交差する運命   作:門の主トルネ

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無限の森で、ユメが覚悟を決めて、帰るまで。


追想─覚悟と帰還

セイントさんの戦う理由を聞いた次の日。

何とか筋肉痛は引いたため、訓練を再開することになった。

 

訓練をする前に、セイントさんは私に真剣な顔で向き合った。

どうしたのだろう、と少し不思議に思ったが、セイントさんが取り出したものを見て、直ぐに納得する。

 

「これを、君に。」

 

そう言って手渡されたものは、銃だった。

手の中に、確かな重さを感じる。

 

「これが、私の銃…」

 

その銃は、セイントさんの愛銃、『パーフェクト・パラドックス』によく似ていた。

白銀に輝く銃身は、何処か美しさを感じさせる。

 

違いがあると言えば、全体的に少し小振りになったことに加え、刺々しい装飾が外れて角が丸くなり、アクセントにシアンカラーが差し込まれていることだった。

 

「なんだか、セイントさんの銃に似ていますね、ショットガンですか?」

 

その言葉に彼はゆっくりと頷く。

 

「ああ、主に私の銃のカスタムパーツや予備パーツで組み上げたものだ。まだ銘は決めていないが、私が用意出来て、扱いを教えるのであればと思ってな。」

 

なんだか、少し嬉しくなる。セイントさんとそっくりな銃。その銃身、グリップをゆっくりと撫でていく。

 

「ふふ、なんだかセイントさんの銃の子供みたいですね。」

 

あっ、と声を上げる。名が決まってないというのなら──

 

「この子の名前、『リトル』でどうでしょう!」

 

セイントさんは目を細め、笑ったように見えた。

 

「『リトル・パラドックス』か、悪くない」

 

『リトル・パラドックス』それが、これから私の相棒になる銃の名前。

私に上手く扱えるのか、まだ銃に対する不安も何処かにある。それでも、この子とであれば頑張れるような気がした。

 

 

 

その後、セイントさんとゴーストちゃんがベックスの残骸を集めていくつかの的を作ってくれ、それを使った射撃訓練をすることになった。

 

「まずは何よりも、標的に弾を当てることからだ!」

 

そう言われ、私は銃を構える。無意識に腰を落とし、衝撃に備える体勢をつくる。

なぜだか、どうやってこの銃を扱えば良いのか少しだけ分かるような気がした。ショットガンの扱いは、昨日セイントさんの戦いでしか見たことがないはずなのに、何処か慣れ親しんだ気がするのはなんでだろう。

 

「ほう、」とセイントさんが声をもらす。指導が入らないということは、間違った構え方はしていないのだろう。

照準を覗き込み、視線の先に標的を収める。的は動いてもいない、きっと引き金を引けば、弾は当たるだろう。

 

しかし、引き金にそえた指が、ピタリと止まった。

 

引き金は、特別に重いわけではない。セイントさんが銃の作りで手を抜くことはないだろう。

 

だというのに、重い。

 

標的は、ただのガラクタだ。ベックスの残骸。そう、ただの敵の残骸…

もしあれが、生きたベックスなのだとしたら、こうして躊躇っているうちに自身がやられてしまうだろう。

 

ただ、どうしても、軽々しく引き金を引いてはいけないような気がした。

 

「銃を撃つことが怖いか?」

 

セイントさんの声が聞こえる。私は不安になった。戦うと決めたのに、銃まで作ってもらったのに、ただでさえ迷惑をかけているのに、失望されるのではないか、と。

 

慌てて、無理やりにでも引き金を引こうかと思った時、セイントさんの手が、優しく私の頭に乗せられた。

 

「撃つことが怖いのは、当たり前のことだ。」

 

セイントは続ける、「だから、」と

 

「その怖さは忘れるな。忘れると、撃つ理由を間違える。」

 

私はセイントさんを見つめる。

 

「君はキヴォトスでも、盾を持つ選択をした。それは誰かを傷つけることを良しとしなかった、君の優しさかも知れない。何かを守りたい気持ちの現れだったのかもしれない。」

 

そういうセイントさんの表情はヘルムで見えないけど、真剣な顔をしてるだろうことはすぐに分かった。

 

「しかし、残酷だが、この世界ではそれだけでは守れないものの方が多い。他者しかり、自分しかりだ。」

 

それが、セイントさんの、いや、今私が生きている世界だった。

 

「銃や、私が教える力はただの手段だ。守り方は人それぞれ、君なりの方法を見つけるといい。しかしどの方法も、覚悟と意志の強さを求められる。」

 

「守る覚悟と、意志…」

 

「そうだ。恐怖を乗り越え、前に進む勇敢さだ。」

 

ゆっくりと、セイントさんの言葉を咀嚼する。

銃を撃つことを恐れながら、乗り越える強さ。それはきっと、このままじゃダメだと心が叫んだ私に必要なもの。

 

すぅ、と息を吸う。

 

銃を再び構え、標的を覗く。標的は中央に、後は引き金を引くだけ。

 

正直に言えば、まだ引き金を躊躇なく引くことはできない。勇敢さなんて、これっぽっちも無いのかもしれない。

 

それでも私は──たった一歩でも、踏み出したい。

 

 

パァン──

 

甲高い銃声が、辺りに響く。そして同時に、ベックスの残骸が金属音を鳴らして砕けた。

 

「上出来だ。」

 

セイントさんの満足そうな声が聞こえる。そうして私は、強くなるための一歩を踏み出した──

 

 

 

「一発当てただけで満足するな!次の的だ!」

「ひぃん!?」

 

補足すると、セイントさんの訓練はやっぱりスパルタだった。

 

 

 

その後の日々は、目まぐるしかった。

セイントさんは私に戦い方を教えてくれた。

 

敵の狙い方、身体の動かし方、連携の仕方。数多の戦いを生き抜き、指揮官としても活躍したというセイントさんの教えは、厳しかったけど私を間違いなく強くした。

 

また、訓練だけではなく、すぐに実戦も経験することになった。

ベックスは待ってはくれない。あの無慈悲で残酷な機械達は日夜を問わず私たちを襲ってきた。

 

肉体の疲労感が薄いとはいえ、この戦いを数百年と続けてきたセイントさんの強さがうかがえた。

 

何度くじけそうになったかは分からない。実際、疲れのあまり動けなくて、セイントさんに戦いを任せてしまったこともあった。

 

その悔しさは、私をもっと強くしてくれた。焦りそうにもなったが、セイントさんはそれを見抜き、諭してもくれた。

 

私たちが出会って1ヶ月が経つ頃には、ある程度セイントさんに背中を預けてもらえるようになった、と思う。こればかりはキヴォトス人としての基礎があったおかげだ。

 

セイントさんが言うには、私はサポートが上手いという。

戦場を敵味方含めて把握し、適切な対処をする。正直、セイントさんのような爆発力のようなものは持ち合わせてなかったが、それでも出来ることが分かったのは嬉しかった。

 

『リトル・パラドックス』の扱いにも慣れた。使うごとに少しずつセイントさんとカスタマイズをし、今ではよく手に馴染むものとなった。お気に入りなのはストックに巻きつけた紫色のリボンだ。

 

きっかけは肩当てが少し滑るなと気になって、セイントさんと相談をした時のことだった。ならば何か布を巻こうという話になったのだが、その時セイントさんのアーマーに結ばれた紫色のリボンが目にとまった。

聞けばそれはセイントさんがこれまで出会った難民の人達が感謝を込めて結んだものだという。

セイントさんのアーマーに結び、シティにたどり着いた難民の人が軒先やベランダなどに付けて、無事たどり着いたことをセイントに伝えるのだ。

 

これは私が誰かを救えたという証なのだと、セイントさんは言った。私は直ぐに、そのリボンが余っているのであればとセイントさんにねだり、ストックに巻きつけた。

 

もちろん滑り止めとしての効果もあったが、何よりセイントさんが私を助けてくれた証明として、できればそれも誇ってほしくてつけたものだ。

 

セイントさんと物陰からベックスを睨む今も、その愛銃は心強く私の手の中に収まっている。

今までベックスを倒しては、その残骸から少しずつ情報を集めているが、なかなか進捗はよくない。

分かったことといえば、セイントさんやゴーストちゃんの予測の通りに、キヴォトスへのテレポートを可能にした特殊なベックス・マインドが確かに存在するということだけだった。

 

「岩場の向こうにホブゴブリンがいる。ユメ、頼めるか?」

 

少し銃を見て物思いにふけってしまった意識を現実へと引き戻す。

見れば、ゴブリンとミノタウロスが闊歩する岩場の向こうに、周囲を警戒する長い銃を持ったホブゴブリン2体がいた。あの個体は狙撃が厄介なのだ。

 

「分かりました、脇道を素早く回り込んで倒します。中央の引きつけはお願いします。」

 

地形を把握し、接近する道筋を立てる。セイントさんはそれに頷くと位置につくようにサインをする。

 

私は岩場の横にある道の入り口に近づき、準備完了のサインをする。

 

直ぐに、セイントさんによる銃撃が中央に撃ち込まれた。

 

その銃声を合図に私は小道を素早く進む。角から角へ、死角を最小限にしながら常に銃口を前に。いくつかの角を曲がった時、中央の岩場に向かおうとするゴブリンと遭遇する。

 

数は2体、判断は一瞬─

 

すぐさま引き金を引いてゴブリンの頭を吹き飛ばし、その胴体を蹴ってもう1体にぶつける。

もみくちゃになったそれらがお互いの銃を乱射し始め、一発が私の腕を掠めて火傷のような痛みを感じる。しかしそれを無視して3発を撃ち込み、ゴブリンを沈黙させた。

 

止まってはいられない。長引けばセイントさんへの攻撃が多くなる。

すぐさま小道の壁際に体を擦り付けるように近づけながら前へ進む。

まず近づいたのは少し高い岩に乗ったホブゴブリン。まだ私の存在には気がついていないようでその照準を中央の岩場に向けている。

私はその岩の裏に素早く回り込むと、躊躇いなく岩に跳び上がり、ホブゴブリンの背中に接敵、2発を背後からお見舞いして沈黙させる。

 

すぐさま残骸となったそれを蹴り落とし、もう一段高い岩にいるホブゴブリンに照準を合わせる。向こうもこちらに気がついたようでその目を向けてくるが、先んじて一発撃ち込みダメージを与える。

 

傷を受けたホブゴブリンはすぐに体を丸め、赤い炎のようなバリアを張った。これは彼らのような個体の習性で、一定時間は銃が効かないから厄介なのだ。

 

しかしその習性にも欠点があり、その状態の彼らは周囲の状況が分からないらしい。それを逆手に取って私は最短距離で距離を詰める。

私が突き出した銃口が、ホブゴブリンの眼前に置かれた時、そのバリアが解除される。

顔を上げたホブゴブリンの目が、銃口と合う。

 

パァン──

 

吐き出された銃弾は、その体を貫いた。

 

狙撃手が排除されたことを確認したセイントさんが、岩場から躍り出て攻勢に出る。隠れることをやめ、タイタン流で敵を蹴散らすのだろう。

私はホブゴブリンから奪った高所から、スラグ弾をリロードして援護に回るかと考えていたところ、岩場と私との間に新たなベックスが現れる兆候があった。

身を低くして様子をうかがうと、ハイドラが1体、光を伴って現れた。

ハイドラはセイントさんを脅威とみなしているようで、今はこちらに注意が向いていない。

 

ならば─と通常の散弾をリロードしながら岩を降り、そのまま駆け出す。トップスピードに乗ったまま、ハイドラとの距離を詰めた。

 

そのスピードのまま、浮遊するハイドラの下に潜り込むようにスライディングをする。

ハイドラの背からゼロ距離になるまで2発を躊躇うことなく撃つ。

その衝撃でハイドラは揺れ、私を脅威と見なしたようだが、もう遅い。

そのままハイドラの前方に転り正面から2発、うち1発をこちらを見つめる瞳に撃ち込むと、ハイドラはバラバラになりながら崩れ落ちた。

 

そのまま体を180度回転させ、さらにセイントさんに近づく敵を排除に移る…時には、既にセイントさんがゴブリンやミノタウロスを蹴散らした後だった。

 

「ハイドラの対処、いい動きだった!腕を上げたな!」

「ふふ、余計なお世話かもしれなかったですけどね?」

 

「そんなことはない」とセイントさんはこちらを褒めてくれる。やっぱり褒められると嬉しい。

 

ホッと息を吐き、少し気を緩める。後はゴーストちゃんが残骸をスキャンして情報を集めるだけだ。

 

だが、結果は…

 

「今日もあまり収穫はなし、ですか…」

 

 

転がっているベックスの残骸をつつきながら呟く。襲撃には少しは慣れてきたが、倒しても成果が出ないことには毎度ガッカリする。

 

「もう少し早く情報が集まると思ったのですが、上手くいきませんね…」

 

ゴーストちゃんも、それに対しては同意見のようだった。セイントさんも思うところがあるのか、顎に手を当てて唸っている。

 

「そもそも妙だ、ベックスが何かアクションを起こそうとするのであれば、特に何かしら起きているはずだ。」

「何かベックスが手をこまねく事態が発生したのでしょうか?」

「それとも入念な準備をしているか、だ。」

 

「少し方法を変えるべきか?」とセイントさんが考えている時

 

「おや…?どうやらこのハイドラのコアがまだ生きているようですね、解析します。」

 

私が倒したハイドラの残骸の方に、ゴーストちゃんは向かっていった。私といえば、流石に疲れが出たので伸びをして情けない声を上げている。すると、

 

──ジジッ

 

何か小さな電子音が聞こえてきた。

 

なんだろう?と目を開けると、そこには小さな光の点。そしてそれはみるみるうちに輝きを増していって──

 

「対象情報の照合?リアルタイムで何かの処理が…ッ、ユメ!セイント!ポータルです!しかも目的は──」

 

ゴーストちゃんの声が聞こえる。視界が光に塗りつぶされる。

未知なる恐怖が、襲ってくる。

 

怖い、怖い、助けて──

 

そう思った時、無骨な大きい手が、私を掴んで抱きしめてくれるのを感じた──




これにて追想編は一旦区切りとなります。
小話的に今後出すこともあるかも?詳細は未定です。
軒先につけるなどはオリジナルで付け加えたものですが、セイントに難民が感謝の印として付けるリボンを今回取り入れました。
彼のリボンは原作ではアーマーに付けきることが出来ず、セイントの持つ宇宙船にまで結ばれているようです。彼が多くの人を助けた証明ですね。

原作で盾を持ち続け、反撃もしなかったユメが銃を持つ理由、難しかったです。
セイントのいる世界に来たからには仕方のない部分でもありましたが、仕方ないで済ませずに自分で決めてユメは引き金を引くと思ったので、頑張って描写をひねり出しました。

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