『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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82話目

 

 十王会長はため息を一つ吐いてから、口を開く。

 

「いろいろ言いたいことがあったのだけれど、出鼻をくじかれてしまったわね」

 

「全くだ。

 プロデューサー科の人間は、全員こうなのか?」

 

「彼はとびきりの変人だと思ってますよ。

 あんなんばかりだったら、私は授業を受けるのも放棄するでしょう」

 

「貴様も含めているんだが?」

 

「あそこまでイカれてるつもりはないのですが……」

 

「担当アイドルになら殺されてもいいとほざき、高等部のトップに喧嘩を売り、挙句の果てには初星学園全体を巻き込んで、100プロと961プロのトップを呼びつけるイベントを開催し、招待客は愚かテレビに向かって全世界に宣戦布告をしておいてか?」

 

 字面にすると結構頑張ったな。

 だが……それでも、『学マスのプロデューサー』程ではないと思うのだが……。

 それに、覚悟を決めたら誰でもアレぐらいはするだろう。

 

「それよ!

 ちょっとあなた!

 なんであの人があんな格好で参加してるのよ!」

 

 なんかやったっけ………あ。

 

「十王社長が、十王会長のフル装備をして参加していた件ですか?」

 

「それしかないわよ!

 しかも……他の100プロの皆様まで私のグッズを装備してたじゃない!

 あれもあなたの仕業でしょう!

 おかげで恥ずかしい思いをする羽目になったじゃない!」

 

 そう言えば、壇上に上がった時にちらっと見たが、十王社長の格好を見たからか100プロのみなさんが会長のグッズを装備していたのは見えたような。

 自分の娘の装備を強制させるような人ではないから、恐らく私に絡んできたあの人がみんなに勧めたとかその辺だろう。

 

 そのせいで、用意した一角が十王星南ファンで固めましたって感じになってしまっていた。

 

「そのプロの皆様に向かって喧嘩を売ってきたのは楽しかったでしょう?」

 

「楽しくなかったわよ!

 あなたたちじゃないんだから!」

 

「あなたの発言は、これから自分の首を絞めますよ。

 初星学園の『一番星(プリマステラ)』がトップアイドルに喧嘩を売った、と。

 奇しくも私たちも同じ立場になりました。

 ですので、一緒に楽しみましょう、ご友人!」

 

 私はそう言って笑顔で彼女に手を差し伸べる。

 

 私が全体に喧嘩を売ったのと同様に、彼女も『トップアイドル』を掴み取ってくると宣言したばかりだ。

 トップアイドルも見に来ている中、それなりに知名度があってテレビ放送もある中での発言で、既にSNSでは話題になりつつある。

 

 『初星学園』にはやべープロデューサーと、やべーアイドルたちがいると。

 

 当然、『勢い任せ(好調だったので集中+3)』だった彼女は顔を真っ赤にして、私の手を振り払って頭を振った。

 

「あああ~~~~~~~!!

 余計なことを言わないでちょうだい!

 考えないようにしていたのに!」

 

「吐いた言葉の責任は自分で取らなければなりません。

 ですので、格上との喧嘩も楽しめるようになりましょう。

 そうすれば、あなたはもっともっと上に行くことができる。

 それを降すのが今から楽しみです」

 

「ぐ、ぐぅううう~~~~~~~!!!」

 

 唸りながら頭を振り続ける彼女は、とても先程まで会場を魅了していた『一番星(プリマステラ)』とは思えない。

 そんな彼女を見て藤田さんが、顔を引きつらせながら呟いた。

 

「うわぁ……。

 プロデューサー、黒幕向いてますよ。

 十王会長まで手玉にとっちゃうなんて」

 

「いや、藤田。

 こいつは案外ポンコツだぞ。

 さっきも目を離した隙に、貴様のフル装備をして一人で観客席の中に混ざっていた」

 

「ええ~~…でも、ちょ~~と嬉しいような………恥ずかしいような………」

 

「ちょっと燕!

 余計なことを言わないでちょうだい!

 折角の私のイメージが崩れちゃうじゃない!」

 

「もう崩れてるに決まってるだろう……!」

「諦めてください」

 

「そ、そんな……!」

 

 雨夜副会長と私によって轟沈した十王会長は、『ベルサイユのばら』みたいにショックを受けて白目を剥いた。

 

「……ステージの上だとあんなにすごいのに、降りると残念だよね。

 『一番星(プリマステラ)』って」

 

「手毬も似たようなもんでしょ」

 

「は、はぁ!?

 私は普段からクールだから!」

 

「無理があります。

 少なくとも、わたし(ミヤビ)は十王星南と同類だと思ってます」

 

「なぁ…!」

 

 賀陽さんと花岡さんから刺されて月村さんも唸っている。

 月村さんは黙っていればクールで通せるかもしれないが………こうして仲を深めるとわかることもあるだろう。

 現に、花岡さんが今抱いている月村さんへのイメージは、『H.J.I.F』前と今とでは大きく違うのは容易に想像がつく。

 

 ……流石にそろそろまずいか。

 観客の移動は既に始まっており、団体客をすぐに退場させるのは難しいので一通り掃けてから移動してもらう予定だったが、時間はもう間もない。

 

「さて、みなさん。

 そろそろ片付けと、ご招待した皆様をお見送りしないといけないので、一度この辺でお開きにしましょう。

 十王会長、雨夜副会長、他に話があるなら後日伺いますので、今は片づけの指示を他の委員と協力してお願いします」

 

「あら、そっちはもう終わらせてるわ。

 あなたのお友達……相上裕さん、だったかしら?

 彼が音頭を取って、進めてたわよ。

 あなたに残っている仕事は、961プロの方々のお見送りぐらいよ。

 100プロは……私が対応するわ」

 

 ……裕にも、後で礼を言わなければいけないな。

 いや、元々言うつもりではあったが、借りが増えてしまった。

 

「後で彼にもお礼を言いましょう。

 色々お任せしてしまって申し訳ありません。

 ……一つアドバイスをしますが、十王社長が用意しているグッズは全てご自身のモノです。

 あなたのグッズは余すことなく、収集しているとおっしゃってました。

 今日販売のグッズも事前予約をされていたぐらいです」

 

「………そう、あの人が、ね」

 

「思うところはあるのかもしれませんが、彼は不器用なだけの普通の親御さんです。

 言葉遣いと威圧感があるので、誤解されやすいようですが……。

 今日来てもらった時も、あなたのライブを楽しみにしていましたよ」

 

「……アドバイス、きちんと受け取ったわ。

 燕、その……付いてきてくれる?」

 

「はぁ、仕方ないな……」

 

 雨夜副会長はやれやれといったふうに十王会長に追従する。

 だが、部屋を出る前に、私たちの方を振り向き、私と……秦谷さんに視線を移した。

 

「『初星学園の黒幕(フィクサー)』、そして()()()()

 今日は私の負けだ、それは甘んじて受け入れる」

 

 言いながら目を瞑り、悔しそうに歯を食いしばった彼女は、目を見開いて声を荒げた。

 

「だが、賀陽にも言った通り、今日の借りは近いうちに返してやる。

 覚悟しておけ!」

 

「まぁ、ふふ、楽しみにしていますね。

 今日は拍子抜けでしたので、次はもっと楽しませてください」

 

「傲慢で不遜な後輩だ。

 だが、今の貴様にはその資格がある。

 その顔が崩れる様が、今から楽しみだ。

 それではな」

 

 そう言って今度こそ二人とも出て行った。

 私も、いい加減自分の仕事をしなければならない。

 

「私も、もう行かなければなりません。

 終わり次第、チャットに連絡するので出られるようにだけしておいてください。

 それでは、また後程」

 

 彼女たちの返答を受けて、私はある物をもって控室を飛び出た。

 そのまま私は関係者席に急いだ。

 

 すれ違いざまの挨拶も手短に、人の波を縫って、無事に極月学園様御一行がいる席までたどり着いた。

 ようやく人の波は落ち着きつつあり、多少遅くなったものの団体客が帰るにはちょうどいいぐらいに人が掃けていた。

 

「極月学園、並びに961プロの皆様方、大変お待たせいたしました。

 これから、帰りのご案内をさせていただきます」

 

「随分と遅かったじゃあないか。

 だが……クックック、今日は良いものを見せてもらった」

 

「お褒めにあずかり光栄です。

 いかがでしたか?

 私の担当アイドルたちは?」

 

「『初星学園』は?とは聞かないのだな」

 

「ここまでやって評価が上がらなければ、シンプルな実力不足でしょう。

 他の方であればそう聞きますが、黒井理事長のようなこちらの事情に詳しい方にそう聞くのは野暮です」

 

「ほう……相変わらず、中々の胆力だ。

 これだけ大勢の前で、あれほどの啖呵を切ったのも頷ける。

 一応聞こう、あれは想定通りだったのか?」

 

()()()()()()()()()()()()

 それも、あの場面で出なければ場が白けてしまうことは確実な、悪質性の高い悪戯です」

 

「クックック、流石の貴様も、あの老いぼれにしてやられたというわけか。

 貴様のところの学園長は、老いぼれではあるが未だ耄碌はしていない。

 扱いには気を付けておくと良い」

 

「ええ、次に同じことをしたら殺す、と念を送りながら『次はありません』と警告をしました。

 少しは控えてくれるでしょう」

 

 私の発言で、黒井理事長はおろか、他の961プロ、極月学園の皆様も含めた全員が沈黙した。

 

 ……いけない、あの時を思い出しながら言ったからか、少し気持ちを込めすぎてしまったようだ。

 私の言葉に真剣みがあったからか、黒井理事長が口を開く。

 

「……本気で言っているのか?」

 

()()()

 プロデューサーがそんなことをするはずないでしょう。

 あくまで、ただ釘を刺しただけですよ」

 

 今度はにっこり微笑みながらそう言った。

 こんなことを続けられたら対応策を考える必要はあるかもしれないが、流石に不要だろう。

 

「通りで入れ替わりで出てきたあの老いぼれが、少し固まっていたわけだ。

 ふむ…貴様の担当アイドルの評価、だったな」

 

「ええ、忌憚ない意見を窺っても?」

 

「………月村手毬、秦谷美鈴、賀陽燐羽に関しては961プロに来てもいいぐらいの力がある。

 藤田ことね、花岡ミヤビの両名も、『SyngUp!』に比べれば劣る部分もあるが、少し鍛えれば問題ないだろう。

 よくこの短期間で仕上げたものだ」

 

 非常に高い評価を頂いたが、一つだけ訂正しなければいけない。

 

「恐悦至極。

 ……花岡さんは担当契約を結んでいませんが」

 

「すぐ結ぶのだろう?

 花岡ミヤビの歌い方が『SyngUp!』に近くなっていた。

 どうせ貴様が一枚噛んでいるのだろう」

 

「……バレてしまいましたか。

 出来れば口を噤んでいただけると助かるのですが」

 

「別に構わないが、他にも気づいている者はいるだろう。

 隠したいのであれば、もっと上手くやるといい」

 

「ご指導ありがとうございます。

 白草さんはいかがでしたでしょうか?

 ご期待にはそえられましたか?」

 

「ああ、ただの暇つぶしのつもりだったが……見どころのある雛鳥が多かった。

 ハンドラー、貴様の担当アイドルの名前は覚えておこう。

 特に………()()()()()

 よくあれを見つけたな?」

 

 どうやら、白草さんに一番お眼鏡にかなったのは、藤田さんだったらしい。

 確か、十王会長と同様に白草月花さんもアイドルのステータスが見える、とか言っていたような……。

 どれだけ藤田さんのポテンシャルがやばいのかがよくわかる。

 

 ………それとも、藤田さんにはこう……厄介な人に好かれる運命でもあるのだろうか?

 

「いろいろな事情があって埋もれていた人材です。

 信じられますか?

 今年の頭まで、成績不良の劣等生で赤点と補習の常連。

 ライブなんてほとんどできなかったなんて」

 

「………は?

 貴様、本気で言っているのか?」

 

「本当ですよ。

 ですから、()()()()()()()

 あれほどの才能を無駄にするのは見ていられなかったので」

 

「………なるほどな。

 黒井理事長。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な……!?

 げ、月花、何を言っている!?

 もうすでにすべての手配が終わって…」

 

「知らん。

 こんなにも滾らせてくれる相手が生まれそうなんだぞ?

 一週間ぐらいずらせ」

 

 白草さんがとんでもない爆弾を放ち、黒井理事長が見たことないほど狼狽え始めた。

 なんで?

 

 私が感じた疑問は、黒井理事長も同じだったようだ。

 

「ず、ずらして何をするつもりだ?」

 

「決まっている。

 ハンドラー、貴様の担当アイドルたちを()()()()()

 

「………はい?」

 

「聞こえなかったのか?

 貴様の担当アイドルを鍛えてやる、と言ったんだ。

 藤田ことねをはじめとした、な」

 

「ええ……?

 いえ、それは大変嬉しい申し出ではあるのですが……」

 

 言いながら黒井理事長に視線を移す。

 彼は必死に断れと目で訴えてくるが、彼女の中ではもう決定事項のようだ。

 

「貴様の意見は聞いてない。

 叶うことなら、この場でそのままライブをしてやりたいほどだったのを、抑えているんだ」

 

 そう言いながら震える彼女は、本当に滾っていてたまらないのだろう。

 それこそ、この『H.G.F』が961プロとの合同で行われていたら、本当にライブをしていたほどに。

 

「それに……担当アイドルの成長を望んでいるのだろう?

 『試練』を望んでいるのだろう?

 ()()()()()()()

 

「……いいでしょう。

 その『試練』、受けて立ちます」

 

「なぁっ!?」

 

「黒井理事長、彼女が決めたことを覆すことはないでしょう。

 であれば、先に彼女の欲求を満たして、早く満足した状態で行ってもらった方がいいです」

 

 恐らく、彼女は月村さんたちと似通っている部分がある。

 その経験からすると、これが最適解だろう。

 

 黒井理事長もそれに納得したらしい。

 

「……………はぁ、仕方ない、か」

 

「話は決まったか?」

 

「ええ、明日は休養日にしてますので、明後日の朝の4時に初星学園前で走り込みを。

 後は放課後であれば、彼女たちは練習をしています。

 初星学園でよければ、ですが」

 

「構わん。

 ここの設備は100プロと遜色ないと聞いている。

 何回かそっちを使わせてもらったが、アレは中々のものだった」

 

「それであれば、明後日、お迎えに上がらせていただきます。

 こちらに連絡をくれれば、すぐに向かいますので」

 

 そう言って私は彼女に名刺を渡した。

 彼女はそれを受け取ると、スマホケースに差し込んだ。

 

「くく……、今から楽しみだ」

 

 白草さんは楽しそうに笑みを浮かべているが、他の961プロの方や、極月学園方々はドン引きだ。

 黒井理事長も頭を抱えているし……彼女の傍若無人っぷりは、今に始まったことではないだろうと思うが、実際にその現場を見るとドン引きせざるを得ないのだろう。

 

「あ、そういえば黒井理事長にお願いしたいことがございます」

 

「……なんだ?

 聞くだけ聞いてやろう」

 

「サインを一枚いただけないでしょうか?」

 

「サイン?

 まあ、それぐらいなら構わんが、誰のだ?

 月花ならそこにいるが……今言ったということは、違うのだろう?」

 

「当然、黒井理事長の、ですよ」

 

 私の言葉で一瞬固まった黒井理事長は、すぐに再始動したが動揺が隠せていない。

 

「な、なにぃ!?

 961プロのアイドルのではないのか!?」

 

「そちらも頂けるものなら頂きたくはありますが、尊敬するプロデューサーの1人でもある、あなたのサインを頂ければ、更に励みになると思いまして」

 

 これは事実だ。

 声が良いのもあるが、彼は歴戦のプロデューサーで尊敬するべき先達だ。

 それも、今も最前線を切り開いている。

 その手段に賛否はあるにせよ、私には尊敬できるものだった。

 

 落ち着いた黒井理事長は、少し気を良くしてくれたのかすぐにサインペンを握った。

 

「……そういうことであれば、書いてやろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 極月学園と961プロの皆様が困惑している中、私は無事に黒井理事長のサイン色紙を手に入れた。

 大事にファイルに保管し、控室から持ち出してきたビジネスバッグに大事にしまう。

 この前は貰い損ねたが、無事に貰えて安心した。

 

 そうして、私は彼らを案内してお見送りをした。

 黒井理事長からは、絶対に1週間でケリをつけるように念を押されたが、白草さん次第ですとしか言えなかった。

 

 これまで好き放題させてきたツケだと思って諦めてほしい。

 

 そのまま無事に『H.G.F』は終わった。

 100プロの方も十王会長が問題なく案内し……少し揉めたらしいが、一応十王社長とは和解したようだ。

 他の招待した方々も、先に帰っていた方以外はお礼を言って案内した。

 158プロの社長……裕也さんにも、今回かなり無理を言ったのでまた今度お礼の品を持っていこう。

 

 そして、関係者向けの打ち上げもあった。

 担当アイドルを優先して今回も遠慮する形に………していたのだが、裕がそれを考慮して明日開催にすると言い出した。

 

 事前に考えていたらしく、もうそれで話が通っていたみたいで、知らなかったのは私だけだ。

 ここでも私は嵌められたらしい。

 嬉しいような恥ずかしいような気持を味わいながら、甘んじて受け入れることにした。

 

 担当アイドルとの打ち上げは………明日を休養日にしていてよかったと言わざるを得ない程の惨状であったとだけ言っておこう。

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

これにて『H.G.F』編はおしまいです。
暫くしたら、また章分けします。
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