荼毘に宗教勧誘チャレンジ!   作:がしやま

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第3話

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、荼毘さんこんな所で何やってるんですか」

 

 

 ベンチに座ってボーッとしていた荼毘さん。話しかけたらげんなりとした顔で「そういうお前こそ何やってんだよ」と聞き返される。

 

 

「俺は校外学習でゴミ拾いしてました」

 

 

 カチカチ、とトングを鳴らす。鉄の部分が熱を吸収していてちょっとだけ熱い。

 

 いやー、でもゴミ拾いをするだけで授業が終わるんですから最高ですよ。しかも地域にも貢献できるんですから一石二鳥。素晴らしいです、ゴミ拾い!

 

 

「荼毘さんもやってみます? まだトングと袋なら余ってますよ」

 

 

「やらん。地域貢献なんて聞いただけで吐き気がする」

 

 

 相変わらず捻くれた発言ばかりする人だなぁ。知恵の輪よりこんがらがっててほぐすのには時間がかかりそうだ。

 でも俺は荼毘さんのそういうところ気に入ってますよ、周りに影響されず堂々と波に逆らっていくその気骨の精神。かっこいいです。

 

 

「それにしても、荼毘さんはお仕事とかなさってないんですか? こんな時間からぶらついてて大丈夫なんですか?」

 

 

「あー……今日は休みだ。仕事っぽいのは一応してる」

 

 

「なんでそこ胸張って言えないんですか」

 

 

 すると荼毘さんからは「やかましい、社会人に立てつくな」という横暴な返答。まともな社会人は今頃お仕事に専念してるところだと思うんですけど……。

 元から怪しい人だが今回のことで更に怪しさが増した。ちゃんと正規の仕事ですよね? そこすら怪しい。

 

 ……まあいいや。彼がどんな仕事をしてようが俺には関係ないことだ。

 あ、こんなところに空き瓶発見。日本酒ですか、渋いですねぇ。ただ、飲むのは好きにしてもらってもかまわないんですけどできればちゃんとゴミ箱に入れてほしいものですね。

 

 

「――さて、一通り綺麗にもできましたし、俺は友達の所に戻りますね」

 

 

「なんだ、いたのか友達」

 

 

「俺だけ皆にハブられて一人寂しくゴミ拾いしてたと思ってたんですか……?」

 

 

 誠に不本意なんですが。

 これは荼毘さん史上最も失礼な発言にあたる言葉ですよ、記録更新おめでとうございます。

 俺にだって友達ぐらいいるんですからね、高校生活満喫してるんですからね。

 ……なんですかその目、本当ですから!

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「実はですねこの水晶、物凄くありがたい力がこめられているんですよ……。

 これを持っていれば運気がアップしてですね――」

 

 

「とうとう霊感商法まで覚えたか。

 一歩カルト宗教に近づいたな、おめでとさん」

 

 

「なんでそんな意地悪な言い方しかできないんですか、頑張って勧誘してるのに」

 

 

 今日も今日とて俺の勧誘方法に難癖を付けてくる荼毘さん。

 俺だってこんな高価なものわざわざ荼毘さんに買わせたくないですよ、ただでさえ荼毘さんお金持ってないのに。人の不幸を煽るような卑劣なことを誰が好き好んでやるもんですか。

 

 

「俺は頼まれてやってるだけです、これを売り切らないと後が面倒でして」

 

 

「そんで行く先行く先買取拒否されて最終的に行き着いたのが俺だったってわけか」

 

 

「そうです、まあ期待はしてないですけどね」

 

 

 溜息を吐きながら近くのベンチに座る。

 もうちょっと値段設定考えた方がいいと思うんだけどなあ……流石に五万は高すぎますって。荼毘さんじゃなかったとしても買わないですよこれは。

 

 

「……荼毘さんの知り合いにお金持ちのお友達とかいません? この水晶を買ってくれそうな太っ腹なお友達」

 

 

「知るか」

 

 

「……それもそうか、荼毘さんだもんな」

 

 

「おいコラ」

 

 

 いたっ! 酷いです荼毘さん大人げない! 感情のままにいたいけな高校生にチョップとか人間性を疑います!

 年下の失言を笑って流してこその社会人でしょうにまったく……呆れました。

 

 すぐさま文句を口にしようとしたがそれよりも先に荼毘さんは「そもそも俺を頼んじゃねーよ、学校のオトモダチにでも売っとけ」と吐き捨てる。

 

 簡単に言ってくれますけど、そう上手くはいかないんですからね。友達に水晶なんて売りつけてたらそれこそ孤立してしまう。

 俺はこう見えて人間関係だけはキッチリしたいタイプなんだってこと知ってました荼毘さん?

 宗教勧誘する相手だって誰彼構わず適当に選んでるってわけじゃないんです。本当に救いを求めている人を見極めて声をかけているんですよ。

 

 荼毘さんみたいな生活困窮者を見つけるのは大得意――ってまたチョップした! え、なんとなく顔が腹立ったから? 顔ってなんですか顔って……。

 

 

 

***

 

 

 

「時折思うんですよね、俺には画家の才能があるんじゃないかと。

 これなら世界進出も夢ではないんじゃないかと」

 

 

「その精神病患者が描いたみてーなきったねぇ絵で世界進出とは、お前にしては面白ぇ冗談だな」

 

 

「凄いですね荼毘さん、何故だかうちの信者さんたちも似たようなこと言ってました。絶対仲良くなれると思いますどうでしょう見学だけでも」

 

 

「流れるような勧誘」

 

 

 美術の時間に描いた絵を見せると荼毘さんから開口一番に「クスリでもやってんのか」と結構マジな顔で呟かれた。ことごとく俺を異常者扱いしてきますよねこの人。

 きっと俺と荼毘さんとでは美への捉え方がそれぞれ異なっているんだろうな、これに関しては仕方のないことだ。多様性ってやつです。

 

 それはそうと荼毘さん。

 

 

 

「似顔絵のモデルになってくれません?」

 

 

「よりにもよって俺を選ぶかお前……」

 

 

 だって荼毘さん凄く個性的なお顔をされてるので純粋に描くの楽しそうだなって思ったんですよ。

 似顔絵の課題が出された瞬間、荼毘さんの顔が頭に浮かんでビビッときたんですよね。これぞ芸術家の魂の勘ってやつですよ。

 

 

「ささっ、ここに座ってください。とんでもなくかっこよく描いてみせます」

 

 

「リンゴすらまともに描けねぇような奴が似顔絵なんざ一万年早い」

 

 

「何を言ってるんですか荼毘さん! この絵はどこからどう見てもリンゴでしょう」

 

 

「いいか、まず基本的な前提としてリンゴは丸くて赤いんだ。丸くて、赤いんだ。それは理解してるな?」

 

 

「そんなに強調しなくても……」

 

 

 まるで幼児を諭すようにゆっくりと、しかしそれでもって力強い口調でそんなごく当たり前のことを確認してくる。

 今日の荼毘さんめちゃくちゃ俺のこと馬鹿にしてくるな……やっぱり荼毘さんたちには俺の芸術はわからないんだ。

 

 海外に行ったら俺の絵の素晴らしさを理解してくれる人が絶対にいるはず。海外進出は前向きに検討しておこう。

 

 

「俺がもし海外進出するとしたらどこがいいと思います? アメリカ? イギリス?」

 

 

「夢見すぎだろお前」

 

 

「うーん、やっぱりイギリスかなぁ。ハリポタの聖地一回は行ってみたかったんですよね」

 

 

「……」

 

 

 あれ、そんな疲れ切った表情でどこ行こうとしてるんですか荼毘さん。まだ俺の話は終わってないですよ。

 おーい、荼毘さーん。

 

 

***

 

 

 

「いやー……すごい、俺にしてはよく頑張った。まさか数学のテストで5点分も正解できるだなんて。天変地異の前兆かな?」

 

 

「お前のそういうポジティブ精神、嫌いじゃない」

 

 

「……じゃあ入信します?」

 

 

「入信はしない」

 

 

「さいですか……」

 

 

 点数欄に書かれた5という数字はまざまざと赤点という残酷な現実を突きつけ、小さな絶望を覚えさせながら項垂れる。補習確定、おめでとう俺。

 荼毘さんは俺を慰めるでもなくノンビリとカレーパンを食している。カレーパンは誰が買ったかって? 俺です。

 

 

「昔から数学はどうも苦手なんです。

 理系の人とか見るとホント……頭おかしいんじゃないかって思います」

 

 

「少なくとも全ての解答欄を1と3と5だけで埋めてる奴には言われたかねーだろうなソイツらも」

 

 

「割り切れない数字は縁起が良いらしいですよ、おかげさまで5点取れました」

 

 

 この際ハッキリ言おう、数学なんて真面目に勉強するだけ時間の無駄だ。言ってしまえば捨て教科というやつである。

 やはりテストは暗記教科に限る。なんせ覚えるだけで点が取れるのだからほぼ作業みたいなものだ。幼稚園児でもできます。

 理数系は滅ぶべし。

 

 

「……でも、俺の両親は『理数系もちゃんと取れるよう勉強しなさい』って怒るんですよ。酷いと思いません? 数学以外は真面目に勉強してるのに」

 

 

「勝手にお悩み相談室開催してんじゃねーよカミサマにでも聞いてもらえ」

 

 

「相談料払ったじゃないですか」

 

 

「焼きそばパンも買ってこい」

 

 

 そう言って偉そうにふんぞり変える荼毘さん。

 高校生にパンを奢らせるとかいう社会人の風上にも置けない最低な行為をしているというのに何故だか威圧される。

 しっかり気を保て、俺。

 

 

「もういいです……信者の入江さんにでも勉強教えてもらいますから。あの人教員免許持ってるんですよね」

 

 

「誰だよ入江」

 

 

「あ、杉野さんも有名大学卒業してて頭良いんですよ」

 

 

「誰だよ杉野」

 

 

 うちの信者さんたちの中で飛びぬけて頭が良いコンビです。お二人ともお仕事先でパワハラを受けたり法外な時間働かされたりしてメンタルズタボロの状態で入信してこられた可哀想な方たちなんですよ。

 

 すると荼毘さんは「俺が知ってる前提で話すな」と捨て台詞を吐いてどこかへ行ってしまった。

 アドバイスの一つもくれなかった……あんな大人にだけはならないよう気を付けよう。

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