「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、上手くいきますように!」
「あははっ! 了解! あなたたちも学校の復興、頑張ってね! 私も応援してるから!」
結局、柴大将の計らいによって運ばれてきたラーメンにアル達は大盛り上がりをし、提供を手伝ったセリカを交えてアビドスのみんなと交流をして、楽しい食事の時間は終わりを迎えた。
レジルの話をする機会こそ失われてしまったが、彼女たちがにこやかに笑う姿を見ただけでセイントは十分だった。
明るい声で手を振りながら、分かれ惜しんでいる皆に悟られぬように考える。
彼女たちがレジルと繋がりがあること、アビドスの自治区にいること、それは恐らく「ねぇ、先生」
「ホシノ、どうかしたのか?」
「うへ~、言わなくても分かってるんじゃない?きっと来るよ、あの子たち」
ホシノも既に気づいていた、彼女たちの狙いがアビドスであると。であるならばすぐに皆にも作戦を立てて対策を講じるべきだ。
「校舎に帰り次第、バリケードの設置をして迎え撃つ手筈を整える。襲撃を仕掛けてくるとして、彼女たちだけではないはずだ」
「りょうかい~、良い子たちだったけど、しかたないね~」
アルたち、少なくとも彼女たちのリーダーであるアルは悪党とは到底思えないような善性を持った人物のように思える。アビドスの良き友人になれそうな彼女たちと戦わなくてはならない、そしてそれを防ぐ手段がない事にセイントは歯嚙みしながら、彼女達との帰路に着いた。
「校舎より南15km地点付近で大規模な兵力を確認!」
アビドスの校舎で待機をしていた所に、アヤネの声が響き渡る。
予想通り、彼女たちが兵力を引き連れて襲撃に来たのだろう。事前にその可能性を共有していたため、皆も驚きはしていない。とはいえセリカはラーメンのサービスをしたためかどこか怒りをにじませており、ユメも少し悲しげな様子だった。
「あちらも仕事なのだろう、割り切れとは言わないが、油断はするな」
「はい…わかっています。むしろちゃんと勝って依頼主を聞きださないといけません」
ユメは銃の調子を確認し、意識を切り替えている。この襲撃が続く悪循環を打破するには、アビドスを狙って襲撃依頼を出している依頼主を明らかにしない限り終わらないことは、彼女を含め皆わかっていた。
迎撃のために校門付近に移動しようとした時、アヤネが再び声をあげる。
「まってください!敵集団の中に先日の…『ローズ』さんがいます!」
「なんだと?」
セイントが聞き返すが、アヤネの反応を見るに間違いはなさそうだった。
レジルはおそらく今回の襲撃犯であるアルたち、そしてこれまでの襲撃犯であるヘルメット団にアビドスの襲撃依頼を斡旋していたことはわかっている。それが表立って襲撃に参加するのはなぜか、少し考えれば直ぐに結論が出た。
「目的は、私か」
レジルがいつからアビドスの襲撃に関わっているかは定かではないが、アビドスのこれまでと今とでの状況の違いは『先生』であるセイントがいるかどうかだ。ならば自ずとその目的も見えてくる。
「セイントさん、どうしますか?」
ユメが心配そうにこちらを見てくる。他の皆もセイントの言葉を待っていた。
レジルはセイントの旧友であり、『光』を纏うガーディアンである。その実力は計り知れない。
元々の迎撃のプランでは対象できない可能性も高いだろう。
「ユメ、アルや傭兵たちの迎撃の指揮を取れ。そちらは任せる。」
「…わかりました、やってみせます」
ユメの様子にうなずくと、セイントは扉に手をかけてこの場を後にしようとする。
「ちょっと、どうするのよ!」
セリカが慌ててセイントを呼び止めるが、セイントはそれを手で制し、言葉を発する。
「アルや傭兵たちの迎撃は君たちにまかせる。人数差はある上にアル達の個人の力量は未知数だが、君たちならばできるはずだ。」
一度言葉を区切り、全員を見渡す。
「レジルの目的はおそらく私だ。であるならば奴の相手は私が引き受ける」
「総員、迎撃準備にかかれ!」
指揮官として『先生』としての指示を出し、セイントは教室を後にする。
ユメであれば、経験は少ないが指揮を問題なく取れるだろう。
自身の役割はレジルと相対し、勝利して情報を聞き出すことだ。
セイントは向かって来る敵の勢力とは少し離れた方角に向かいながら、通信のチャンネルを変更する。
古いバンガードの通信チャンネル。かつてのシックスフロントの戦いや大いなるアハンカーラ狩りなど、数多の作戦で利用したものだが、無限の森に入ってからは久しく使わなくなったものだ。
まさかこのキヴォトスで使うことになるとは、と内心で苦笑いをしながらチャンネルを開き、声を発する。
この方法で相手が答えるかは本来のわからないはずなのだが、何故かセイントには確信めいたものを感じていた。奴なら必ずこの誘いに乗ると。
「クルーシブルだ」
住宅街の外れ、既に住人のいなくなった建物しかない場所には、風に乗って砂漠の砂が少し舞っている。
そんな場所に、大きな影が2つ。
銃を携えた2人の男は互いの姿を認めると足を止める。
しばし無言の時間が続いたが、先に口を開いたのは『ローズ』をもつ男だった。
「まさかあのチャンネルから通信が来るとは思わなかったぞ、しかもセイント、お前からならなおさらな」
セイントは答える
「上手く繋がったようで何よりだ。大いなるアハンカーラ狩りやシックスフロントではよく使っていたものだが、私は使わなくなって久しい」
「確か、お前はトワイライトギャップの戦いの後に水星に行ったな?以降は随分と姿を現さなかったようだが、まさかここで出会うとは…、なぜここにいる?」
その疑問にセイントも考える。全てを明かすほどの時間はないが、多少の事情は伝えても良いと判断し、返答をする。
「ベックスのテレポートに巻き込まれて、このキヴォトスに来たのだ。何の因果か『先生』という立場になってしまったのだがな。…そういうレジル、お前はどうなんだ?」
「俺は…」
レジルは口ごもり、手元のハンドキャノンに視線を向ける。それが何を意味するのかはセイントにはわからなかったが、その思考も次の言葉で霧散した。
「俺は、死んだはずだった」
死んだ。その口ぶりから察するに、ガーディアンが日々味わう死ではない、ゴーストの蘇生も叶わない、完全なる終わりを迎えたのであろうことが想像できた。
レジルほどの男が、ゴーストを失い、死ぬ。無情な話ではあるが、セイントたちの世界では簡単に起こりえる事だ。悲しみはあるが、それだけで戦うことをやめることはない覚悟をもって生きている自負はある。しかし…
「死したお前と、生きたまま来た私、なぜこの違いが起きているのかわかるか?」
「それは俺にもわからん。ゴーストこそいないが、俺の肉体はガーディアンとして生きていたものと変わらない」
「お前が来たことで、死後の世界という線も薄れてしまったな」そうレジルはこぼす。
互いにこの世界に呼ばれた原因は分からないということはハッキリした。であるならそのことをここで議論しても無駄だと判断し、セイントは話題を切り替える。
「ならレジル、お前はこのキヴォトスで何をしている、なぜアビドスへ襲撃を行う、目的はなんだ、彼女たちを苦しめる事だとわかってやっているのか?」
銃を支える手に力を込めて尋ねるが、レジルは動じず、それどころか生気の抜けた、つまらないような様子で答える
「質問が多いな、…意味、大した意味も目的もない。強いて言えば依頼の延長線だ。少なくとも今は雇われの身だからな」
「なぜそのような状態になっている。雇われの仕事をするにしても、お前であればこのような仕事は受けないはずだ、私と共に戦った英雄、レジル・アジールであれば…」
そうだ、かつてシティの外壁が築かれたばかりの時、レジルはそのシティを希望といった。そこに笑い合う子供たちも希望だと。その姿は間違いなく英雄の姿だった。このような抜け殻の姿でいるような男では断じてなかったはずだ。しかし…
「その名で呼ぶな!!!」
レジルは声を荒げ、『ローズ』の銃口をセイントに向ける。
「その男はとうの昔に消えた!後に残ったのはドレドゲン・ヨルという男だけだ!」
「そして、その男も死んだ、望んだ通りに死んだのだ!」
「だというのに…」レジルはどこか苦々しげに言葉を続ける。
「なぜ、私はのうのうと生きてこんなところにいる…ッ!!」
それはどこか悲痛な叫びのようにも思えた。セイントの知らぬ間に、レジルに何があったのかを聞かなければならない。
しかし、時間がそれを許してはくれなかった。
少し離れた場所、アビドス高等学校の前方で戦闘が始まった音がした。
作戦が開始された以上、こちらも手をこまねいて話しているわけにもいかない。
互いに脅威を排除し、自身の味方への合流を含めた行動に移すのがベストだと分かっている。
「久しぶりのクルーシブルだ、全力で行かせてもらうぞ?」
「望むところだ、お前が水星にこもっている間に、俺はクルーシブルのチャンピョンになっていたんだぞ?」
「そうなれたのは私がいなかったからだ」
「ぬかせ」
一瞬の静寂の後、互いの銃を向けるタイミングは同じだった。
互いに正面から受けるのを避けて、アーマーで弾を弾き飛ばし、駆け出す。
このときが、キヴォトスで初めて
リアルが忙しく、更新が遅くなってしまって申し訳ございません…
原作とほぼ同じ部分はなるべく省略しつつ、セイントとレジルの戦いまで持って行けたのでとりあえずはよかったかなと思っています。
この時のレジルが自身の名を拒む理由、ドレドゲンという存在、そしてその死は彼に何をもたらすのでしょうか?今後も楽しみにしていただけると幸いです。