交差する運命   作:門の主トルネ

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ユメ視点_アビドスの事情、レジルという男


各々の想い

アビドスに戻ったとき、私達は何とも言えない空気を漂わせていた。

当初の目的こそ果たしたものの、襲撃中に現れたレジルという人に会ってから、セイントさんの口数が減ってしまったこともある。

あの様子を見るに、セイントさんとレジルさんは友人だったのだろうか?そしてその人に拒絶されたセイントさんに、みんなも何と声を掛ければいいかと悩んでいた。

 

場の空気を変えるように、ノノミちゃんがパンッと手を叩いて声を上げる。

 

「とりあえず!火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付いたので、これで一息つけそうです☆」

「そうだね。これでやっと重要な問題に集中できる」

「そうそう!先生のおかげで、心置きなく借金返済に取り掛かれるわ!」

 

「ありがとう先生!」と皆がセイントさんを元気づけるように声をかけてくれる。

セイントさんもその声で切り替えたようで、穏やかな声でそれに答えた。

 

「なに、これくらいは大したことではない」

 

しかし─と言葉を続ける。セイントさんもセリカちゃんの言葉に疑問を持ったようだった。

 

「借金返済とは、どういうことだ?」

 

ついうっかり口を滑らせてしまったようで、みんなは慌てたような様子だった。特にセリカちゃんはこの件を話すことには反対らしい。でも、そこまで聞いてしまったら詳細が気になってしまうのは無理のないことだった。しかも私が元々アビドスにいたこともあって、余計に気になってしまう。

 

「えっと、アビドスに借金があるんですか?もしかして、私も関わっていたことですか…?」

 

その言葉にホシノちゃんは目を伏せる。どうやら当たっている。

 

「うへぇ、説明しない訳にはいかないよねー、実は──」

「ちょっと先輩!ユメ先輩にはともかく、先生にも話すのは違うでしょ⁉今まで誰も助けてくれなかった大人に、このことを話すなんて私は認めない‼」

 

セリカちゃんは頑なだった。確かに、自分達だけで頑張ってきたことに、いきなり首を突っ込まれるのは嫌だという気持ちもわからなくはない。だけど、

 

「でもねぇ、セリカちゃん。今まで私達だけじゃ根本的には解決できなかったんだからさ。ここは助けてくれた先生を頼ってもいいんじゃない?」

 

ホシノちゃんがそう言うと、セリカちゃん以外のみんなもどうやら乗り気のようで、セリカちゃんはその様子にもっと不機嫌になってしまった。

 

「私は認めない‼」

 

そう言って部室を飛び出すセリカちゃんを、ノノミちゃんが追いかけていく。

 

その様子を見守ったホシノちゃんはため息をついた後、「とりあえず説明するね」といって事情を話してくれた。

 

──9億6235万円

それがアビドスが背負った借金の大きさだった。

事の原因はアビドスの多くを砂漠化させた砂嵐のせいだったようだが、年々増加する被害に借金が膨れ上がり、砂漠化した学校から生徒も離れてしまったため、今いる皆のみで借金を返済しなければならない状態らしい。

 

セリカちゃんは、これまでその借金問題を助けてくれる大人が誰一人いなかったこともあって、先生に頼ることが嫌だったのだろう。

 

「…まあ、そういうつまらない話だよ」

 

そうホシノちゃんは言うが、生徒たちだけで解決できるような問題にはとてもじゃないが思えなかった。別に手を貸してほしいわけじゃないとみんなは言うが、ここではいそうですか、と見捨てるわけにはいかない。

 

「ホシノちゃん、私にもその借金返済、手伝わせて」

「先輩なら、そう言うと思いました。でも、別にいいんですよ?本来であれば先輩は卒業しているはずですから、もう関わらなくたっていいはずです」

 

ホシノちゃんはそういうが、大切な人が困っているのに、助けない選択肢などなかった。ホシノちゃんも私の性分は理解しているのだろう、半分諦めたような目をしている、だから、私は私のために手伝うのだと、伝える。

 

「それにほら!記憶をなくす前も借金返済してたんでしょ?同じことやれば思い出すかも!」

 

そう言うとホシノちゃんはため息交じりに「…わかりました」と納得してくれた。

 

「なら、あの時と同じように砂漠で水着で宝探しでもしてもらいましょうか」

「そんなことやっていたの私ぃ⁉」

 

一体過去の自分はどんな人物だったのか、初めて思い出すのが少し怖くなった。

私がうなだれていると、セイントさんも皆に手伝う旨を伝える。

 

「無論、私も手伝おう。君たち『生徒』を助けるのが、私の役目だ」

 

その言葉に、ホシノちゃんたちは少し安堵というか、希望を持ったような様子だった。

だがその裏で、セイントさんが言った言葉にどこか引っ掛かりを覚えた。どうやらセイントさん自身も同じらしい。

 

『私たちは生徒じゃない。そんな奴ら、どうやって助けるんだ?』

 

あのヘルメット団の子の言葉を思い出す。シャーレとして、私達がこの世界で出来ることは、何なのだろうか?

 

 

 

その日の夜、シャーレへと戻った私は仮眠室のベッドに横になっても、上手く寝付けなかった。

寝返りを繰り返し、肌とシーツが擦れる音が聞こえ、それすらも気になりだしてしまう。

 

私は諦めてベッから抜け出し、シャーレのオフィスへと向かった。

セイントさんは夜はビルの外へ出たりもしているようだが、今日はなぜだかそこに行けば会えるような確信があった。

 

オフィスの扉をそっと開ける。

電気はついていないが、大きな窓から月明かりが差し込んでいる。

そしてその明かりに照らされながら、セイントさんは夜に浸る街を眺めていた。

 

セイントさんは街を見るのが好きだと、以前に話していた。そこで生きている人々の営みが想像できるのだと。彼の世界ではシティを守り、その守った人々の日常を想っていたであろうその行為は、このキヴォトスではセイントさんに何を感じさせているのだろうか。

 

「セイントさん。少しいいですか?」

「ああ、ユメか。眠れないか?」

 

セイントさんは快く私を受け入れてくれた。電気をつけようとするセイントさんを「月明かりがありますから」と断り、ソファに腰掛ける。

彼は隣にゆっくりと腰掛け、穏やかな声で話をしてくれる。

あの世界にいたときから、眠れない時はいつもこうしてくれてた。

 

「今日は多くの事があったな。疲れてはいないか?」

「いいえ、これくらいへっちゃらです」

 

他愛もない話をお互いにする。久しぶりに事務仕事から解放されただとか、そうかと思えばリンちゃんから追加の書類が送られていたなどを少し愚痴っぽく言い合ったり、仲良くなった人の話をしたり。

 

そうして少しの時間が過ぎたあと、セイントさんは言った。

 

「何よりも、アビドスに行けたのは僥倖だった。ユメのいた場所が分かったのだからな」

 

セイントさんはそう優しく、喜んでくれている。

 

「はい。それに、ホシノちゃんに会えました」

 

それは、何にも代えがたい再会だった。私がこの世界に生きていた確かな証明。まだ記憶こそ戻らないけど、私という人がこの世界で生きる許しを得た瞬間だった。

 

「記憶も、きっとこれからホシノちゃんといれば何とかなる気がするんです」

 

そうセイントさんに言えば、「そうか」といいながら頭を撫でてくれた。やっぱり、セイントさんの手は温かい。

 

「アビドスは大変な状況みたいですけど、そこで頑張るみんなにも会えました。…なんだかすごく、幸せです。」

「そうだな。良い子たちだ、何とか助けになれるようにせねばな」

 

セイントさんの言葉に頷く。私も関わっていたことだ、借金返済に関しては何とか力になってあげたい。

 

「とりあえずヘルメット団の問題はなくなりましたし、好転すると良いんですが…あの子たちの問題も、聞いてあげたかったんですけど」

「自分たちは『生徒』ではない、助けもいらない。と、言われてしまったな」

 

カタカタヘルメット団の子が言った言葉を思い出す。彼女はこちらが何とかしようとしているのを理解した上で、自分の意志で断ってきた。それを聞いてもなお、手助けしたいと思うのは余計なお世話なのだろうか。

 

「彼女たちに助けが必要なのは確かだ。しかし、我々が一方的に与えようとする救いを、彼女たちは望んでいないだろう」

 

おそらくだが、と付け加えてセイントさんは続ける。

 

「彼女たちは、自分たちで未来を勝ち取りたいのだろう。できるとすれば、それを見守ることくらいしか、今はない」

 

その言葉に、少し目を伏せる。彼女たちは自分たちのプライドや癇癪のせいでこうなった、と言っていた。自分たちの間違いも分かった上で、それを背負う覚悟を持っているんだろう。そんな自分たちが、ただで助けられる理由はないと考えている。…また同じようにプライドで自身を追い詰めているとも、分かっているのだろう。

 

「あの子たちが、どうやったら未来に進めるんでしょうか」

「私にも、今はわからない。ただ彼女たちが行き先もわからずがむしゃらになっているのは事実だ。未来に導いてやる誰かが必要だ」

 

彼女たちを、見守り、導いてくれる存在。それは少なくとも今は私たちシャーレではないのは確かだ。だがそれならいったい誰がなれるだろうと考えて、1人の人を思い出す。

 

「あの、レジルさんってどんな方なんですか?少なくとも彼女たちには慕われているように見えました」

 

あの時出会った、おそらくセイントさんの戦友であろう人物。彼ならばそんな存在になってくれるのではないかと思い、聞いてみる。セイントさんはそれに頷いてくれた。

 

「レジルであれば、出来るだろう。彼は偉大な男だ、それは私がよく知っている」

 

「だが…」と、どこかセイントさんは困惑した様子だった。

 

「あの時のレジルは、どこか雰囲気が違った。まるで人が変わった、いや、抜け殻のようだ…」

 

あの時のレジルさんは、セイントさんが知る雰囲気とは違ったらしい。

 

「その、レジルさんってどんな人なんですか?」

 

セイントさんは少し考えて、語りだす。

 

「我が戦友、タイタンをタイタンたらしめた男だ。前にシックスフロントの戦いについて教えたな?」

 

私はコクリと頷く。

──シックスフロントの戦い。

セイントさんのいた世界、人々が住む人類最後の都市『シティ』。

その場所をエリクスニーの6つの勢力が、それぞれ6方向から同時に攻めて来た事があったのだと言う。

 

そして、その攻撃に対して4人のタイタンが、各方面に対して防壁になって食い止めたという伝説が残った戦い。そのうちの1人が、セイントさんだ。

 

「私と共に防壁となった男が、レジル・アジールという男だ」

「それって…、すごい人ですね」

 

それには驚いた。セイントさんの言葉でしか知らないが、その時のエリクスニーの勢力は一つ一つが強大だったと言う。そしてそれを食い止めたということは、レジルという人はセイントさんと同じくらい強いということでもあった。

 

「我々は互いに互いが敵を一匹も通さないと信じていた。共に戦う友が、敵を通さないのであれば、自身も守りきらねば胸を張ることができないと自分を鼓舞して戦った。そして、守り抜いたのだ」

 

命を賭けた戦いの中で、これ以上にない信頼をした、間違いなく戦友と呼べる人だったようだ。そして、英雄でもある。

 

「我々がタイタンと呼ばれるようになったのも、その戦い故だ。タイタンの紋章は、その時の戦いをもとに作られた」

 

タイタンの紋章、それは六角形の図形を4つに分けたような形の印。

そこに描かれる欠片の一つがセイントさんなのだとすれば、もう一つはそのレジルさんなのだ。

セイントさんの誇らしげな様子をみるだけで、その人への信頼の高さがうかがえる。

 

「だが、レジルを英雄と呼ぶ理由はもう一つある」

「え、まだ何かあるんですか?」

 

正直、先の戦いの話だけでも十分なくらいだが、どうやらまだ何かあるらしい。しかし、その言葉を続ける前に、セイントさんはこちらを見た。

 

「だが、この功績で彼を英雄と呼ぶかは、ユメがどう思うかにもよるだろう」

 

セイントさんは真剣な面持ちで、続きを語る。

 

「かつてシティの足並みがまだ揃わなかった時代があった。皆が同じ未来を見れていなかった時代だ。人類同士で争いも起こっていた」

 

それは、確かにあり得るだろう。人が集まれば色々な事が起こる。考えの違いから喧嘩が起きたり、それが勢力を持てば争いになる。

 

「しかし、レジルはその争いを鎮め、シティを一つにまとめてみせた。それが彼を英雄たらしめる物語だ」

 

「ただし─」セイントさんは続ける。考える素振りをしながら、その英雄の行いを。

 

「その方法は、シティにとって共通の敵を示すことだった。トラベラーを追ってきたエリクスニーを、フォールン(略奪者)と呼び、このままでは人類の全てが奪われると警告をして、人々をまとめ上げたのだ」

 

その言葉に、「そんな…」と声が出てしまう。

 

エリクスニーについて、以前にセイントさんと話をしたことがあった。

 

エリクスニーという種族は、かつて人類と同じように『トラベラー』によって大きな繁栄を遂げた種族らしい。エリクスニーは『トラベラー』を大いなる機械の神と崇め、それを模した機械を作るほどに信仰していた。

 

しかし、『トラベラー』はエリクスニーの元から突然、離れていった。『トラベラー』を失ったエリクスニーの文明は崩壊し、種族に大きな危機が迫った。そこで、エリクスニー達は離れていった『トラベラー』を追いかけた。神にすがるように、種族を救うために。

 

だが、『トラベラー』を追いかけたエリクスニーは、それから恩恵を与えられた人類に出会った。

 

そうして、『トラベラー』をめぐる争いが、人類との間に発生したのだという。

 

この話を聞いた時に、私はエリクスニーに少し、同情してしまったのだ。

もちろん、実際に襲われた立場でないから、戦った立場でないからこそ言えることだ。

だが、自分が信じていたものに突然裏切られてしまったことを考えると、どうしてもエリクスニーだけを責めることは出来ないような気がしたのだ。

 

セイントさんはその私の考えを聞いた時、驚いた顔こそしたが、私を怒らなかった。私のことを「優しいのだな」といって撫でて、エリクスニーについて自分も少し考えてみると言ってくれたのだ。

もちろん、ずっと戦ってきた敵だったのだから、直ぐにセイントさんも考えが変わることはなかっただろう。でも、何か思うところがあったようだった。

 

きっと、レジルさんが行ったことも、理由の一つなのだろう。

 

「私は当時、そのことに疑問を覚えなかった。無論、人々を守れたことに対して、後悔や疑いなどはない」

 

セイントさんは語る、考えることをやめずに、これからのために振り返る。

 

「だが、今思えば別の道もあったのかもしれない。人類には、余裕と優しさが足りなかった」

 

少し悲しそうな声で、彼は言う。それは当時の自分を責めてもいるかのようで、心が苦しくなった。

 

「そうかもしれません」

 

私は口を開く、私の考えを汲み取ってくれたからこそ悩んでくれているのだ。ならば私の考えは素直に伝えるべきだろう。

 

「でも、誰かを、人類を守りたかったことは確かだったんです。優しさは、あったんです。セイントさんが言うように、ちょっとだけ他の人に分けてあげる余裕がなかっただけです。」

 

「だから─」と思ったことを、まっすぐに伝える。

 

「セイントさんのせいじゃ、ありません」

 

セイントさんは少し黙ると、目を細めながら頭を撫でてくる。

 

「ありがとう」

 

少し肩の荷が下りたようなセイントさんに安心すると、私は続ける。

 

「セイントさんは、レジルさんが悪意をもってエリクスニーを敵にしたのかもしれないって思っちゃったんですよね?」

 

セイントさんは「お見通しか。」と少し笑うと

 

「ああ、エリクスニーについて考えていた事もあって、少しな。それに、レジルの変わった雰囲気のせいで疑ってしまった」

 

「きっと、レジルさんも人類を第一に考えただけであって、そんなつもりはなかったんじゃないでしょうか。雰囲気が変わった理由までは、分からないですけど…」

 

私はレジルという人をよく知らないから、そう言うことぐらいしかできない。ただ、そもそもの疑問も残る。

 

「そもそも、なんでそのレジルさんがキヴォトスに…?」

「それは私にもわからん。無限の森に数百年いた間に何かあったのか…」

 

私たちは首をかしげる。同じようにベックスにテレポートさせられたのだろうか?

そしてこのキヴォトスで、彼は何をしているのだろうか?

セイントさんも疑問は尽きないようで、考え込んでしまっている。しかし、解決するのは簡単に思えた。

 

「なら、行動したほうが早いですね!」

 

セイントさんが疑問符を浮かべているが、やることは単純だ。

 

「せっかくセイントさんの戦友さんが来たのなら、色々話してみたいです!聞けば色々なことがわかるかもしれません!」

 

「もし何かに悩んでいるなら、力になれるかも!」とセイントさんに告げる。もしかしたら、レジルさんも自分の知らない世界に来て何か困っているかもしれない。それならまずは、会って話せば良い。

 

セイントさんは少しポカンとした表情を浮かべていたが、すぐに笑って、「そうだな」と返す。

 

「会ってしっかり話し合えば、それで良い」

 

その言葉に、私は笑みを浮かべて「そうでしょう!」と胸を張って返した。




レジル・アジールという男については謎が多いですが、セイントと共にシックスフロントを戦い抜いた英雄であるのであれば、セイントが信頼していないことはないだろうと思っています。

タイタンの紋章などは自己解釈ですが、Destiny本編を読み解くとそうじゃないかなって思えるんですよね…

レジルがこの世界に来た理由なども今後の楽しみにしていただければ幸いです。

ドレドゲンの名を出したレジルの持つ銃がなぜ「ローズ」なのかと思う人もいるかな…?
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