交差する運命   作:門の主トルネ

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ヘルメット団、そしてレジルの思惑


マッチポンプ

ガタン──

 

そんな衝撃とともに、意識が浮上する。

うすぼんやりとした視界に映るのは、薄暗い車内と、隙間から差し込む陽の光。

その光を認識したとき、やっと意識がはっきりしてくる。

 

「ッ、ここは…⁉」

 

伝わってくる振動から、トラックのような車に乗せられているであろうことは分かる。しかし、それ以上の情報は見て取れなかった。

 

(そうだ、私、ヘルメット団に襲撃されて…)

 

攫われたのだと、理解する。足までは拘束されてはいないが、両手は紐で縛られ、武器も手元にはない。

体をくねらせて上体を起こし、壁を使って何とか立ち上がる。

足元の揺れに少しバランスを崩しながらも、自分の居場所を何とか確かめるべく、隙間の外を覗き込んだ。

 

「砂漠に…線路、ってまさか⁉」

 

思い当たるのは、アビドス郊外の砂漠だ。既に夜が明けていることから、相当な距離を移動していることがわかる。であるとすれば、かなり自分たちが過ごす学校からは遠く離れているだろう。

その事実に、セリカは青ざめ、へたり込んでしまう。

 

「…そ、そんな、ここからじゃ、どこにも連絡が取れない、もし脱出したとしても、対策委員会の皆にどうやって知らせれば…」

 

俯き、思考を巡らせる。後方にあるドアは固く閉ざされており、その突破は難しい。

光が覗く隙間は元の小窓を簡単に塞いだ板のようなもので、たとえ外したとしても体を通すことは難しいだろう。

残すは、車両の進行方向にあるドアだが、開くかも分からない上に、その向こうにあると考えられるのは運転席などだ。手を縛られている自分がのこのこと向かったところで何も出来ない。

 

打つ手など、なかった。

 

そう判断できてしまってから、思考はどんどんと悪い方向へと向かっていく。

みんなは心配してるだろうか?もしかして、他の誰かも同じように誘拐されてはいないだろうか?

…それとも、誘拐されたことを誰も気づいていないだろうか?

 

――このまま、何処かに埋められちゃうのかな。誰にも気付かれない様に……。

 

そんな考えが、脳裏を埋め尽くす。

 

――連絡も途絶えて、他の子達みたいに、街を去ったと思われるんだろうな。

 

アビドスでは、人が去ることは珍しいことではない。

中学では少なからず周囲に人がいた、しかし、アビドスにまで一緒に進学した人などいなかった。

街の住人達も、少しずつ、自治区と学校を見捨てて去っていく。

きっと自分も、そんな中の一人ということになってしまうだろう。

 

──裏切ったって、思われるかな。

 

そう思いついてしまえば、目から涙がこぼれ落ちてしまっていた。

 

嫌だ、嫌だいやだいやだ。

 

大切なみんなに、そんな風に思われるのが、そうしたまま会えなくなるのが、途轍もなく苦しい。

息が上がり、酸素が供給されなくなり、涙でぼやけていた視界がさらにかすんでいく。

 

あぁ、もういっそ眠ってしまおう。目が覚めたらきっと何もかも終わっているから。そう意識を手放そうとした時だった。

 

……ぃ、おい!大丈夫か⁉」

 

かけられた声に意識を戻す。

そこには赤いヘルメットのバイザーを上げて、心配そうにする少女の顔があった。いつの間にかドアの向こうから来ていたのだろうその少女のヘルメットも、バイザーを上げた顔も見覚えがある。カタカタヘルメット団のリーダー格と思われる少女だ。

 

「あぁ、ほら、涙拭いてやるから…ごめんな、きつく縛りすぎたか?怖かったか?」

 

そんな風に声をかけてくれるため、一瞬気を許してしまいそうになるが、ハッとする。

 

「ちょっ、何よ!人のこと誘拐しておいて何のつもり⁉」

 

そう、そもそもの原因は彼女たちが自分を誘拐したからなのだ、そんな犯人が自分を心配する理由が分からない。人質だから大切なのだろうか?

 

「いや、誘拐したことは悪かったけど、泣かれるとは思わなくてさ…怪我、手当てしたけど痛くない?」

 

そう言われて、気づく。混乱していたが、自分の体のいくつかには湿布が貼られており、寝かされていたと思われる場所には毛布と、ぶつけたであろう頭を冷やすための氷枕があった。おかしい、自分は襲撃されて誘拐されたはずだ、なのに手当てをされたあげくに心配までされている。

状況がますます飲み込めなくなって、混乱してくる。

 

ヘルメットの少女が見かねて声をかけてくれる

 

「あ~、いやその…悪いな。今から説明するから、暴れないで聞いてくれるか?」

 

約束するなら手も解くから、とまで言われてしまい、訳も分からず頷くと、本当に縛っていた縄を解いてしまった。何がしたいのだこの少女は???

 

「ほら、手首痛くないか?」

「ええ、痛くはないけど…何がしたいのあんた達?」

 

少女は「まぁそうなるよな、」と呟きながら向かいに腰掛ける。こちらの両手が自由になったというのにリラックスした様子だ、襲い掛かって逆に縛り付けてやろうかと思った時、

 

「これまで、迷惑たくさんかけてごめんな」

 

そういって、頭を下げて謝ってきた。

 

「ちょっ、何よ急に⁉いきなり謝られたって襲われてたのは変わらないし、訳わかんないわよ⁉」

「う~ん、まっ、勝手なケジメだと思ってくれよ。理由も話すからさ」

 

顔を上げて、少女は人懐っこい顔でヘラリと笑う。その顔に少し、ほんっっの少しだけ毒気を抜かれてしまったため、理由を聞くことにする。

 

「あたしらがアビドスを襲撃してたのは、前に先生と話してたとおり食い扶持のためなんだけど、あの話って聞いてた?」

 

その言葉には頷く。通信越しにではあるが、彼女たちがお金のためにどこからかの依頼を受けて学校を襲撃していたのは分かっていた。

少女は「話が早くて助かる」と言って話を続ける。

 

「もちろん、だからといって襲ってたのを許してくれ、なんて言わないよ。そりゃあ失礼ってもんだ。だけど、いつも通りに依頼を受けようとしたら今回は様子が違くてさ」

 

どうやら同情を求めているわけではないらしい。ひとまずそう理解して続きを促す。

 

「依頼内容は、アビドスの学生を誘拐しろ。んでもって詳しく聞いてみれば、人質にするためときたもんだ。」

 

思わずゾッとする。わざわざヘルメット団のような不良集団にそんな依頼をする者がどこかにいる。そして依頼を出すということは、カタカタヘルメット団以外にもその話がいって、誰かが誘拐されるかもしれないということだった。

 

「穏やかじゃないよな、いくら何でもそんな人道に反したことはやりたくないよ、あたしたちだって。」

 

「それにさ、」と少女は言葉をこぼす。

 

「学校が無くなるって、辛いもんな…」

 

その言葉はどこか実感が、悲しみがこもっていて、セリカは声をかけようとする。しかし、少女はそれを手で制して、話しを続けた。

 

「でも私たちだって金は必要、けれど依頼は受けたくないって時に、その依頼を回してくれてた”ローズの旦那”が提案してくれたんだ」

「ローズの旦那?それって、先生にレジルって呼ばれてたあの時の人?」

 

少女は「そっ」とどこか嬉しそうに肯定し、その提案について話し始める。

 

「それなら、『前金だけ受け取ってわざと失敗すればいい』ってな、わざわざ多めの前金を払って誘拐計画を立ててくれたんだ。あんた、バイトしてただろ?」

「え、まあ、してたけど…」

 

「だからちょうどよかったんだ」と少女は笑う。どういうことだろうか?

 

「バイト終わりのタイミングを狙ってあんたを襲って、旦那が客を装って店の大将にそれとなく伝えるのさ、おたくのアルバイトがヘルメットの連中に襲われてたけど大丈夫かって」

 

「簡単だろ?」とカラカラと笑う彼女に呆気にとられる。それであれば大将が直接アビドスの誰かに連絡を取るか、そうじゃなくても自分が帰らないことを店に確認を取れば事態が伝わるだろう。

要するにこれまでの経緯をまとめると…

 

「そんなの、ただのマッチポンプじゃない!!」

 

セリカが怒りの声を上げる。そう、つまりは自分は体よく利用されたのだった。しかもあげくに涙で目を腫らしてしまうという失態までしている。

楽しそうに笑う少女にキッっとにらみを聞かせると「悪い悪い。」とさほど思ってもなさそうな謝罪をしてくる。

 

「マッチポンプっていっても、こっちの利はそんなにないけどな~。流石に襲撃も失敗続きだし、これ以降は依頼も回してくれなくなるだろーし」

 

…それは、遠回しだが彼女達の食い扶持が無くなるということだった。その事実のせいで、セリカは何とも言えなくなってしまう。それに加えて、少女は真剣な表情でセリカに告げて来た。

 

「あんたら、これからは余計に気をつけなよ」

「ちょっ、どうしたのよ急にそんな顔して…」

 

「わかってないねぇ~」なんてため息をつかれて少し苛立ちを覚えるが、続く言葉に考えの至らなさを痛感する。

 

「これからは、依頼を受けるのはあたしたちじゃなくなる。ってことは、こういう人質をとるとか、本気でアビドスを潰そうと他の誰かがやるってことだよ」

「っ、それは…」

 

考えてみれば同然だった、今回は運が良かったのだ。たまたま下劣な依頼を良しとしない彼女たちが依頼を受けたからこそ、こんなマッチポンプじみた事件で済んでいるだけ。もし他の何者かが受けて、自分か他の誰かが攫われたとしたら?

想像するだけで、恐怖が全身を包んだ。事の重大さを理解したのが伝わったのか、少女はセリカの方に手を乗せて話しを続ける。そして、その声にはどこか申し訳なさを孕んでいた。

 

「…本当には旦那から依頼元を聞き出して、それも教えてやろうと思ったんだけど、そんなことしたらあたしらの信用が無くなって、今後どんな依頼も受けられなくなるからダメだって、旦那が教えてくれなくてさ」

 

「だから、あたしにできるのはここまでだ。」そういって彼女は自嘲気味に笑う。

そうだ、一歩間違えれば彼女たちだって立場が危うくなる。しかもそのマッチポンプ計画をやるだけならば教えなくてもいい多くのことを、セリカに伝えてくれているのだ。

 

「あんた、何でそこまで…」

 

助けてくれるのかと、聞こうとする口をまるでないしょだと言わんばかりに人差し指で塞がれる。

 

「まあ、これまで学校を襲ってきた迷惑料だと思ってよ」

 

そう言う彼女に言い返そうとして口を開けると、またしても邪魔が入る。それは運転席からの大きな叫び声だった。

 

「まっずいよー!!すっごいスピードでトラックが来てる!!急がないと失敗するよ!!」

「やっべ、のんびり話過ぎた!!ほらこれ!!」

 

そう言って投げ渡されたのは、自身の銃だった。お礼だったり何かを言おうとしても、向こうがあたふたと動き回っているため何も言えない。そうしてただ様子を見ていると、運転席と繋がるドアのそばで、何か大きなレバーをガシャン!と動かすのが見て取れた。

そして、ガタガタと妙な振動が床から伝わってくる。

 

「ちょっ、あんた何し「連結緩めた‼衝撃に備えろー!!」…はぁ⁉」

 

彼女はそう言うや、笑顔で運転席側のドアにしがみつく。そしてこちらに向かってサムズアップをしている。

 

自身も何か捕まるものを、と周りを見渡しても、掴まれそうな物は何もない。

どうすればいいのかと文句を言おうとした時、

 

ドカーーーン

 

車両横っ面から衝撃が走る。

 

回る視界の中で見えたのは、視界の横から突っ込んでくるトラックと、連結部を切り離しながら吹き飛んでいく運転席。

そして、声こそ聞こえないものの、必死に扉にしがみつきながらこちらに向けて叫んでいる少女の姿。

読唇の心得はないが、その口は確かにこう動いていた。

 

が ん ば れ よ




ヘルメット団のオリキャラ少女に頑張ってもらいました!

うまくキャラクターを立たせることができたかな?彼女がレジルを「ローズの旦那」と呼ぶ理由もいずれ描けたらなと思います。
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