奴らはいったい何者だ?   作:Shigy20250620

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技術屋の悪夢、変わり者が見せるモノ

 昭和13年、陸軍航空廠 試作機設計課

 主任技師・秋山健三は、資料を抱えたまま廊下を歩いていた。

 呼び出されたのは「空挺部隊向けの装備共通化会議」。

 だが、顔ぶれを見て彼は混乱した。

「艦艇設計の長坂技師と、機甲部隊の矢田部少佐?」

 会議室に入ると、彼らは既に座っていた。

 資料は分厚く、だが明確な構成と視点でまとめられている。

 

 会議が始まり、長坂が静かに語り出す。

「私たちが提案したいのは、輸送機から安全に投下可能な規格化された装備ユニットです。兵器、物資、車両のパッケージ化と、投下用のパレット構造まで含めて」

 矢田部が続ける。

「現状の装備を空挺部隊で使うには、分解と再組立てが前提ですが、戦場では時間が命です。可能なら落としたらそのまま使えるようにするべきです」

 秋山は口を挟む。

「いや、ですが。現状の輸送機は着地衝撃に耐えられる仕様までは考慮していません。特に投下位置や風向次第では・・・」

 すると長坂が資料をめくり、冷静に口を開いた。

「予備パラシュートを開くタイミング、クッション構造の耐衝撃性能。この部分、パイロット試験結果と構造材料強度の比較を含めて、既にまとめてあります」

 資料の該当箇所を指して続ける。

「ここに支点を置くことで空力制御が楽になり、過度な速度での落下を抑えられる。それと・・・」

 長坂が秋山を見つめる。

「今の設計では重心が高すぎます。実地では転倒のリスクが高いのでは?」

 秋山は、絶句した。

 まさに、昨日試作で起きたばかりの失敗点だったのだ。

「基地で作戦に必要なモノをパッケージし準備しておく。あとは目的にあわせて車か輸送機か揚陸艇で運び現地で使う。即応とはそういうことです」

 矢田部が言う。

「車と船と飛行機。この3つのどれにでも共通な梱包システムが必要なのですよ」

 秋山は矢田部をまじまじと見てしまった。

「一番重量に対する要求が厳しいのが航空機、ならばまずはそこを基準にするべきだと思いましてね」

 秋山は口に出さずに「なにが奇行の矢田部だ、ホンモノじゃないかよ」と呟いた。

 

 会議後、喫煙所で秋山は煙草に火をつけてから、先輩技師にこぼした。

「あの二人、なぜこっちが何も言ってない未発表の設計の穴をピンポイントで突いてくるんですか?」

 先輩は苦々しく笑うだけだ。

「専門外のはずでしょう? 航空なんて。しかも、あの長坂技師。僕の計算より10%は安全率上積みしてた。まるで未来で失敗例を見たことがあるような話しぶりだし、矢田部少佐も・・・」

 秋山はふーっと煙を吹きだした。

「矢田部少佐も、まるで実際に空挺部隊がやらかした失敗を見てきたような指摘ばかりだ」

 先輩技師は何も言わず苦笑し、秋山の肩を優しく叩き、灰皿にタバコを押し付ける。

「なんで彼らは予想できる失敗を、経験済みのように話せるんですかね」

 秋山は先輩技師の背中に向けて言う。

「まるで未来を生きてきたように」

「さてな。だが、それが本当なら俺たち技術屋にとって恐怖だ。これから積む経験を先取りされてるってことだからな」

 先輩技師はそう言い残して職場へと戻っていった。

 

 昭和55年、通産省工業技術資料館内研究室。

 秋山健三は、引退後の趣味である技術史整理の仕事に取り組んでいた。

 そこに現れたのが、民間歴史研究家・秋葉信一だった。

「すみません。秋山技師ですよね? あの、矢田部少佐の足跡を調べてまして」

「また矢田部か。あいつはなぁ、どこ行っても記録に爪痕を残すからな」

 秋山は呆れながら秋山に問う。

「で、今度はどんなネタを探してるんだ?」

「いえ、あの転生者という概念をご存知でしょうか?」

 秋山は一瞬、煙草に火をつける手が止まった。

 

「つまり、あなたが言いたいのは矢田部も長坂も、未来から来た転生者で、組織的に行動していたって?」

「いえ、あくまで仮説です」

 秋葉は真剣に答えた。

「それに組織的、というのは懐疑的ですが少なくとも敵対関係ではなかったと考えています」

 そして、ゆっくりとかみしめるように続ける

「技術の導入や装備の規格、戦術変化があまりにも飛躍的かつ整合的なんです。個人の力量だけでは説明がつかない。お二人とも・・・」

 秋葉は言葉を選ぶかのように言いよどむ。

「専門外の筈なのに妙に的確な指摘をしている」

「で、それを“組織が背後にいる”と?」

 秋葉はノートを開く。

「証拠は断片的ですが、明らかに同時期にオーパーツ的な成果を出した人々が複数います。長坂技師の設計、矢田部少佐、あと……山岡発動機にいたドイツ人技師の図面に“ヤンマー”の名前があったのはご存知ですか?」

「ヤンマー?」

「ヤンマーのブランド名が生まれる5年も前にメモに残してるんですよ、ヤンマーのディーゼルエンジンなら、と」

 秋山は呆れた顔で、机に肘をつく。

「いやはや。お前さん、SF作家のほうが向いてるぞ」

 少し沈黙があって、秋山がぽつりと

「だがまぁ、実のところ、私も長坂の設計資料を読んだ時は、これは何を参考にしてるのか、と首をかしげたことはあった。あの木馬型揚陸艇なんか、あれ、カタログスペックが未来に近すぎる」

「やはり・・・」

「だが、だからって組織的な転生者のネットワークだと? 馬鹿を言え。あいつら、協調性なんて皆無だったぞ」

「じゃあ、彼らはただ・・・」

「単なる変わり者だ。未来の知識があろうがなかろうが、あいつらはそういう人種だ」

 秋葉が苦笑しながらノートに書き加える

「変わり者しか転生できない世界ですか・・・」

「転生者は変わり者しかいない世界か。ここがそんな怖い世界だと思いたくないな」

 秋山は立ち上がりながらぼやいた。

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