奴らはいったい何者だ?   作:Shigy20250620

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会議室の戦争

 春の訪れがまだ遠いワシントン。

 ホワイトハウス西棟の会議室には、海軍制服の男たちと背広の議員たちが居並んでいた。

 正面には大統領、フランクリン・D・ルーズベルト。

 だが今、その顔には疲労の色が濃かった。

「太平洋で我が艦隊は後退を続けている。これは指揮官の資質に問題があるのではないかね?」

 声を荒げたのはバージニアから選出されたハミルトン上院議員、戦艦派の急先鋒にして、ドイツとの外交優先を公言して憚らない男だった。

「それに提督。お言葉だが、我々が戦っている相手は欧州のような工業国とは違う有色人種の三流国とその軍隊だ」

 ハミルトン議員はいったん言葉を切って会議の参加者の視線を集めてから続けた。

「貴殿が敗れているのは、指揮に怯えがあるからではないのかね?」

 会議室の空気が一気に冷えた。

 ニミッツはゆっくりと書類を閉じ、そしてハミルトン議員を見つめる。

「議員閣下。まず訂正しておきます。われわれが相対しているのは、勇敢で、狡猾で、そして技術的に高度な敵です」

 その言葉には怒りではなく、重い確信があった。

「あなたが色で彼らを測るなら、それは誤りの始まりです。戦場では、肌の色は装甲にもならないし、空を飛ぶ翼にもなりません」

 ハミルトンの顔が赤くなり、椅子の背を叩いた。

「空だの翼だの! 君たち空母派は夢ばかり語る。戦艦は国家の威信だ。主砲が吠えれば、敵は逃げる。昔からそうだ!」

 ニミッツは冷ややかに応じた。

「その威信ある艦は、今までどれほどの敵を沈めましたか?」

 ハミルトンは言い返せない。

「私が太平洋艦隊の総司令官を任じられてから半年。その間に戦艦を含む部隊が日本艦隊に接近した回数は20を超えるが交戦できた回数はわずか4回」

 恐ろしいまでに冷静に、冷酷にニミッツは言葉を続ける。

「そのうち戦艦が戦果を挙げたことはただの1回もなく、無傷だったのも1回もない」

 ハミルトンは歯ぎしりをするが、まだ理性の糸は切れていないようだった。

「相手を見つけても交戦可能な距離に詰めることもできず一方的に殴られたあげく、逃げられる。太平洋において戦艦とは、弾と燃料と人命を消費するだけの存在。それが現実です」

 ニミッツはハミルトンを見て、そして微笑すら浮かべて言った。

「夢を見ているのは、あなたの方です、ミスターハミルトン」

 周囲の幕僚たちが息を飲む中、ニミッツは立ち上がった。

 彼の手には、わずか数枚の紙。

 補給線、艦船稼働率、パナマ運河経由の交通遅延、すべての数字が記されていた。

「現場は給油艦すら満足に動かせません。太平洋で戦うには戦艦は速度も射程もたりない。空母を動かす燃料がなければ、航空戦力など絵に描いた餅です」

 彼は、大統領をまっすぐに見た。

「閣下。私は勝つことを約束できません。負けないための手段が奪われている現状を見過ごすなら、それは軍人の責任ではなく、政治の不作為です」

 ルーズベルトは眉をしかめた。

 隣で軍需委員会のブレナンが耳打ちするが、それを手で制した。

 そして、ハミルトンの方に視線を向ける。

「議員、あなたは“威信”のために戦艦を推すが、その威信とやらで兵士が腹を満たせるのかね?」

 ハミルトンは何か言い返そうとしたが、言葉が見つからない。

 議場には重苦しい空気が満ちる。

 ルーズベルトはゆっくりと頷いた。

「ニミッツ提督。太平洋の補給線の優先度を見直し、あなたの裁量で補給計画を再構成してもらおう。必要なら海軍省にも掛け合う」

 ニミッツは深く頭を下げた。

「ありがとうございます。私が必要としているのは、艦ではなく燃料、命令ではなく理解です」

 

 会議室を出るハミルトンの背中には、敗北の色が濃く滲んでいた。

 その日、アメリカ海軍はひとつの戦いに勝った。

 海ではなく、机上の会議室という名の戦場で小さいが、重要な勝利をつかんだ。

 会議のあと、太平洋への補給線は強化され、燃料や弾薬が続々と前線に送り出されるようになる。

 確かにニミッツは、海軍は勝利した。

 だが、彼らの勝利はそこまでだった。

 日本が5万トン級から10万トン級まで複数の戦艦の建造案をもち、広島の呉と神奈川の横須賀で新しい大規模ドックの建設が始まっていると情報が入り、対抗するためにより大きく強力な火砲をもった戦艦が必要となったからだった。

 

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