『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
控室に行く途中、様々なスタッフの方々から声をかけられる。
お疲れ様から始まって、(担当アイドルたち)良かったよーといった声まで。
音響、照明をはじめとした演出の方々や、誘導やアナウンスに尽力してくれた職員、スタッフの方々には頭が上がらない。
開催前は幾分か怯えられることもあったが、彼女たちが変えてくれたのだろうか。
イベントが終わった時特有の空気のおかげかもしれない。
元々、打ち合わせをすることもあって演出の方々とはそこまで拗れてなかったが、他の職員やスタッフの方とも挨拶ができる程度の仲にはなっておきたい。
だが、急ぎの用件は他にある。
気が付いたら、いつの間にか控室前についていた。
私はそのままノックもしないで部屋に入る。
私が部屋に入ると、いつもの5人が驚いたように私を見ていた。
「お疲れ様でした、みなさん」
「おっ疲れ様で~す!
プロデューサー、そんなに息を切らして何かあったんですか?」
「息…?」
藤田さんにそう言われてから、私は肩で息をしていることに気づいた。
気持ちが急いでいるだけだと思っていたが、思ったよりも急いでいたのか。
全力疾走したほどではないが、いつの間にか急ぎ足になっていたらしい。
どこか緊張しているが、それを抑えながら彼女たちに向き合う。
「……少し落ち着きました。
気持ちが逸っていたようですね」
「珍しいね。
プロデューサーがそんなに急いでるの」
「手毬がSNSを始めた時以来じゃないかしら?」
「そういえば、あの時はプロデューサーが全力で学内を走り回って、先生たちに怒られてたナー」
「身の振り方に気をつけようと思った一幕でした」
「わ、忘れて!」
「無理に決まってるでしょ。
戒めのために、記憶に刻んでおきなさい」
「うぐぐ~~~~~~!!」
……本当に、彼女たちは良い。
今の今まで、高等部の先輩たちと、競い、高めあい、ファンの皆様に最高のライブを届けてきたのに、自然体のままだ。
月村さんも、これまでみたいに崩れ落ちていないし、藤田さんも緊張を感じさせない。
全員から共通していることは、楽しかったという気持ちだ。
本当に、良く成長してくれた。
「…プロデューサー?
泣いているのですか?」
「え……あ、いけません。
少し……感慨深くなってしまったようで……」
秦谷さんに言われて、頬を涙が伝っていることに気づいた。
5人とも心配そうに見ているので、これ以上心配させないためにもハンカチで涙を拭いとる。
「…プロデューサー。
いかがでしたか?
わたしは、わたしたちは期待にお応えできたでしょうか?」
秦谷さんの言葉で、他の4人も結果を聞きたいのか、真剣な眼差しで私に視線を移した。
ライブ終わりの片付けも、まだ途中だ。
そろそろ本題に入らなければならない。
「まず、みなさんに感謝を。
あなたたちは、私が求めた……いや、
改めて、ここまで着いてきてくれて、やり遂げてくれたことの感謝を伝えさせてください。
本当に、本当にありがとうございます」
言いながら深々と頭を下げる。
彼女たちが少し困惑しているのがわかるが、どうしても今伝えたかった。
顔を上げて、彼女たちと目を合わせる。
「今回の『H.G.F』。
学園長に嵌められて、私が壇上に上がる羽目になるといったイレギュラーが最初からありました。
それにも関わらず……あなた方はそれを物ともせずにやり切ってくれました」
「本当にびっくりしたわよ。
学園長の挨拶が終わったら出番だからって、待機してたらいきなりあなたが壇上に上がったんだもの」
「ミヤビがポカーンとしてたのが面白かったです」
「は、はぁ!?
藤田ことねもアホ面晒してましたでしょう!?」
「はぁ~~!?」
藤田さんが花岡さんをからかって、花岡さんが顔を真っ赤に染め上げ、負けじと言い返す。
二人がシャーシャーと猫のように威嚇を始めた。
その二人のじゃれ合いを少し眺めながらも、賀陽さんが割って入る。
「はいはい、その辺にしておきなさい。
……確かに、最初からイレギュラーはあったわ。
でも、
「うん。
プロデューサーがあんなに、私たちを信頼してくれてるって思って……嬉しかった」
「プロデューサーが、普段表に出ることのないあなたが、震える身体を必死に抑えながら、わたしたちを信じてくれたことが、とてもとても幸せでした」
「だから……出せる力の限界を超えて、頑張ったつもりです。
先輩たちも凄かったですし、星南ちゃんのライブ、あたし感動しちゃいましたけど……あたしも全力でぶつかってきました」
「出せるものは全て出し切って、悔いが残らないように全力を尽くしました。
それは当然、プロデューサーも、です」
いけない、折角涙を拭ったのにまた流れてきてしまっている。
今の私の涙腺は相当緩くなっているらしい。
「……本当によく成長しましたね。
正直、ステージを降りた後で喧嘩を売りすぎたと、少し後悔してた部分はありました。
ハードルを上げすぎてしまったと。
余計な心配だったようですが」
「逆に丁度良かったわよ。
だって、
「………ん?」
ちょっと待て。
今なんと?
「そうですね。
雨夜副会長は
ついでに、その後の天城先輩も平らげておきました」
「おかげで、私があっちに顔出したときの空気がお通夜だったわよ。
副会長なんて、死んだような顔をしてたわ」
「りんちゃんこそ、あんな心を折るようなライブをして……まりちゃんのライブがあったとはいえ、よく十王会長は立ち直れましたね?」
「
ほんっと……先輩の面倒まで見るのはもううんざり。
あんたたちで手がいっぱいなんだから」
「え? え?
手毬、美鈴ちゃんと燐羽、そんなことしてたの?」
「わ、私も初耳なんだけど!?」
「
「プロデューサーの指示よ。
雨夜副会長と十王会長に発破をかけて来いっていうね」
確かに言った。
言ったが、そこまでしろとは言ってない。
賀陽さんの全力が戻ったのなら、それは『賀陽 継』を越えたもの……つまり、『
数値で見れる彼女に後輩が自分以上の数値を持って見せつけに来たら、気が落ちているかもしれないから軽く発破をかけて欲しいという想いだった。
まさか、舞台裏で本当に『太陽』として『一番星』まで導いてるとは思わなかった。
「雨夜副会長を惨殺して、高等部の先輩方を堕とす。
オーダー通りの働きをしたと自負しています」
確かに言った。
言ったが、そこまでしろとは言ってない。
雨夜副会長に敗北を教えて、高等部の先輩がやりづらくする会場づくりぐらいの気持ちだった。
藤田さんがそれを吹き飛ばせるかどうかも賭けになる。
高等部の先輩が呑まれる
まさか、そのまま高等部の先輩である天城さんが飛び立てなくなるほどに、
そして、しれっとしているが、それを平気で吹き飛ばした藤田さんも大概おかしい。
塗りつぶした後に、負けじと会場を虜にした花岡さんもおかしいし、賀陽さんの後で観客の心を奪い取った月村さんも大概だ。
少し冷静になって、私の担当アイドルは大概おかしいのかもしれないことに気づく。
これは……プランをいくつか変えなければならないだろう。
「プロデューサー!
何で私には毎回秘密にするんですか?」
少し涙目になった月村さんが、ハブられたことでご立腹のようだ。
心なしか秦谷さんと賀陽さんの視線が怖い。
だが、これにはきちんとした理由がある。
「……月村さんは、下手なことを考えない方が歌に気持ちを乗せやすいでしょう?
それに、月村さんのライブは人を前向きにさせてくれるんです。
だから、秦谷さんと賀陽さんにお願いしたんです」
「……そ、そう…なんだ。
本当に、プロデューサーって私のこと好きだよね」
「藤田さんと花岡さんも下手なことを考えないで、がむしゃらにぶつかってほしかったから言いませんでした。
あなた方が成長しやすいように、場を整えてきたつもりではいます。
私の目論見通り……いえ、それをはるかに飛び越えて成長してくれて、本当に嬉しかったですよ」
「「「「「………」」」」」
私はにっこりと柔らかい笑みを浮かべながら、彼女たちに微笑んだつもりだ。
なのに、なぜか全員黙り込んで私を見ている。
何かまずいことを言っただろうか。
「プロデューサーが黒幕って言われる理由がよくわかる気がします~」
「それも信頼を盾にしてくるから質が悪い…!」
「嘘じゃないことがわかってしまうから、なおさらですね」
「ただ利用されてるだけだったら、ここまでついてきてないわよ」
「誠意があることが返って人を傷つけることもあると、
相変わらず酷い言われようだ。
これがライブ終わりの担当アイドルとプロデューサーの会話か?
まあ、いいでしょう。
「暫くはおとなしくするつもりですよ。
流石に目立ちすぎましたし……少々、疲れも出てきてます。
たまには、のんびり行きましょう」
「こんなに欠片も説得力がない言葉は久しぶりに聞いたわ」
「まぁ、ふふ。
プロデューサーの言う通り、たまにはのんびりいたしましょう。
無理をしないように、わたしたちのペースで」
「……そうだね。
そして……休んだら、また走ろう。
あの『
月村さんが力強く宣言する。
今ライブを終えたばっかりだというのに、やる気十分だ。
「その意気です。
さて本当は講評などをしたいところですが、私はまだ後処理をしなければなりません。
無理そうであれば、私たちの打ち上げは後日にしようと思っていましたが……」
「焼肉!
焼肉行こう!
前に約束したもん、ね!?」
「月村さんがこの通りなので、諦めてください」
「……毎回この流れなんです?」
「プロデューサー、手毬には甘いからナ~」
花岡さんと藤田さんがコソコソ話している。
まあ、いつのモノことだと思って諦めて欲しい。
「それと、今回のライブを頑張ったご褒美を何かしたいと考えてますので、考えておいてください」
私が何気なく言った一言で、空気が変わった。
秦谷さんと藤田さんが私に詰め寄ってくる。
「ご褒美…ですか?」
「ええ」
「何でもいいんです?」
「私にできる範囲のことであれば。
今回は、皆さんにかなり無茶をさせてしまったと思っています。
私にできることであれば、何でもしましょう。
文字通り、何でも」
これだけ頑張ってくれた担当アイドルに報いるためには、私は全てを差し出す必要があるだろう。
そう思っていたのだが、どうやら担当アイドルの様子がおかしい。
「………美鈴、悪い顔してるわよ」
「ふふ、りんちゃんも、人のこと言えませんよ?」
「……えへへ~~~、な~にお願いしようかな~~?」
「何でも………ふふふ………」
「ラーメン……とんかつ……カツカレー……ハンバーガー……餃子……唐揚げ……!」
……少し早まったか?
一体何をされるのか……いや、月村さんはわかりやすいが。
花岡さんまでだらしない顔をしているのは初めて見たかもしれない。
だが、これぐらいじゃないと割に合わないだろう。
彼女たちの頑張りは、私がよく知っている。
「すぐにとは言いませんので、考えておいてください。
もし、思いつかなかったら私が何か考えますが……その時はあまり期待しないでください。
こういうことは慣れてないので、期待に応えられるとは思いませんから」
「プロデューサーが頑張って考えてくれることなら、何でも嬉しいですよ」
「……期待を裏切らないように頑張りはします。
さて、では一度失礼します。
また、後程……それまで、クールダウンしていてください。
決して、レッスンをしようなどとは思わないように」
「するバカがいたら、きちんと止めるわ」
「お願いしますよ。
それでは失礼します」
「あ、プロデューサー」
「?
いかがなさいましたか?
秦谷さん」
「そういえば、先ほど、
……言われるとは思ったが、今か。
いや、今だからこそか。
打ち上げ中にこんな話をしたら、ご飯がまずくなる。
目のハイライトが消えた秦谷さんを筆頭に、他の4人も目がジト目になって私を見ていた。
そのまま全員のハイライトが消える前に弁明しないといけない。
「プロデューサー科の先輩の付き合いです。
楽しかったのは否定しませんが、好きで振っていたわけではありません」
「……証拠は?」
証拠……証拠……困った、ぱっと出せるものがない。
どう弁明したものかと頭を悩ませていると、いきなり控室のドアが開いた。
「やあ、
お困りのようだね!」
そこにいたのは、ドヤ顔で佇んでいる風間先輩。
その後ろには、彼の担当アイドルである、星野さん、古川さん。
さらに、彼女たちのお友達という天城さん。
そして、十王会長と雨夜副会長が一緒に来ていた。
『H.G.F』本戦メンバーが勢ぞろいしたわけだが、私の担当アイドルを含めた全員が、風間先輩を胡散臭そうな顔で見ている。
もう帰りたくなってきた。
どや顔をしていた風間先輩はそのまま私の隣までやってきた。
担当アイドルたちが疑惑の目で彼を見ている。
「やあ、君たちが
ぼくは風間緋色、プロデューサー科の4年生で、『クーホリン』のプロデューサーをしているよ」
「自己紹介は不要でしょうけど、礼儀として言っておくわ。
中等部3年、賀陽燐羽よ。
で、そこの先輩たちのプロデューサーが私のプロデューサーに何の用かしら?」
「いや、ぼくは用はないんだけど……謂れのない罪で詰められているのが聞こえちゃったからね。
ついつい出しゃばったってわけさ。
ぼくも、君たちのライブをしっかり応援してただろう?」
「たしかに、隣でプロデューサーと一緒にペンライトを振ってたわね」
不服ではあるが一応納得してくれた賀陽さんは、それでも彼を警戒している。
対照的に、藤田さんは私たちにすり寄ってきた。
「ぷ~ろでゅ~さ~!
水臭いですよ~、お兄さんがいたなら、教えてくれてもよかったじゃないですかぁ~~!」
「いえ、その人は今日が初対面です。
血のつながりはありません」
「え?」
私の言葉に、私たちの担当アイドルは沈黙を。
彼を知っているであろう高等部の3年生組は、天を仰いだり、のんきに萌え袖を振ってたり、オロオロしながら辺りを見回していた。
そんな中、能天気な彼は続ける。
「おいおい、
地元じゃ負け知らずの大親友コンビとは、ぼくたちのことだろう?」
何を寝言言ってるんだ。
「さっき名前を初めて聞きましたよね?」
「え、何この人、こっわ」
藤田さんがドン引きして数歩後退る。
いつの間にか肩に手を置いて、腕を組んでくる先輩が絶妙に鬱陶しい。
何でこの人は存在しない記憶を捏造しているんだ……。
変な電波を受信しないでくれ……!
そう思っていると、真っ赤な髪を揺らしながら星野さんがツカツカと彼の隣まで歩み寄る。
「フンッ!!」
「ぐぼぉが!!」
隣まで来たと思ったら、凄い勢いで風間先輩だけを打ち抜くように殴りぬいた。
ええ……?
音は結構すごかったが、血が出ていない辺り殴り方を心得ているのであろう。
もしかすると、そう珍しいことではないのかもしれない。
私を含め、高等部3年組以外の全員がドン引きしている。
そんな中、彼女は意識を失った風間先輩を、米俵を担ぐように肩に担ぐと、そのまま私に頭を下げた。
「はぁ……本当に、このバカは……。
『SyngUp!』! 藤田ことね! 花岡ミヤビ!」
「「「は、はい!!」」」
星野さんの言葉に勢いよく返事をしたのは、月村さんと藤田さんと花岡さんだけだった。
他の二人は睨みつけるだけで返事はしない。
後輩たちに睨みつけられる中、星野さんは勢い良く頭を下げた。
「私のプロデューサーが迷惑をかけた。
本当に申し訳ない。
このバカは、気に入った者を見つけると周りが目に入らなくなる悪癖がある。
記憶も捏造するほどだ」
なんてはた迷惑な……。
そう思ったが言わなかった私の気持ちを、藤田さんが代弁してくれた。
「それ、野放しにしていていい人なんですか?」
「ダメだから私がついている。
まさか……ライブの間に暴走してるとは思わなかった」
「でもでも~~、これでもいいところもあるんだよ~~!
ぷろでゅ~さ~としては優秀で~~~成績は一番上だし~~、卒業後はせーなと3人で100プロに所属することになってるし~~」
「空、それは無様を晒していい言い訳にはならん。
他に迷惑をかけるとなると、なおさらな」
「それは~~~そうだけど~~~」
「すまなかったな、『初星学園の
迷惑をかけたとは思っているのだが……余裕があれば、仲良くしてやってほしい。
こんな性格だから、こいつは友達が少ないんだ」
「……そうですね。
悪い人ではないと思っているので、善処はしましょう」
「感謝する。
それでは、失礼させてもらおう。
十王星南、雨夜燕、先も言ったが夏の雪辱は冬で返す。
覚えておけ」
「ばいば~い」
「し、失礼しました」
星野さんが先輩を担いだまま出て行くと、古川さんと天城さんも続いて出て行った。
十王会長と雨夜副会長は、まだそのままだ。
あまりにも先輩が変な行動をとりすぎたから、待っていたのだろう。
そして、彼らと入れ替わるように、二人は私たちと相対した。
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
美鈴ちゃんのSTEP3最高でした………。
思わずフィギュアも予約してしまいました……。
強化月間ですが、初日で瞬間1位取れたので明日も更新予定です。
以前も話していましたが、Twitterアカウントを作成してました。
頑張って呟いているので、良ければフォローしてくれると嬉しいです。
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