『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
『H.G.F』の翌日。
今日は休養日だ。
………
私の眼下で広がる景色は、全力ではないものの既に数周走り続けているため、グロッキーになってきた彼女たちが校門前を走り去っていく姿。
隣には疲れ果てた秦谷さんが、椅子に座って眠っている。
最初は膝枕を所望していた彼女だったが、男の膝枕なんて誰得かわからないし、人目が多いため断った。
ご褒美としてならやってあげようかとも思ったが、わざわざ言うことではないのでそのままにしていた。
その後、可愛くむくれた彼女は事務所からクッションを持ってきて、抱きかかえてパイプ椅子の上でふて寝している。
その姿が可愛らしいので微笑ましく見守りつつも、どうしてこうなったのかと遠い目をしながら今日の平和を噛み締めていた。
本当は私もあっちに参加したほうが良いのだが、隣で寝入っている秦谷さんを独りにしたくないと言い訳をして、彼女を見守りながらノートパソコンを叩いている。
主に昨日の反省点と彼女たちの成長記録を、再度振り返って……いや、それはとりあえずいい。
なぜ、私は彼女たちに付き合ってここにいるのか。
なぜ、私の担当アイドルたちが走っているのか。
なぜ、秦谷さんは疲れ切って眠っているのか。
時間は昨日の夜まで遡る。
私の担当アイドルたちと、私で行った打ち上げは散々なものだった。
最初は普通の打ち上げだったのに、気が付いたら誰が一番多く食べられるかの勝負になり、秦谷さんを除いた全員が暴飲暴食をしていた。
たまにはいっぱい食べていいですよと言った私も悪いのだが、それに乗った月村さんが煽り始めたのがまずかった。
ライブ終わりでテンションがまだ高めだったこともあってか、最初に乗ったのは花岡さんだった。
負けず嫌いの彼女は、普段は自分を律することができているはずだったのだが、月村さんの度重なる煽りに屈した。
『自信がないんだ、「H.J.I.F」でトップスリーにも入れなかったから』
『定期試験で一番成績悪かったしね。負けるのが怖いんでしょ?』
『私、持ち歌2曲あるけど、あなたは?』
『はぁ……だから、ことねにも負けるんだよ』
以上が
そう、これはあくまで一部だ。
賀陽さんが止めようとしたが、口を開いた月村さんは止まることを知らなかった。
席の並び順が『SyngUp!』で一列、花岡さん、藤田さん、私で1列になっていたため、私は無理やり止めることができなかった。
そして、キレて殴りかかろうとした花岡さんは藤田さんに止められることになった。
『初星学園の中等部のトップアイドル! ライブ後に飲食店で暴力事件!』
頭の中で一瞬そんなニュースが流れたが、藤田さんと賀陽さんによって『初星学園』の風評は守られた。
十王会長も、こんな形で藤田さんが救世主になるとは思わなかっただろう。
だが、ブチギレ花岡さんは藤田さんも巻き込んで参加し、藤田さんも最初は拒否していたが花岡さんに乗せられた結果、いつの間にかフードファイトが始まった。
賀陽さんは完全に巻き添え……もとい、藤田さんが死なば諸共で無理やり引きずり込み、月村さんの面倒を見ている秦谷さん以外の全員が参戦する形になってしまった。
運ばれてくる大量の肉と米。
肉を必死に焼く私と、月村さんのお世話をする秦谷さん。
それを必死に食べる他の4人。
賀陽さんは適度に手を抜こうとしていたが、秦谷さんが面白がって賀陽さんの元へも肉をどんどん取り分けていたせいで、賀陽さんは逃げられなかった。
私の制止も聞かずに、白熱した4人(うち1人は死んだ目をしている)は男子大学生の私がびっくりするぐらい喰らい尽くした。
それこそ、普段の彼女たちの食事量からすれば、月村さん以外の3名は限界を超えていたと言ってもいいだろう。
こんなところで超えないでほしかった。
切実に。
普段から我慢している月村さんに軍配が上がり、花岡さんと藤田さんは悔しそうに………いや、苦しそうにしていてそれどころではなかった。
賀陽さんも相当苦しそうにしており、それでも机の上に残っている肉を残さないようにと箸を伸ばしていたため、私がストップをかけた。
そう、4人が満腹になってなお、机の上には肉が大量に残っていたのだ。
そこから始まったのは………私のフードファイトだ。
秦谷さんも頑張ろうとしていたが、彼女まで犠牲になることはないので程々に留めるように伝え、私は覚悟を決めた。
秦谷さんも焼いてくれるのを手伝ってくれているが、一人で焼いて食べているようなものだ。
うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ。
覚悟を決めて食べ続けた。
お店に迷惑をかけたくないことと、食べ残しを作りたくない一心で。
もったいない精神もあるが、食べ物を粗末にすることはしたくない。
死に物狂いで食べ続け、机の上が空になるころ、私は暫く言葉を発せなくなっていた。
明日の打ち上げをどこでやるのか、怖くなって聞きたくなくなった。
本当にギリギリのところで何とか残さないで済んだが、もうこれっきりにしてほしい。
食べ終わった私たちは、秦谷さんを除いた全員がお腹がポッコリ出ていて、その様はまるで餓鬼の行進だ。
月村さんは自分が発端である自覚があったようで、終わった後にこう言った。
「プロデューサー……怒ってる?」
「………食べ物を粗末にするような行いを仕掛けたことは怒っています。
明日は休養日を取り消しで、無理がでない程度に走ってもらいます。
うっ……でなければ、『H.G.F』の全体打ち上げはあなた方は参加させられません」
「うぐ……ごめんなさい」
「花岡さんたちにも謝ってください………うっ」
「……ミヤビ、みんな、ごめんなさい」
私が吐き気を必死にこらえている中、しょぼくれた子犬のようになってしまった月村さんの謝罪を、全員受け入れてくれた。
一番キレていた花岡さんも、お腹がパンパンなこともあって、しょぼくれた月村さんに追撃するほどの元気はなかったようだ。
そして、時は現在に戻る。
彼女たちは昨日の暴飲暴食の代償を払っているところだ。
無理なペースで走らないように時間を測りつつ、サボらないように周回数を数えている。
今日は流石の賀陽さんと花岡さんもペースを落として、月村さんと藤田さんを含めた4人で仲良く走っている。
私が走っていない理由は、秦谷さんを残して走りたくないこともあるが、昨日食べたものがまだ残っている気がしているからだ。
カルビと豚トロと豚バラばっかり食べたせいで、非常に胃もたれをしている。
よかった、高校を卒業したばかりの大学生で。
成人式を迎えていたら、今日はグロッキーだったかもしれない。
秦谷さんとドラッグストアに行って胃薬を買えて本当に良かった。
折角、裕が都合を利かせてくれたのに、これで参加できなかったら申し訳ないにもほどがあるだろう。
秦谷さんが疲労困憊なのは、彼女たちのケアをしていたからだ。
食べ過ぎた彼女たちに胃薬を買いにドラッグストアへ行き、全員に胃薬を飲ませて月村さんを寝かしつけ、朝食は昨日の食べた分が重たすぎるため軽めのヨーグルトとおかゆを用意し、走りに行く彼女たち用にドリンクとタオルを用意していた。
そのせいで、普段の休日であればまだ寝ているような時間に起きて、支度をしていた彼女は疲れ切っていた。
ライブ後でなければ通常運転でいられたのだろうが、流石の彼女もライブ後に振り回されるのは厳しかったようだ。
すでにそれなりの周回数を重ねているため、時刻はもうそろそろ11時ごろになるというところ。
今日は学校がない休日なのだが、初星学園には寮があることもあって、何人かは訝しげに私たちを見ている。
早朝の早い時間であれば、もう見知った顔になっているが、普段とは違う時間で日中帯であれば不思議にみられても仕方ないのかもしれない。
なぜそんなことを考えているかというと、いつの間にか私の目の前に十王会長と雨夜副会長が立っていたからだ。
「ごきげんよう、プロデューサー」
「こんにちは、十王会長、雨夜副会長。
今日はどういったご用件で?」
「校門の前に不審者がいると聞いたから来てみたら、貴様らがいたというわけだ。
さっき、月村たちが走っているのが見えたから、大方自主練の監督なんだろうが……昨日のライブの後だぞ?
無理は禁物だと思うが」
「ええ、本来は休養日だったのですが、昨日の私たちの打ち上げで食べすぎたので、走らせています。
一応、迷惑にならないように配慮して敷地内の隅っこにいたつもりではあったのですが……」
「考えてみろ。
昨日、テレビを通じて全世界のトップアイドルたちに初星学園を巻き込んでケンカを売った張本人が、学園の出入り口を見張っている姿を。
一般の生徒からすれば、恐怖を覚えてもおかしくないだろう」
そうかな……そうかも……。
「そう言われると弱りましたね。
………まあ、そろそろ頃合いですし今の周回で最後にしてあげましょう。
それまで、少しお付き合いいただいても?」
「別に構わないけど……何かあったのかしら?」
「いえ、大した要件ではないのですが、一応伝えておこうと思いまして」
「?」
「明日から一週間ほど、白草月花さんが初星学園に来られます」
「………え?」
「…………聞き間違いか?
今、白草月花が来ると聞こえたが?」
「聞き間違いではありませんよ。
白草さんが来訪されます」
「はあああああああああああああああああ!?」
「なにいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
二人の絶叫は外にしてはかなり響き、周囲の生徒が一斉に私たちのほうを見た。
しかし、私を認識した瞬間に視線を外していた。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
………そんなに一般生徒に怖いことをしただろうか?
「な、なんで彼女が来るのよ!?」
「貴様、いつの間に極月学園のトップと仲を深めていたんだ!?」
「『H.G.F』の時です。
初星学園には魅力的な雛鳥がいっぱいいるから鍛えてやる、と。
まあ、主に私の担当アイドルですが」
そう言って気持ち胸を張る。
担当アイドルを自慢するときは、いつだって気分がいいものだ。
「………プロデューサー?
浮気…………ですか?」
自慢げに胸を張っていた私の背中に冷たいものが走る。
油をさしてないブリキ人形のようなぎこちなさで、後ろを振り向くと、そこには目のハイライトが消え失せた秦谷さんが私の目と鼻の先にいた。
「ひっ!」
「っ!」
小さく悲鳴を上げたのは十王会長だ。
頑張って悲鳴をかみ殺したのは雨夜副会長。
寝ているところを彼女たちの叫び声で叩き起こされた秦谷さんの不機嫌度はかなり高い。
その上彼女たちと楽しそう(当社比)に会話をしていたこともあってか、よくない誤解が生まれていそうだ。
とりあえず、本当はよくないのだが秦谷さんの柔らかそうなほっぺたを突いてみた。
「ひうっ!」
予想外の接触に驚いた彼女は、思わずかわいい悲鳴を上げて一歩後退する。
「おはようございます、秦谷さん」
「ぷ、プロデューサー!
いきなり何をされるんですか!」
「可愛らしいお顔が近くにあったので、つい突いてみたくなりました」
「もう!
怒りますよ!」
「怒った秦谷さんもとっても可愛いですよ」
「プロデューサー!」
秦谷さんには基本的に褒め殺しが効く。
こうして予想外のことをして目のハイライトを戻し、そのまま褒め続けると顔を真っ赤にしてぷんすかすることが多い。
これが嘘であれば効かないのかもしれないが、プロデューサーにとって担当アイドルは世界一可愛いので嘘になることはない。
あまり多用すると効かなくなるので、頻繁にはできないが。
可愛すぎて抱きしめたくなるが、プロデューサーとしてそんなことはできないし、仮にこんな人目の付くところでしたら、明日の朝日は留置所で迎えることになるだろう。
少なくとも、正気に戻った目の前の二人に通報されることは確実だ。
さて、このまま誤魔化されてくれるほど単純であれば楽なのだが、そんなわけはないのできちんと弁明しよう。
それに、白草さんの件はどうせ後で言うつもりではあったのだ。
昨日のフードファイトのせいで、そんな余裕がなくなっただけで。
「秦谷さん、こちらの二人は私たちに怯えた方々によって見回りに来られただけです」
「まぁ、それはご苦労様でした。
そういうことでしたら、まりちゃんたちが帰ってきたらおしまいにしましょう。
運動は走り込み以外もできますから」
「……プロデューサーと同じことを言ってるわね。
担当アイドルとプロデューサーって似るのかしら?」
「もともと似た者同士という説もあるがな。
そういう秦谷は走らないのか?」
「走るのはわたしの好みではありませんから。
のんびり、歩いたまま、追い越すのが好きなんです」
「……相変わらずの傲慢ぶりだな」
「雨夜副会長、今日は見逃してあげてください。
昨日、月村さんに振り回されて、さすがの秦谷さんもライブ終わりで疲れているんです」
「あなたたち、本当に何をしてたのよ……。
そんな様子で今日の打ち上げ、本当に参加できるのかしら?」
「最悪、秦谷さんだけ連れていきます」
「あなたの友達が泣くわよ。
折角、他の方の予定も合わせるように調整していたのに」
………本当に裕には頭が上がらないな。
いや、こき使うのは変わらないが、何故か彼にはだいぶ目をかけられている自覚がある。
今年のプロデューサー科の生徒は現役合格が少なく、同性で年が近いのが私しかいないからだろうか。
時折、憐憫にも似た目を向けてくることがあるが……それが原因なのだろうか?
まあいい。
別に理由なんかどうでもいい。
必要なことは、今の彼と私の関係だ。
そして、私が秦谷さんに本題を伝えようとしたところで、月村さんたちが帰ってきた。
ちょうどいいので、彼女たちにも伝えてしまおう。
私と秦谷さんは、ドリンクとタオルを持って彼女たちを出迎えた。
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。
来週、ついに『H.I.F』の実装ですね。
いきなり月村手毬と秦谷美鈴のストーリー実装と聞いてテンションは最高潮です。
さぁ、学マス2周年を皆さんも、一緒に楽しみましょうご友人!