『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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STEP1 終幕 『アイドル』と『プロデューサー』
90話目


 

 レッスン終わりの彼女たちを事務所に集めた。

 事務所のカーテンは閉め切り、外から見えないように準備をする。

 入口のドアの上にも、突っ張り棒でカーテンを敷いているため、外部からぱっと見で中は見えない。

 

 秦谷さんがお茶を全員分出してくれて、全員が席に座ったのを確認してから、私は切り出した。

 

「……もうそろそろ10月ですね。

 『SyngUp!』の皆さんと会ってから半年、藤田さんとは5月の終わりごろなので大体4か月、花岡さんとは7月に入ってからなので3か月ぐらいですね」

 

「どうしたんですか、急に。

 まだレッスンの時間だったはずですけど」

 

 月村さんは、まだ少し物足りないようだ。

 だが、これからの話は、今後に大きく関わるかもしれない。

 

「少し……今後の話をしたいと思いまして。

 私の考えている……()()()()()()()です」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 私の言葉に、何故か全員が驚きの表情を浮かべた。

 そして、次の瞬間、全員が立ち上がって私を取り囲んだ。

 

「プロデューサー!?

 どうかしたんですか!?」

「熱は……ないわね」

「睡眠不足でもないですし」

「な、何か具合が悪いとか…!?」

「変なものを食べたりしました?」

 

 言いながら、賀陽さんにおでこに手を当てられ、秦谷さんに目元を拭われた。

 コンシーラーをしてないか、直接確認するのはやめてほしい。

 

 他の三人も心配性に私を見ている。

 普段の彼女からの心証がよくわかる瞬間だ。

 

「私のことを何だと思っているんですか」

 

 心配されているのは嬉しいが、誠に遺憾である。

 

「だって…プロデューサーが私たち全員に、プラン?、を一から説明しようとするの、珍しいじゃないですか。

 『H.J.I.F』の時は私だけだったし、『H.G.F』の時は美鈴だけだったんでしょ?」

 

「…まあ、否定はしません。

 ですが……そろそろ付き合いも長くなってきましたし、このプランを本当に実行するのであれば、皆さんの許可を取っておくべきだと思ったので、話しておくことにしたんです」

 

 私が真剣にそう言うと、席に戻りつつあった彼女たちも話を真面目に聞く態勢になった。

 

「……また、他のアイドルに手を出すのかしら?」

 

 察しの良い賀陽さんにはバレていたようだ。

 秦谷さんも、私を見る目が怪しくなっているので恐らく気づいていたのだろう。

 

「……言葉を重ねないのであれば、そうなります。

 直接手を出さないで、皆さん経由でレッスンに参加させるような形で」

 

「へぇ…」

 

「……プロデューサーは、わ、私たちだけじゃ不満なんですか!?」

 

 月村さんの不安も、もっともだ。

 だから、この場を設けることにした。

 

「いえ、そういうことではないです。

 前にも賀陽さんと秦谷さんには話しましたが、これ以上担当を増やすつもりはないです。

 プロデューサーとは、担当アイドルの人生を左右するものであり、プロデューサーの不手際で担当アイドルの人生を棒に振ることもあり得ます」

 

「なら、どうして他のアイドルにも手を出そうとするのですか?

 そう言いながら、担当を増やすのがいつものお決まりになってしまいますよ?」

 

 秦谷さんに痛いところを突かれてしまった。

 自分で増やすつもりがなくても、結果的に増やしてしまっているので弁明のしょうはない。

 

 なので、先の話をしよう。

 

「………藤田さん以外の皆さんには、以前言ったことがありますが、私、『未来』が見えるんです。

 賀陽さんたちには、『夢』という形で教えてくれたと説明した件ですね」

 

「ああ、あの話ね」

 

 最初、『未来』と言ってもピンとこなかった『SyngUp!』の3人だったが、『夢』の件だと伝えたら納得してくれた。

 落ち着いている4人とは対照的に、藤田さんだけ動揺を隠せていない。

 

「……は?

 え? え?

 な、なんであたし以外、ミヤビまで知ってるんですか!?

 あたしにだけ隠してたんですか!?」

 

「申し訳ありません。

 あまりにも突拍子がなさすぎるのと、花岡さんの心を無理やりこじ開けるために必要だったんです。

 藤田さんだけ、わざと省いたわけではないんです」

 

 誠心誠意謝罪をする。

 これは嘘でもなんでもない事実だ。

 あまり大っぴらに言うようなことでもなかったし、藤田さんには、言った時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………プロデューサーがそういうなら、信じてあげます。

 でも、次に同じことをしたら……怒りますよ」

 

 そこまではまだ気づかれていないようで、藤田さんは不満そうではあるものの、納得はしてくれたようだ。

 だが、同じこと…同じこと……。

 

「……あと何かありましたっけ?」

 

「あたしが聞きたいんですケド!?」

 

 意図的に隠しているようなことは、あまりないはずだ。

 聞かれなかったから答えていないようなこと(キュウべぇ方式)があるのは否定しないが。

 

「私も、誰にどこまで話したのかすべてを記憶しているわけではないので……。

 ただ、今後はないようにします」

 

「そうしてくださ~い」

 

 素直に打ち明けると藤田さんは承諾してくれた。

 今後も情報公開には気を付けた方がいいな。

 

「それで、私が『未来』を見えるという話はどうですか?

 信じていただけますか?」

 

「……普通なら、絶対に信じませんよ?

 そんなありえない話……でも、プロデューサーの言うことだから信じます」

 

「嘘をついているかもしれませんよ?」

 

「プロデューサーなら、仮に嘘だとしても、意味のない嘘をつくとは思えないんで。

 あたしぃ、プロデューサーのこと、と~っても信頼してますから!」

 

 まったく…本当に……。

 

「………はぁ、詐欺師がここにいたら、ターゲットが5人もいますね」

 

 言いながらも私自身の口角が上がっている自覚はある。

 担当アイドルから信頼されているのは、素直に嬉しいものだ。

 

「あら、安心していいわよ。

 本当に詐欺だったら責任をもって殺すわ」

 

「目が欠片も笑ってないのが怖いんですけど」

 

「私を裏切るようなら……わかってるわよね?」

 

「存じ上げています。

 担当アイドルを裏切るようなプロデューサーなら、死んだ方がいい」

 

「……本気で言ってるのがわかるっていうのも困りものね」

 

「プロデューサー?

 軽々しく死ぬなどと言ってはいけないと言いましたよね?」

 

「そうでしたね。

 ですが、こればかりは本心ですよ。

 担当を5人も持っているのだから、裏切るということは5人分の人生を棒に振るということです。

 死んだ程度では贖いきれない」

 

 前々から言っていることだ。

 これに嘘偽りはない。

 ……月村さんたちには、ここまで言ったのは初めてだったか?

 どことなく、3人から引かれているような気がする。

 

 だが、目の前の秦谷さんはそれで満足してくれなかった。

 

「だとしてもです。

 ……次に言うようでしたら、プロデューサーの家の鍵を頂戴します。

 私の気分が悪いので」

 

()()()()()()

 

()()()()()()()()?」

 

「くくっ、違いないですね」

 

 いつぞやの会話とは逆だ。

 それが面白くて、思わず笑ってしまう。

 

「その辺にしてください。

 プロデューサー、いい加減プランの話に移ってもらえます?」

 

 それまで見守っていた花岡さんだったが、痺れを切らしたように私たちを遮った。

 秦谷さんも満足そうにしていたので、良い頃合いだろう。

 

「それでは、プランの説明の前にこれを。

 後ほど回収しますので、口外はしないように」

 

 そう言って、私は『H.G.F』の講評が記載された用紙を彼女たちに配る。

 最初は何のことかわかっていなかった彼女たちも、その紙の内容を見て、食い入るように見始めた。

 

「見ての通り、『H.G.F』の講評です。

 皆さんの成績は非常に素晴らしいものでした。

 全体を通してみても、十王会長以外に明確に負けたとは言えないでしょう」

 

「………『一番星(プリマステラ)』には届かなかったわね」

 

 そう言って悔しそうに歯を食いしばっている賀陽さんを見て、彼女が本当にアイドルに戻っていることを実感し、胸が熱くなる。

 

 それと同時に、担当アイドルを負けさせてしまった自分自身に腹が立つ。

 

「本当に惜しかったです。

 手助けしなければ、確実に勝っていたでしょう」

 

「…………プロデューサー、目つきが怖いです」

 

「おっと、失礼。

 こうなることを見越していたはずではあるのですが……やはり、担当アイドルが負けたという結果を見るのは、気分がよくないですね」

 

「勝てる勝負ではあったわよ。

 誰のせいでこうなったと思ってるのかしら?」

 

 賀陽さんの言葉はご尤もではある。

 だが、

 

「それも込みで勝ってくれないと、『一番星(プリマステラ)』の価値が落ちてしまいますからね。

 ……次は勝ちます。

 ですよね?」

 

「当然」

「当たり前です!」

「お任せください」

「あたしだって負けませんから!」

「絶対に勝ってやります!」

 

 全員が力強く返事をしてくれたことに満足して続ける。

 

「その意気です。

 さて……この講評を見て思うことはありませんか?」

 

 私がそう言うと、彼女たちは再び用紙に目を落として暫く内容を見返していた。

 そして、その沈黙を月村さんが破った。

 

「………私たちが圧倒的すぎるってこと?」

 

「ちょっ、手毬!

 そんな話なわけねーだろ!」

 

「その通りです」

 

「合ってるんですか!?」

 

 月村さんの言い方があまりにもあんまりだったが、言っていることは間違いではない。

 高等部と中等部の実力の差がほとんどないことは、明らかになってしまっている。

 

 元『一番星(プリマステラ)』や、冬の『H.I.F』に向けての調整のために温存していた人もいるので、一概にそうとは言えないのだが、そんな内情まで知っている人は少ないからだ。

 

「言い方はまずいですが、事務所内だけなら許容しましょう。

 率直に言うと、来年、あなた方が『H.I.F』に挑むときの仮想敵が少なすぎるんです。

 十王会長と雨夜副会長程度しかいない。

 『H.G.F』の参加しなかった先輩もいますが、軒並み3年生です。

 今回の『H.I.F』でも、高等部の2年生は殆ど選抜試験(セレクション)を突破できませんでした」

 

「………だから、敵も育てるって言いたいわけ?」

 

 ここまで言ったら、賀陽さんなら気づくか。

 

「その通りです。

 ……ここからは勝手な私の妄想の話ですが…あなた方に掴みとってもらう『一番星(プリマステラ)』は、トップアイドルの称号であってほしい。

 そして、夜空に一つだけ光る星ではなく、満点の星空の中で一際輝く星になってほしいと思っています」

 

「………あなた、そんなロマンチストなんです?」

 

 そういえば、花岡さんにはあまりこういった話はしなかったか。

 担当を持った時期の違いもあるので、認識はすり合わせておいた方がいいな。

 

「ええ、ロマンを追っているから、トップアイドルという高みを掴みとりたいんですよ。

 あなたたちなら、ロマンではなく現実にしてくれると信じていますが」

 

 私の期待と望みをありのまま伝える。

 それを受けて、見るからに花岡さんの表情が緩くなった。

 

「……ふ、ふふ。

 本当に……仕方がないですね」

 

「ミヤビ、めっちゃにやけてる~~」

 

「に、にやけてません!」

 

 指摘されても、まだ顔がにやけているぐらい、彼女にとって嬉しかっただろうか。

 顔を手でぐにぐにと触っているが、ちょっと離すと口角が上がっている。

 

 そんな二人を置いて、賀陽さんが続ける。

 

「言ってることは理解できるわ。

 確かに……正直なところ、今の状態でも勝ってしまう可能性があるぐらい、私たちは練り上げてきた。

 ()()の指導を受けている今なら高等部のレッスンに混ざっても問題ないと思うわ」

 

「燐羽の言う通りです。

 美鈴も、月花さんのレッスンの時は遅れないように来てたし」

 

 まだ2回しか受けていないのに、その2回をきちんと来ていたことを褒められるのは、どうなのだろうか。

 ……いや、時間通りにきちんとレッスンをしているのが珍しいことはわかるが。

 

 そう思っていると、秦谷さんが答えを口にする。

 

「わたし、サボり魔なので、こんな短時間で実力が伸ばせそうな機会を逃しませんよ。

 ここで頑張っておけば、もっとサボれそうですから」

 

「真面目に来てたと思ったのに、そういう理由!?」

 

「ふふ、どうでしょうね」

 

 ……仕方ない。

 いや、本当に仕方ない。

 秦谷さんのこれは今に始まったことじゃないし、彼女が普段通りに過ごせている証だ。

 

 ……残念に思う気持ちがないわけではないが、最近、トレーナー陣からも恐れられてきたのか、諦められたのか、呼び出しが減っている。

 5月頃から見せ始めた秦谷さんの本性は、もう学園中に広まっていると思っていいだろう。

 

 ……減っているとはいっても、週に1回は呼び出されているが。

 

「……で、誰がターゲットなのかしら?

 あなたがここまで話すってことは、既に目星はついているんでしょう?」

 

「流石は賀陽さん、話が早いですね」

 

「言っておくけど、認めたわけじゃないわよ。

 第一、仮想敵が少ないにせよ、十王星南は十分強敵でしょう?」

 

「ええ、承知しております。

 結果だけを言うと……ターゲットは『有村麻央』さん、『姫崎莉波』さんの2名です」

 

 私が言った名前にピンと来た人は……残念ながらいなかったようだ。

 少し悩んで……賀陽さんが代表して口を開いた。

 

「……聞いたことない名前ね。

 いや、姫崎先輩は高等部の生徒会役員だったかしら?」

 

「ええ、その通りです。

 有村さんは……『H.I.F』の選抜試験(セレクション)を突破できなかったものの、プロデューサー科の生徒にスカウトされるほど将来有望な方ですよ。

 『リトルプリンス』という愛称で、寮で親しまれていると伺っています」

 

「ほへー…高等部の寮のことは、詳しくないからナー…。

 中等部の寮の生徒とは、大体顔見知りだけど」

 

「え!?」

「……」

「ふふ」

「……その交友関係の広さは、わたし(ミヤビ)も尊敬するところです」

 

 交友関係の広い藤田さんと、それ以外で悲しい差が出ている。

 花岡さんは仲良くしている人がいるものの、誰にでも分け隔てなく仲のいいわけではない。

 

 それを察して、藤田さんが苦い顔をした。

 

「……本当に、問題児ばっかりだナ~」

 

「赤点と補習の常連である、藤田ことねもでしょう。

 むしろ成績優秀、才色兼備、人望もあって慕ってくれている子たちもいる、わたし(ミヤビ)こそが本当の優等生です」

 

「成績、私の方が上なんだけど」

 

「お友達がいない負け犬の遠吠えは聞こえませんの。

 ……最近、わたし(ミヤビ)まであなたの後始末をしているんです。

 保護者責任じゃないんですか?」

 

 月村さんの強がりも、花岡さんには通じない。

 その花岡さんも、既に彼女たちの関係にも慣れてきたのか、私ではなく賀陽さんと秦谷さんを見た。

 

「保護者じゃないんだけど」

「その辺はりんちゃんに任せてますから」

 

 裏切られた賀陽さんが秦谷さんを見て絶叫した。

 

「聞いてないんだけど!?」

 

「こ、子ども扱いしないでくれる!?」

 

「もう無理です。

 『H.J.I.F』の時はかっこよかったのに……普段がボロボロすぎます」

 

「そ、そんなことないから!」

 

「第一、りんちゃんが見本としてきちんとお手本になってくれないのがいけないと思います」

 

「自分で考えないと意味ないじゃない。

 いつだって私たちが見ていられるわけじゃないんだから」

 

 ……ああ、こうなってはもうだめだ。

 月村さんと花岡さんがやいのやいのと言い合いだし、賀陽さんが秦谷さんと教育論を交わし始めてしまった。

 

 そうして、私と藤田さんは二人揃って同じように苦笑いして、嵐が過ぎるのを待つことになった。

 




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