『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
十王星南のライブは期待通り素晴らしいものだ。
彼女の選んだ曲は『Choo Choo Choo』。
『H.I.F』で彼女を『
あの賀陽さんと月村さんの後のライブで、会場は彼女たち一色になっていると言ってもいいぐらいだった。
なのに………私も隣にいる先輩も彼女に思わず魅入ってしまった。
スタイリッシュに仕上がっているその曲は、彼女の長い手足が良く映えるダンスで仕立て上げられ、特徴的な弓矢を放つモーションでは毎回会場から歓声が上がった。
彼女の歌声とダンスからは、彼女に『初星学園』が続けと言わんばかりに、先導していく者の力強さと『
文字通り、学園のトップとして恥じない物だ。
私の担当アイドルが踏み越えなければならない試練とは、これほどまでに強大なものだった。
それがわかっただけで御の字と思おう。
賀陽さんのライブで心が折れるかとも思ったが、きちんと立ち上がってきたあたり、流石は十王星南と言うべきか。
『秦谷美鈴』のストーリーでもあったように、月村さんのライブを見て立ち上がれたのだろうか……いや、二人がきちんと仕事を果たしてくれたのだろう。
そうなるように、先に十王会長とは話を事前にしてきたが、正直どっちに転ぶかは半々と言ったところだった。
これまでの彼女との関りから、彼女が『初星学園』に対して強い想いを抱いているものの、自分の能力は甘く見がちだった。
そのため、折れてしまったら中々立ち上がることはできないかもしれないという予想と、それでも彼女なら『初星学園』のアイドルたちが輝いている姿を見れば立ち上がってくれるという期待の二つがあった。
そうなるようなセトリにしたし、
『初星学園』とは私たちだけではない。
十王星南、雨夜燕をはじめとした、高等部の生徒。
『SyngUp!』、藤田さん、花岡さんも含まれている、中等部の生徒。
プロデューサー科の生徒。
そして、それ等を指導する先生方やトレーナー、用務員さんや購買の職員さんなどの職員の方々まで。
それらの人々全てが、前に進んでほしい。
だから、その象徴たる『
私の勝手なわがままだが、
ステージ上の彼女は、それを知ってはいないだろうが、少なくとも私の期待に存分に応えてくれている。
そして、彼女が歌い切りポーズを決めると、会場が歓声に包まれた。
彼女はそのままマイクを手に取る。
「私が初星学園の『
初星学園の生徒に告げます。
私に続きなさい!
あなたたちが目指すべきものを、私が掴み取って待ってるわ!
『わああああああああああああああ!!』
……ああ、アイドルはやはり素晴らしい。
勝手に期待をしたのに、期待を越えてくれるのはいつだって胸が躍る。
今回の『H.G.F』の目的は、概ね果たせたと言っていいだろう。
私の担当アイドルの知名度、能力の向上。
『初星学園』のネームバリューの向上。
そして、いずれ越える強敵である、十王会長と雨夜副会長のブレイクスルーのきっかけ。
雨夜副会長だけは、まだ直接見ていないが、秦谷さんなら仕事をきちんとこなしているだろう。
それが見れるのはこれからだ、
十王会長が観客の皆さまへのお礼の言葉を述べ終え、合図をすると同時に、ステージと観客席の前側に高等部の生徒が集まり始める。
最初に中等部の生徒たちが『初』をしたように、今度は高等部の生徒が『Campus mode!!』を披露する番だ。
隣にいた先輩が、いつの間にか私の手にペンライトを握らせていた。
相変わらず初動が読めないのだが、一体いつから握らされていたんだ?
『Campus mode!!』が流れ始めて、大人数の『Campus mode!!』が始まった。
彼と一緒に『Campus mode!!』を『クーホリン』カラーのペンライトを二人で振る。
『初』の時も壮観だったが、高等部の生徒はやはり場数が違う。
狭いステージの中でも、お互いに干渉し合わないように息を合わせている。
高等部の生徒は、編入組もいるが進学組はその分の積み重ねがある。
編入組の1年生も立派に『Campus mode!!』を踊っているあたり、高等部の練習が如何にハードなのかを物語っている。
『初』は動きが激しくならないようにその場で踊れるように振りを変えていたが、『Campus mode!!』は動き回る曲だ。
そのため、壇上を入れ替わるように動くこともがある。
あらかじめ決めた動きをすればぶつかることもない。
リハーサル通りに…いや、リハーサル以上のものになっている。
それは、先ほどの十王会長のライブを見たからか、賀陽さんと月村さんたちのライブを見てからか、はたまた他の人のライブがそうさせたのか。
答えはわからない。
わかることは、雨夜副会長の動きのキレがきちんと出ており心配は杞憂だったということ、十王会長が希望者全員参加にさせたこの企画は間違いじゃなかったという『結果』だけだ。
そのまま『Campus mode!!』が終わり、最後の曲に移る。
ステージにいる高等部の生徒たちがステージの端に向かって手招きをする。
そして、その奥から中等部の生徒たちがステージと観客席側に並んだ。
ステージの中央には、本戦参加者が集まり、その後ろにはズラリとアイドルが並ぶ。
そして、思い思い仲が良いアイドルたちは肩を組んだり、手をつないだりと自由に立ち位置で絡みながら、最後の曲が流れ始めた。
校歌である『標』だ。
ステージと前方の観客席…アイドルたちだけでも相当なものだが、観客席からも歌が聞こえ始めた。
大勢で歌う『標』は歌声が重なり、会場全体に合唱が響き渡る。
中等部、高等部の生徒が入り乱れて歌声を観客に、会場に届けて一体となっている。
アイドルと観客が一体となって楽しんでいる。
観客の全員に『初星学園』のファンになってもらう、と最初に言ったが、その目的は達成できたと言っていいだろう。
黒井理事長が聞いたら否定するだろうが。
そして、フェイクを十王会長と月村さんが二人で競うように歌い合い、『標』を歌い終えた。
最後のポーズを決めて、会場から爆発するような歓声が響いた。
そのまま十王会長がマイクを握る。
「ご来場の皆さま、ご視聴の皆さま!
本日はご来場、ご視聴いただき…」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
アイドル全員がお辞儀をする。
歓声と一緒に、拍手が観客からアイドルに贈られる。
これで表向きのメニューが全部終わった。
会場からの拍手を受けたアイドルたちは、会場にファンサをしてから去っていく。
ステージから徐々に掃けていき、本戦に出場した彼女たちが最後に会場から掃けていく。
ステージから彼女たちの姿が完全に見えなくなり、少しずつ会場からアンコールの声が聞こえ始めた。
それは、少しずつ音量を上げていき、やがて会場全体からアンコールの声が聞こえる。
そして、中等部の本戦に出た私の担当アイドルたちがステージに上がり、会場から黄色い歓声が上がった。
そのまま勢いは最高潮のままに、アンコールのライブが始まった。
アンコールのライブは、最初に中等部の本戦に出た5人で『がむしゃらに行こう!』から始まった。
『学マス』でも、月村さんと藤田さんがオリジナルメンバーだったこの曲は、秦谷さん以外にはぴったりと言ってもいいだろう。
『中等部』を代表する生徒たちは、文字通り『がむしゃらに』努力してきた。
それがライブにも現れている。
秦谷さんには少し合わないように見える曲だが、だからこそ彼女は彼女のペースでこの曲をものにしている。
ステージ上で先に進む他の4人のペースよりはゆっくりと歩き、それでも彼女たちに追いついている。
観客のみなさんも、彼女たちがそれぞれがそれぞれのペースで、それでもがむしゃらに進んでいく様子が、ライブを通してよく伝わってくるだろう。
そして、楽しそうにライブを終えた彼女たちと入れ替わりで高等部の本戦出場者たちが現れる。
高等部の生徒たちがアンコールで披露するのは……『ENDLESS DANCE』。
今日だけで3回目の披露になるが、それでも会場からの熱気はすさまじかった。
特に、『H.I.F』でも上位に入った雨夜副会長と十王会長が披露したこともあるこの曲を、その二人を交えた総勢5名で行うとなれば、観客の期待も大きいだろう。
先程のわくわくするような楽しい曲とは反対に、かっこいいこの曲を高等部の生徒たちがかっこよくやって、締める。
最初はどうなるかとも思った、この『H.G.F』も、これで本当にラストだ。
隣の先輩と一緒にペンライトを振り、最後のライブに相応しいものを見せてくれている彼女たちに敬意を捧げる。
先輩と観客のみなさんと一緒に楽しみながら、彼女たちを応援した。
彼女たちも時々楽しそうな表情をしながら、それでもかっこよくライブを締めてくれた。
最後のフレーズが終わり、ポーズを決めて、スポットライトが彼女たちを照らす。
会場からもう何度目かになるかわからない歓声が彼女たちを包み、十王会長がマイクを口元に合わせた。
「ふふ、会場に来てくれたみんな、楽しんでくれたかしら?」
彼女の問いかけに、会場からは歓声と拍手で返事が贈られる。
「楽しんでくれたなら何よりよ。
……今の曲で、本当に最後でした。
『H.G.F』は終わるけど、次は冬の『H.I.F』が待ってるわ。
中等部の『H.J.I.F』もあるから……これからも『初星学園』に、私に、私たちについてきなさい!」
『わああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!』
十王会長がマイクを離し、他の4名と一緒に観客にファンサを贈る。
これで、本当におしまいだ。
何とか無事に終われて本当に良かった。
後は後片付けだ。
会場に、中等部の学年主任のアナウンスが流れ始める。
会場の熱気はいまだ冷め止まず、観客たちもその余韻を楽しんでいた。
私も、そろそろ後片付けに入ろう。
そう思っていると、不意に隣にいた先輩に肩を叩かれる。
「どうかしましたか?
そろそろ後片付けに向かわなければならないのですが」
「いや……その、お礼を言わせてほしい。
あと、さっき言っちゃったことのお詫びも」
彼は私を捕まえると、ばつが悪そうにそう言った。
「?
舞台を整えたことへのお礼ならわかりますが、お詫びとは?」
「その、勝手に敵視して敵討ちをするって言ったこと。
対バン形式のライブでぶつかるんだから、そうなって当たり前だし、君に言うことじゃなかったから」
なんだ、そんなことか。
「気にしていません。
そう言われて当然の行いをしてますから」
「ぼくが気にするんだよ。
ぼくの担当アイドルたちの応援もしてもらったからね。
改めて、ありがとう、そしてごめんなさい」
……なるほど、周りの評価に揺さぶられて色眼鏡で見ていた自分を悔いてるのか。
自己満足だろうと詰ってもいいが、こう誠実な対応をしてくれる先輩にそれをするのは無粋だ。
「……受け取っておきましょう」
「それと……一つ聞きたいんだけど君はプロデューサーに必要なものは何だと思う?」
「なんでそんなことを?」
「あまりにも噂と、さっき君が担当アイドルたちのライブを見ていた時の顔が違いすぎるからだよ。
担当アイドルを使って良いようにしている、新人プロデューサーって良くない噂ばっかり入ってくるからね。
直接見て、そうじゃないとは思ったけど、君の考えも聞いてみたくって」
プロデューサーに必要なものか。
そんなものは決まっている。
「『愛』ですよ。
プロデューサーがアイドルに、どれだけ愛情を注いでプロデュースできるか。
どれだけ想いを込められるかは、
人の心を動かすほどの歌には、それだけの想いが必要だ。
その想いとは、一人だけで創り上げることは難しく、他の人たちからの想いも載せていく必要があるだろう。
だから、私は彼女たちに『愛』を注ぐのだ。
ファンの皆様の心を動かせるように。
彼女たちのファンが一人でも増えるように。
私が彼にそう告げると、彼は無言で涙を流して天を仰いだ。
「ぼくたちは、『
「………は?」
何を言っているんだこいつは?
「君の答えはぼくが聞かれたときと同じものだった。
ぼくは担当アイドルへの愛……それを人前で言える人に悪い人はいないと思っている。
君のことは士野と呼ばせてもらうよ。
それじゃあ、ぼくも後片付けの手伝いをしてくるから、またね」
良い顔でそう言った彼は、言うだけ言って去っていった。
その後ろ姿は、最初に会った時のようにぴりついたものではなく、楽しそうにスキップでもしていきそうな姿だった。
…………面倒な先輩に目をつけられたのかもしれない。
何で私に絡んでくるやつは、どいつもこいつも……!
まあ、いいでしょう。
とりあえず今は、彼女たちを労おう。
幸い、後片付けでもトラブルが発生しているようなことは聞いていない。
何かあったら連絡をしてほしいとだけインカムで伝えて、私は彼女たちの控室に向かった。
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
また、来週恐らく秦谷美鈴STEP3が実装されます。
そこで行われる強化月間というランキングイベントがあるのですが、それに本気を出す予定なので、来週か再来週の更新は土日の片方のみになる可能性があります。
詳細は前書きか、こちらに追記で記載する予定です。
申し訳ございませんが、何卒ご了承ください。