交差する運命   作:門の主トルネ

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セリカとセイント、そして…


アビドスの1日

アビドスの借金問題について彼女たちから詳細を聞いてから数日、セイントとユメは頻繁にアビドスを訪れていた。

前哨基地を潰したとはいえ、再度ヘルメット団が襲ってくる可能性もあったため、その警戒をすると同時に、借金返済の力にどうにかなれないかと考えてのことだった。

 

現在は、ユメと手分けをしてアビドスの土地を調べ、記録を残している。

何しろ連邦生徒会から取り寄せたアビドスの土地の情報がここ何年も更新されておらず、今のアビドスとはかなり状況が異なっているようだったためだ。

なぜ連邦生徒会に情報がないのかもいずれ調査しなければならないが、今は土地の記録が先だと考え、学校の周辺からユメと手分けをして進めている。

 

「この周辺も、多くの住民が離れてしまったようだな…」

 

少しの悲しみが混じった言葉が、セイントの口から漏れる。

街というのは、住民がいなければ機能しなくなる。そして、その街が苦境に立たされているのであれば、なおさら住民との団結が不可欠であると、セイントは知っている。

しかし、その住民が既に去ってしまっているアビドスでは、助力を得られないのは明白だった。

 

どうにか住民を呼び戻すか、しかし、砂漠化が進み借金が残るアビドスにわざわざ戻ってくる理由を住民たちが見出せるか否か…

 

セイントがそう考えながら歩いていると、見知った顔を見かけた。

 

「む、セリカか、これから学校か?」

「ひゃあ⁉びっくりした…って先生か…」

 

少し驚かせたことを詫びながら挨拶をすると、セリカはどこか複雑そうな表情をする。というよりも、例えるなら威嚇をする猫のようだ、などとセイントは頭の片隅で考える。

 

「まったく、朝っぱらからこんなところで油を売って…私、まだ先生のこと認めてないんだから!」

 

随分と嫌われてしまったものだと内心で笑う。しかしセイントにとっては思春期の子供であるセリカの言動などは可愛いものである。その昔、セイントの世界で『シティ』ができる前は、それぞれ領地をもっていた「ウォーロード」と呼ばれる領主に、民をまとめるためと色々な交渉や対立が発生したものだ。

そんなことを懐かしんでいると、セリカの視線がさらに険しくなる。話を聞いていないと思われてしまっただろうか。

 

「ならば、認められるよう努めるまでのこと。必ずセリカの期待に答えてみせよう」

 

そう言えば、セリカはどこかやりにくそうな表情を見せる。セイントの悪意のない紳士的な対応にどう対応すれば彼女も分からないのだろう。

 

「ところで、今日は自由登校だと聞いているが、学校に行くのか?」

 

「そうであれば、共に行こう」と提案してみるが、セリカは首を振る。

 

「今日は学校には行かないわよ。私が何をしようが先生には関係ないでしょ!」

 

「そろそろ時間だから」と言ってセリカはこちらに背を向けて歩き出してしまう。何とかして距離を縮めたいと思ったのだが、そう簡単にはいかないようだ。

 

「そうか、では気を付けるのだぞ、あまり皆に心配はかけぬようにな」

 

後ろ姿にそう声をかけると、小さな声で「…わかったわよ」と聞こえた。やはり素直な子のようだ、セイントはひとつ頷くと、周囲の記録を再開する。

 

ある程度の記録を終えると、ユメと決めていた通りに対策委員会で落ち合うことにした。

部室に顔を出せば、セリカを除いた対策委員会の面々が揃っている。

どうやらホシノとシロコはこちらの土地の記録を手伝ってくれたらしく、思ったよりも進捗が良い。ノノミとアヤネは何やら今月返済に当てる金額の計算などをしていたようだ。

 

皆がアビドスのためにと奮闘しているのを見て、やはり彼女たちの力になるのが自分の役目だとセイントは再確認をする。

 

そう思っていると、ユメが皆の顔を見て疑問を浮かべる。

 

「そういえば、セリカちゃんはいないんですか?確かに自由登校日ですけど…」

 

セリカの性格を考えて、他の皆に仕事を任せて何もしないことは考えられなかったのだろう、ここに彼女がいないことが意外だったようだ。

 

「ふむ、セリカなら朝方に見かけたが、どこかに用事があるようだったぞ?」

 

そんなことをユメと話していると、対策委員会の皆が顔を見合わせてひそひそと話をする。

「セリカちゃん、きっとバイトですよね」

「ですね☆だとすれば」

「ん、きっとあそこ。」

「だね~。それなら、」

 

何かを話し終えたようで、ホシノがこちらに顔を向けて声を上げる。

 

「みんなで。ラーメンでも食べない?」

「「ラーメン?」」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで……わわっ!?」

 

ホシノたちに連れられて、ラーメン屋の看板をくぐると、そこには店の制服に身を包んだセリカの姿があった。

どうやら、セリカの用事とはこの店でのアルバイトだったらしい。

 

「せ、先生まで…まさか尾けてきたの⁉ストーカー⁉」

「うへ、先生たちは悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ……! うぅっ……!」

 

セリカは恥ずかしそうに顔を赤らめる。確かに、いつもと違う格好と雰囲気で働いている姿はあまり見られたくはなかっただろう。

入口近くでそんなやり取りをしていれば、厨房の方から声がかけられる。そこにはどっしりと構えた様子の柴犬がいた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう……はい、大将。それでは、6人席…いや、先生が大きいから8人席か、ご案内します……こちらへどうぞ……」

 

大将と言われたその柴犬の指示にしたがって、セリカが席を用意してくれる。キヴォトスには彼のような獣人を良く見かけるが、彼はその中でも堂々として好感が持てた。

 

「私が場所をとってすまないな、皆は反対側に座ってくれ」

 

対策委員会の4人を向かいに座らせて、残りの4人席にセイントとユメが腰掛ける。ユメは当然のように座るが、気を付けなければセイントのアーマーの棘が少し危ないので注意が必要だ。他の人が何の気なしに座ったら痛い目を見るだろう。

 

「…ユメって、先生の隣に慣れているね。」

「そうですね、自然と距離感がつかめてるっていうか…」

 

シロコとアヤネが告げると、どこかユメは恥ずかしそうにしながら答える。

 

「慣れもありますし、セイントさんも気にしてくれますから思ったよりも平気ですよ?」

 

やはりこのアーマーではキヴォトスの生活では不便だろうか?新しいものをどうにか調達する方法を考えるべきか…などとセイントは頭の片隅で考える。現に少し周りに気を使わせてしまっているようだった。しかし、ユメはそう考えているのがお見通しかのように続ける。

 

「それに、セイントさんのアーマーは格好良くて好きですし、刻まれた小さな傷も、結ばれたリボンも、全部含めてセイントさんですから。」

 

そう言い、セイントの功績をユメは微笑みながら肯定してくれる。

セイントもその言葉に嬉しそうにしながら胸を張る。

 

「その通り、このアーマーは私の誇りでもあるのだ。このセイントが戦い続ける限り、共にあるだろう」

 

その様子に、みんなもどこか納得したように頷く。

 

「先生にとって、そのアーマーは私たちにとっての制服みたいなものなんですね」

「ん、アビドスにいる限り、私たちにとってはこの制服は誇り」

 

セイントのアーマーへの愛着を、彼女たちなりに理解したのだろう。自分達の制服を撫でながらそう告げる彼女たちの目は、どこか愛おしげだった。

 

「制服と言えば、セリカちゃんのバイトのユニフォーム、とってもかわいいです☆」

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真で一儲けだねー。どう?先生も一枚買わない?」

「変な副業はやめてください、先輩…」

 

和気あいあいと、少女たちの話声がする。

顔を赤くしたセリカが注文をとり、仕事をするセリカを皆でどこか微笑ましそうに見たり、

セイントが注文をしたことで「どうやって食べ物を消化するのか」と疑問をもたれたり、

かつてラーメンを共に食べたセイントの友人との思い出を聞かせたり、

セイントがラーメンをすする姿にやはり疑問を持たれたり。

 

楽しくて和やかな時間は、あっという間に過ぎていくのだった。

 

 

 

 

「はぁ、やっと終わった…騒がしい一日だったなぁ」

 

その日の夜、セリカはアルバイトを終えて帰路に就く。

今日は朝からあまり顔を合わせたくない先生と出会ってしまったと思ったら、その先生を連れて皆がバイト先に押しかけてくるものだから余計に疲れてしまった。

その時の皆といえば、先生の話を興味深げに聞いたり、和気あいあいと話をしていたり、楽しそうだったのが見て取れた。

 

「人が働いているってのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。ホント迷惑、何なのアレ。ホシノ先輩、この間の事があったからわざと先生を連れて来たに違いないわ!」

 

思い出せば腹が立ってくる。

確かにヘルメット団の問題を片づけてくれたのは感謝している。ただし、それだけで心を許すかは別問題なのだ。それなのに、みんなは先生のことを信用している。

 

「……ふざけないで、私がそう簡単に折れると思ったら、大間違いなんだから」

 

そう、どうせ先生だって他の大人たちと変わらないのだ。

借金についてだって、今でこそ真剣に向き合うふりをしているが、自分の手に負えないと思ったらすぐに放り出すに違いない。そうに決まってる。

だって、今まで誰も助けてくれなかったのだから。

 

…でも、心のどこかで信じてもいいんじゃないかなって思う自分がいる。そのことには気づいている。ホシノ先輩があんなに取り乱して抱き着いたほど大切なユメ先輩を助けてくれたということもあって、悪い人ではないというのは理解しているのだ。だというのに、認めることができない。

 

わかってる、これは私の癇癪だ。ただ今まで自分たちだけで頑張ってきた出来事に首を突っ込まれるのが気に入らないだけ。子供じみたワガママだ。

それが分かっているからこそ、むしゃくしゃする。

 

「何なのよ、もうっ!」

 

そう吐き捨てて、自分の吐いた言葉が周囲に響き渡ってしまい、少し恥ずかしくなってしまう。

落ち着くために深呼吸をすれば、自分の息遣いが耳にとどく。この辺りは随分静かだ。

 

「そう云えば、この辺も結構人がいなくなったなぁ、前はここまでじゃなかったのに。治安も悪くなったみたいだし…」

 

周囲には閑散としたビルなどが立ち並び、街は完全に眠ってしまっている。

それがどうしようもなく、寂しかった。

 

「このままじゃダメだ。私たちが頑張らないと…そして学校を立て直さないと…」

 

どちらにしても、自分がやることには変わりがなかった。先ずは自分に出来ることを、そう思ってバイトだって始めたのだから。

 

「とりあえずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて…」

 

そう考えた時だった、

 

ザッ──

 

そんな足音とともに、目の前にいくつかの影が現れる。

その影は、ヘルメットを被り、武器をこちらに構えていた。

 

「よっ、黒見セリカ…であってたっけ?」

 

先頭にいた赤いヘルメットを被った少女がやけにフレンドリーに声をかけてきた。

その声には聞き覚えがある。カタカタヘルメット団の前哨基地を襲撃した際に先生と話していた少女の声だ。

 

「…カタカタヘルメット団?あんたたちまだいたのね?それと気安く呼ばないで」

「悪い悪い、でも否定しなかったってことは合ってるっぽいな」

 

少女は笑いながらそう返してくる。その様子はセリカの機嫌を逆なでした。

 

「ちょうど良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこの辺りに足を踏み入れられないようにしてやるわっ…!」

「あれ、思った数倍機嫌悪いじゃん…」

 

少女が何かを言っているが、セリカにとってはどうでもいいことだった。

すぐに銃を構え、先手を取るために引き金に指をかける。

 

ダダダダダッ──

 

しかし、銃声が発せられたのはセリカの銃からではなかった。

 

(後ろにも敵⁉…こいつらもしかして、待ち伏せ…!?)

 

「悪いね、セリカちゃん。ちょっとばかし付き合ってもらうよ」

「この…ッ、馬鹿にしないで!」

 

そういいながらセリカも引き金を引き、応戦する。

多勢に無勢、しかも囲まれている状態で出来ることは限られるが、時間を稼げば騒ぎを聞きつけた誰かが来てくれるかもしれない。そう思って必死の抵抗をする。しかし、

 

ドォン!!──

 

衝撃が、セリカを襲う。爆風に飲まれながら、思考は何故か鮮明だった。

 

(これは…Flak41改?…火力支援?どこから…⁉)

 

そんな答えと疑問が導き出されたとき、体が地面に打ち付けられる。同時に、今まで感じなかった衝撃と痛みが全身を駆け巡る。

 

(こっ、こいつら、ハンパじゃない…ヤバい…)

 

意識が朦朧とする。銃を持つ手の感覚がなくなり、立ち上がらなければという焦りと反対に、体は言うことをきかない。

 

「あちゃ~、やっぱりやり過ぎたよな…お~い!すぐに運ぶぞ!」

 

運ぶ?何をどこに?少女たちの会話も少しずつ遠くなる。「ごめんな。」という言葉を最後に聞いて、セリカは意識を手放した。




更新が滞ってしまったので、ちょっとだけ…

セイントがラーメンを食べたという友人とはどんなハンターだったのでしょうか?(すっとぼけ)

エクソの食事事情ってあんまり分からないんですよね、ハンドキャノンの「大胆な最後」の伝承ではケイド6とシロウ4がお酒について語るシーンで、果たして酒で酔えるのか?という記載があったりします。やはり食事は出来るけれど、それは人間との乖離を抑えるための機能でしかないのかもしれません。
また、同じ伝承内ではエクソの触覚についても言及があったりと、やはりDestinyの伝承は読み解くと面白いです。

エクソの実態についてはもっと深堀りしたいですね、クロビスブレイ関連の伝承を漁らなきゃ…
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