『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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85話目

 

 あの後、『H.G.F』後の打ち上げ会に担当を引き連れて参加した。

 先の打ち上げで反省したのか、高等部の先輩方や先生方もいたからか、比較的大人しく過ごしていた。

 

 普段の彼女たちを知っている、彼女たちの担任が目を丸くするほどだ。

 

 昨日の暴飲暴食もあり、比較的抑え目で食事をとっていた。

 時折十王会長や雨夜副会長、風間先輩の担当アイドルたちといった、本戦出場者組でまとまってしまったせいで、話しかけづらい雰囲気が出ていた。

 

 裕が主導となって行われた打ち上げの参加者は、物販のスタッフや会場設営に協力してくれたプロデューサー科の生徒、ボランティアで参加していた普通科の生徒、教職員、照明や音響などの演出の方々、本戦に出場したアイドル科、アイドルコースの生徒だった。

 

 当然、全員ではなく希望した者のみだったが、それでもかなりの人数になっていた。

 総勢40名程度になった打ち上げは、初星学園御用達となっている初星学園近くの飲食店をほとんど借り切った状態で行われた。

 私も交流を深めるべく、他のプロデューサー科の生徒や普通科の生徒に話しかけようとしたのだが、近づくだけで身構えられてしまったため、諦めて面識がある人とばかり話をしていた。

 途中から裕に連れられて、他の席に移ったりもしたが、結局あまり話ができなかったので諦めて担当アイドルたちの席についてしまった。

 

 納得できなかったのは、席にいた風間先輩から謎の『同志(ブラザー)』判定をされてしまったことが、他の生徒や教員に伝わり、『あ、やっぱり同じ部類なんだ』という目で見られたことだ。

 十王会長に、『一昨日も思ったけど、本当に仲が良いのね』と言われた時には、白草さんが来た時に必ず十王会長に嗾けてやると心に決めた。

 

 それなりに盛り上がった打ち上げも、未成年者の参加が多いことから8時頃には解散し、ほとんどのものは初星学園に集団で帰宅することになった。

 2次会に行く人もいたみたいだが、私は明日も朝早くから行動するため行かなかった。

 

 一応打ち上げ後で睡眠時間が削られているため、朝練の時間を1時間ずらすことになったが仕方ないだろう。

 

 

 そして今は朝の6時。

 私の前で担当アイドルたちが走り込みをしている。

 

 私の隣には…………すやすやと眠っている秦谷さんと、直立不動で走っている彼女たちを見ている()()()()()()

 

 朝の5時から走り込みをしてもらうことにしたため、彼女たちが走っている様子を眺めながらパソコンを叩いていると、スマホの通知が鳴った。

 チャットにて、『早く迎えにこい』と端的に記されたそれは、我慢できずに朝練から居合わせる気満々の彼女からのモーニングコールだった。

 

 先頭を走っていた賀陽さんを少しだけ呼び止め、白草さんを迎えに行くことを伝えて席を外し、白草さんを迎えに行った。

 彼女は初星学園の近くにあるホテルで、カバンをもって待っていた。

 恐らく、昨日から泊まり込んで待っていたのだろう。

 どれだけ楽しみにしていたんだ……。

 

「お待たせしました、白草さん」

 

「遅い」

 

「申し訳ありません。

 勝手ながら、昨日の夜に連絡がなかったので放課後からかと思っていました」

 

「早く案内しろ」

 

 急かされて彼女を案内するために、彼女を先導して歩き出す。

 秋も盛り……冬の手前とも言える今の時期、早朝に歩いている人はそう多くはない。

 トップアイドルに限りなく近いといってもいいアイドルが、こんなところを歩いているとは誰も思っていないだろう。

 

 特に話すこともないので、そのまま歩いていると意外なことに彼女が私に声をかけてきた。

 

「ハンドラー」

 

「いかがなさいましたか?」

 

「忘れないうちに、礼を言っておこうと思ってな」

 

 お礼?

 何かお礼を言われるようなことをしただろうか。

 

「心当たりがありませんが」

 

「黒井理事長に、極月学園に『H.G.F』の招待状を出したこと、そして貴様の猟犬たちのライブ映像を送ってきたことだ。

 貴様のおかげで、新しく推せそうなアイドルを見つけることができた」

 

 ……なるほど。

 彼女の興味を惹くようなアイドルと引き合わせたことはわかる。

 だが、

 

「お礼自体は受け取りますが、招待状を出したことも、ライブ映像を送ったことも、全てあなたのためではなく私自身のためです。

 極月学園には初星学園を意識してもらい、より強力なライバルになってもらう必要がありました。

 ライブ映像を送ったのも、私の担当アイドルに試練を与えてくれると言うので、担当アイドルをよく理解してもらおうと思ったからです」

 

 彼女と連絡を交換した次の日。

 彼女に期限付き且つパスワードを入力すると見れる形式にして、私の担当アイドルたちの『H.J.I.F』、単独ライブのライブ映像を送った。

 事前情報が何もないよりもあったほうが良いだろうということと、彼女が興味を惹いてくれたなら、もっと私の担当アイドルを知ってもらおうと思ったからだ。

 

 なので、100%私の勝手な理由で送り付けたのだが、彼女はそんなことは関係ないと笑う。

 

「そうつまらんことを言うな。

 送られたライブ映像を見た今、『H.G.F』を思い出すと……堪らんな」

 

 横目に見る彼女は、感極まるように震えている。

 

「喜べ。

 貴様の()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私にはアイドルの潜在的な才能を見抜く力があってな」

 

 ………十王会長が言うと胡散臭いのに、彼女が言うと説得力がある。

 

「十王会長も同じようなことを言ってました。

 『アイドルパワー』と彼女は称してましたが」

 

「十王会長……?

 ああ、学園長のほうじゃなくて、十王星南か。

 確か生徒会長だったな。

 『アイドルパワー』……なるほど。

 確かに、わかりやすい言葉ではある」

 

 余計なことを言った。

 確実に余計なことを言ったということだけはわかる。

 これで極月学園、961プロにも『アイドルパワー』という単語が生まれて汚染されていくことになるだろう。

 

「貴様の猟犬たちの『アイドルパワー』は目を見張るものがある。

 才能が覚醒している途中のようだが、それでも並みのアイドルを超えつつある。

 来年、この私に挑んでくるというのも、大言壮語ではなさそうだ。

 私のアイドルの血も滾ってくる……!

 ああ、来年が楽しみだ」

 

「あなたからそう言っていただけるなら、それに勝る裏付けはないでしょう。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 上機嫌な彼女に水を差すような言葉に、彼女の視線が鋭くなる。

 

「なに?」

 

「あなたが信用できない、というわけではありません。

 こういうことは、自分たちで自覚し、実力として理解し、それを自らの糧にすることが必要だと思っています。

 彼女たちには、他人から言われるよりも自分自身で、自分の成長を実感してほしいのです。

 他人に言われたからと言って、慢心することは停滞に繋がります」

 

 目を逸らさないで、彼女と目を合わせて真摯に思うままに言葉を紡ぐ。

 

「ですので、その見解は私たち自らで勝ち取るものです。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、鍛え上げた私の担当アイドルの全てで、あなたを打ち倒し、トップアイドルにさせます」

 

 信頼という意味では、むしろ下手な初星学園の生徒よりも白草さんのほうが信頼度は高い。

 言葉の鋭さや興味がない人への態度は問題があることもあるが、アイドルに対して非常に誠実なのは接していてよくわかる。

 だが、彼女の言う言葉をすべて鵜吞みにしてはいけないし、担当アイドルには自分たちでそう思えるようになってほしい。

 

 誰に言われるでもなく、自分が一番になると、そう信じてほしい。

 

 その想いが通じたのか、白草さんは目を丸くしたかと思うと、ふっと笑った。

 

「……なるほど。

 貴様の猟犬が急成長した理由が分かった気がする。

 プロデューサーというものを、甘く見ていたかもしれん」

 

「?

 私はプロデューサーとしてはまだまだ未熟者です。

 初星学園には、私よりも素晴らしいプロデューサーの方々で溢れています」

 

「世辞はよせ。

 謙遜も行き過ぎれば見苦しい」

 

「……そうみたいですね。

 よく言われていることでした」

 

「なら、なおさら直せ。

 不愉快だ」

 

「承知いたしました。

 善処しましょう」

 

 自己肯定感が低いのは私の悪い癖だ。

 周りから言われることが増えてきているし、直さなくてはいけないのだろうが……難しいな。

 

 性格の根っこを変えるのはそう簡単なことではない。

 変な自信を持ってしまい、慢心や油断をしていると、『プロデューサー』としての皮が剝がれてしまうかもしれない。

 その辺の匙加減も覚えていく必要があるな。

 

 その後は無言で歩いていた。

 と言っても、歩いているうちにだんだん初星学園が見えてきたからだ。

 校門前には、私が隅に置いていたパイプ椅子があったのだが、いつの間にか秦谷さんが自分の分の椅子を持ってきて座っている。

 

 座っていると言っても、座り込んで寝ているというほうが正しい。

 そんな彼女を見て、白草さんの反応は……。

 

「ほう、秦谷美鈴は眠っているようだな」

 

「ええ、彼女は走ることが好きではありません。

 歩いたまま相手を抜くことが好きな人なんです」

 

「そういうのもあるのか。

 基礎レッスンを怠るのは褒めたことではない。

 にもかかわらず、秘められた『アイドルパワー』は目を見張るものがある。

 ますます面白いな。

 それと対照的なのは……あっちか」

 

 彼女が見据えた先には、賀陽さんを先頭として花岡さん、月村さん、藤田さんが走っている姿だった。

 ちょうど校門前を走り去っていくところで、彼女に気づいて驚いているものの足を止めることはしない。

 彼女たちは、白草さんに会釈するとそのまま走り去っていった。

 

 

 そして、時刻は先ほど確認した通り6時。

 暫く彼女たちの後姿を眺めながら、彼女はつぶやいた。

 

「悪くはないペースだが、少し物足りんな」

 

「まだ彼女たちは中等部の生徒です。

 あまり無理をさせすぎると、成長期の今、体の成長に影響が出る可能性があると、トレーナーからの指導もあり、今のペースより大きく上げないようにしてもらっています。

 それでも、時折無理をしているようですが」

 

「なるほど。

 ふむ……どれ、私も走ってくるとしようか」

 

 え、という間もなく、彼女はカバンを置き去りにしてそのまま走り出した。

 かなりのハイペースでみるみるとその姿は見えなくなっていく。

 彼女たちの走り込みを見ていて、体が疼いたのだろうか。

 

 ………どうすればいいんだ。

 

 そもそも、彼女は私の担当アイドルたちが授業を受けている間、どこで時間を潰すつもりだろう。

 もしかしなくても、私が彼女に初星学園を案内しなくてはいけないのだろうか。

 

 そんな気がしてきた。

 

 十王会長にそれをさせるようなこともできないし、急に対応できる人なんていないだろう。

 で、あればことの発端は私にあるのだから責任を取って私が対応する必要がある……か。

 

 まあ、いいでしょう。

 彼女も貴重な時間を割いてここに来てくれているのだから、それ相応のおもてなしをしなければならないのは事実。

 先生方には迷惑をかけるが、先に根緒先生と学園長には話を通しておこう。

 これまで欠席したことはなかったので、単位的には問題ないが講義についていけなくなることだけは対策しておこう。

 

 少しして、秦谷さんが目を覚ました。

 

「ふぁ……まぁ。

 おはようございます、プロデューサー」

 

「おはようございます、秦谷さん。

 今日はいかがなさいましたか?

 普段であれば、7時ごろに来られることが多いですが」

 

「プロデューサーが席を外すとりんちゃんから連絡があったので、眠い眼を擦って馳せ参じたのです。

 荷物を置き去りにしていたようですので。

 おかげで、朝ごはんの支度もまだできていないんですよ」

 

 ……なるほど。

 賀陽さんが念を入れて秦谷さんに連絡を入れたから、私が来るまで代わりに監督役として出てきたのだろう。

 戻ってきた彼女たちをケアするためのドリンクや、タオルを入れたクーラーボックスも置きっぱなしだったこともあり、心配してくれたのかもしれない。

 

「それは…申し訳ありません。

 迷惑をかけるつもりはなかったのですが…」

 

「いえ、それはいいのです。

 後でたっぷりおやすみするので」

 

 本音はそれか。

 

 白草さん襲来にかこつけて、彼女はサボる気満々だ。

 実際、今日は白草さんに振り回されることは確実なので、彼女の素行不良を止めるものはいないだろう。

 

「……今日は目を瞑りましょう。

 私もあまり余裕はなさそうですので。

 それはおいておくとして、急で申し訳ないのですが、朝ごはんとお弁当、白草さんの分もご用意できますか?

 彼女だけ食堂で食べてもらうのも申し訳ないので」

 

「ふふ、それでは腕によりをかけて作りますね。

 早速準備をしてまいります。

 プロデューサー、後はお任せしてよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです。

 朝早くからありがとうございました」

 

 そうして秦谷さんは椅子を持ったまま学園に戻っていった。

 また彼女に負担をかけてしまうことは心苦しいが、その分普段よりも授業をサボりそうなのでプラマイゼロということにしておこう。

 

 彼女が去ってから、椅子に座ってパソコンを叩き始める。

 そうしてしばらく作業をしていると、白草さんを先頭にして彼女たちが帰ってきた。

 

 ………花岡さんが、白草さんを抜こうとして抜けないで悔しそうにしながら走り続けてる。

 白草さんはそれを見て嬉しそうに、好戦的な笑みを浮かべながら心の底から楽しそうに、彼女の前を走り続ける。

 賀陽さんはそれを見ながら、おいてかれている藤田さんと月村さんを心配そうに気にしながら走っており、ちょうど白草さんと花岡さん、藤田さんと月村さんの中間ぐらいの位置にいる。

 

 ペースを上げられて見るからにへばっている藤田さんと月村さんは……少し早いが、今日はいいだろう。

 明らかにへばってきた彼女たちを回収し、賀陽さんに花岡さんについていってほしいと伝えた。

 賀陽さんは頷いてペースを上げる。

 

 そうして、私は肩で息をしている藤田さんと月村さんのケアを始めるのだった。

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

学園アイドルマスター2周年おめでとうございます。
今日という日に、更新できたことをとても嬉しく思います。

当小説も気が付けば、初投稿からもう10ヶ月も経ち、いつの間にか話数は90を超え、総合評価も10,000の大台を超え、いつの間にか文字数、総UAも500,000を超えていました。
暖かい声をいくつもいただき、感想と評価につけていただいている一言コメントは何度も何度も読み返しています。
宗教上の理由で感想に返信をしておりませんが、感想と評価の一言コメントはどれだけいただいても嬉しいものです。

これからも、どこまでいけるのかはわかりませんが、のんびりマイペースで参りますので、お付き合いいただければ嬉しく思います。
また、SNSを活用しようと頑張っていますので、よければ見に来てください。

https://x.com/kanomono_

最後になりますが、学マス2周年本当におめでとうございます。
これからもいっぱい楽しませていただくので、よろしくお願いします。

PS.強化月間を無事に1位で終了することができました。
  今までも50位以内には大体入っていましたが、1位は初めてだったので幸せです。
  褒め称えてください。
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