荼毘に宗教勧誘チャレンジ!   作:がしやま

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第4話

 

 

 

 

 

 

 

 荼毘さんがよく出没する河川敷をたむろしていたら突然大雨が降ってきた。

 急いで高架下に避難し、水をたっぷり吸いこんだカーディガンを雑巾の要領で絞る。

 

 

「よう濡れ鼠、今日も懲りずにノコノコ雨の中までお越しいただきご苦労さん」

 

 

 む、この嫌味たっぷりの腹立つ喋り方……わかったぞ。

 声の方向に顔を向ければ、予想していた通りの人物がそこにいた。びしょ濡れの俺を濡れ鼠呼ばわりして馬鹿にしてくる荼毘さんは愉快そうにクツクツ笑って「今日は気分が良い」とコンクリートの壁にもたれかかる。

 

 雨の日だとテンション上がるタイプの人か……ちょっと面倒くさいけど、俺も雨は好きですよ。音とか匂いとか。

 

 

「天気予報では何も言ってなかったんですけどね」

 

 

 そう一人呟き、近くにあった少し大きめの石に腰掛ける。しばらくは止みそうに無いな。

 それにしても寒いなあ……。

 

 

 ――みゃあ。

 

 

 なけなしの温度を得ようと両腕をさすっていると、近くでそんな鳴き声が聞こえてきた。

 足元付近に目をやれば、ほっそり痩せ細った黒猫が俺の足にすり寄っていた。よく見れば足をカクカク生まれたての小鹿のように震わせている。

 

 

「荼毘さん、そのコート貸してください」

 

 

「却下。獣臭くなる」

 

 

「酷い事言わないで貸してくださいよ、こういう時役に立たないで何が荼毘さんですか。今こそ荼毘さんの存在価値を見せつける時でしょ」

 

 

「俺のこと何だと思ってんだテメーは」

 

 

 文句の多い人だ……いいですよ、心の狭い荼毘さんには頼りませんから。か弱い子猫とひ弱な高校生にぐらい手を差し伸べてほしいものです、社会人なら。

 

 不貞腐れている荼毘さんを横目に黒猫を抱きかかえる。

 雨に体温を奪われたのか随分と冷たくなってしまっている。可哀想に。親猫とははぐれてしまったのだろうか。不運なものだ。

 

 

「……なんて哀れな子猫なんでしょう。親猫からも離れ、雨に打たれてお腹を空かせていたんですね」

 

 

 小さな命を腕の中に包み込む。俺の体温で暖が取れるのかはしらないが、無いよりはマシだ。

 震えがより鮮明に伝わってくる、トクトクと僅かに鼓動も感じる。頑張って生きようとしているんだな。

 こんな小さな子猫にまで試練を与えるだなんて、神はなんて無情で、残酷なのだろう。

 

 

 

 

「――俺が、助けてあげなきゃ」

 

 

 

 

 ポツリと呟く。荼毘さんは「綺麗ごと」と皮肉を口にしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あの子猫、うちの団体のマスコットキャラとして飼うことになりました」

 

 

「あっそ」

 

 

「それで名前を俺が決めるみたいになってるんですけど――」

 

 

「やめとけ」

 

 

 結構食い気味にとめられた。

 わかってますよ、俺も自分の絶望的なネーミングセンスに関しては自覚があるので名付けは他の信者さんたちに任せようと思ってます。

 

 

「でも仮に俺が名付けするとしたらかっこいい感じの名前を付けてあげたいですね」

 

 

「へえ、たとえば」

 

 

「泥団子スペシャルEX」

 

 

「お前……」

 

 

 自信満々に俺が温めに温めておいた子猫の名前を披露すると、何故だか荼毘さんが何も喋らなくなってしまった。目の前でヒラヒラ手を振っても挙動一つ見せない。代わりに俺のことをゴミでも見るような目で見つめ続けるばかり。

 なんですか、文句があるなら口で言ってくださいよ。

 

 

「……感動のあまり言葉を失ってる的な?」

 

 

「本気で言ってんのかお前」

 

 

「はいはいですよね、わかってますよ」

 

 

 どうやら今回の名前も荼毘さんにとっては不評だったようだ、自信があった分ショックは大きい。そこまでマジな感じで言わなくてもいいじゃないですか……。

 

 

「でもEXってかっこよくないですか?」

 

 

「百歩譲ってEXは良いとして問題はそれよりも前のやつだ」

 

 

「泥団子スペシャルですか?」

 

 

「そこしかねーだろ心底不思議そうな顔すんな」

 

 

 いやだって……ドロドロで真っ黒だったので丁度いいかなって。以前荼毘さんが名前に関しては相手の特徴を取り入れろ云々言ってたので、それを参考にしてみました。俺は失敗から学べる男なのでね、成功するかはまず置いといて。

 

 泥団子スペシャルEX……特徴を捉えて且つプレミアム感があって良いと思ったんだけどなぁ。あとパフェの名前みたいでかわいい。でも荼毘さんのこの呆れたような表情を見る限りやっぱりダメなのだろう。解せぬ……。

 

 

「……でもまあ、名前はどうあれあの子が幸せに生きていけるのならそれでいいです。そう思いません?」

 

 

「勝手に野垂れ死んどけって思った」

 

 

 

 急募、荼毘さんの排水溝みたいに汚れてしまった心を綺麗にできる清掃員の人。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「体力テストの結果が50音あるアルファベットたちの中で上から5番目の成績なんですよね」

 

 

「Eって普通に言えや」

 

 

「こっちの方がちょっと凄い感じに聞こえません? 50音中上から5番目ですよ」

 

 

「醜いんだよ足搔き方が」

 

 

 「潔く現実を受け入れろ」と突き放してくる荼毘さん。

 この様子だと荼毘さん、お友達の一人もいらっしゃらないんだろうな……こんな捻くれた性格だし、俺みたいな心優しい人間とぐらいしかお喋りしたことないのだろう。きっと甘やかされて育ったんだ、可哀想。

 ここは俺が厳しくしっかり教育しないと……。

 

 まあ、それはいいとして。

 

 

「別にここまでは良いんですね。俺が体力テストでどれだけ壊滅的な点数を叩きだしたとしても一切ダメージはないです、だって体育ですからね」

 

 

「その体育に対する軽率な考え方が今回の悲惨な結果に結びついたんだろうな、容易に想像できるようになってしまった自分が末恐ろしいぜ」

 

 

 俺を一瞥した後、小さな溜息を零して真面目に頭を抱えだす荼毘さん。「大変そうですね」とうんうん頷いたら物凄い勢いで睨まれた。この顔は知ってる、「お前が言うな」の顔である。

 

 と、いった風な荼毘さんと俺の茶番が出来上がったところで「それでですね」と話しを切り替える。もう少し付き合ってあげたかったけどごめんなさい、俺は荼毘さんと違って暇じゃないので。

 

 

「俺、体育祭のリレーメンバーに選ばれたんですよ。しかもアンカー」

 

 

「……で?」

 

 

「どうすればこの宿命から逃れられるか是非とも意見を伺いたいと思い」

 

 

 競技に出ること自体抵抗があるというのに、よりにもよってクラスメート全員からの期待とプレッシャーを一身に背負うリレーのアンカーである。

 体力テストE判定のポンコツがチームの核を担っているという最悪の現状、非常にまずい。最下位を取って全員からヘイトを買う未来は目に見えている。

 

 

「これだからクジ決めには反対だったんですよ……」

 

 

「運試しで数学のテスト乗り切ってる野郎が何言ってんだ」

 

 

 あれはまた一種の作戦ですよ作戦。俺はこの先の一生を文系としてを生きていくことに決めてますから。

 ぶっちゃけ、数学なんてせずとも生きてはいられるんですよ。荼毘さんという実例もいるわけですし、俺はそこまで数学に重きを置いていません。

 数学が出来ずとも生きていられる、それを教えてくれた荼毘さんには感謝しかない。ありがとう俺に希望を与えてくれて。

 

 

「それはそうと助けてください荼毘さん、高校生活最大のピンチです」

 

 

「お前を助ける義理は無い」

 

 

「パンの恩を忘れたんですか!」

 

 

「お前が勝手にやってるだけだろ」

 

 

 意地でも協力の姿勢を見せない荼毘さん。

 俺が勝手にやってるにせよ奢ってもらっているのは事実なんだからそれなりにお礼ぐらいしてもいいんじゃないですか?

 まったく、とことん拗らせているなこの人。社会人を自称してるくせして非常識すぎる。親の顔が見てみたいものだ。

 

 

「本当に、何か一つ助言さえくれればそれでいいんです。

 このままじゃ俺の友達いなくなっちゃいます」

 

 

「それはそれで喜べよ、カルト宗教入ってるような奴とわざわざ関わろうとする異常者だぜ? 別れられて好都合だろ」

 

 

「俺が宗教入ってるってことは内緒にしてるからそこは大丈夫です……!」

 

 

 いちいち人の神経逆撫でしないと生きていけないのだろうかこの人は……。

 

 相変わらずの失言パレードに溜息を吐いていると、急に荼毘さんがピタリと動きを止めた。

 少し不自然だったのでチラリと荼毘さんの顔を見やれば、彼は酷く驚いた様子で俺のことをマジマジと見ていた。忙しい人だな……。

 

 さっきまでの威勢はどこへやら、うんともすんとも言わなくなった。反省……してるわけではないな、荼毘さんだし。

 本当にどうしたのだろう、俺は何かおかしなことでも言っただろうか。少なくとも荼毘さんよりは人としてまともな会話をしていたはずだけど。

 不思議に思って「荼毘さん……?」と名前を呼んでみるが返事は無い。しかしその見開かれた目はずっと俺を映し続けている。変な人だ。

 

 でもまあ、荼毘さんが変なのは元からだし然程おかしなことではないかと我に返ってあまり気にしないことにした。

 俺は気の遣える大人な男なので、何も触れず綺麗に流します。

 

 気にしたら負けという考えの元、気持ちを切り替えて再び話題を体育祭のことに戻そうと口を開く……が、それよりも先に荼毘さんが口を開いた。

 

 

 

「――お前、気持ち悪い奴だな…………」

 

 

 

 唐突なる罵倒。

 やっと喋ったと思ったら何ですか貴方、失礼極まりない。今までの会話の中でどこに俺が気持ち悪くなる要素があったのか教えてほしいです。

 

 でも結局荼毘さんはそれっきり何も教えてくれなかった。リレメンアンカー問題に対する助言もくれなかった。

 ホントに何だったんだろう。

 

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