『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
賀陽さんの歌う曲は、今や彼女の代名詞となりつつある『太陽』だ。
青いドレススタイルの衣装を身にまとい、会場の中心で観客を虜にする歌を披露する姿はまさに歌姫。
先の挑戦的な物言いとは裏腹に、正統派の歌姫のように歌い始めた彼女のギャップに彼女を知らない観客は驚愕を隠せない。
『太陽』はこれまで、『H.J.I.F』と単独ライブで披露したこともあり、彼女にとっても段々慣れてきたであろう曲だが……
その声も、歌い方も、聞く人が聞けばわかるだろう。
この歌は……。
「賀陽………
隣にいる風間先輩の口から、声が漏れる。
そう、賀陽さんは、今『賀陽継』を意識した歌い方……ではなく、
風間先輩が担当する『クーホリン』の2人は高等部の3年生。
『賀陽継』が『
だからこそ、彼らの時代の『
呆けるようにして渡したペンライトを握ったまま呆然と、ステージの上の彼女を見ている。
彼は気づいたのだろう。
彼女の模倣が、当時の『賀陽継』を完全に再現していることに。
歌う曲こそは違うものの、彼女の再現度の高さは、知っている人からすれば完全に再現していることがわかるだろう。
曲が違っても、曲調が違っても、歌詞が違っても、同じ声、同じ歌い方、同じ表情、同じ表現をしているのだから。
特に彼女のファンだったものは気づく。
観客も思い知るだろう。
誰が『
だが……ただ、真似をするだけでは『
彼女の今の歌を聞いても、そう思う者はいる。
だから……この歌は、
最初のサビが穏やかに終わると、彼女は歌い方を変えた。
『賀陽継』のものではなく、
賀陽継さんに教わった歌い方でがむしゃらに。
月村さんのように、1フレーズ1フレーズに魂を込めて。
秦谷さんのように、細部まで意識して手足の先々まで細かな表現を込めて。
藤田さんのように、表情を豊かに、愛しむように、美しく。
花岡さんのように、ダンスの動きは緩急をつけて、それでいて曲に合うように流れるように。
私の担当の良いところを学び、彼女自身が積み上げてきたものが、今ステージ上で披露されている。
これまでの憧れを尊みながらも決別し、自分自身が憧れになることを決意するための詩。
それが、今回の彼女の『太陽』だ。
自分が憧れた『太陽』と、これまでよりも高く昇る『
その二つを1つの曲の中で表現している。
美しい蝶が、大きな羽を広げて、より高くより強く羽ばたき、
その羽は、一対のように見えて、
観客の誰もが息を呑んで彼女に釘付けになっている。
それは、秦谷さんの支配にも近い感覚だが、それを行っているのは……純粋なまでの彼女の『アイドルパワー』だろう。
彼女の歌の邪魔をしたくない、もっと見ていたい。
観客の誰もがその思いのままに、ペンライトをゆっくり曲に合わせて降っている。
私だけではなく、何人かは涙を流している。
恐らく、賀陽さんの熱心なファンの方だろう。
やがて、ライトが彼女に集中して彼女を中心とした太陽が昇りきり、彼女の優しい微笑みを添えて曲が終わった。
彼女は、曲が終わっても微動だにしない観客を見て、マイクを握る。
「聞いてくれてありがとう。
どうだったかしら?」
そして、会場は歓声と拍手で埋め尽くされた。
私も例に漏れず、拍手と歓声を贈るが、意外なことに隣にいた風間先輩も同じように拍手を送っていた。
先程まで私に敵意も見せていた彼だが、きちんと分別をつけているのか、彼女の歌声に心が動かされたのか、先の敵意は欠片もなかった。
いつの間にかライトが少しずつ落ち始めて、ステージ上のみが明るく照らされていた。
再びステージに目を向けると、賀陽さんがマイクを握りなおしていた。
「満足できたみたいね。
私は初星学園中等部3年の賀陽燐羽。
言いながらウインクを決める彼女に、黄色い歓声が上がる。
先程も花岡さんが『
大言壮語と取られてもおかしくない発言なのに、驚くべきことに欠片もヤジが混ざっていない。
彼女がそれに相応しい実力者であることを観客の全員が理解したと言ってもいいだろう。
彼女がステージの奥に消えようとすると、奥から衣装に着替えている月村さんが賀陽さんに飛びつくように出てきた。
賀陽さんは少し驚いたように立ち止まるが、無言で手を上げる。
月村さんは嬉しそうにその手とハイタッチをして、そのままステージに駆け出した。
そのまま彼女はマイクを握った。
「みんな!
燐羽のライブ、さいっこうだったよね!?」
『最高ーーーーーーーー!!』
「だよねだよね!
燐羽は、私の憧れで目標なんだ!
だから……私も本気で行くから、ついてきて」
観客からまた歓声が上がると、彼女はそれまでの楽しそうな表情から、一気に真剣な表情に切り替える。
その二面性に、思わず隣にいた先輩も息を呑んだ。
「
彼女が曲名を呟き、曲が流れ始める。
真っ暗な中、僅かな灯りの中で彼女は歌い始める。
『アイヴイ』。
私が月村さんに託した曲で、隠し玉その2だ。
『Luna say maybe』とはまた違った、月村さんのストイックさとクールさを表現してくれる曲。
秦谷さんと相談に来た時に、教えることにした曲だ。
賀陽さんの協力もあり、紆余曲折はあったものの、秦谷さん同様に彼女はこの曲を1週間足らずでモノにした。
全体的に薄暗い中、月明り程度の灯りの中で月村さんは歌い踊る。
この曲は、常に激しく踊りながら歌うような曲で、彼女の全身全霊さをよく表している。
感情たっぷりに歌い上げられるこの曲は、テンポの移り変わりも激しい。
サビに向かって徐々にテンポが上がっていき、サビで一瞬貯めてから爆発する。
月村さんのイメージカラーの青だけではなく、赤いライトも混ざるのが特徴だ。
『H.J.I.F』ソロ部門優勝者に相応しいその歌唱力が、存分に発揮されていた。
藤田さんや花岡さんと日々競い合っていたからか、ダンスの方もさらにブラッシュアップされている。
彼女は会場の端から端まで走りながら、全身全霊の想いを込めて歌う。
最初のうちから彼女の感情の入れ具合はわかっていたが、だんだんヒートアップするようにその熱が増していく。
それが顕著に表れたのは、ラスサビ前だ。
「独にしないで」
切なく観客に右手を伸ばしながら歌う彼女のその表情は、普段のそれとは違い、切なそうな表情がとても良い。
練習でも難しそうにしていたそれは、百点満点をつけてもいいぐらいに仕上がっていた。
そして、ラスサビに入る。
「行くよ!」
その掛け声で会場から歓声が上がる。
彼女はラスサビを一気に駆け抜ける。
感情を込めて、想いを込めて、魂を込めて。
それは楽しそうに歌う彼女の表情と、彼女の歌声からよくわかる。
賀陽さんのライブを見て、彼女もまた殻を一つ破った。
どこまでも楽しそうに歌う彼女は、秦谷さんが心配するのもわかるぐらいに、どこまでも飛び立っていってしまいそうだった。
そのまま息を切らしてしまいそうなほどの全力疾走の中、彼女は歌い切った。
少しの間の後、爆発するような歓声が上がる。
私も目元を拭って、隣の先輩と一緒に歓声を上げた。
月村さんはそれを身に受け、全身全霊の代償を隠しながら、マイクを再び握る。
そして、口を開こうとして、何かを思い出したかのようにハッとした。
「そういえば、自己紹介をしてませんでした。
私は初星学園中等部3年、月村手毬です。
今の曲は『アイヴイ』。
今日が初披露でしたが、我ながら最高のライブができたと思います!
みなさんもそう思いますよね?」
会場から返事をするように歓声が上がる。
……歌う前にMCを挟んだ時はどうなることかと思ったが、無事に軌道修正できていて安心した。
MCは月村さんの課題だったが、問題はなさそうだ。
「燐羽がさっき、『
『H.J.I.F』で優勝した私が、来年は『H.I.F』も制して『
これからも、全身全霊で挑戦するから……みんな、ついてきてね」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「それじゃあ、最後は……みんなが期待している、先輩の番。
今の『
そう言って、月村さんはステージを後にした。
奥から入れ替わるようにやってきたのは……十王会長。
その顔は、これまで見た時とは違って、どこか吹っ切れたような、晴れ晴れとした顔だった。
時は少し遡り、賀陽燐羽がライブを終えた後。
月村手毬がライブをする直前まで戻る。
私は今、久しぶりに全力の、本気のライブを終えたところ。
本来であれば、美鈴たちのところに行くんだけど……今回用があるのは
美鈴もお仕事はきちんとしたようだし、私もすることはしておかないとね。
「失礼するわ」
「……賀陽燐羽さんね。
先程のライブ、素晴らしかったわ」
「当然でしょ。
お姉ちゃんを越えてきたんだもの。
情けないところばかり魅せられないわ」
私が来たのは、高等部の先輩方の控室。
そこにいたのは……はぁ、
隣の副会長は置いておくにしても、これからライブをするアイドルが、そんな顔してたらダメじゃない。
考えを巡らせていると、『
「お姉さん…賀陽継さんね。
私たちがまだ中等部の生徒だったときの『
あの時の『H.I.F』は私も覚えているわ」
「……そうだな、私も星南も、あのライブはとても興奮した。
ライブ映像も何回も見たものだ」
ふーん……わかってたけど、お姉ちゃんを知ってるのね。
「なら、私が何を言いに来たのかもわかるわよね?」
「「………」」
「あなたたち、『アイドル』なんでしょう?
そんな情けない顔をしてたら、ファンに示しがつかないわ。
顔を上げなさい」
私の言葉で、二人とも顔を上げた。
……ほんっとうに、アイドルが見せられない顔をしてるわね。
モニターに釘付けだった他の先輩方も、こっちを見てるじゃない。
「私たちは、今日挑戦しに来たの。
高等部のあなたたちにね。
わかる?」
「「………」」
「はぁ、ほら、ライブ映像を見なさい」
二人は控室にあるモニターに視線を移す。
そこには、手毬が全身全霊のライブを始めている。
「手毬は、私のライブを舞台袖でずっと見ていたわ。
でも、落ち込むどころか、むしろ気合が入ってるわよ。
あんなに差を見せつけたつもりだったのに、ね。
後輩ができるのに、先輩がいつまで腐ってるのかしら?」
ふふ、本当に…あの手毬が、一人でここまで……。
私の後をついてくるだけだったのに、プロデューサーのおかげかしら?
「……賀陽燐羽さん」
「何?」
「あなたは………自分の才能が、相手より劣るものだとわかってしまったら……勝てないって思ってしまったら……」
はぁ…世話が焼ける…。
「
私は……才能があるから、勝ちたいから『アイドル』をやってるわけじゃないわ。
私がやりたいから、『アイドル』をやることにしたの。
だから……全身全霊で挑戦するだけよ。
あの手毬みたいにね」
「そう……よね。
その通りだわ」
「……それで、圧倒的な差を見せつけられてもか?」
「
諦めたいなら勝手に諦めればいいわ。
受け売りだけど、やる気がないやつがアイドルをやるなんて、他に迷惑をかけるだけよ。
私も諦めたくなったことはあったけど……
それとも、生徒会副会長様にはいないのかしら?」
「……ハハ、まさか、後輩にこうまで諭されることになるとはな。
それも、問題児である貴様に」
「自分でもガラじゃないってわかってるわよ。
でも仕方ないじゃない。
あなた達のせいで、『初星学園』のブランドを傷つけられると困るわ。
プロデューサーも言ってたでしょ?」
「相変わらずの『黒幕』ぶりだな。
単身で生徒会室に乗り込んで企画を持ち掛けてくるだけのことはある」
「プロデューサーがこれにどれだけ準備してきたのか、あなたちもわかるでしょ?
だから、
まだあなたたちもライブがあるんだから、もっとしっかりしてもらわないと。
特に、そこの『
だから…
「……足を引っ張ったら、殺すから」
「本当に生意気な後輩だ。
ハッ、いいだろう。
今回は後れを取ったが、
覚悟しておけ」
「あなたたち、言葉が悪いわよ。
……賀陽燐羽さん、情けない姿を見せたわね。
これから……私の、『
前も言いましたが、今一度宣言しましょう。
勝つのは……この『
本当に世話が焼ける先輩ね。
ようやくいい顔になってきた。
後は、『
プロデューサーがラストを任せた、あなたをね。
「楽しみにしてるわ。
ホラ、そろそろ行かないとあなたの番よ」
「そうね。
そろそろ行くわ。
燕、先輩方、いってきます」
「無様な姿を見せるなよ」
「いってらっしゃ~~い」
「ああ、見せつけてこい」
「が、頑張ってくださいね!」
副会長と先輩たちの応援を受けながら、『
その姿は、さっきまでとは違ってきちんとアイドルのものになってたから…後は彼女次第ね。
「じゃあ、私も帰るわ。
はぁ、本当、もうこれっきりにしてよね。
先輩の面倒を見るなんて、もううんざりよ」
「賀陽」
私が部屋を出ようとしたら、副会長に呼び止められた。
「何よ」
「……感謝する」
「受け取っておくわ。
精々頑張りなさい。」
そうして部屋を出て、美鈴たちの元に戻る。
………美鈴が泣いてたのはびっくりしたけど、手毬のライブ、見るたびによくなってるのがわかる。
ラスサビまでに間に合ってよかった。
今の顔は私も見せられないわね。
そして、発破をかけた『
なんだ、
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