『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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86話目

 

 本来であれば後2周ほど走ってもらうのだが、明らかにペースを上げられた結果、力尽きてしまった月村さんと藤田さんに、タオルとぬるめのスポドリを渡す。

 息を落ち着かせながら、スポドリを勢いよく飲む二人。

 居酒屋ならいい飲みっぷりだと言われるぐらいにグビグビ飲んで、ぷはぁと息を吐いた。

 

「はぁ……あれが……今の『一番星(プリマステラ)』よりも上ってプロデューサーが言ったアイドル……!

 ただの走り込みなのに、ペースは私たちよりもずっと早いし、私たちがちぎれた後も息一つ荒くしてなかった……」

 

「あれだけで、プロデューサーの言っていることを思い知らされたんですケド……。

 なんで、あんな人があたしたちに指導を…?」

 

「それだけあなた方に期待している、ということです。

 何度も言いますが、あなた方に秘められた力は素晴らしい。

 自分に届く牙になりうるからこそ、彼女はわざわざ時間を割いて我々に指導をしに来たのです」

 

 何せ、白草さんは今日私が見てから基本ずっと上機嫌だ。

 私が興を削いでしまった時は多少不機嫌そうだったが、そうでない時は本当に楽しみにしていた。

 

「幸いなことに、彼女は今とても機嫌が良いです。

 それこそ、こんな朝一に呼び出して走るぐらいには。

 ですので、あなた方は彼女から得られるものを奪い、吸収し、成長してください。

 トップアイドルへの道は長く遠いですが、彼女の『試練』を乗り越えることで、確実に近づいてきます」

 

「わかりました。

 ……もうちょっと走ってこようかな。

 いつまでも、のんびりなんてしてられないし!」

 

「あ、あたしも!

 後一周だけでも……走ってきます!」

 

「今から追いつくのはかなり難しいですし、無理をしては………行ってしまいましたか」

 

 引き留める私の言葉は最後まで吐き出すことはできなかった。

 元々、後3周がノルマではあるので大丈夫だとは思うが……授業に支障が出ない程度にしてほしい、と思うのは私の勝手だろう。

 

 彼女たちにせっかく生まれた熱を冷まさせてしまうのも、もったいない。

 なので、無理に止めないで彼女たちの頑張りを見守ることにした。

 その間に、減った分のドリンクを事務所から持ってきて、タオルも入れ替えておく。

 

 戻ってくる頃には、早くも白草さんが2周目を終えて走り去っていくところだった。

 その一歩後ろを、花岡さんが喰らいついていて逃さない。

 賀陽さんも珍しくヒートアップしているのか、花岡さんから離れないペースで走っている。

 

 普段よりもペースがかなり上がっているのに、負けず嫌いな花岡さんは普段よりも早いペースのまま白草さんを追い続けている。

 あの分では……もって後1周だろう。

 花岡さんが帰ってきたら回収することを念頭に置いて……賀陽さんもあの分なら限界は近そうだ。

 涼しい顔をしながら走っているものの、『H.J.I.F』の時に彼女を回収していた経験から、彼女の限界もそこまで遠いものではないことは想像がつく。

 

 ……白草さんが想像するよりもはしゃぎすぎている。

 

 息一つ乱さず、嬉しそうに走り去っていった彼女に、私の忠告に意味がなかったことは明白だ。

 そうなるだろうと薄々思っていたが、前置きでまだ中等部の彼女たちにはペースを抑えてもらっていると言ったのに、欠片も意味をなしていない。

 

 トップアイドルの域に片足を突っ込めるぐらいの人物は、一癖も二癖もあって当然か。

 元々、黒井理事長が持て余すほどだ。

 私が御せるような人物ではない。

 

 と、なると……やはり、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 必要なところに連絡をつけておこう。

 朝早くだが、すでに出勤している先生方もいるようでチャットの返信が来てから電話も入れる。

 流石に朝早くに電話で叩き起こすのは申し訳ないので、チャットで先に断りを入れてから連絡をしているのだ。

 心配は杞憂で、教員の方々はもう行動を開始しているらしく、無事に連絡は入れ終えた。

 高等部の先生は悲鳴を上げていたが、諦めてもらおう。

 

 そうしているうちに戻ってきた白草さんを呼び止める。

 

「白草さん」

 

「なんだ?

 まだ時間はあるだろう?」

 

「ペースを上げすぎているので、そろそろ彼女たちの方がバテてきています。

 花岡さんと賀陽さんの限界が来ているので、彼女たちは回収します。

 授業に支障が出かねませんし、ケガにつながる可能性も高くなるので、白草さんが続けたいと言っても、これは譲れません」

 

「………仕方ないな。

 走り込みは基礎レッスンの一部であって、全てではない。

 後のお楽しみは放課後に取っておくことにするか」

 

「ご理解いただけて助かります。

 お礼と言っては何ですが、学園長と高等部のトレーナー、教員に話をつけておきました」

 

「何?」

 

「今日の白草さんは、()()()()()()()()

 高等部の皆さんのレッスンを見ていただき、必要であればレッスンをしても構いません。

 私の担当アイドルたちが授業を受けている間、暇を持て余すのではないですか?」

 

「くくっ……。

 ハンドラー、私の好みを弁えてきたな。

 暇な時間はトレーニングルームでも借りようかと思ったが……いいぞ。

 その方が面白そうだ」

 

「ええ。

 1時間目は、十王星南率いる2年1組です。

 彼女たちも気になっているのではないですか?」

 

「クッ、ククク……。

 お前は本当に優秀なプロデューサーだ」

 

「恐縮です」

 

 昨日の恨みもあるし、この際に積もった恨みを晴らしておこうと思って、開幕突撃は十王会長のところに決めた。

 学園長にも話は通してあるし、問題ないだろう。

 

 『H.G.F』で嵌められたこともあるし、文句はないはずだ。

 

 少しして、花岡さんと賀陽さんが戻ってきた。

 花岡さんは白草さんと私が話しているのを見て、気が抜けたのか力尽きたように崩れ落ちる……前に抱き留めた。

 賀陽さんも崩れ落ちる一歩手前で、何とか踏みとどまっているような状態だ。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……ございま……す……はぁ」

 

「嗾ける形になった私の責任です。

 花岡さん、タオルとドリンクを用意しているのでクールダウンしましょう。

 普段よりもかなりのハイペースだったので、こうなるのも無理はないです」

 

 そのまま椅子の上に彼女を座らせて、タオルを渡し、ドリンクの口を咥えさせる。

 何とか手は動かせるようで、そのままドリンクを手にもって飲み始めた。

 

「賀陽さんも、申し訳ありません。

 かなり無理をさせてしまったようで」

 

「はぁ……はぁ……ほんっとうに、こんな無茶ぶり、もうやめなさいよ……。

 朝っぱらから、こんな疲れ切るほど走るつもりなかったのに……」

 

「それでも走ったのは、花岡さんが心配だったからですね。

 本当にありがとうございます」

 

 私が言った言葉で、運動終わりで顔が赤くなっている賀陽さんの顔が、耳まで真っ赤になる。

 普段なら声を大きくして否定するのだろうが……。

 

「…………否定する元気がないわ……」

 

「……礼を言っておきます」

 

「……そんなんじゃないってば」

 

 それでも、花岡さんには伝わってくれたみたいで、彼女の顔は見えないが耳が真っ赤になっている。

 二人ともとても愛らしくて可愛らしい。

 

 白草さんにもタオルとドリンクを渡し、後の二人を待つ。

 周回遅れになっている彼女たちだが、疲れている体に鞭打って再び走り出したのだから仕方ない。

 途中で力尽きていなければ、もうしばらくすれば帰ってくるだろう。

 

 私の目論見通り、月村さんと藤田さんはしばらくしてから帰ってきた。

 彼女たちもかなりへばっていて、再びケアをする。

 

「……そういえば、なんで手毬たち、また走ってるのよ?

 途中で抜かしたとき、びっくりしたんだけど?

 あなた、さっき呼び止めていたでしょう?」

 

「ええ、一度止めてケアをしたのですが……白草さんのことを話したら、居ても立っても居られずに走り出してしまいました。

 流石に、もう限界のようですが」

 

「授業前に力尽きてどうするのよ……。

 放課後のレッスンもあるのに」

 

「はぁ……はぁ……ゲホッ……」

 

 私と賀陽さんが話している間に、無茶が祟ったのか、月村さんが苦しそうに咳込んだ。

 急いで彼女の様子を見ようとしたが、私よりも賀陽さんの方が先に動いた。

 

「ああ、もう手毬!

 ほら、ドリンクを飲みなさい!

 ゆっくりよ」

 

「んぐ……んぐ……ぷはぁ!

 はぁ……大丈夫、ありがとう、燐羽」

 

「はぁ、気をつけなさい。

 まったく」

 

 そう言いながら、彼女は月村さんを心配そうに見ている。

 ドリンクを飲まないで息を整えているうちに、咳込んでしまったようで、飲んだら落ち着いてみたいだ。

 しばらく様子を見て、藤田さんも月村さんも落ち着いてきたようだ。

 

「皆さん、急に普段とは違うことをさせてしまって、申し訳ありませんでした」

 

 不用意に負荷を強いてしまったので、しっかり謝罪をする。

 月村さんと藤田さんが何か言いたそうにしていたが、代表するように賀陽さんが口を開いた。

 

「まったくよ。

 少しは楽しめたけど、タイミングは考えなさい。

 ライブの疲労も、まだ完全には抜けてないわ」

 

「そうさせてもらいます」

 

「で、一応確認なのだけれど、そっちにいるのが白草月花さん、でいいのよね?」

 

「そうでした。

 白草さん、ご挨拶をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「いいだろう。

 961プロ所属、白草月花だ。

 今日から暫く、貴様らを鍛えてやる」

 

 好戦的な笑みを浮かべる白草さんに対して、他の3人は尻込みしているが、賀陽さんだけは違った。

 

「そう、それじゃあ、折角来てくれたんだから、盗めるものは盗んであげるわ。

 それが望みなんでしょ?」

 

 そう言って、同じく好戦的な笑みを浮かべる。

 白草さんの全てを奪い取ってみせると言わんばかりの、その笑み。

 それは、白草さんの琴線に触れたらしい。

 

「くっくく……。

 貴様の猟犬は本当に良いな、ハンドラー。

 賀陽燐羽、お前は私が推せるアイドルだ。

 ああ、滾る……!」

 

「………ハンドラー?

 猟犬?」

 

 藤田さんが何のことかわからないとばかりに呟く。

 確かにこれを知っているのは、極月学園御一行様ぐらいだったか。

 

 藤田さんの疑問に答えるように、白草さんが続ける。

 

「ハンドラーは、そこのプロデューサーのことだ。

 そのハンドラーが駆る猟犬。

 それが、担当アイドルであるお前たちだ」

 

「……また変なあだ名が増えてる。

 しかも、今度はあたしたちまで」

 

 藤田さんがジト目で私を見てくるので、弁明を始める。

 

「担当アイドルを雛鳥扱いされたので、つい売り言葉に買い言葉で言ってしまいました。

 自分の喉元には届きそうもない、可愛い雛鳥。

 そう言われているようでムカついたので」

 

「……プロデューサーって、本当にわたし(ミヤビ)たちのこと、好きすぎではないでしょうか」

「これが平常運転だけど、まさか961プロのアイドルにまで言ってるとは思わなかったナー」

 

 二人が言っている通り、本来961プロのアイドルにこんな喧嘩を売るようなことを言うのはまずい。

 相手が白草さんだから、こうしているのと………負けていると決めつけられるのが癪だったからだ。

 

「白草さんの立場を脅かし、トップアイドルすら食らいつくす猟犬。

 雛鳥なんて、可愛い言葉では表現できないような、そんなあなたたちになってほしい。

 そんな望みは我儘でしょうか?」

 

「はぁ…まったく、いつも勝手なんだから。

 でも、いいわ。

 あなたの期待に応えてあげる。

 いつも通りに、ね」

 

「任せてください。

 プロデューサーの期待に、100パーセント……いや、200パーセントの力を出し切って応えてみせるよ」

 

「はいはーい!

 ことねちゃんも、全身全霊でがんばっちゃいますよー!

 プロデューサーの無茶ぶりなんて、今に始まったことじゃないですし」

 

わたし(ミヤビ)は勝つのが大好きです。

 当然、白草月花さんにも勝ってみせます!」

 

 ……よかった。

 さっきの走り込みだけで、格の違いを見せつけられて、少し落ち込んでいるようにも見えた彼女たちだったが、いつもの調子を取り戻してくれたようだ。

 

「期待していますよ。

 皆さんが、白草さんを超えていくのが待ち遠しいです」

 

 そうして再び白草さんに向き合った。

 

「やはり来てよかったな。

 賀陽燐羽、月村手毬、藤田ことね、花岡ミヤビ。

 お前たちは私が推すに値するアイドルだ」

 

「お褒めに預かりどうも。

 せいぜい首を洗って待ってなさい。

 で、プロデューサー、これからどうするのかしら?

 私たちはいつも通り、シャワー浴びたら準備して朝ごはん食べるけど」

 

「朝食はご一緒しましょう。

 白草さんの分も、秦谷さんにお願いしています。

 その後は通常通り授業を受けてください。

 そして、放課後のレッスンで白草さんも合流する流れになります」

 

「了解よ。

 じゃあ、一回寮に戻ってるわ」

 

「ええ、私たちは事務所でお待ちしています」

 

 彼女たちを寮まで見送ってから、白草さんと事務所に向かった。

 事務所に向かう途中も、プロデューサー科の案内をしながら向かったため、結構時間を喰ってしまった。

 

 案内しているうちに、プロデューサー科の先生や学生たちが私たちを見ていたような気がしたが、気のせいだろう。

 何人かは白目を剝いていたような気がするが、気のせいだろう。

 気のせいだと思いたい。

 

 だからその、魔王と邪神が二人一緒に現れたみたいな目を止めろ。

 

 すべての希望は消え去って俯いて生きていくしかないとばかりに、下を向いて歩くな。

 白草さんは気にしていないようだが、一応お客様なのだから、挨拶ぐらいはしてほしい。

 私のせいもなくはないから言いづらいが……。

 

 根緒先生にも、おはようございますと挨拶したら、一瞬ギョッとしていたのは少し傷ついた。

 だが、事前に話を通していたこともあって、すぐにいつも通りの対応をしてくれたのは好感が持てる。

 話していた通り、今日の授業はすべて欠席することを改めて伝えると、資料を後で渡してくれることになったのは幸いだ。

 

 その後、事務所に戻り、担当アイドルたちと朝食を食べて彼女たちを見送った。

 白草さんも、秦谷さんの料理に満足してくれたようだ。

 

 秦谷さんにも白草さんを紹介し、放課後のレッスンには顔を出しますと約束をして、彼女は事務所の隅にある布団に入っていった。

 言いたいことは色々あるが、そろそろ出ないと高等部の授業に間に合わなくなるので、念のため事務所の鍵を閉めて出る。

 鍵自体は秦谷さんも持っているから大丈夫だろう。

 

 そして、高等部の授業に白草さんを連れていき…………十王会長と雨夜副会長の絶叫が校内に響き渡った。

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

STEP4秦谷美鈴、月村手毬の両方を読了しました。
とても素晴らしく、暫く感動したまま動けませんでした……。
難易度はそれ相応に高かったですが、その分の感動が凄かったです。
あらすじにも記載がありますが、どこかのタイミングで触れる可能性が高いので、ネタバレが苦手な方はなるべく早めに読了していただいた方が良いかと思います。

また、アンケートを展開しています。
よければご協力いただければと思います。

PS.強化月間の件で褒められてハッピーです。
  甘いのは3個ください。

学マスの推し(担当)は誰ですか?

  • 花海 咲季
  • 月村 手毬
  • 藤田 ことね
  • 有村 麻央
  • 葛城 リーリヤ
  • 倉本 千奈
  • 紫雲 清夏
  • 篠澤 広
  • 姫崎 莉波
  • 花海 佑芽
  • 十王 星南
  • 秦谷 美鈴
  • 雨夜 燕
  • 賀陽 燐羽
  • 花岡 ミヤビ
  • 十王 邦夫
  • 真城 優
  • 氷渡 香名江
  • 根緒 亜紗里
  • 十王 龍正
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