荼毘に宗教勧誘チャレンジ!   作:がしやま

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第10話【独白】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幼い頃から俺の家にはオモチャやぬいぐるみの代わりに水晶や壺といった変なものばかりで溢れていた。

 遊び盛りで動き回るのが大好きだった俺は、正直ガラクタばっかりで邪魔くさいなぁと内心思っていた。でも少しでも傷つけたら両親は烈火のごとく怒り狂い、よく謎の石に向かって何度も頭を下げさせた。

 

 ――ごめんなさい、息子の無礼を許してください、神様。

 

 こんな言葉をずっと繰り返していた。

 俺が壺を割って怪我をした時でさえ、手当も後回しにして神様、神様、神様。

 

 当然不満に思った。実の息子より、いるかいないかもわからない曖昧な存在の方が大事なのか、と幼い俺は拗ねに拗ねた。

 だが同時に子供だったということもあり、こんな感情も芽生え始めた。

 

 

 ――俺も、神様になってみたいな……。

 

 

 純粋に、子供心でそう思った。

 皆からチヤホヤされて、崇め奉られて、こんなに大事に思われて、とても羨ましい。

 ジェラシーや恨みもいつしか憧れ一色に塗り替えられた。皆がヒーローごっこをしている間はずっと空を眺めて、どこかにいるかもしれない神様とやらに羨望の眼差しを向け続けていたのをよく覚えている。

 

 神様になりたい。

 大きな存在になりたい、影響力もあって誰もが注目するような神様になりたい。

 単純で頭の悪い考えだ、愚直で無計画、幼稚な夢だ。それ故に誰も俺の夢を信じてくれなかったし、応援してくれようとさえしなかった。冗談でもいいからそこは少しぐらい背中を押してほしかったものだ。

 

 

 でも俺には秀でた頭脳や運動能力があるわけでも、特別な個性があるわけでもなかった。

 俺は俗に言う、無個性と呼ばれる子供だった。4歳になっても小学生になっても個性が発現することはなく、地味な毎日を送る日々。

 

 膨れていく夢と希望、しかし現実という名の逆風が歩みを拒む。

 無個性の、ごく普通の一般人。そんなゴミみたいなステータスの俺が神様になろうだなんて無茶な話である。

 中学生になる頃にはとっくに夢も諦めかけていた。受験も忙しかったし、夢だの何だの考えている暇はなかったのだ。

 

 

 

 

 ――しかしある日、転機が訪れた。

 

 それは重病で入院しているおじいちゃんのお見舞いに行った時だ。

 おじいちゃんは既に末期だとかで医者からは余命宣告もされた。僅か一ヶ月の命、病気は着々とその老い耄れて免疫を失った身体を蝕んでいく。

 衰弱しきった彼の姿はまともに見てられなかった。

 

 その頃からおじいちゃんは口癖のように「早く死にたい」、「楽になりたい」と弱音を吐くようになった。

 俺には医療の知識があるわけでも回復の個性があるわけでもなかったので、おじいちゃんの涙ながらの嘆きに対して無力感に包まれながらも「そんなこと言わないでください」、「頑張って生きましょう」と励ましの言葉を送り続けた。

 

 でも、そんなことを繰り返すにつれて俺は彼が可哀想になってきた。

 苦しそうで、痛そうで、動けすらしない。こんな人生の何が楽しいのだろう。無駄に苦しんで、無駄に生きているだけ。

 彼の苦しみも全く知らない俺が口だけのエールを送って生きるよう促す、この構図がなんとも残酷に思えた。

 ああ、本当に可哀想。

 

 哀れみのこもった目でベットに横たわるおじいちゃんの手を握った。しわまみれで、食事もまともにとれていないのかガリガリ。これじゃあ死んでいるのと大差ない。

 この人は何のために生き、何のために死んでいくのだろう。

 

 

 

 早く、死ねたらいいのに。

 

 

 

 ――ふと、カタカタと窓を揺らしていた冬の風がピタリと止まる。

 エアコンが壊れたのかと錯覚する程急激に部屋の温度が下がり、酸素が薄くなった。灰色の空が病院全体を丸々と包み込んでいるようで気味が悪かった。あの不穏な空気と鳥肌は今でも生々しく鮮明に覚えている。

 

 あまりの不気味さになんだか嫌な予感を覚え、不安が心にしみこむと共に「おじいちゃん……」と縋るように声をかけた。胸のざわめきは一層俺の中の恐怖に追い打ちをかける。

 しかしどれだけ待っても返事は無い。眠っているように見えた、だが様子がおかしい。そしてその時ようやく気付く。

 

 死んでいた。

 

 蝋燭の火が音もなくフッと消えるように、いつの間にか命の灯は煙一つ上げず静かに消えていた。

 雨の匂いがやけに鼻につく、外から聞こえてくる雨音が脳内で反響し続ける。

 

 

 まだ温かさの残るその手を思わず離し、尻餅をつきながら床に座り込む。両手がカタカタ震える。

 乱れた息、せわしなく流れ続ける汗、ぶつぶつと浮き上がる鳥肌。そんな中でも俺は必至に思考を働かせた、ナースコールを押すのも忘れて。

 

 

 俺はあの時、イカレていたんだ。

 だから目の前で起きた死に対して悲しみ一つ抱けなかったのだ。混乱が、涙腺に歯止めをかけていたのだ。

 きっとそうだ、絶対そうだ。俺は動揺していたんだ、混乱していたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――これで、神様になれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「――という経緯で神様目指してるんですけど、よければ俺のこと信仰してみません?」

 

 

「前置きだけで壮大なストーリー完成させてんじゃねーよ混乱するわ」

 

 

 どうやら今日も勧誘は失敗したようだ。

 今回のは結構自信があったんだけどな、と溜息を吐きながら次の作戦を考えていたら「しれっと流すな」と結構強めに背中を蹴られた。足跡付いてたら後でクリーニング代請求しとこ、どうせお金持ってないんだろうけど。

 

 

「今日は一切荼毘さんのこといじってませんけど」

 

 

「いじってる自覚あったのかよ死ね腹立つ……んで本題は?」

 

 

「勧誘ですが? 具体的な説明をすれば効果的かと思い俺の過去話を挟んでみました」

 

 

「その過去話とやらが濃密過ぎてそういった意図があったことにすら気付けなかった俺だが、この結果をお前はどう捉える」

 

 

「荼毘さん理解力無いなーって思いました」

 

 

「理解力の一言で片づけんなどう考えてもそれ以前の問題だろうが低能」

 

 

 「無駄な創意工夫を施すな」とことごとく酷評された挙句罵倒された。

 ……荼毘さんは全部俺のせいだと言い張るが、もとはといえば普通の勧誘しても何一つ靡いてくれない荼毘さんにも色々と責任はあると思います。飴と鞭の使い方が下手くそなんですよ、人間関係の不慣れさが全面に現れている。

 

 

「……そもそも、こんな話を俺にしてどうする? 通報されたら一発アウトだろこんなん」

 

 

「荼毘さんは通報する側というよりもされる側かなと思って」

 

 

「曇り無き眼で言ってんじゃねーわ」

 

 

「あとうちの宗教団体が解体されることになったみたいで、結構焦ってるんです」

 

 

 横でグチグチ文句を言っている荼毘さんをスルーし、近くの石に座る。

 

 世間で不審死事件だ何だ騒がれていた例の一件だが、犯人が一向に捕まらないということで警察はついに団体の強制解体という手段に出た。元からカルト云々で問題視されていたこともあって、おそらく抗議活動を行ったとしても解体は確定みたいなところはある。

 そういう事情も相まって俺は新規の信者さんを集めるのに忙しいのだ。

 

 

「神様は人から信仰されてこその神様ですからね、解体されるって聞いた時は慌てましたよ。

 本当はあの団体を乗っ取って俺が神様に成り代わろうとか考えてたので、これじゃあ台無しです」

 

 

「想像以上の腹黒さに俺がドン引いてるの伝わるか?」

 

 

「計画的と言ってください」

 

 

 折角下準備も頑張ったのに、団体自体を解体されてしまえば全てが最初からやり直しになってしまう。

 その前になんとか人を集めて新しい信者さんたちを用意しなければならないのだ。

 

 

「……何故、周囲は俺の考えを理解してくれないんでしょうね。

 良いと思いません? 痛みも苦しみも無く、眠りと共に死ねるんですよ」

 

 

 近くにあった木の枝を拾い、やるせない気持ちをぶつけるように地面をグリグリ削る。何の意味無く生み出された図形たちが地面に模様を付けていく。

 

 

「この世には死を求めている哀れな人たちが大勢いる。

 けれども日本では安楽死が認められていない、だから行き場の無い彼らの想いに俺が応えてあげているんです」

 

 

 人を殺すことならやろうと思えば誰だってできる。しかし苦しみの無い死を与えることは、誰にでもできることじゃない。

 これは俺が、俺だけしかできないことだ。

 ピーク・エンドの法則になぞらえて言うのであれば、どれだけ悲惨な人生を送ってきた人間であれ最後さえよければそれでいいんだ。

 

 

「『ここを選んでよかった』。皆さん口を揃えて言います」

 

 

 俺は皆さんの願いを叶えているだけ、救いを与えているだけ。それの何がダメなのだろう。

 喜んでいたのに、感謝してくれていたのに。何故認められないのだろう、何故人々はこうも死というものに神経質なのだろう。社会とはよくわからない。

 

 すると荼毘さんは「一応聞くが、ヴィランになるつもりは無いんだな?」と変なことを聞いてきた。それに対して俺は「神はヴィランじゃありません」としっかり訂正。俺は荼毘さんたちと違って無駄な殺しはしないので。

 

 

「荼毘さんこそ、俺の信者になる気は本当に無いんですか?

 もうこの際、貴方ならタダで安らかな死を与えますよ」

 

 

 だがやはり彼は「いや、いい」といつもの調子でスパッと断る。そしてゆっくりと口を開いた。

 

 

「……俺にはまだ、やることがある」

 

 

 そう言って静かに目を伏せる荼毘さん。

 やることがある、とか言うわりに昨日は俺が買ってきた漫画を強奪して結構自堕落に過ごしていたようにも思うけど、彼から発せられる不思議な哀愁に思わず口を閉ざす。ここは空気を読んで何も言わないことにした。

 

 とりあえず勧誘は失敗、また出直そう。

 

 地面の落書きを足で消した後、「では、また明日」と荼毘さんに手を振った。

 彼は小さく笑って俺に背を向ける。

 

 

 さて、明日も頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FIN




ー人物紹介ー



【主人公】
一度手に触れた生物を、自分の設定したタイミングで殺すことができる個性を持つ。神様はいると信じてはいるものの、信仰はしていない。
荼毘のことは「住所不定無職のお兄さん」と本気で思ってた。


【荼毘】
夢主君の異常性にいち早く気付いた人。夢主君に対しては「気持ち悪い」と思う反面、わりと心を許している節がある。


【相澤消太】
荼毘の二番目くらいに振り回された。




――こだわった伏線――

7話:58人から56人に減った信者。
→夢主君の個性を出すための伏線。


7話:「ここを選んでよかった(意味深)」
→最終回に出したかった。


15話:「俺が宗教に入ってるってことは内緒にしてるからそこは大丈夫です……!」
→外面では信仰してる風を装っているが、本当はその地位にしか興味がないという伏線。荼毘もここから薄々夢主君の本性的なところに気付き始め、気持ち悪がり始める。


25話~27話:ほぼ全体
→夢主君は神様になれさえすればそれでいいので、ぶっちゃけ他人に対して同情も何も抱いてない。ほぼ口だけ。
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