ストックが尽きました。
終戦調印式。
紆余曲折を経て、そう名付けられたセレモニーは戦艦長門の甲板で行われていた。
甲板の中央に置かれた机の両側に犬養毅とハリー・S・トルーマンの2名が座り、辞書のように分厚い書類の束をめくり確認していく。
ジョン・ブロンコ・トラガー大尉はアイロンを当てられ糊が効いてパリッとしたアメリカ海軍の士官服に身を包み、鋭い視線を周囲に注いでいる。
その隣に立つ、日本陸軍の士官服を着こなした月田光一少佐も同じように周囲を警戒していた。
二人は日米双方の警備の現場責任者だった。
いや、二人は一見すると周囲を警戒するように見えていたが、それはポーズに過ぎなかった。
「2.26が大失敗したとか、伊藤博文が暗殺されなかったとかは知ってたけど、こんなに変わってたとはな」
トラガー大尉が鋭い視線を左右に飛ばしながら呟く。
「高橋是清が『後任に後を譲る、俺はファイアーするんだ』って国会で叫んだのも知らんのか?」
「大蔵大臣続投って言われて反発したってのは新聞で読んだけど、だるまさんもアレだったんか」
「いいや。だが参謀役がな。当人は野村総研でブイブイ言わされてた社畜とか言ってたが、俺らから見ても頭のネジが数本飛んだ奴でね、ダルマさんは感化されたんだ」
トラガーは眼だけ動かして冷たい視線を月田に向ける。
「忍者のコスプレしてパールハーバーに乗り込んできたアンタが言うって相当だな」
「諸説ある、というか調べてる連中が言うには、変わってきてるのは1905年あたりからだな。それ以前にも小さい違いはあるが、誤差なのか先人たちの影響なのか分からんらしい」
月田の言葉にトラガーは、月田の方を向いた。
月田もトラガーの方を向く。
「日本には1千人に2人か3人ぐらい居るのがわかってる。国外は10万人に1人とか50万人に1人とか、日本に比べるとけた違いに少ないらしい。認知できたのだけだが」
「母数がそれだけ違うってことか。道理で日本だけ突出してるわけだ」
トラガーは再び周囲へ視線を配る。
「アメリカやイギリスにも居るのはなんとなくわかってたけど、面と向かって会ったのはあんたが最初だぜ」
「それは幸せだったな。頭のネジが緩んでるのはマシな方、多かれ少なかれどっかネジが抜けてる奴が多いから」
「まさかあの忍者のコスプレって?」
「上司の命令さ」
肩をすくめる月田。
「心中お察しするよ」
トラガーは本心から言う。
そして、二人は周囲の警戒に戻る、フリをした。
ダグラス・マッカーサーは、衆人環視の中で書類をめくる二人の国家首脳の姿を眺めていた。
犬養の背後でアメリカ軍と日本軍の士官が並んで、何か言葉を交わしているのが見えた。
「これが茶番になるか、新しい時代の幕開けになるか。どう思うかね?」
隣に居るカーチス・ルメイ准将へ問いかける。
マッカーサーと共に日本駐留軍の中核を任されている人物だ。
この場にはいないが、アーレイバーク准将を加えた3人が日本駐留軍の司令部となることが決まっている。
「新しい戦乱の時代の幕開けですな」
ルメイが冷酷な声で言う。
「アメリカは軍事的にも、政治的にも敗北した。だが、戦争には勝った」
ルメイが皮肉気に言う。
「いや。『戦争に勝たされてしまった』と言うべきですな」
「君もそう思うか?」
マッカーサーの言葉にルメイは頷いた。
「フランスもスペインもポルトガルも、植民地は失うでしょう。やっかいな日本の置き土産によって」
「ほう?」
マッカーサーは良くも悪くも「軍人」と思っていたルメイの言葉を意外に思った。
「日本が占領した国々。統治に現地人を手先に使う姑息な手段と思っていたが、あれは自治の仕方を教えていたと見るべきだ」
「戦争は続くと思ってるのかね?」
マッカーサーの問いにルメイは静かに応える。
「新しい戦いが始まるだけです。だが、その戦いに我々は参加しない。トルーマンが失脚しますから」
そしてマッカーサーに皮肉を込めて質問した。
「あなたはもう、大統領になる気はないのかな?」
「私は日本人にぼろ負けしたことがあってね。雪辱戦に勝つまでは回り道はしないことにしてるのさ」
調印式が予定通り終わる。
周囲が拍手をする中、ルメイに向いたマッカーサーはルメイの肩に手を置いた。
ルメイがマッカーサーを見れば、マッカーサーの顔には、どこかいたずら小僧を連想させる朗らかな微笑みが浮かんでいる。
「私の、いや、我々の新しい戦場が待ってるぞ」
マッカーサーの言いたいことを理解したのか、ルメイは心底嫌そうな表情を浮かべた。
ガバガバな設定で思いついた順に書きなぐった拙作に、お付き合いいただきありがとうございました。
未登場のアーレイバーク准将もあわせて転生者のやらかし被害者の会、米軍人編の残り2つもいつか書いてみたいと思っています。
また、多数の誤字報告頂き、ありがとうございました。