交差する運命   作:門の主トルネ

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アビドス砂漠、梔子ユメ視点


大きな背中

灼けるような日差しが、容赦なく肌を突き刺す。

足を踏みだすたびに、砂がさらさらと音を立てて崩れていく。地平線の向こうまで広がる砂漠は、見渡す限り何も変わらず、同じ景色が続いていた。

 

風が吹くたび、熱気を孕んだ砂が頬を叩きつける。小さく息を吐くと、喉の奥が焼けるように痛んだ。

 

(大丈夫、まだ歩ける…)

 

私、梔子ユメはアビドス砂漠を彷徨っていた。

 

きっかけは何時も行っていたちょっとした宝探しだった。

自身の学校の借金を返すため、その学校の生徒会としての役割を果たすため、これまで通りに砂漠へ繰り出していた。

いつもと少し違うのは、コンパスが狂っていて使い物にならないことと、最近はほとんど共に行動していた背の低い後輩が隣にいないことである。

 

(ホシノちゃん、今頃心配してるだろうなぁ)

 

口を尖らせて不満げな顔を見せつつも、優しい後輩の顔が脳裏に浮かぶ

こんな時、「念のため持ってきておいて良かったです」なんて言ってコンパスを取り出し、私を助けてくれるのは彼女だった。

 

(やっぱり、ホシノちゃんがいないとダメダメだな、私…)

 

『もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!』

少し前に、彼女に言われた言葉、気にしていないと言ったら、嘘になる。

 

私が頼りないのも分かってる。それでも、少しでもいいから、毎度手伝ってくれるホシノちゃんにお礼として楽をさせてあげたかったし、安心してもらいたかったし、先輩の威厳って言うのもたまには示せたらな~なんて、柄にもないことを思いついて、行動した。

 

――その結果が、このありさまである。

 

歩いても歩いても戻れない。太陽が移動するたびに影が伸び、向きを変える。それを頼りに進んでいたはずなのに、景色は変わらず、自分がどこにいるのかすらわからなくなる。

背負ったバッグが肩に食い込み、ひりつく痛みを与える。水筒を揺らすと、残り少ない水が音を立てた。けれど、飲むのが怖かった。

 

「情けないなぁ…」

 

呟いた声は熱風にさらわれ、砂に溶けていった。

 

足元の砂が柔らかく崩れ、砂粒が靴の中に入り込む感触が鬱陶しい。汗が首筋を伝い、乾いた風がその汗を一瞬で奪っていく。視界は歪むように揺れて、砂の上で陽炎がゆらめいていた。

 

『次は気を付ければいいですから』

 

耳の奥で、声がする。

振り返れば、いつものように何だかんだ言いながら許してくれるホシノちゃんの姿が見えた気がした。

 

(なんとかして──帰らなきゃ)

 

踏みしめる砂の音がリズムを刻む。心を落ち着けるように、呼吸を整え、視線を前へ向ける。

 

その時だった。

 

ーージジッ

 

風の流れが、唐突に止まった。

空気が張り詰める。砂漠に似つかわしくない電子音が少しずつ大きくなってくる。

 

視界の端で、無機質な光が淡く明滅している

 

(……なに、あれ……?)

 

瞬きをする間に、その光は強さを増していき、そこからの幾つもの”目”のような赤い点が姿を現す。

 

知らない。こんなの、見たことがない。

 

ロボットやドローン兵器などは見たことがある。なんなら何度か襲われたことのある不良だってそういったものを使っていることがあるからだ。

 

でも、これは、違う。

背中に冷たい汗が流れ、手が震え、指先が白くなる

 

正体を表したそれらは真鍮色の体を持ち、その体の一部には乳白色の液体が通っているように見える。それらの顔と思わしき部分には感情を感じさせない無機質な赤い目が存在していて──

 

周囲にいるそれら全てが首のような部位を回し、その目を向けてきた瞬間、心臓が跳ね上がった

 

(逃げなきゃ――!)

 

そう思った瞬間、機械達から閃光がほとばしる。

キヴォトスでは日常的に銃撃が飛び交っていたが、それらとは明らかに異なる攻撃に、反応が遅れた。

 

四方からの銃撃を少しでも盾で防ごうと試みるが、ただでさえ砂漠を彷徨い疲弊していた上に、未知なる存在との遭遇による驚愕と恐怖に見舞われた身体では対処のしようがなかった。

 

「きゃ――!」

 

襲ってきた衝撃は構えていた盾を、全身を容赦なく吹き飛ばす。

地面を転がり、視界がぐるぐると回る。

 

乾いた砂が舞い上がり、頭から温かい液体が流れ落ちていく感覚があった。

 

(これ……血……?)

 

痛みが遅れてやってくる。身体が重い。動かそうとしても、思うように動かない。

 

視界に映る盾に手を伸ばす。

恐怖から身を守りたくて、すがるように伸ばした手の先に転がるそれの縁には自分の血が落ちて、赤黒く染まっているのが見えた。

 

まるで、自分の末路を示しているかのようだった。

 

「う、……ぁ……」

 

声にならない声が漏れる。 砂の匂いに、血の鉄臭さが混じる。

 

(やだ……やだよ、まだ……!)

 

呼吸が浅くなる。最後の望みだった盾の側に、あの機械達の足が音を立てて並んだ。

 

(ホシノちゃん……ごめん……私……)

 

視界が霞む。その時――

 

紫色の光が視界を満たした。

 

ふわりとした感覚とともに、夜空を閉じ込めるような膜が自分と機械達とを遮るように包む。

 

砂漠の焼けるような日差しがその幕を通り、ボロボロの身体に色を落とす。

 

何が起きているのか分からない。その混乱の中で、砂を強く踏みしめる足音が、耳に届いた。

 

ゆっくりと、朧げな視界を向けると、そこには大きな影があった。

 

鋼の鎧を纏った巨躯。その背中が自分を庇うように立ちはだかり、外の機械たちを睨みつけている。

 

(だれ……?)

 

私とその影を排除せんと飛び込んでくる無数の光線。それを弾き返すように、紫の膜が微かに震えた。

 

「必ず助ける。」

 

低く、震えるような声が背中越しに聞こえた。

 

その声に、不思議と胸の奥が温かくなる。

 

(あ……なんだろう……)

 

血の匂いが薄れていく。視界の霞が深くなっていく中、胸の奥で何かが解けていくような感覚だけがあった。

 

(これなら、大丈夫……)

 

紫光の中で守られながら、そのまま瞼が閉じていく。

 

――意識が、静かに闇へと落ちていった。

 




次回、セイント視点での戦闘シーンへ続きます。
ユメ先輩のキャラクター性に迷いながら執筆した今回、これから彼女とセイントがどう関わって行くのか、楽しんでいただけると幸いです。
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