『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される   作:プロデューサー科のもの

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93話目

 

 秦谷さんが満足そうに頷いて、そのまま月村さんにバトンを渡した。

 

「まりちゃん、次はまりちゃんの番ですよ」

 

「なんか、すごい言いづらい雰囲気なんだけど」

 

「大丈夫ですよ、月村さん。

 月村さんの思うままに話していただければ、満足しますので」

 

「……プロデューサーはもう知ってる癖に」

 

「ええ、あの時お聞きしましたね。

 『H.J.I.F』の前に」

 

「……それでも自分の口から言わせたいんでしょ。

 この変態!」

 

 月村さんはキッと私を睨みつけてくる。

 ……これはこれでいいなとか思うようになったらまずいな。

 

「他の人に言ってはダメですよ。

 私にはいくら言ってもいいですが」

 

「プロデューサー?」

 

「違います、秦谷さん。

 決してそういう意味ではありません」

 

 秦谷さんの目が怖い。

 目のハイライトが薄っすら消えてきている。

 

 なんて月村さんに敏感なんだ。

 

「?

 そういう意味ってどういうこと?」

 

「あー……あ、あとでプロデューサーが教えてくれるから、まずはきちんと話しなさい」

 

 賀陽さんがしれっと私に全てを投げてきたが………いざ聞かれたら全力で誤魔化すしかない。

 馬鹿正直に言ったら、秦谷さんに惨殺されそうだ。

 

 そんなことを考えていたら、賀陽さんに促されて、月村さんはぽつりぽつりと語り始めた。

 

「……小さいころの私は……怠け者で、太ってて、甘えん坊で、性格も悪くて。

 なんの取柄もなかった。

 そんな自分のことが、大嫌いだった」

 

 月村さんの原点は、やはりこれなのだろう。

 花岡さんと藤田さんは、意外そうな顔をしている。

 賀陽さんは納得したように頷いて…秦谷さんは、そんなことないのにと言いたげな不満そうな顔だ。

 

「トップアイドルを目指したのは……誰もが憧れる存在だから。

 初めて会ったアイドルは、翼があるみたいに踊ってた。

 女神様みたいな歌で、私と、みんなの心を奪っていった」

 

 彼女の言う『初めて会った女神様』が誰なのかを、秦谷さんと賀陽さんは知っているから……自然と頷いていた。

 そうして月村さんは目を閉じた。

 

「もしも自分があんな風になれたなら、私は私を好きになれるかもしれない。

 そう思ったから」

 

 目を開けて彼女は、迷うことのないように私を見据えていた。

 

「毎日、それに向かって努力する自分が……みんなで走っていくのが好き。

 時々、怠けたくなっちゃうときもあるけど……みんなが助けてくれるから、私は走っていられる。

 一人でがむしゃらに走っても、ずっとずっとモヤモヤしたのが残って、うまく歌えなかった。

 だから……今みたいに、みんなで走っていきたい。

 一人で走るのも楽しいと思ってたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 彼女は他の4人を見たと思ったら、照れくさそうに目を逸らす。

 

「プロデューサーが言った通り、美鈴には美鈴の、燐羽には燐羽の、ことねにはことねの、ミヤビにはミヤビの、みんなのペースがあって……バラバラなのに、一緒にレッスンするのが楽しいんです。

 今、月花さんが少しだけど来てくれて、十王先輩と雨夜先輩もレッスンに参加した時も楽しかった。

 プロデューサーが、そういう環境を作ってくれたこと、本当に感謝してます」

 

 月村さんのその言葉が本心からのものだと、付き合いが長くなってきた私にはわかってしまった。

 

「私は、燐羽や美鈴みたいな才能がある本物のアイドルじゃないし、この翼も造り物で本物じゃない。

 燐羽と美鈴みたいに、歌もダンスも習得は早くないし、何回もレッスンして、ようやく同じステージに立ててます。

 でも、あなたが、みんながこの翼でも高く飛べるって教えてくれたから。

 こんな私でも、みんなに並べるって教えてくれたから……」

 

 ああ……もう、だめだ……。

 最初に個人面談をした時には、二人の足を引っ張っていると嘆いていた少女が……自分なんか、としきりに口にしていた少女が、よくぞ、ここまで……。

 

「だから、あなたを、みんなを一番高いところまで連れて行ってあげます。

 そのために……プロデューサーのプランも完璧にこなしてあげる。

 感謝していいよ」

 

 月村さんの宣言は、私の胸を打ち抜いていた。

 最後に月村さんらしさが出ていたが、もう途中から私は放心してしまい……暫くして月村さんが痺れを切らした。

 

「………何とか言ってください」

 

「申し訳ありません……。

 少し泣きます」

 

「え? え? え?」

 

 月村さんは混乱しているが、もう限界だ。

 顔を上げたまま、私の頬を涙が伝う。

 声を上げずに、無言で泣き続ける私の姿に、月村さんは困惑していた。

 

「…グスッ」

 

「まりちゃん…!」

 

「ちょ、ちょっと美鈴!

 抱きしめないで……うう…」

 

 ふと見ると、賀陽さんも私と同じように涙ぐんでいる。

 秦谷さんは我慢できずに月村さんを抱きしめた。

 藤田さんと花岡さんも、涙目になっている。

 

 月村さんは本当にずるい。

 カッコいいときはどこまでもカッコいいんだ。

 

 幼げな言動もあるのに、こういう時のギャップがすごい。

 それに惹かれ、彼女の歌に恋をして、彼女を愛している。

 

 だから……言わなければならないことがある。

 

「月村さん…あなたは、自分を天才じゃないと、造り物の翼だと言いますが……私は、それでもいいと思います」

 

「え?」

 

「私があなたに惹かれたのは……あなたが必死に努力をして、私の魂を震わせたからです。

 できることなら、努力しないで、好きなものを食べて、好きに遊ぶような生活をしたいと思うのが普通です。

 ましてや、月村さんたちのような年頃の少女なら尚のこと」

 

「……うん」

 

 ライブの打ち上げで色々食べに行っているが、それ以外は秦谷さんにカロリーを調整したメニューをお願いしている。

 月村さんの好みも考慮はしているが、それでも普通の少年少女に比べたら、彼女たちは見えないところで我慢や努力を重ねている。

 

「それを堪えて、日々の努力を苦痛に思いながら、誰よりも努力を積み上げ、高みを目指すことはそうそうできることではありません。

 秦谷さんだってできないんですから」

 

「…確かにそうだね」

 

 月村さんと私は頷きあった。

 秦谷さんは暴飲暴食はしないが、レッスンのサボりは多い。

 それは、私たちの共通認識で、誰もが否定できない事実だ。

 

 月村さんを抱きしめていた秦谷さんが顔を上げて、私たちをジト目で見ている。

 

「プロデューサー?

 まりちゃん?」

 

「でも、美鈴はそれでも結果を出せてます。

 私が認めた……本物のアイドルですから」

 

「ええ、そうです。

 でも、()H().()J().()I().()F()()()()()()()()()()()()

 

 私の言葉で月村さんだけではなく、秦谷さんも目を見開いた。

 

「……!

 あ、あれは……プロデューサーと…ミヤビが、背中を押してくれたから…」

 

「月村さんは自分を造り物の翼と言いますが、造り物が本物を凌駕しないということもないでしょう。

 誇ってください。

 あなたが、私たちが造り上げた造り物の翼は、もう本物を超えつつあるんですよ。

 他ならぬ、あなたを一番理解している幼馴染のライバルが、それをよく知っています」

 

 そうして秦谷さんに視線を送る。

 秦谷さんは、優しい笑みを浮かべながら、月村さんに語り掛けた。

 

「そうですよ。

 まりちゃんが……どれだけ積み上げて、努力を重ねてきたのか、わたしが……あなたと本気でぶつかり合った、わたしが一番知っています。

 それに、あなたは自分の翼を造り物だと卑下しますが……プロデューサーの言う通り、飛行機の方が、鳥よりずっと……高く飛べるんです」

 

「……いいこというね、美鈴」

 

 ……この会話は…私には()()のある会話だった。

 それは、『月村手毬』が『秦谷美鈴』に力強く、誰よりも高いところに飛び立つことを宣言するあのシーンだ。

 

「もちろん、わたしの翼は特別なので、もっともっと高く飛びますが」

 

「……らしいこというね、美鈴。

 じゃあ私は、飛行機じゃなくてロケットになるよ。

 誰よりも何よりも速く、どこまでも(そら)を飛んで行って―――」

 

 同じシーンだと思っていたが、最後に月村さんから出た言葉は、『月村手毬』とは違っていた。

 それが……彼女が得た物の象徴なのだろう。

 

「誰よりも高いところに、全員引っ張り上げてあげる!」

 

 そう力強く宣言するのを、私は涙なしでは見ていられなかった。

 『ソロアイドル月村手毬』ではなく、ユニットとして、一種のチームとしてみんなを引っ張っていくという力強い宣言。

 月村さんの成長を……『月村手毬』とは同じようで違う、彼女の成長を感じた。

 

 

 暫くして、私が涙を流し終えたころには、月村さんは恥ずかしそうに顔を赤くして座っていた。

 賀陽さんも目元が赤くなっているし、藤田さんと花岡さんも目元を擦った跡がある。

 秦谷さんは満足そうに、月村さんの隣で彼女の頭を撫でていた。

 

「……次は、あたしです?」

 

「そうですね。

 藤田さんからお願いしてもよいでしょうか?」

 

「いいですケド…あたし、みんなほど良いこと言えないですよ~?」

 

「構いません。

 あなたの心を、今一度聞きたいのです」

 

「…プロデューサー、ほんっとイイ趣味してますよね~!

 わかりましたよ、話しますよ」

 

 藤田さんはぷんすかしながらも、語り始める。

 

「……手毬たちには言ったし、ミヤビも気づいてるかもしれないけど、あたしの家、あんまり裕福じゃないんだ。

 だから…アイドルになれたら、うちが貧乏なのも、親が悩んでいるのも、ちびどもの将来も…。

 ぜーんぶ一発逆転して幸せになれるって思ってた」

 

「だから、アルバイトを…あれほど詰め込んでいたんですね」

 

 花岡さんは、藤田さんから家庭事情は聞いていなかったのだろう。

 藤田さんも自分から積極的に事情を話すようなことはしないので、恐らく今までずっと誤魔化してきた。

 

 ようやく納得いったとばかりに頷いた花岡さんの表情は少し暗い。

 それに気づいたのかはわからないが、藤田さんは続けた。

 

「そういうこと。

 ……だから、この学園に入りたいって親に頼んだんだ」

 

 そう言って目を閉じた藤田さんは、過去の自分の発言を悔いるかのように続ける。

 

「浅はかだよねぇ。

 学費とか、寮費とか、色々……アイドルになるのに、おカネがいくら掛かるのか―――なんて、考えもしなかった。

 結局、親にでかい負担掛けて、学園に入れてもらって、お父さんも家を出て行っちゃって…でも、アイドルを辞めたくなかったから、アルバイトをして学費を貯めて………プロデューサーにスカウトされるまで、欠片も芽が出なかった」

 

「……そう、だったんですか」

 

 花岡さんは衝撃を受けたのか、少し言葉が詰まっていた。

 

「そうそう。

 だから……あたしは、大金持ちになりたい!

 稼げるアイドルになって、家族とちょっと美味しいものを食べて、ちびどもを良い学校に入れてやって……お母さんに楽させたい!」

 

 そう言ってこぶしを握って宣言する彼女を、揶揄うような人は誰もいない。

 その言葉に裏付けられた、彼女の努力を知っているからだ。

 バイトとアイドルを両立し続けることは、並大抵の努力でできることではない。

 

「……ってのが、あたしの夢なんですけど~~…まずいです?」

 

「いえ、藤田さんらしい、良い夢です。

 家族想いなところが、特に。

 いくら家族のためと言えど、中等部の年齢で、そこまで考えて行動できる人はそうそう多くないと思います」

 

 本当に心の底からそう思う。

 いくら家族と言えど、他人のためにそこまでできるのだろうか……ましてや、中等部の少女が。

 

「えへへ~♡

 褒めすぎですよぉ~♡」

 

 くねくねしている藤田さんだが、今回ばかりはそれを咎める者はいない。

 彼女のその言葉の裏に、どれほどの想いがあるかを知ってしまったからには。

 

 だが…

 

「一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

 

「いいですよ~。

 なんでも聞いてください!」

 

「なぜ、アイドルなんですか?」

 

 私の言葉に、藤田さんの表情が変わった。

 

「それは……どういう意味で、です?」

 

「お金を稼ぐだけなら、アイドルじゃなくてもよかったはずです。

 今の藤田さんなら、歌も徐々に上達してきましたし、ダンスに関しては申し分ありません。

 藤田さんの可愛さと、トークの上手さを加味すれば、動画配信者として食べていくこともできると思います。

 安定した職業とは言いづらいですが、バズれば知名度も売れて大きな金が手に入る仕組み(メカニズム)を得られるでしょう。

 それを起点に他の仕事も舞い込んでくるかもしれません。

 第一、アイドルも決して安定した仕事ではありません」

 

「……それは」

 

「むしろ、極一部の限られた人間でなければ、投じた時間や努力に見合ったリターンはまず返っていません。

 それでも……アイドルがよかった理由が、あるのではないですか?」

 

 そう、彼女はアイドルを続けたのは理由があるのだ。

 でなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お金を稼げる仕事は、アイドル以外にもいっぱいある。

 

 むしろ、アイドルとして働ける期間が短いことを考えれば、アイドルよりも総収入が高くなる仕事はそれなりにあるだろう。

 売れないアイドルになってしまえば、なおさらだ。

 

 それでも、彼女が2年と少しを、一人で走り続けたのは……家族に負担をかけても、走り続けたいと思った理由があるはずだ。

 

「……ほんっとうにイイ趣味してますよね、プロデューサー」

 

 私に何を言ってほしいのかを察したようで、藤田さんはジト目で私を睨みつけた。

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「褒めてないですって……」

 

 諦めたように瞳を閉じた彼女は、俯きながら少しずつ語りだす。

 

「あたしは…ステージを見れる日が楽しみすぎて、“その日”を生きがいに生きていけるとこ。

 見てるだけで、むげんに元気がもらえるとこ。

 明日が、未来が楽しみになる、そんなパワーを持ったアイドルが……」

 

 そうして顔を上げた彼女の表情は晴れやかで、ステージに立っている時と同じように……いや、それ以上に輝いていた。

 

「大好き。

 そんな『アイドル』になりたい!

 ……あたしが憧れたアイドルが、そうだったから」

 

 …これは、白草さんと十王会長が気に入るのもわかる。

 彼女のそれは、アイドルに憧れを抱き、自分もそうなりたいと思う……憧憬。

 それを諦めなかったから、諦めずに積み重ねてきたから、今こうして花開くことができている。

 

「素晴らしいです。

 あなたならなれます。

 誰もが憧れ、輝けるアイドルに。

 十王会長に勝って、それを証明しましょう」

 

「はい!

 も~~~~~~~~~っと頑張って!

 プロデューサーの株も、どんどん上げて上げますからネ♡」

 

「期待していますよ」

 

 そうして、私も含めた全員が頷いていると、だんだん藤田さんの顔が赤くなっていった。

 

「……って、なんかすっごく恥ずかしいんですケド!?」

 

「そう?

 ことねっぽくて、いいと思うけど」

 

「う~~~…次!

 最後はミヤビだから!

 あたしの話はもうおしまい!

 ……顔が熱いから…」

 

 背を向けてぱたぱたと手で顔を仰ぐ藤田さんは、耳まで真っ赤だ。

 純粋にそう思っていた月村さんは、不思議そうに首をかしげているが……仕方ない。

 

「花岡さん、お願いできますか?」

 

「構いませんが……わたし(ミヤビ)は、あなたたちほど、大それたことは言えません。

 プロデューサーにもう言ったことが全てですし、前に問い詰められたときに少しは話してます」

 

「それでも、もう一度聞かせてください。

 あなたの想いを、あなたの『夢』を」

 

 呆れたようにそう言うが、花岡さんのことは私しか聞いていない。

 今後も、一緒にトップアイドルに向かって走り続けてもらうためにも、同じことだとしても、他の4人にきちんと話してほしかった。

 

 以前、彼女は私との会話を詰められたと言っていたが、彼女の性格からして言いたくないことは極力隠すだろう。

 彼女の本心や、藤田さんへの執着の理由までは……恐らく話していない。

 

 だから、洗いざらい話してほしい。

 それを汲んだ彼女は、ため息一つ吐いて語り始める。

 

「……仕方ありませんわね。

 わたし(ミヤビ)は勝つことが好きです」

 

「知ってる、すっごい負けず嫌いだもん」

 

 藤田さんの言葉に、他の3人も同様に頷いた。

 白草さんにさえ、最初に突っかかっていくぐらいだ。

 彼女の負けず嫌いは、常人よりもはるかに強い。

 

「小さいころからそうでした。

 ママにも、パパにも、先生にも、友達にも、勝つ、勝ち、勝ってきました」

 

 そう言いながら、花岡さんは頬に手を当てる。

 

「だから大好きなのです。

 ミヤビに負けた子が、とっても大好きなのです」

 

「……え?」

「……は?」

「……まぁ」

「……ん?」

 

 4人……いや、秦谷さん以外の3人が頭に疑問符を浮かべている。

 当然だ、私もそうだった。

 

わたし(ミヤビ)に負けた子たちは可愛くて愛おしいんです。

 わたし(ミヤビ)は彼女たちを守ってあげないといけないんです。

 わたし(ミヤビ)に負けたから仕方ないって、諦められるようにしてあげないといけないんです」

 

「え? え?

 ミヤビ、そんなこと思ってたの!?」

 

 藤田さんの動揺は当然だろう。

 他の3人も、少し引き気味だ。

 

「ええ………はじめてだったんです。

 今まで、積み上げて誰にも追い抜かせなかったのに……わたし(ミヤビ)に負けていた子に、追い抜かれるのが」

 

「…それって」

 

「悔しいなんて生半可な気持ちじゃありません。

 許せなかった……負けた自分を許せなかった。

 誰に勝つより……『SyngUp!』に勝つより、『一番星(プリマステラ)』になるより……()()()に」

 

 ……なんだ、きちんと言えるじゃないか。

 

 花岡さんが藤田さんをライバル視していたことは、他の全員がわかっていた。

 他ならぬ、彼女自身が宣言したと言っていたから。

 

 だが、その理由までは、私の予想通り誰も知らなかっただろう。

 

「藤田ことねに、あなたにだけは、失望されるわけにはいかないんです!

 だから、単独ライブも、『H.G.F』も、全部! 

 全てを捧げて! 

 全力で挑んできました!」

 

 声を荒げて感情のままに吐き出し続ける彼女の言葉に、全員が聞き入っていた。

 

「あなたがさっき……勝った気がしないといった、定期テストは……わたし(ミヤビ)にとっては、大切なことだったんです」

 

「ご、ごめん…そ、そんなつもりはなくて…」

 

「謝らないでください。

 わたし(ミヤビ)が勝手に思っているだけです。

 だから……あなたは十王星南を超えないといけない相手だと思っているようですが、改めて宣言します」

 

「藤田ことね!

 わたし(ミヤビ)が、あなたのライバルです!

 わたし(ミヤビ)は全員に勝ちます!

 わたし(ミヤビ)は……トップアイドルに昇りつめて、全てに勝つアイドルになります!」

 

 声を大にして言い切った彼女は、肩で息を切っていた。

 そして、息を整えて顔を上げると、すっきりした表情で言いたいことは言ったとばかりに、今度は私の方を見た。

 

「……ふぅ、これが、わたし(ミヤビ)の『夢』です。

 『運命』が『花岡ミヤビ』を選んでいないとしても、そんな『運命』ごとぶち壊して、勝利を収めて見せます」

 

 それは……明確に『未来』に抗うことを、宣言する言葉だ。

 彼女が、活躍する『未来』が少ないと知ってなお、そんなこと知ったことじゃないとばかりに、それにさえも打ち勝つという力強い宣言。

 

 そして、彼女は私に右手を伸ばした。

 

()()()()()()()、プロデューサー。

 わたし(ミヤビ)のプロデュースを受け持った以上、できないとは言わせません」

 

 ……花岡さんとは、一番付き合いが短い。

 なのに、ここまで信頼を預けてくれるのは……彼女との関係が、思いのほか良好だということだろう。

 耳を真っ赤にしながら、私にそう言った彼女は、自信満々に胸を張っていた。

 

 私も彼女の手を取って、握手を交わす。

 

「ええ、お任せください。

 私は……ここにいる全員を高みに連れていきます。

 花岡さん専属ではありませんが……手を抜くことはないので、お任せを」

 

「……ふふ、期待しています」

 

 花岡さんの柔らかい笑顔を見て、私の目に狂いはなかったことを改めて理解する。

 彼女とプロデュース契約を結べて、本当に良かったと。

 

 私が手を離すと花岡さんは名残惜しそうに手を離した。

 そんな彼女に、藤田さんがおずおずと近づく。

 

「……あ、あのさ、ミヤビ」

 

「どうかしたのです?

 まさか、怖気づいた………わけではなさそうですね」

 

「うん。

 ……さっき…あたし…失礼なこと言ったなって」

 

 藤田さんは申し訳なさそうにそう言った。

 

「そうです。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 勝った側が、勝ったことに意味がないなんて言ったら……負けた苦しみが、報われません」

 

「……そう…だよね。

 うん、そっか……あたし、勝ってたんだ。

 ミヤビにも、手毬たちにも」

 

 勝った実感が薄かった藤田さんは、その手を握り締める。

 今まで、勝ったことが少なかった藤田さんには、慣れるまでは難しいかもしれない。

 

「そうです。

 すぐに奪い返しますが……勝った以上、それに相応しい立ち振る舞いをしなさい」

 

「……うん、わかった。

 ……ありがとう、ミヤビ」

 

 ……藤田さんの気持ちも、花岡さんの気持ちも両方理解できる。

 藤田さんからすれば、明確に勝った理由もわからず、試験で勝っただけという感覚。

 花岡さんからすれば、自分がずっと勝っていたのに、守らなければいけない子に負けてしまった許せない気持ち。

 

 だが、花岡さんの言う通り、勝者には勝者の責任がある。

 勝った以上、負けた人の想いも背負っていく必要がある。

 

 謝罪を受け入れた花岡さんは、藤田さんにそのまま向き合う。

 

「それに、わたし(ミヤビ)も謝らせてください。

 最初に……定期試験の後、詰め寄った時にあなたの事情を考えないで、不躾なことを言ってしまいました。

 ごめんなさい」

 

「い、いやいや、謝られるようなことじゃないって!

 あたしが、無茶なことしてたってのは、プロデューサーにも、手毬たちにも言われてたし」

 

 頭を下げる花岡さんに、藤田さんはあわてて顔を上げさせた。

 

「だとしても、家族のために頑張っていたあなたの努力を嘲るようなこと、藤田ことねが許せても、わたし(ミヤビ)が許せません。

 事実、あなたはその無茶をやり通したのですから」

 

「ミヤビ……」

 

 藤田さんも、花岡さんのことをライバル視していた。

 それは、花岡さんがライバル宣言したからなのか……それとも、同じクラスで自分よりも先に進んでいた彼女に対しての対抗心か。

 

 そのライバルから、認められたのは、彼女にとっても感慨深いだろう。

 

「…ですので、これで手打ちにしましょう。

 この件は、お互いにこれでおしまいです。

 次は、わたし(ミヤビ)が勝ちますから」

 

「……うん!

 次()

 あたしが勝つから!」

 

「……次は私が勝つんだけど?」

「まぁ、わたしですよ?」

「私だけど」

 

 花岡さんが藤田さんに話したことを皮切りに、月村さんたちも昂りを抑えきれないのか、口を挟んだ。

 

 そのままにしてもいいのだが……ここは。

 

「そこまでにしてください。

 その闘志は……明日まで取っておきましょう。

 幸いなことに、それを存分にぶつけられる相手が、後3日間付き合ってくれます」

 

「!

 月花さんだよね!

 最初は怖いと思ったけど、歌もダンスも全部凄くて、教え方は燐羽の方が上手いけど……本当に『一番星(プリマステラ)』と同じぐらい凄かった!」

 

「ええ、彼女があそこまで乗り気なのも珍しいみたいですので……折角ですので、胸を借りて飛び込んでください。

 その方が、彼女も喜ぶでしょう」

 

「「「「「はい」!」」」」

 

 全員の返事を聞き、私はこの場を設けてよかったと、あらためて実感した。

 『SyngUp!』のプロデュースから始まり、藤田さん、花岡さんと担当を受け持つことになったが、同じ担当プロデューサーがついている以上、レッスンやライブなど、様々な場面で同じ時間を共有する。

 

 なのに、担当した時期の違いもあって、お互いの理解度に差があることが気がかりだった。

 私がいない時も、いろいろ話をしているとは思うが、こういった踏み入った話は中々しないだろう。

 

 秦谷さんはサボっている時間も一緒にいるが、他のメンバーは当然レッスンに精を出しているので、時間を獲れる機会は多くない。

 個人面談はしたものの、他の担当アイドルは知らないので、こうやって『夢』……目標を確認することで、相互理解が深まる。

 

 お互いにライバル視するにせよ、漠然としたものだけではなく、お互いの背景を理解してそれを超えていくことの意味を理解したほうが、人としてもアイドルとしても、より成長できるだろう。

 現に、全員のやる気は十分だ。

 

 

 目論見が成功して、一人頷いていると、気が付いたら全員が私を見ていることに気づいた。

 …………逃がしては……くれないよな。

 

「では……私の話……………ですね………」

 

「いきなりテンション下げないでもらえます?

 わたし(ミヤビ)だって、好きで話したわけじゃないのですから」

 

「いえ……その……この時が……この半年、ずっと憂鬱だったんです」

 

 本当に気が重い。

 これまで、それなりに信頼関係を築けたとは思っているが、これからする話は、彼女たちと築き上げた信頼が崩れてもおかしくない。

 

「……そんなに話したくないんですか?」

 

 私が明らかに憂鬱な顔をしているので、月村さんが心配そうにのぞき込んでいる。

 

 ……いい加減、覚悟を決めよう。

 担当アイドルにだけ話させて、私が話さないのは筋が通らないだろう。

 

 『プロデューサー』の皮を被っているだけの、紛い物だとしても、最低限の筋は通せ。

でなければ死ね。

「……いえ、いつか話さなければならないと思っていたのも事実です。

 覚悟を………決めます」

 

「ええ、そうしてください。

 わたしは、この時をこの半年間心待ちにしていましたから」

 

 秦谷さんにもそう言われては仕方ない。

 深呼吸を一つして……私は、最後の問いを投げた。

 

「………よし。

 では……最後に、一つ質問です。

 皆さんが聞きたい話は、『篠崎 士野』の話ですか?

 それとも、『私』の話ですか?」

 

「え?

 篠崎士野って、プロデューサーの名前だよね?

 そんなのどっちでもおんなじでしょ」

 

「……」

「……」

 

「え? え?

 手毬の言う通り、どっちも同じじゃないの?」

 

「……わたし(ミヤビ)も同じだと思いますが」

 

 月村さん藤田さんと花岡さんは困惑している。

 …が、秦谷さんと賀陽さんは、真剣な顔で黙り込んでいた。

 

 そして、暫く沈黙が流れる……が、賀陽さんが口火を切った。

 

「美鈴」

 

「ええ、わかっていますよ。

 みなさん、ここはわたしに任せてもらえますか?」

 

「………いいよ、美鈴なら、大丈夫だと思うし」

 

「うん、美鈴ちゃん、お願い!」

 

「……悔しいですが、ここは譲ります。

 万が一……外したら、取り返しのつかないことになりそうです」

 

「任されました」

 

 みんなから託された秦谷さんが、私の前まで歩み寄る。

 そして、にっこりと笑顔で言い放った。

 

「プロデューサー、わたしたちが聞きたいのは、目の前の『あなた』の話です。

 ()()()()()()()()()()()()

 『あなた』のことを、教えてください」

 

 ………はぁ、本当に…。

 

「君みたいな勘のいいガキは嫌いだよ」

 

「ふふ、正解のようですね」

 

「ええ……降参です。

 白状しましょう」

 

 ここまで…『私』を理解されてしまっては、もう後は時間の問題だろう。

 私は覚悟を決めて、話し始めた。

 

「……これは、『プロデューサー』ではない、ただの……『悪い人間』の話です」

 




誤字報告、評価や、感想、ここすき、お気に入り登録など、誠にありがとうございます。
とても励みになりますので、今後ともお暇なときにお付き合いいただければと思います。

調整をミスしてしまい、普段より倍近く文量がありますが、気にしないでください。
また、ようやくですが、章分けをさせていただきました。
これで多少は見やすくなっていると思います。
章分けして早速ですが、次話でこの章も終わりとなります。

とりあえず、章の終わりまで走っていくので、お付き合いいただければと思います。

学マスの推し(担当)は誰ですか?

  • 花海 咲季
  • 月村 手毬
  • 藤田 ことね
  • 有村 麻央
  • 葛城 リーリヤ
  • 倉本 千奈
  • 紫雲 清夏
  • 篠澤 広
  • 姫崎 莉波
  • 花海 佑芽
  • 十王 星南
  • 秦谷 美鈴
  • 雨夜 燕
  • 賀陽 燐羽
  • 花岡 ミヤビ
  • 十王 邦夫
  • 真城 優
  • 氷渡 香名江
  • 根緒 亜紗里
  • 十王 龍正
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TS転生者が初星学園でアイドルになる話(作者:ピンノ)(原作:学園アイドルマスター)

初星学園に通う、やや卑屈で少しだけ捻くれたTS転生者がプロデューサーにプロデュースされてアイドルになる話です。▼アイドル視点ですが、原作の親愛度コミュをベースに話が進んでいきます。▼※原作でぼかされている部分などで、設定の捏造などがあります。もしかしたら、私がただ知らないだけの部分も、ぼかされているんだと解釈して捏造設定をねじ込んでしまっている可能性がありま…


総合評価:2094/評価:8.72/連載:37話/更新日時:2026年06月13日(土) 18:00 小説情報

余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます(作者:はつぼし たろう)(原作:アイドルマスター)

ついこの間余命一年を宣告されたプロデューサーくんが、アイドル引退したいらしい賀陽燐羽さんの終活を全力でプロデュースしてから死ぬ話です。▼※賀陽燐羽さんの育成ストーリー的なやつです▼※学園アイドルマスターのストーリーの一部ネタバレを含みます▼※よくわかんないことが多いので作者の妄想で補完してたりします


総合評価:6452/評価:8.91/連載:17話/更新日時:2026年06月10日(水) 17:00 小説情報

ルキンフォー・エム(作者:來馬らんぶ)(原作:崩壊:スターレイル)

銀河を駆ける鉄道で有名な名作アニメ映画に脳を焼かれた男がいた。▼そしてそんな男の転生先には、似たような銀河を駆ける列車があった。▼じゃあもう乗るしかないじゃんね。▼『あの人』みたいな綺麗なおねーさんを探しに行こうぜ、めくるめく星の海へ!▼========================▼もろこし様(@morokosi_0141)にファンアートを頂戴しました。…


総合評価:15204/評価:9.44/連載:68話/更新日時:2026年06月12日(金) 22:34 小説情報

親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい(作者:スイートズッキー)(原作:超かぐや姫!)

輪廻の外から出てきた男が、親友のスパダリと一緒にハッピーエンドを迎えにいく話。


総合評価:13256/評価:9.17/完結:36話/更新日時:2026年05月11日(月) 23:00 小説情報

超かぐや姫! 星の降る音(作者:サトウシュン)(原作:超かぐや姫!)

ある日、目が覚めると8000年前の日本にいた青年ミコトがそこで出会った謎の白い生物かぐやに振り回されながら彩葉に会うために2030年まで生きていく話。▼なお、主人公は不老不死です。


総合評価:8988/評価:9.07/完結:48話/更新日時:2026年06月13日(土) 17:00 小説情報


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