『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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89話目

 

 白草さんが襲来した次の日。

 

 今の時間は放課後で、今頃私の担当アイドルたちは白草さんに扱かれている。

 昨日ははしゃいでいた彼女も、1日経ったら冷静になったのか、今日は午後の授業終わり頃に来たようで、授業中への凸はなかった。

 

 ついでに言うと、本当に今更ではあるのだが、花岡さんとの担当契約の手続きを進めた。

 後は提出するだけで終わり、と言ったところなのだが……もうちょっとタイミングを見計らっている。

 

 具体的には、来週あたりが妥当だろう。

 

 私の予定通り、『初星学園中等部のアイドルたちの実力は素晴らしい』ことは白日のもととなった。

 ……やべー集団という認知もされているようだが、いまは置いておこう。

 そして、オープンにはされていないが、業界人の間ではそのアイドルの大半を担当しているのが、『H.G.F』で表に出た私であることも周知の事実。

 

 そんな中、花岡さんを担当していないことを、()()()()打上げや、合間の会話で挟んでいる。

 

 初星学園内や、黒井理事長、十王社長などの歴戦の猛者以外には、『花岡さんは担当プロデューサーもなしに高等部の生徒と渡り合っていた』という風に見えているだろう。

 中等部の育成環境が素晴らしいと思ってもらえれば、中等部のアイドルコースに受験する人も増えるかもしれない。

 

 実際、私が深く彼女に手を出さなくても、彼女は一定のラインまでは自力でこれたことは容易に想像がつくので、嘘でもない。

 彼女のように負けず嫌いが人の皮を被って歩いているような人間が、周囲の実力がどんどん上がっている環境で黙ったままでいるわけがないのだ。

 

 まあ、それはいい。

 大事なことは、実質担当していることには変わりはないが、名実ともに変わるにはもうちょっと間を置きたいということだ。

 今はまだ、『H.G.F』の話題でSNSが熱い。

 それが落ち着いてからの方が、安牌だろう。

 

 …………書類を書き終えて私に渡してくれた彼女の顔が、すごい安堵した表情だったのは、計算外だった。

 

 そこで、私は己の失策をようやく理解した。

 あんな顔をさせるぐらいなら、さっさと結んでおけばよかった。

 

 彼女の中で不安に思う気持ちはあったのだろう。

 担当を結ぶつもりとは言いつつも、実際に契約を結ばないまま放置される、なんて普通に考えて失礼だ。

 打算を既に話していたから、大丈夫だろうと思っていたが、()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 彼女に圧し掛かっていた不安は、私が『H.G.F』の開催までに感じてたものの比ではないだろう。

 

 担当するアイドルに、あんな顔させるぐらいなら、打算も全て無視してあの時、レッスン室でとっとと契約の手続きを済ませればよかった。

 なのに、その打算を受け入れて、出すタイミングは任せます。とまで言い放った彼女の高潔な精神に、私はただただ脱帽するばかりだ。

 

 そんな彼女がそれを許容して、文句一つ、弱音一つ吐かなかったのは、私への信頼の証だ。

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を信用しすぎだと思…………いけない。

 また思考がネガティブな方に逸れている。

 

 基本は読まれたくないので真顔で過ごすように心がけているが、少し崩れると感情に揺れ動かされる表情筋は、私が思っているよりも表現力豊かだ。

 ライブでの涙腺はボロボロだし、黒井理事長からのサインを事務所に飾った時にも担当アイドルたちから、なんでそんなに嬉しそうなんですか、と言われたのは記憶に新しい。

 

「わたしのサインは欲しがらなかったのに、この人のサインは飾るんですね」

 

 あの時の秦谷さんは凄く怖かった。

 そのままにしていたら、極月学園か961プロに乗り込むんじゃないかと思うほどには。

 

 皆さんのグッズは自室に飾っていますと伝えたら、多少は緩和した。

 したのだが、結局担当アイドルたち全員のサインも飾ることになってしまい、誰が一番綺麗に書けるかで勝負が始まり、事務所の中がサインまみれになった。

 

 一番本人が飾りたいと思ったものを、それぞれ1枚ずつ飾り、残りは保管した。

 そのうち何かのタイミングで放出させてもいいだろう。

 

 面白がって、白草さんもサインをくれたので、黒井理事長の隣に飾らせてもらった。

 

 ついでに、十王会長と雨夜副会長もサインを書いてくれたので、飾ることにした。

 有名どころのサインが飾っている方が、事務所としての拍も付くというものだろう。

 勝負に乗っかって、サインを大量生産させるのはやめてほしかったが。

 

 昨日のレッスン終わりは楽しかったなと、思わず口角が上がりそうになるのを自覚し、真顔を意識して表情を戻す。

 

 こんな思考をしていては、()()()()()()()()()()()()()

 

 私は……生徒会室にやってきていた。

 中にいるのは、十王会長と雨夜副会長。

 後、お茶の用意をしてくれている姫崎さんだ。

 

「何か面白いことでもあったのかしら?」

 

「何のことでしょう?」

 

「すぐに戻していたようだけど、顔、にやけていたわ」

「ああ、私でもわかったぞ。

 気色の悪い笑みを浮かべて、何を考えていたのだ?」

 

 ……最近、十王会長と雨夜副会長の二人も、私のことを理解してきたのか察しが良い。

 不用意に関わりを増やしたツケだろう。

 

「昨日のレッスン終わりの後を思い出してました。

 おかげさまで、事務所に用意していた白紙のサイン色紙在庫が全部パーです」

 

「あれは……あなたの担当アイドルも悪いのよ?

 『一番星(プリマステラ)』よりも私のサインの方が上手に書けた!…なんて言うから」

 

「それに乗っかって、サインを大量生産する『一番星(プリマステラ)』がどこにいるんですか?」

 

「ここにいるわ!」

 

 そうやってドヤ顔で胸を張る十王会長。

 雨夜副会長が眉間に皺を寄せ、お茶を出してくれた姫崎さんが苦笑いしている。

 ちなみに、雨夜副会長のサインが一番綺麗だったと思う。

 伊達に書道が特技というだけはある。

 

 ……というか、いくら何でも煽り耐性がなさすぎるだろう。

 いや、月村さんの煽り性能が高すぎるのか?

 

 ………両方だな。

 

「はぁ…まあ、いいでしょう。

 それで、本日はどのようなご用件で?

 何もないのであれば、レッスン室に行かせてもらいますが」

 

 そう、私がここに来た理由は、十王会長に呼ばれたからだ。

 本題に入ることを察したのか、姫崎さんは生徒会室から退出した。

 

 別にいてもいいとは思うのだが、私が引き留めるのもおかしいのでそのままにした。

 

 彼女が退出したことを見計らって、十王会長が口を開いた。

 

「そうね、本題に入りましょう。

 と言っても、大したことではないのだけれど」

 

「?

 白草さんの件でしたら、今更どうしようもないと思うので、受け入れてもらうほかないですよ」

 

「そうじゃないわ。

 お礼を言わせてほしいのよ」

 

「お礼……?」

 

 なんかあったか?

 あまり見当がつかないが………いや、一つあったな。

 

「……お父様と、()()和解したわ。

 言い方ってものをもっと考えてほしかったけど、私のグッズを身に纏って参加したのを見て、私の知っている彼の姿は、一部でしかないと理解したから。

 本当に、あの日だけで彼のイメージが二転三転したわ……。

 …そのきっかけとなったあなたに、お礼を言いたかったのよ」

 

「私からもだ。

 星南が父親のことで折り合いが上手くいってないことは知っていたが……。

 こうも上手く解決するとは思わなかった。

 ………二人だけにさせていたら、かなり不安だったがな」

 

「あ、あれはお父様が悪いのよ!

 『席を用意されたから来ただけだ』って、明らかな嘘をつくのが悪いわ!

 会場で非売品のグッズまで装備して、その言い訳は無理があるに決まってるじゃない!」

 

 なんであの人はそう……人の逆鱗を撫でるのが上手いんだ。

 しかも、実の娘に恥ずかしがって正直になれずに、言い訳をしてしまうあたり……正直に言えって、あれほど言ったのに……。

 

 親としての体裁を気にしてるとかだったら、自分の格好を見て諦めてほしかった。

 

「……一つ言っておきますが、私はもっと人間味を出した方がいいとはアドバイスしましたよ?

 娘さんとの関わり方がわからないと泣きついてきましたし」

 

「……それ、本人に聞かせていいのかしら?」

 

「アドバイス通りに動けないなら、どうされても文句は言えないでしょう。

 だから、大和相手にも失敗するんですよあの人」

 

「あ、そういえばあなたが158プロの彼を復帰?、させたのよね。

 私も何度かあったことがあるのだけれど……………一言も会話ができなかったし、見向きもされなかったわ………」

 

「私も、星南に付き添ってついていったことが一度だけあるが……どんな魔法を使ったのだ?

 あの人物に依頼して曲を作らせるなぞ、到底できんと思っていたが…」

 

「……誰にでもできる方法でもないですし、誰にでも効く方法でもないです。

 そんなものがあれば、この世界はもっと単純でしょう。

 ただ……一つ言えるならば……」

 

「あるならば?」

 

 そう、一つ、たった一つだけ言えることがあるとするなら。

 

「お二人は、『引力』を信じますか?」

 

「『引力』?」

「な、何を言っている?」

 

「人と人の出会いとは、人同士が持つ引力によって定められていると思っています。

 あなた方は、大和と引力で結ばれなかったようですが……私は、たまたま彼と引きあった。

 ですから、彼にあることないこと教えて社会復帰も促しています」

 

 そう、私は彼と引かれあった。

 ふふ、命を運んでくると書いて『運命』とはよく言ったものだ。

 『()』がここまで流れ着いて(運ばれて)こなければ、彼の才能が日の目を浴びるには時間がより掛かっただろう。

 

 恐らく、()()()()()()で紹介された彼が、私と出会う機会はないだろうから。

 

「要するに、ただの偶然ですよ。

 人としての相性が良かった。

 それだけです」

 

 まあ、端的に言えばそれだけなのだが。

 『運』がよかった、これに尽きてしまう。

 だから、彼女たちも十王社長も悪くないと言いたかったのだが、雨夜副会長は私の言葉を聞いて何かを思案して口を開いた。

 

「………今の話で思い出したぞ。

 貴様、以前も『引力』だなんだと言って、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え、なにそれ、私も初耳なのだけど!?」

 

 勧誘……?

 私が普通科の生徒を………?

 

「…いつの話です?」

 

「2週間前ぐらいだな。

 確か相手は……『真城 優』だったか?

 直接相談に来たから覚えている」

 

 ……………ああ、()()か。

 

 あれ現実だったのか。

 

 てっきり夢だとばかり思っていたが……確かにあった。

 寝不足でフラフラな状態を頑張って隠して、登校している最中に、()()()()()()()()()()()が目の前で転びそうになって、支えたことが。

 転びそうになった彼女を支え、飛ばされそうになったヘッドホンを捕まえた。

 

 周囲にもっと気を付けるように注意をして、その相手を見て、厄介ごとを惹きつけそうな顔をしていたので名刺を渡したのは覚えている。

 正直、夢現の状態で歩いていたから、本当だったか怪しい気持ちだったのだが、現実だったか。

 

 ………もしかして、これのせいで普通科の生徒からも怯えられていたのか?

 

「……思い出しました。

 とても疲労が溜まっていたときだったので、てっきり夢か何かだと思っていましたが……」

 

「残念だが夢ではない。

 2日前、貴様らが校門に居たときも通報が来たのはそういうことだ」

 

「ああ、通りで普通科の生徒たちから畏怖の目で見られていると思いました。

 何かしたかと思ってましたが、してたんですね……」

 

 ようやく点と点が繋がった。

 そこまで怯えられるようなことをしたかと思っていたが、どうやらしていたらしい。

 

 そう考えていたら、珍しく十王会長が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

 

「その、大丈夫かしら?

 記憶が飛ぶほど疲れていたとは思わなかったわ」

 

「おかげさまで担当アイドルたちに醜態を晒してしまいましたが、今は大丈夫ですよ。

 生活リズムも戻しましたし」

 

「それならいいのだけれど」

 

「ちょうどいい、詳しく聞かせてもらおうか。

 普通科の生徒に手を出した時のことをな」

 

「手を出したと言われると語弊があります。

 記憶も定かではないですが、確かあの時は……

 

 あの日、私は担当アイドルたちの朝練には同行できなかった日。

 十王社長との話し合いがあったりして疲れ切っていた日ですね。

 

 最低限の準備を済ませて、頭の片隅では今日の確認事項を整理しながら、夢現の状態で夢遊病患者のように歩いていたと思います。

 今も、あまり正確な記憶はないので。

 

 そして、歩いている途中でショートカットの少女が、初星学園の校門の前ぐらいで、上機嫌に歩いていたんです。

 彼女が『真城 優』さんですね。

 

 そんな彼女ですが、ヘッドホンをつけて歩いていたからか、周囲の確認を怠ったのか、何かに躓いてしまったんです。

 体制を崩しかけた彼女を見て、体が咄嗟に動いたようで、気づいたら彼女を転ばないように右手で支えていました。

 左手には前に投げ出されそうになった、ヘッドホンを握っていたと思います。

 

「わ、わ、……す、すみません、ありがとうございます」

 

「ヘッドホンをつけて歩くのは構いませんが、足元に気を付けてくださいね」

 

「は、はい。

 すみません、気を付けます」

 

 そうして、先に行こうとした彼女の顔を見て……何を思ったんでしょうね、当時の私は。

 

「ちょっと待ってください」

 

「……わ、私に何か用ですか?」

 

 彼女は少し驚いていましたが、私にそれを考慮する余裕はありませんでした。

 

「君は『引力』を信じるか?

 今、私の目の前で転んだことに意味があることを!?」

 

「……?

 な、何を言っているのか良くわかりません…」

 

 そう言ってたじろいでいた彼女に、私は自分の名刺を渡したんです。

 

「私の呼びかけに、立ち止まってくれてありがとう。

 君に、この『名刺』をプレゼントしたい。

 別に君が必要なければそれで良いんだが…」

 

 そう言いながら、彼女は私の名刺を受け取ってその名前を見て、驚いたように私の顔を見ていたのを覚えています。

 

「出会いというものは『引力』ではないのか?

 君が私にどういう印象を持ったのか知らないが、私は『出会い』を求めている。

 いつか困ったことがあった時に、この名刺に書いてある電話でも、メールでもいいから連絡をしてほしい。

 何時、如何なる時でも構わない。

 いいね…心に留めておいてくれるだけでいい」

 

 そして、目を白黒させている彼女を置いて、私は歩みを進めました。

 

「それでは、私は先に行かせてもらうよ。

 よければ、『H.G.F』も見に来てくれると嬉しい。

 ボランティアを募っていてね、参加した生徒はそのまま観戦できる」

 

 

 ……そう言って、私は事務所に向かったんです。

 記憶違いはあるかもしれませんが、概ねこんな感じだったと思いま……なんで頭を抱えているんですか?」

 

「……貴様の仕出かしたことに頭が痛くなる。

 通りで普通科の生徒がプロデューサー科に怯えるようになったわけだ…!」

 

「勧誘したわけではないですよ?

 何か……不幸に巻き込まれそうな顔をしていたので、助けになればいいと思ったんだと思います」

 

「あなたの名刺をもらったことが不幸そのものじゃない!」

 

「なんてことを言うんですか」

 

 来年廃部寸前の放送部を復興させるために、彼女を無理やり放送部に据える十王会長に言われたくない。

 まだ推定無罪だが、これでそのまま『ストーリー』通りにいったら文句の一つや二つは吐くぞ。

 

「考えてもみろ。

 それで名刺をもらった相手が、その後2週間もしないうちに、多方面に喧嘩を売ったんだぞ?

 自分も目をつけられたと思っても、おかしくないだろう」

 

「……確かに、そう思われてもおかしくないですね。

 少々短慮でした」

 

「疲れもあったのだろうが、少しは自分の言葉の重みを考えろ」

 

「そうします」

 

 雨夜副会長の言葉は間違っていないので、諦めて受け入れよう。

 十王会長はそのやり取りを見て、むすっとしているのは何故だ?

 

「あなた、燕の言うことはきちんと聞くわね」

 

「雨夜さんが変なことを言っていたら聞き入れませんが、そういうわけではないですから」

 

「私が変なことばかり言ってるみたいじゃないの!」

 

「その通りです」

「否定できん」

 

「な、納得いかないわ!」

 

 そこから、彼女のご機嫌を取るのに30分かかった。

 レッスンに合流するのに、普段よりも遅れてしまったので、担当アイドルたちから詰められることになったのは納得できないが……。

 

 今日のレッスンは、十王会長と雨夜副会長はそのまま生徒会業務をしていたので、担当アイドルたちと白草さんで行った。

 その上、白草さんも今日は用事があると言って、途中で抜けてしまったので私たちだけになった。

 

 ……いい機会だ。

 これからのことを話すのにちょうどいい。

 少しレッスンを早く切り上げてもらい、彼女たちを私は事務所に集めることにした。

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

がっつり体調を崩して、暫くTwitterにも浮上していませんでしたが、何とか執筆はできています。
おかげで、未だに章分けもできていません……。
まだ本調子じゃないので、全快したら進めていきます。

また、結構長い期間、日間ランキングに載せていただいたこと、本日(R8/5/30 19時現在)も日間ランキングに載せていただいていることを、改めてお礼申し上げます。
モチベーションが落ちがちのときは、感想や評価の一言コメントを見て自己肯定感を上げているので、どんどんくれると嬉しいです。

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