『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される 作:プロデューサー科のもの
月村さんたちが汗だくになりながら戻ってきたところを、呼び止めてクールダウンさせた。
秦谷さんと二人でドリンクを渡したり、タオルを渡したりして彼女たちのケアをする。
月村さんと藤田さんはだいぶ息が上がっているが、賀陽さん花岡さんはまだ少し余裕がありそうだ。
「はー……はー………つ、疲れた~~……」
「はー、はー……ふぅ、
「ええ、私の都合で申し訳ないのですが、今日はこの辺にしておきましょう。
ちょっと話したいことがあるのを忘れていました」
「?
別にいいですが、どうかしたのですか?
そちらの先輩方が何か関係あるんですの?」
「いえ、お二方は別件で先ほど来られたところです。
彼女たちにも一応伝えたので、皆さんにもお伝えしようかと」
花岡さんとの会話を聞いて、他の4人もクールダウンしながら私に意識を向けている。
それを確認して、私は続けた。
「極月学園の白草月花さんをご存じですか?」
「……確か、極月学園のトップと名高い方と聞いています。
961プロにも所属していて、そちらの十王会長とも共演したことがあると」
「ふーん。
で、その極月学園のトップがどうかしたの?
極月学園なんて、100プロに数で対抗するしかできない雑魚の寄せ集めでしょ?」
「極月学園所属ではありますが、先も言った通り彼女は961プロにも所属しているプロのアイドルです。
他の極月学園の生徒とは一線を画す存在。
はっきり言って、そちらにいる十王会長よりも今の彼女は実力が上だと思っています」
「!
『
「ええ、彼女たちと同年代でここまでの実力者はなかなかいないでしょう。
私の認識に誤りはありますか?
十王会長」
「……そうね。
あまりこういったことを初星の生徒の前で言いたくはないのだけど………今の私より実力はあるでしょうね。
簡単に負けるつもりはないけれど、簡単に勝てる相手ではない」
悔しそうに自白する彼女だが、『H.G.F』で殻を破りつつある彼女ならいい勝負にはなるかもしれない。
だが、これまで自分より『
彼女に言いづらいことを言わせてしまったことを内心謝りつつ、続ける。
「ありがとうございます。
彼女の客観的な評価で、自分より上だと言わしめるそんな実力者です。
その彼女が明日から1週間ほど、初星学園に来られます」
「そ、で?」
「来る理由は、あなたたちを鍛えるためです」
興味がなさそうに返答した賀陽さんに、端的に目的だけ伝えると、今度は藤田さんが反応した。
「………え?
な、なんでですか!?」
「なんで……と言われると少し困りますね。
理由の一つは心当たりがありますが、彼女は気分屋で、私が彼女の真意を推測しきることは難しいです。
ただ一つ言えることは、黒井理事長を振り切って来ることを決めているので、確実に来る、ということだけです」
私の言葉に、十王会長と雨夜副会長が頭を抱えている様子が見えた。
黒井理事長を押し切って初星学園に入り浸ると宣言した白草さんが容易にイメージできたのかもしれない。
「彼女は……例えるなら戦闘狂です。
見込みのあるアイドルを見つけては、推したり、推すに値するかライブを吹っかけてきたり……」
「すごい迷惑な人ですね……」
スポーツドリンクを飲んで一息ついた藤田さんは、漠然とそうぼやくが、彼女に悲しい現実を突きつけなくてはいけない。
「ちなみに、一番目をつけられているのはあなたです。
藤田さん」
「……え!?
あたしぃ!?」
「そちらの十王会長も言っていましたが、あなたの『アイドルパワー』は非常に高い。
恐らく、彼女はそれに惹かれているのだと思います。
トップアイドルに限りなく近い実力を持っている彼女は、ライブを見てそれを察知したのでしょう」
「うげっ!
あれって十王会長の妄言じゃないんですか!?」
「も、妄言……!?」
「藤田の言うことが正しいだろう。
私だってそこのプロデューサーが言っていることを信じてない」
「燕まで!?」
「まあ、あなた方にとって妄言であることに変わりはないです。
見えない人にとっては確認しようがありませんから」
「プロデューサー!?
あなた、前に信じてくれたじゃない!?」
「信じてはいますよ。
『
ただ、他の人に信じさせるのは無理です。
見ようがないですし、見せようがないので」
「そ、そんな……」
私の言葉で十王会長は轟沈した。
『私』は『学園アイドルマスター』を知っており、『十王星南』の親愛度コミュ、『雨夜燕』の親愛度コミュを知っている。
だから、『アイドルパワー』については信じられるが……それを他の人にも信じてもらうのは無理だ。
信じてもらう、ということは信頼関係のごり押しだけで解決する場合もあるが、根拠が必要なことが多い。
根拠が十王会長に見えている、白草月花が理解している、だけでは根拠になりえないだろう。
そう思ってのことだったのだが……なぜか空気が重くなっている。
なんで?
疑問に思っている私に問いかけたのは賀陽さんだった。
「……あなた、いつの間に『
「『H.G.F』の準備の時です。
生徒会の方々とは……主にそちらの両名ですが、交友を深めたと思います」
「へぇ……」
「は?」
「まぁ?」
「ふーん……」
「………」
「き、貴様ら、なんでそんな目で私たちを見ているんだ?」
「プ、プロデューサー?
ことねたちの目が怖いのだけれど」
私の担当アイドルたちが二人を見る目は、どこか仄暗く、顔には影が落ちている。
確かに、担当プロデューサーがほかのアイドルに現を抜かしているのは気に食わないだろう。
「みなさん、少々落ち着いてください。
先輩方に向けていい目ではありません。
『H.G.F』が成功にありつけたのは、お二人のお力添えも大きいのです。
あなた方のプロデューサーを礼儀知らずにさせないでください」
「………はぁ、仕方ないわね。
確かに、私たちも迷惑をかけた自覚があるから見逃してあげる」
「助かります。
これからも、
「………え?」
「………は?」
私の言葉に驚愕を隠せない二人。
それを見て、『また巻き込まれてる』と、先ほどと違って憐みの目で見ている私の担当アイドル。
「え? え?
聞いていないのだけれど?」
「いえ、先ほど言いましたよ。
白草月花さんが来る、と」
「だ、だが、貴様の担当アイドルを鍛えに来るのだろう?
私たちは関係ないはずだ!」
「あの白草さんがそれで満足すると、本当に思っていますか?
特に……十王星南さん。
あなたは、あの『H.G.F』でまた一つ殻を破ろうとした。
それをライブ会場で、白草さんが見ていたんです。
何も起こらないと思いますか?」
「……………じょ、冗談よね?」
「そして、『アイドルパワー』が見える十王会長はわかるでしょう。
雨夜副会長の『アイドルパワー』は、藤田さんに負けずとも劣らず、高いものを持っている。
「……………せ、星南!
こいつの妄言だと、そう言ってくれ!」
「…………」
「なぜ黙る!?」
「否定できないからですよ。
ああ、楽しみですね。
来年、私の担当アイドルたちと鎬を削るあなた方が。
私の担当アイドルも、『初星学園』もさらに成長し………私の担当アイドルの名声は上がり、トップアイドルにさらに近づく」
本当に楽しみでたまらない。
今のままでも心が奪われる彼女たちのライブが、さらに進化していく様が。
「ですので、
成長には『試練』がつきものです。
白草さんが来てくれる理由は、彼女が言う通りなら『試練を与えてやる』だそうですよ」
「……はぁ、わかったわ。
生徒会の仕事もあるし、私と燕も自身のアイドルとしての仕事もあるから、頻繁にというわけにはいかないけれど、その申し出を受けましょう」
「……仕方ない、か。
いや、ちょうどいいと思うことにしよう。
私も今のまま……秦谷に負けたままではいられん。
冬の
「頑張ってください。
初星学園のトップが一応とはいえ極月学園のトップに負けている現状を打破してください」
「ええ、任せなさい!」
「ああ、貴様たちも月花も超えてやる!」
「それでは、解散しましょうか。
あまりここで話し込むものでもないでしょう。
私たちも戻りますので」
「む、そうだったな。
じゃあな……と言っても、後で会うことになるが」
「ええ、それじゃあ……またね、ことね」
そうして去っていった彼女たちを見送り、私の担当アイドルたちに向き合い事務所に戻ろうとしたが、彼女たちが私に向ける視線は冷たい。
代表してか、賀陽さんが私に確認するように睨みつけながら口を開いた。
「………プロデューサー?
あなたは、私たちのプロデューサーよね?」
「当然です。
彼女たちにアドバイスをしているのは、同じ学園の仲間として、あなた方の先輩として、あなた方が成長していくためのライバルとして、成長してもらわなければいけないからです」
「それにしては、少々入れ込みすぎではないでしょうか?
何か……別の理由があるのではないですか?」
秦谷さんに言われて、ふと考える。
私が彼女たちに入れ込んでいる………?
…………言われてみると、そうかもしれない。
私の担当アイドルたちに、『今の初星学園』内で敵になりうる存在かつ、
だから、花岡さんの時同様に軌道に乗せるだけ乗せて、花岡さんの時に学習したので手を引くつもりだった。
だが、それにしては入れ込みすぎている。
わざわざ秦谷さんと賀陽さんに頼み、彼女たちを立ち直らせるようなことをしたことも、今考えると
彼女たちも納得した上で協力してくれたとはいえ、普段の会話もこんな感じ……まるで、担当アイドルとプロデューサーのような会話ではよくないだろう。
彼女たちから頼まれたわけでも、私が頼んだわけでもないのに、ダラダラとそんな関係になっているのがよくない。
何事にもメリハリは必要だし、アイドルとプロデューサーの関係がだれでも気軽になってしまっては、担当を持つ意味がなくなってしまう。
なのに、無意識にか意識的にかはわからないが、ここまで彼女たちに入れ込んでしまった理由があるとしたら一つだ。
彼女たちが、『学園アイドルマスター』でプロデュースできるアイドル。
彼女たちに言った言葉で言えば、『夢』で見ていたアイドルたちに該当するからだ。
そして、それに私よりも早く、彼女が気付いたのだろう。
「………秦谷さん、もしかして気づいてしまいましたか?」
「ええ、気づいてしまいました。
あまりにも露骨すぎたので」
「………私は言われてから気づきました。
そうですか……私、彼女たちに入れ込んでいたんですね」
「ええ、もう。
思わず……嫉妬してしまうぐらいに」
………なるほど。
確かに、これは反省しないといけない。
優先順位は常に担当アイドルが頂点でないといけないのに……。
最終目標は、当然私の担当アイドルがトップアイドルになること。
それは間違えてないし、今もその目標が変わっているわけではない。
だが、その目標のために、今の目の前にいる担当アイドルたちを見落としていてはいけない。
「……申し訳ありません。
無自覚でしたが、彼女たちに少し入れ込みすぎていたようです」
「自覚していただけたのなら、お許ししましょう。
次からは気を付けてください」
「肝に銘じます。
線引きはきちんとするようにします」
自分に言い聞かせるようにそう宣言する。
彼女たちは『十王星南』と『雨夜燕』ではない。
下手に混同させないように気を付けると同時に、担当を最優先することを今一度心に刻み、言い聞かせた。
でなければ、花岡さんの時のように担当を増やしてしまいかねない。
私の言葉に満足したのか、彼女たちの溜飲も下がったようで先ほどまでの冷たい視線はもうなかった。
「さて、それでは解散しましょうか。
もう少し運動してもらおうかとも思いましたが……見たところみなさん、かなり疲労が溜まっているようです」
言いながら、彼女たちを見回す。
無理をすればもう少し運動できそうではあるが、藤田さんと月村さんは結構グロッキーだ。
あまり無理をして後に引きずるほうがまずい。
「今日はこの辺にして、夕方に備えましょう。
私は事務所に戻ります。
みなさんはどうされますか?」
「そうね……たまには私たちも事務所でのんびりしようかしら?
美鈴みたいに」
「まぁ。それでは、みんなでのんびりしましょう。
走ってばっかりでは、疲れてしまいますから」
「美鈴は走ってないでしょ。
……でも、たまには、付き合ってあげてもいいよ」
「さーんせーい!
プロデューサーともお話ししたいですし~、ちょうどいいですね♡」
「
昨日のライブの振り返りもしたいです」
「話はまとまったようですね。
それでは、行きましょうか。
昨日のライブ映像を見ながら、のんびりお休みしましょう」
そのまま5人を引き連れて、私たちは事務所に戻り、ライブ映像を流しながら雑談に興じた。
と言っても、私はノートパソコンを広げたままだが。
中等部の全体ライブから始まったそれは、反省やお互いへの称賛などを交えて、楽しみながら見ている。
まじめな反省会ではなく、あくまで雑談のためのコミュニケーションツールのようなものだ。
アイドルである彼女たちに、これより有用なものはないだろう。
時にヒートアップした会話を苛めることはあったものの、それ以外はいい時間を過ごせたといっていいだろう。
自分のライブを見て課題を精査し、お互いのライブを見てより上に行こうと、貪欲に成長しようとしている。
この分なら……明日、白草さんが来た時も大丈夫だろう。
少なくとも、失望させずに済むと思いたいところだ。
誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。