交差する運命   作:門の主トルネ

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セイント視点_砂漠の街へ、ユメと少女


アビドス対策委員会編1~2章
望まぬ形の再開


「おはようございます、先生!」

 

キヴォトスに来ていくらかの時間が経ったころ。

セイントの耳にシッテムの箱から発せられたアロナの声が届く。

 

「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まってるみたいですし、他の生徒たちから助けを求める手紙も届いています。」

 

良い兆しだ、とセイントは考える。日々ユメと共に事務作業に精を出す傍ら、物資の補給依頼などがあれば可能な限り直接物資を届けて、シャーレとして顔を売ることに専念してきた効果が表れ始めたようだ。

 

「それはいい!生徒のためになるシャーレといえども、まずは知られなければ意味がない!」

「はい!これで私たちの活躍が始まるというものです!」

 

そうアロナと話をしていると、書類を持ったユメが声をかけてくる

 

「ふふ、二人とも(・・・)嬉しそうですね。」

 

アロナはユメの言葉に「はい!」と元気よく声を返す。

シッテムの箱を手に入れてから直ぐに気がついたことだが、この世界の生徒たちにはアロナの声は聞こえないらしい。だが、ユメは違った。

 

シッテムの箱の声に自然とユメが返事をしたときには、アロナもかなり驚いているようだった。事実、彼女にもユメが自身を認識できる理由は分からないらしい。

 

アロナが「先生のサポートをするのが私の役目です」と宣言した時には、「なんだかゴーストちゃんみたいですね」などと言っていた。

 

最初はアロナは自身の立場を奪われると思ったのか、ユメに対抗意識を燃やしていたが、今はよき友のような関係となっており、事務仕事の傍らよく二人で話しているところも目にするようになった。

 

「あ、そういえばなんですけど、生徒さんたちの手紙の中に、ちょっと不穏なものがありまして…」

 

どんなものなのだろうか、とユメと共に首をかしげているとアロナが「読み上げますね。」と告げて内容を教えてくれる。

 

それはアビドスという高校からの支援要請だった。

何やら事情があるようだが、現在その学舎が暴力組織の目標となってしまっているらしく、対抗しようにも補給がままならないらしい。

 

「うーん、アビドス高等学校ですか…」

 

内容を伝えた後に、アロナが何か考えるそぶりを見せる。

 

「昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。」

「気候の変化とは、どれほどの影響があったのだ?」

 

アロナにアビドスで起こった気候変動について尋ねる。学校が襲われている問題も早急に解決が必要だが、そうなった背景なども可能であれば知りたかった。

 

「詳細については分かりませんが、自治区の大半が砂漠化するほどのものだったようです。」

 

アロナから伝えられた言葉を受けて、ユメに視線を送る。彼女も思うところがあったようで、目が合った。

 

『砂漠化』その言葉は二人の興味を引くには十分なものだった。

何せ2人が出会った場所が、おそらく『キヴォトスの砂漠』であろうと考えているからだ。

こちらの世界に来てからしばらくは先生としての業務に時間を割き、キヴォトスにある砂漠についてを調べられていなかったのだが、これは丁度良いタイミングであると言えた。

 

「ユメ、弾薬などの補給物資の申請をしてくれ。アロナ、明日にでも物資を届けたい。車両の手配を頼めるか?」

「わかりました!明日すぐに出発ですね!流石は大人の行動力です!」

 

アロナがそう言って張り切る中、ユメはどこか不安げな表情を浮かべていた。

 

「アビドス高等学校…」

 

その顔には苦悩がありありと浮かび上がっていた。無理もない、自身の記憶の手がかりになるかもしれない希望と、名前を聞いてもなお自身の記憶に思い当たるものがないのであろうことからの不安。それらがないまぜになって彼女を襲っているのだ。

 

「悪いことばかりを考えても仕方がないぞ、ユメ。」

「セイントさん…」

 

ユメの頭に手を乗せて、優しく撫でる。不安に駆られる気持ちよりも、今は希望を持つことが大切だ、と彼女に伝えたかった。

 

「アビドスに何があるかは、実際に向かわないことには分からないことだ。それに、何が起こるにしても、私がいる。」

 

そう伝えれば、少し安心したように微笑み、「そうですね。」と彼女は呟いた。

 

「それじゃあ、私はリンちゃんに補給物資の手続きをしてきます!まずはアビドスの生徒さんたちを助けてあげないとですもんね!」

 

ユメはそう言って、書類を用意して足早にオフィスを後にする。

その様子を見送って、自身も明日に備えた用意を開始することにした。

分かる限りの地形や気候の情報を調べ、気候の厳しさによって起こる不測の事態への備えも行う。

可能な限りの準備を終えると、明日に備えて早めにシャーレの業務を終えることにした。

 

 

 

所々に砂が積もった住宅街を、1台の車両が走っていく。

補給物資を載せ、セイントが運転するトラックは他の車両とすれ違うことはなかった。

 

「ふむ、住宅街はあるが、人が住んでいる様子は余りないな。」

「そうですね、この辺りに学校があるはずなのですが、お店なんかも見当たらないですし…」

 

そう話していると、十字路に差し掛かった時に、キキッという甲高い音が聞こえた。

見れば、ロードバイクに乗った学生服を着た獣耳の少女が、こちらを不思議そうな目で見つめていた。

この自治区に入ってから初めて会う人の姿に、この街の状況を聞くのに丁度いいと思って声をかける。

 

「そこの君、少し良いか?」

 

少女は話しかけられるとは思わなかったのか、少し驚いた様子でこちらを見上げた。

 

「…えっと、どうしたの」

 

少し緊張した面持ちでこちらへと寄ってくる彼女は、こちらの事を警戒しているようだった。

ふむ、と考えていると助手席からユメが顔をのぞかせて少女に話しかける。

 

「すみません、私達少し用事があって来たのですけど、この自治区に来るのが初めてなのでちょっとお話を聞きたいなって思って。」

 

ユメがそうやって語りかけると、少女は少し警戒を解いたようすで答えてくれる。やはりユメは相手をどこか安心させる雰囲気があるなと感心する。

 

「ん、いいよ。でも用事でこんなところに来たの?市街地はもっと郊外だけど…」

 

どうやらこの周辺には本当に目立った施設は無いようだった。であるとすれば、この近くにある施設は自分達が目指す学校のみであり、ここで出会った少女も必然的にそこに所属しているであろうことが予測できた。

 

「我々は連邦捜査部『シャーレ』のものだ、アビドス高等学校からの支援要請を受けて来たのだが、君はアビドスの生徒か?」

 

そう伝えれば、少女の顔は再び驚いた様子を見せた後に、どこか納得をしたように頷く。

 

「…そっか、久しぶりのお客様だ。」

 

そう言い、少し嬉しそうに微笑むと、自転車に乗り直し「ついてきて。」と告げる。

 

「立ち話もなんだし、学校まで案内してあげるから、向こうで話そう。」

 

そう言って自転車をこぎだす少女の背を、ゆっくりとトラックは追いかけた。

 

 

 

少女の案内のもと、無事に学校にたどり着くことができた。

トラックを校庭の隅に止め、ユメと共に車両を降りる。

 

「案内に感謝する。私はセイント、シャーレの先生をやっているものだ。」

「ん、砂狼シロコ。…すごい恰好だね。」

 

窓越しではわからなかったセイントの全体像をみてシロコは少し目を輝かせていた。手に持ったヘルムを被ってとせがまれて被って見せれば、瞳の輝きが増したように見えた。

昔、シティの子供たちに担いでとねだられた時のようだ、とどこか懐かしく感じる。

 

「私は梔子ユメです。よろしくね、シロコちゃん。」

「ん、よろしく。」

 

お互いに自己紹介を終え、補給物資の件について話そうとした時。校舎の方から足音と声が聞こえた。

 

「ちょ、シロコ先輩。トラックを引き連れてどうし…うわ⁉何っ⁉その大男は誰⁉」

「わあ、凄く大きくてトゲトゲしてます!」

 

そこには、猫のような耳とツインテールが特徴的な黒髪の少女と、お団子を付けたベージュのロングヘアの少女がいた。

ベージュ髪の少女はそうでもないが、黒髪の少女は完全にセイントの風貌におののいていた。

 

「ん、セリカ失礼。そんなに怖がらなくてもいいのに、かっこいいし。」

「べ、別に怖がってなんかないわよ!!というか誰なのか説明してよ!!」

 

そんな様子を見かねてユメがセイントの陰から顔を出す。その顔には苦笑いが混じっており、セイントの風貌によっておこる一連の対応は日常茶飯事なのだ。

 

「えっと、私達はアビドス高等学校の奥空アヤネさんよりいただいた支援要請を受けてこちらに来ました。トラックには弾薬等の補給物資をできるだけ積みましたので、倉庫などで保管するのであれば運び出しを手伝いましょうか?」

 

その言葉を聞き、後から来た少女二人の顔が明るくなる。

「そういえば、アヤネが新しくできた連邦捜査部に支援要請を送るって言ってたわ!」

「わあ☆支援要請が受理されたのですね!アヤネちゃんに報告してあげないと!」

「ん、正直枯渇寸前だったから助かった。」

 

どうやら3人とも支援要請は認識していたらしく、それが正しく届いたことに安堵しているようだった。

 

「ならさっさと運び出さないと、いつ襲撃があるか──」

 

ダダダダダッ!!

 

遠慮のない銃声が、校門の向こうから響いてくる。どうやら件の街の暴力組織が攻めてきたようだ。

 

「攻撃、攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!!学校を占領するのだ!!」

 

視線の向こうには、赤と黒のヘルメットを被った一団が、こちらに対して進軍しているのが見えた。

 

「カタカタヘルメット団っ!よりにもよってまだ補給もできてないのに!」

 

黒髪の少女の言葉に、彼女たちは今すぐにでも補給作業を行わないと戦線に参加できないようだ。

ユメがすかさず指示を飛ばす。

 

「三人はトラックから物資の補給を完了次第、戦列に加わってください!それまでは私達で食い止めます!」

「防衛戦だが、出鼻をくじいて向こうの足並みを崩すぞ、ユメ!タイタン流だ!合わせろ!」

「了解!」

 

三人の補給の時間を稼ぐための、前に出ようとした時、傍らにあるバリケードが目に留まった。鉄板をいくつか組み合わせており、丈夫そうなそれをセイントは握りしめる。

 

「フ ゥ゛ン゛!!」

 

雄叫びを挙げると、あろうことかセイントはそのバリケードを持ち上げて前面に掲げ、敵の戦列の中央に突撃をしていったのだ

 

「な、なんだこいつ…うわぁ!!」

 

隊列を組んでいたヘルメット団の中央がなぎ倒されて隊列が乱れる。

中央突破をしたセイントを撃破しようと隊列の左右に並んでいた団員達がセイントの方に体を向けた瞬間、背後から立て続けに4発のショットガンの銃声が鳴り響く。

セイントに気を取られた敵をユメが的確に狙い撃ち、無力化をする。

 

「補給はできたか⁉」

 

セイントの声が響き渡る。振り返ると、シロコちゃんを含めた3人が臨戦態勢を取っていた。

「補給完了よ!毎度毎度襲ってくれちゃって、目にもの見せてやるわ!」

「ん、いつでも行ける。」

 

その様子にセイントさんは満足し、次の指示を飛ばす。

 

「後方の敵はまだ隊列を組み切れていない!このまま一気に叩くぞ!」

 

三人は頷き、銃を構えて前進する。

もとより補給ができてないと予想をしていたアビドス側が攻勢に出てくるのが予想外だったのだろう。ヘルメット団は直ぐに勝ち目がないと見切りをつけたのか、すぐに撤退をしていく。

 

「ふむ、素早い引き際だったな。逃げ足は速いと見える。」

「とはいえ、補給が間に合っていないと撃退できなかったとおもいます、ありがとうございます☆シャーレの先生…であってますよね?」

 

ベージュ髪の少女がこちらに頭を下げている。それに続いて、「先生だったの⁉」という黒髪の少女の声が聞こえた。そういえば、まだ二人には自己紹介ができていないと思い、口を開こうとした時だった。

 

ユメ先輩!!

 

ヘルメット団との戦いを終えて、静かになった校庭に別の大きな声が響いた。

 

皆の視線の先には、ピンク色の長い髪をした少女がいた。その両目は大きく開かれ、特徴的なオッドアイからは涙が溢れている。

 

ただならぬ様子に、皆が息をのんだ瞬間、その少女はユメに向かって真っ直ぐに駆け出し、その体に抱き着いた。

 

「ユメ先輩…ユメせんぱぁい…どこに、行って…無事、だったんですね…っ!」

 

涙を流し、声にならない声を上げる。周りの少女たち、恐らく事態を聞きつけてあとからやって来たメガネの少女も含め、彼女たちは状況がわからず困惑しているようだった。

 

ユメは抱き着いて来た少女を優しく包み、頭を撫で、背中を叩く。

崩れるようにしゃがみ込んだ少女に合わせるように、膝をおり、正面から彼女をみる。

ユメは、少し苦しそうに顔を俯かせる。口の端を噛んで悩むようにした後、再び正面から彼女を見た。

その様子に少女は疑問を持ったのか、その口から言葉を紡ぐ。

 

「ユメ先輩…どうしたんですか?あ、もしかしてどこか怪我とか…」

 

その言葉に、ユメは首をふって答える。その目の端には涙が浮かんでいた。

 

「ごめんね、私、あなたのことを覚えていないの…」

 

 

「……え、」

 

少女には、その声を出すことが精一杯だった。




アビドス第一話!いかがだったでしょうか?

記憶を失ったユメとそれを知るホシノ、今後の2人を焦点とする形でアビドス編は進行していきますのでお楽しみに!
ちなみにかなりライブ感で描いてるので齟齬が出始めたらごめんなさい!!
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