セイント14が大好きなんです。
邂逅
地形がさながらゲームのマップ生成のように生み出される。
データの流れが組み合わさり、形が作られ、そこに岩肌や苔などのテクスチャが貼られていく。
先程まで何もなかった空間に、確かに「風景」が生まれた。
そこに一人の男と、浮遊するこぶし大の小さなドローンのようなものが足を踏み入れた。
男は傷だらけのアーマーを全身に纏い、使い込まれているであろうショットガンを背負っている。
そばに浮遊する機械は鋭角が連なる殻を纏い、紫の機械の目が揺れていた。
小さな機械が口を開く(と言っても、口というものがあるかは疑問だが)
「周囲のスキャン完了、どうやらこれらの地形は地球の渓谷地帯を模して造られたようです。」
「そのようだなゴースト、いささか渓谷と呼ぶには自然の美しさが足りないが」
大柄の男にそう返されたゴーストという存在は「彼らにそういった情緒的なものはないでしょう」とため息交じりにこぼす。
確かに周囲の地球の渓谷と呼ぶにはいささかおかしな点が見受けられる。
岩の形はどこか幾何学的で、それらに付着している苔や草は赤とも紫とも言えない毒々しい色をしている。地球の自然であれば感じられるみずみずしい草花の香りや土のにおいなどは感じられない。
「だが毎度毎度景色が変わるのは、飽きが来なくていい!」
大男はそう豪快に笑い飛ばす
「本気で言っているのですか、セイント?」
セイント、男はそう呼ばれていた。
「冗談が通じないな、兄弟よ。しかし、そうでも言わなければ我々のいる空間に居続けるのはあまりにも退屈だとは思わないか?」
「そうは言っても、この広大な迷路のような空間は結局の所ベックスによる時間軸を超えた現実・非現実のシミュレーションにすぎません。確かに景色は目まぐるしく変化していきますが、何百年も潜っていれば変わっているようで代わり映えしない景色に辟易してきます。」
「さながら巨大な牢獄のようだ。だが進まないことには意味がない、行くぞゴースト」
2人は歩き出し、その足取りにはよどみがなく、この空間への慣れを感じさせた。
進みながらも会話を止めない彼らは周囲への警戒を怠らない。
長年培ってきた経験が、彼らには染みついていた。
「とはいっても、この場所で幾度となく行われているシミュレーションはベックスが自分たちだけが存在する、いわばベックスにとっての理想の未来を観測しようとするためのものですが、このような地形の生成などがその一助になっているとはどうにも思えません。これらが本当にベックスの望むものなのでしょうか?」
「私に解るわけがないだろう、そのようなことを考えるのはオシリスの仕事だ」
「そう、そのオシリスです!」
ゴーストはすこし声を大にしてその名を呼んだ
「オシリスが我々のいた場所から離れなくてはならなくなった理由は仕方ないと思っています。ですが、敵であるベックスが作り上げたこのシミュレーション空間にこもり続ける理由はなんでしょう?」
「オシリスがこの場所に価値を見出したのだろう、大方そのシミュレーション能力を利用することが人類の助けになる…などな」
「だとしてもです!オシリスの目撃情報を追ってこの空間に入って既に数世紀は超えています!終わりのない探索、幾度とないベックスとの戦闘、最近は減りましたが何度貴方を蘇生したかは数え切れません!」
ゴーストは少し怒っている。いや、本当はもっと怒りの感情が湧いてもいい所を抑えているのだろう、他でもないセイントのために。
「私はあなたが心配です、セイント。あなたとオシリスの関係は理解しています、出来る事ならすぐにでも再開してほしい。しかし現実は無限の森をただあてもなくさ迷っているだけです!それを何年も何年も、戦闘によって傷つくだけではありません!私たちはオシリスを探し続けていますが、それをオシリスが認知しているかもわからない、認知しているにしても、いないにしても、我々のことなど気にしても…」
「よせ、ゴースト」
彼の言葉を止める、これ以上は彼にとっても、私にとってもダメだ
「申し訳ありません、少し興奮していたようです」
「いい、気にするな、お前が私を愛してくれていることは伝わってきた」
彼をなでるようにしながら手で包み、そのまま暴れないように掴む、案の定手の中では「茶化さないでください!!」との声が聞こえるが、本心だ。
オシリス
それは私がこの場所を長い時間をかけて探している人物だ。
共に人類を守ってきた同志であり、常に先見の明を持っていた尊敬する師でもあり、
そして何よりも、愛する人なのだ。
「おお、オシリスよ。お前は今どこにいるのだ」
セイントは空を見上げた。既にこの渓谷地帯を探索してからそこそこの時間が経っている。
今いる場所は比較的開けた場所であり、近くに洞窟もある。野営地に選んでもいいかもしれない。そんなことを頭の片隅で考えていると、
ーージジッ
一瞬、電子音が鳴った。
「セイント、敵反応です。」
セイントは肩に掛けていたショットガンを握り直す。
「やれやれ、来たか…ベックスめ」
周囲が淡い光に包まれていく、そしてその光が一瞬強くなるのと同時に、次々とその場所から不気味な機械達が姿を現すーー
はずだった。
「…何かがおかしい」
鳴り続ける電子音、周囲を満たす淡い光、これらは見慣れたベックスが姿を現す兆候だ。しかし今回はそのベックスが姿を現さない。
「ゴースト、どうなっている?」
「待って下さい、解析中です。…テレポートの失敗?そんなはずは」
警戒は解かない。
ベックスは油断ならない相手だ、その攻撃によって何度も致命傷を負った事がある。
淡い光を注視する、少しずつその光は強くなってはいるが、相も変わらずその中からベックスが姿を現すことはない。
不意に、その光の中から砂の混じった風が吹いてきた
「…砂?」
疑問を口に出した瞬間、事態の解析を行っていたゴーストの声が響く
「まずいですセイント!これは単なるテレポートではなくポータルの接続…ベックスは自分たちもろとも私たちをどこかに転移させるつもりです!」
「なんだと!?」
「ダメです、我々の転送準備は既に完了…転移先は、地球?いえ違います、一体何処に転送されるか不明です!」
「ゴースト!お前は私の中に戻れ!!」
ゴーストが近づいて消え、私の中に宿ったのを感じたのと同時に受ける浮遊感、
まばゆい光が視界を包み込むーー
…乾いた熱気が全身を包み込む
風が吹き抜け、細かな砂粒が装甲を叩く音が耳に届く。
先程まで感じていた無機質な静寂と重苦しい空気はなく、代わりに灼けるような日差しが頭上から降り注いでいた。
セイントの視界が晴れていく。そこは見知らぬ砂漠。
「…どこだ、ここは」
しかし現状待ってはくれなかった、吹き荒れる砂の中から機械たちがゆっくりと姿を現す。
ベックスも、この地に転移してきていたのだ。
素早くショットガンの照準を合わせ、引き金に指をかける。
数で劣る自分が先手を取るための行動を起こそうとした刹那、
ーードンッ
衝撃が走った。
攻撃を受けたと思ったが、その衝撃は自分を襲ったものではなかった。
そして同時に、少女の悲鳴が辺りをつんざいた。
「何⁉」
セイントが振り返れば視線の先にハイドラが浮遊しており、それの攻撃によって砂が抉られ、周囲に巻き上がっていた。
そしてその砂塵の向こう側に、二つの影を見た
1つは四角い板状の金属、盾のようなそれの端には血が付着している。
もう1つは学生服を身にまとう、水色がかった髪の少女が頭から血を流して横たわっている姿だった。
セイントはその少女のもとに駆けだした
砂が跳ね、装甲の隙間に入り込むのが伝わる。だがそれを気にすることなどはなかった。
周囲のベックスが攻撃を続けようと砲身をこちらに向ける。
セイントは少女の元にたどりつくと、力をこめる。
「光」、セイントが持つ力を全身にめぐらせ、それを両手に籠めて放つ。
ドーン・ウォード
鈍く輝く紫の光がセイントを中心に膨れ上がり、砂漠に球状のバリアが展開される。
砂が弾かれ、外界との境界が揺らめく。
揺らめくその境界に、ベックスは容赦のない銃撃を加えてくるが、その境界が揺れることはない。
セイントはその巨躯で少女を庇うように立つと、外のベックスたちを見据えた。
肩越しに見える少女の容体はわからない、だが今やるべきことは明確だ。
「必ず助ける」
ドーン・ウォードに浴びせられる攻撃に臆することなく、セイントは紫の境界を踏み越えた。
今はただ、この少女を救うために。
現時点では世界の交わるプロローグとその後の1章程度の構想は練れていますが、うまくいくのかドキドキしています。
タグと今回の描写で分かるようにブルーアーカイブからの主要キャラとしては梔子ユメを登場させました、次回はユメ先輩視点を、描く予定です。