると、自分の目元を拭い始めた。

 

「ありがとう」

 

「いいえ、お気になさらず」

 

 小声でそう話すと、ステージ上の古川さんがマイクを握る。

 

「今日は~『H.G.F』~~!

 わたしは~高等部、3年の古川空で~す!

 この次にライブをする、せーなと、ユニット組んでるから~~みんな~応援よろしくね~~」

 

『いえええええええええええええええい!!』

 

 そのまま袖を振りながら彼女はステージの奥に進む。

 奥からは……星野さんが彼女と入れ替わるようにステージに向かっている。

 古川さんが、星野さんの手を握って会場に向かって大きく腕を振って、バイバイするように消えていった。

 星野さんは困ったような顔をしていたが、彼女がステージの奥に消えていったのを見送ると、そのままステージに立つ。

 

「空が迷惑をかけたようだな。

 私は高等部3年、星野聖菜!

 空と、『クーホリン』というユニットを組んでやらせてもらっている。」

 

 星野聖菜。

 赤い燃えるような長い赤髪が特徴の彼女は、ほわほわした古川さんに比べて、きっちりしているタイプ。

 雨夜さんを彷彿させるような人物だ。

 

 すらっとした長身に、長い髪。

 違いを上げるなら、髪の色と雨夜さんとは違い、髪は縛ってない事だろう。

 

「今日は…後輩に偉大な先輩の背中を見せてやりにきた!

 夏の『H.I.F』では後れを取ったが、冬の『H.I.F』の『一番星(プリマステラ)』は私のものだ!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「それでは聞いてくれ、『HOWLING OVER THE WORLD』」

 

 彼女の言葉で、曲がかかり始める。

 『クーホリン』はかっこいいの星野さんと、かわいいの古川さんがキレイに調和しているユニットだ。

 参考までにライブを数回見たが、花岡さんと藤田さんがユニットを組んでも、彼女たちのようにはならないだろう。

 彼女たちがユニットを組んだら、確実に喧嘩をしてお互いがお互いに喰い合うようなユニットになると思う。

 

 そんな彼女たちとは違い、『クーホリン』の二人はお互いの良さをお互いが引き出し、長所をより良く見せる魅せ方をしている。

 そのため、彼女はソロでも自らの長所を存分に発揮できるのだろう。

 サポートがなくても、自らの強みを生かしている。

 

 隣の彼は、さっきから泣きながらペンライトを振っている。

 まあそうなるだろうなとは思っていたので、今更思うこともないが……。

 私も気持ちはよくわかるので今は置いておこう。

 

 コーレスがあるタイプの曲ではないので、彼女の透き通った声が、叫びが会場に響く。

 月村さんのように感情を込めて歌うタイプの彼女に『HOWLING OVER THE WORLD』……良い選曲だ。

 観客も彼女の歌声に聞き入っており、騒ぐようなこともなく、彼女に併せてペンライトを振る。

 

 『H.I.F』のソロで出ても上位に入っておかしくないだろうという私の予想は、正しかったようだ。

 『初星学園』の高等部最上級生の意地もあるだろう。

 何せ、高等部は十王会長と雨夜副会長が上位にいることもあり、()()3()()()()()()()()()()()()()()

 後輩に負けて、嬉しく思っているような人物ばかりではない、ということだ。

 

 十王家の人間だということを加味しても、それで納得できるようなものではないだろう。

 特に……彼女のプロデューサーを見れば、彼女が仲間想いであることはわかる。

 わざわざ、担当プロデューサーが、担当アイドル同級生のために私のところに来るぐらいだ。

 

 だからか、彼女の魂のこもった歌声は、私の心も少なからず揺らすのだろう。

 

 彼女も最後まで初星学園、高等部の最上級生として恥じないライブをした。

 そのままライトが落ち、彼女はステージから掃けていく。

 終わって拍手と歓声を送っていた隣の彼が、いきなり声を上げた。

 

「にしても、やっぱり(くう)聖菜(せいな)も凄かった!

 ぼくが見込んだ通「先輩、あまり騒がしくしないでください」

 

 私が割り込むと、彼はむすっとして私を睨んでくる。

 

「そんな顔してもダメですよ。

 軽く話をする程度ならまだしも、騒ぎすぎて他のお客様の迷惑になってはいけません」

 

「うぐぐ……はーい。

 お父さんかっての」

 

「それと、…はい」

 

 そう言って私は彼にペンライトを渡した。

 

「?

 なにこれ?」

 

「『SyngUp!』カラーのペンライトですよ。

 私も『クーホリン』のお二人のペンライトを振ったんです。

 まさか、先輩がしない、なんてことはないですよね?」

 

「……本当に、君いい度胸してるよね」

 

「いきなりペンライトを渡してきた先輩程じゃないですよ」

 

「うぐぐ……」

 

 ぐぎぎとでも言いたそうな顔をしているが、大人しくペンライトを受け取ってくれた。

 私も本当は他の装備もしたいところだが、生憎今日はそれを気軽にできる立場ではない。

 

 時々インカムで会話を聞いてはいるが、今のところ大きな問題もなく順調にセトリ通り進んでいる。

 この分なら、私がこのままここにいても大丈夫だろう。

 

 会場はすっかり彼女たちで染め上げられているように見える。

 そんな中、私だけは次のライブをとても楽しみに待っていた。

 

 会場が沸く中で、ステージに賀陽さんが立つ。

 最初に高等部の先輩に喧嘩を売ったこともあって、彼女がステージに立つと会場が沸き立った。

 隣の先輩は目つきが鋭くなっているが、目を見開いてみるといい。

 

 賀陽さんはステージの中心にたち、マイクを握って口元に合わせる。

 先程喧嘩を売った人物とは思えない程、穏やかな曲が流れ始める。

 

 そして、『太陽』が天高く昇り始めた。




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

日間ランキング17位に入っているのを観測しました。
みなさまの温かいご支援に感謝いたします。

オリキャラに関してですが、公式のアイドル検索にて念のため検索かけ、同じ名前の方がいないことを確認していますが、万が一被っていたら教えていただけると助かります。

また、必要に応じてオリキャラが増えることは、今後もあるかもしれません。
極力抑えて行こうとは思っていますが、何卒ご了承いただけますと幸いです。
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