『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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8話目

 『ツキノカメ』を歌う秦谷さんを正面から見る。

 先ほどは表現力云々言っていたが、やはり歌に感情を込める技術自体は、既に高いレベルでできている。

 …月村さんもだが、なんでアカペラで1回聞いただけの歌を歌えるのだろうか?

 それに、何が彼女をその気にしているのかわからないが、『秦谷美鈴』にしてはかなり力を入れて歌っている。

 これなら、この曲をライブで歌うことができる日もそう遠くはないだろう。

 

 まず私から前提を説明しましょう。

 彼女たちのポテンシャルは既にトップアイドルに匹敵するものがある。

 だから、私は彼女たちが()()()()()()()()()()()()を用意するだけでいいのだ。

 それに、『月村手毬』と『秦谷美鈴』に関しては、どこまで通用するかわからないが『ストーリー』を参考にできる箇所が多い。

 

 『賀陽燐羽』は元々二人に歌を教えていた。

 月村さんが賀陽さんに教えを受けることが、一番効率よく上達できるだろう。

 

 問題をあげるとしたら、『賀陽燐羽』に関しての情報は、他二人の『ストーリー』から推測することがほとんどだ。

 逆に言うと、確実なものがあまりわからない。

 これが一番の懸念だ。

 

 『SyngUp!』解散のきっかけは、『月村手毬』と『賀陽燐羽』の衝突によるものだったが、『賀陽燐羽』の問題がある限り、解散のリスクは付きまとう。

 何がきっかけになるかはわからないが、現状必要なことは燃え尽き症候群にも似た状態の賀陽さんに、火を点けることだ。

 

 火を点けるには、薪が必要になる。

 憧れていた『アイドル()』を抜いてしまったことで、火が消えたのであれば、新しい憧れを、自分が新しい何にも負けない憧れになればいい。

 それが、『秦谷美鈴』の出した答えだった。

 

 今の私には、その答え以外見つけられていない。

 だが、直接それを伝えても、過程が十分なものでなければ結果は伴わないだろう。

 あの答えは、『秦谷美鈴』が『P』と積み上げてきたから得られた答えであって、私が答えをカンニングして教えたところで、中身がないものになってしまう。

 実力がついていない状態でその答えを伝えたところで、()()()()()になることはできない。

 

 それに秦谷さんが得られる答えが、必ずしも同じというわけではないだろう。

 今の私にできることは、彼女が答えを見つけるまでの手伝いをしていくこ

「…担当アイドルの歌を聴きながら考え事とは、随分と不躾な方ですね」

 

「うわっ!」

 

いつのまにか私の目の前に来ていた彼女は、私に囁くようにそう言った。

 目の前にいる彼女は、不満げな顔をしている。

 

 …それもそうだ、歌っている最中に目の前に来た人が考え事を始めたら誰だって怒るだろう。

 

「…いくら驚いたとしても、その反応は傷つきます」

 

「…申し訳ありません。

 少々考え事をしてしまいました」

 

「見ればわかります。

 それで、その考え事は担当アイドルの初めて歌う歌を差し置いてまで、考える必要があったのでしょうか?」

 

 そう言う彼女は、非常に不満げな顔で非常に怒っているのがわかる。

 どう考えても、私に非があるので、誠心誠意謝罪するしかない。

 

「…ないです。

 大変申し訳ありません」

 

「そう思うのでしたら、今度はきちんと聴いてください」

 

 そう言いながら彼女は再度距離を取り、最初から『ツキノカメ』を歌い始めた。

 気が付けば、月村さんと賀陽さんも練習を中断して聴いている。

 やはり、お互いにユニットメンバーのソロ曲は気になるのだろう。

 

 音源がない、生歌の『ツキノカメ』はかなりローテンポの曲に聞こえる。

 だがこの曲は、最初の方までは『静かな曲』『清楚そうな曲だな』などと言われているが、サビに入るあたりから、『フロア熱狂』『治安崩壊』『治安悪化』『治安サヨナラ』『治安はボロボロ』など、言われたい放題言われていた。

 

 これはサビに入るときに、それまでの雰囲気とは一気に変わり激しい低音の曲調に代わることから、治安が悪くなると言われている。『治安が悪くなる』というのは音楽用語で、ダークな印象や低音の激しい曲調のものを指す…らしい。

 ライブ演出のライトも、サビに入るタイミング辺りで青と白を基調としているライトが、赤いライトに変わり、静かな雨降る夜から赤い月に照らされているような、怪しげな雰囲気になるのが特徴だろう。

 決して彼女の素行が悪いから治安が悪くなるわけではない。

 

 …だが、彼女が歌に込めている思いの端々が、伝わってくる。

 そこには、歌詞に込められた意味も伝わってくるのだが、それ以上に目が語っている。

 

 『わたしだけをみて』

 

 やはり、彼女の才能は枠に押し嵌められるようなものではないようだ。

 まだデモ音源すら聞いたことがない曲でここまで歌うことができるなら、文句はないだろう。

 

 私はすっかり、『秦谷美鈴』のソロライブ会場に迷い込んでしまった錯覚に陥った。

 流石にゲームの中のMV程では…と言いたいところだが、今の目の前の彼女も負けてはいない。

 これに、ライトや衣装、音響などのライブ演出を盛り込めば十分いける。

 …これでまだ中等部だというのだから、驚きを隠せない。

 

 気づいたら、私は手を握りしめながら彼女の歌に聴き入っていた。

 楽しい時間はあっという間で、歌い終わった彼女が微笑んでいる。

 

「…いかがでしたか?」

 

「素晴らしいです。

 今のままでも、十分ライブに持ち込めるのではないかというほど、完成度が高いと思います。

 表現力…と言いましたが、要らないアドバイスだったのではないかと思う程度には」

 

 そう言いながら、遠巻きに見ていた他の二人の様子を、軽く見た。

 

 月村さんが悔しそうな表情をしているのが見える。

 賀陽さんは…少し驚いているような表情だ。

 あ、月村さんが賀陽さんにねだって歌い始めた。

 

 意識を目の前の秦谷さんに戻す。

 

「ありがとうございます。

 プロデューサーの仰っていたことを、意識した甲斐がありました」

 

 微笑む目の前の彼女はとても機嫌が良さそうで、さっきまでの不機嫌さは欠片も見えない。

 

「ですが、まだデモ音源すら聞いていませんし、ダンスの振りの方も教えていただいておりませんから、ライブに持ち組むのは当分難しいですね」

 

「デモ音源に関しては…申し訳ありません。

 出来次第、すぐに送りますが、後1、2か月は最低でもかかると思ってください」

 

 今日の朝の段階で、やっと音楽関係の人との打ち合わせの連絡段階になったのだ。

 楽曲が形になるとしても、最低それぐらいはかかるだろう。

 

 …だが、『学マス』世界では結構早めのペースで、ソロ曲が作成されていた。

 現実では年単位で動いているプロジェクトだったから、不思議ではなかったがもしかすると『こっち』では、超人みたいな音楽家がいっぱいいるのかもしれない。

 見通しが早く立つことを祈ろう。

 

「まあ…そんなにかかるんですね…」

 

「ええ、早くできればいいのですが、今の段階ではまだ何とも…」

 

「わかりました。

 のんびり、レッスンを()()()してお待ちしてますね」

 

「お願いします。

 …最後まで見ていたいのですが、今日はこの後に事務所となる教室の確認をしなくてはいけません。

 もし、皆さんも見たいようであれば、チャットツールで場所をお伝えしますので、レッスン後に来てください」

 

「まりちゃんとりんちゃんにも確認して、行けたら行きますね」

 

「無理してこなくていいですからね。

 体を休めることもアイドルのお仕事なので、疲弊しているようであれば、また後日来てください」

 

「ふふ、わかってますよ」

 

「それでは、失礼します」

 

 そう言って私は、本当に、できることなら、ずっとここで、レッスンを見ていたかったが、後ろ髪を引かれる思いで、秦谷さんに別れを告げて歌を歌っている月村さんと賀陽さんにも軽く会釈してから、レッスン室を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 レッスン室を後にした私は、その足でプロデューサー科の職員室へと向かった。

 昨日の段階である程度話を通していたこともあり、書類の不備がないことを確認してもらってから、根緒先生から事務所となる教室の鍵を渡された。

 根緒先生にお礼を告げ、さっそく事務所となる教室に向かう。

 

 事務所となる教室は、中等部でも高等部でもなく、プロデューサー科の棟にある一室だった。

 中等部、高等部の教室よりも、大学扱いのプロデューサー科の方が、教室の融通が利くからだろうか?

 そんなことを考えながら、チャットツールに事務所となる教室を打ち込みながら割り当てられた教室に向かった。

 

 教室に着くと、そこには埃を被った備品が多くあり、部屋の掃除が必要な状態だった。

 自分だけが使うならともかく、担当アイドルたちにこんな埃っぽい部屋でミーティングなんかさせられない。

 それに、電子機器を使う上であまりに埃っぽいと機器が故障する原因にもなる。

 ため息を一つつきながら、今日はこれを片付けて終わりになるかもなと、そんなことを思いながら片づけに入った。

 

 鞄には、コロナ禍の癖で持ち歩いていたマスクがあったため、着用して掃除を行うことにした。

 窓を全開にして換気をする。

 部屋の隅に掃除用具入れがあったため、そこに入っていた叩きで高所の埃を落としていく。

 煙たくなって目が痒くなってくるが、気にしないようにして埃を落としていった。

 

 幸い、4月中旬になろうとしている春の風は強く、埃を吹き飛ばしてくれている。

 順に、棚の上から棚の中、机や椅子に積もった埃を落としていく。

 粗方落とし終えると、今度は箒と塵取りでごみを、掃除用具の中にあったゴミ袋にまとめて捨てた。

 最後に、雑巾を濡らして棚や机、椅子、埋め込みの黒板を全て拭き取る。

 全てが終わるころには、日は落ち始めており、夕焼けが教室を照らしていた。

 

 いくら4月の中旬とはいえ、流石にスーツを着込んだまま2時間弱も掃除をすると汗をかいてしまっている。

 応急処置として、日ごろから持ち歩いている制汗シートで軽く汗を拭った。

 

 時刻は17時半を過ぎており、そろそろ彼女たちもレッスンを終えているころだろう。

 余裕があれば来てもいいと言ったが、中等部の生徒があまり遅い時間に出歩いていると教師から注意されるはずだ。

 

 …正直なことを言うのであれば、こんな部屋の掃除なんかしないでレッスンをずっと観て聴いていたかった。

 だが、今の私は()()()()()()()()()()彼女たちに接する必要がある。

 ただのファンとしてならそれでいいのかもしれないが、プロデューサーである以上は、虚勢でも『魔法使い』のようになんでもできるようなところを見せなければならない。

 

 月村さんと秦谷さんのソロ曲を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のも、聴いていると本当はペンライトとうちわが欲しくなる(ただのファンになってしまいそうだ)からだ。

 それを誤魔化すために、途中から聴いたり、聴いている最中で考え事をしてしまったのだが、彼女たちにとって礼節を欠いた行動だったことは間違いない。

 

 だが、予め心構えを持って、『プロデューサー』であることを心掛けた視点を持てば、ギリギリ何とかなる。

 2回目の『ツキノカメ』を聴いていた時は、それで何とかなっていた。

 昨日のユニット曲の練習の時は別のことでいっぱいいっぱいだったこともあったが、そういった浮ついた気持ちは封印しておかなければならない。

 

 すっかり逸れてしまった思考を元に戻す。

 スーツを着ている時は『プロデューサー』と自分に言い聞かせる。

 

 今日にするべき予定は粗方終わったが、今のさっぱりしたこの事務所に必要な備品類を申請しなければならない。

 現状は、机、椅子、棚、黒板(チョークと黒板消しはあった)、掃除用具ぐらいしか物がない。

 

 ライブなどを見る用のTVかモニター、ごみ箱、お茶用のポッドとコップ、見せられない書類を保管する用の鍵付きキャビネット、冷蔵庫。

 とりあえずこのぐらいは必要そうだ。

 早急に手配する手続きをして、事務所として本格的に稼働させるようにしよう。

 

 事務所を閉め、職員室に向かい備品申請書を貰いに行った。

 職員室に向かい、また根緒先生に会ったため根緒先生に事の顛末を説明して備品申請について説明を受けることになった。

 

 

 説明自体は5分程度で終わった。

 

 職員室で書類を記載することもできたが、そこまで先生を拘束してしまうことが申し訳なく思ったのと、ごみ箱は申請しなくても貰えた(本来全ての教室内に備え付けておくはずだったがなかった)ため事務所に一度置きに行きたかった。

 備品申請可能なもの、手続きの流れの説明を受け、事務所に再度戻って記載することにした。

 

 事務所に戻り、ごみ箱を置いてから机に向かう。

 申請書類を取り出し、教わった通りに記載を進める。

 

 そうして申請書類を書いている中だった。

 事務所の扉が不意に開いたのは。

 

学マスのストーリーはどの程度進めていますか

  • アプリをそもそも入れていない
  • どのキャラも親愛度10未満
  • 特定のキャラのみ親愛度10まで
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