「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……」
ブラックマーケットに足を踏み入れて少し、セイントとユメ、アビドスの面々がスケバンに追われている少女を助けた。
話を聞くにトリニティに所属しているという少女、阿慈谷ヒフミは自身の好きなキャラクター「ぺロロ様」の限定グッズが欲しくてこの場所に訪れたらしい。しかも学校を無断で抜け出したようだ。
彼女が手に入れたというぬいぐるみを見て、ユメとノノミが盛り上がっている。正直なところセイントにはその可愛さが分からず自身の歳を感じたところだったが、ホシノたちの反応を見るに賛否が別れるデザインらしい。
「好きなものに夢中になるのは良いことではあるが、1人でこの場所にくるのは感心しないな?」
「危険な場所なのは知っているだろう?」とヒフミに注意をすると、彼女もそれ自体は認識しているらしく肩を縮こませた。とはいえ、若さゆえの行動力を押さえつけるつもりもない。
「責めているわけではない。好きなものに対しての熱意も大切だ。だが今度からこのような時は誰かに相談してから行動するといい。もちろん、私でも構わない」
そう言って肩を叩いてあげれば、彼女は困ったように笑ってから頷いてくれた。
「あはは…気を付けます。先生ってとても優しいんですね!」
そう言う彼女からは人の良さがにじみ出ているあたり、きっと良い生徒なのだろうとセイントは思った。そんな彼女が疑問を投げかけてくる。
「ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」
みなは顔を合わせて、多少の事情を話すことにしたようだ。ユメがいくつか要点をかいつまんで説明する。
「なるほど…襲撃犯が使う古い型番の武器の出所を探して、ですか。」
ヒフミは少し考える様子を見せてから、このブラックマーケットについて説明してくれた。
「確かに、ブラックマーケットなら手に入ると思います。ここ自体、学園数個分の規模に匹敵しますし、様々な企業が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きます」
「そんなことが起こっているだね…」
ユメが眉をひそめて言葉をこぼす。このキヴォトスにそんな場所があることに、なんと言えばいいのかわからないのだろう。それはきっと、彼女の優しさ故だろう。
彼女の背に手を添えながら、ヒフミに更なる説明を促す。
この状況を憂いているのであれば、先ずは知ることから始めなければならない。
意図が通じたのか、ユメがこちらを見て一つ頷くと、ヒフミの言葉に耳を傾けた。
「それだけではありません、ここ専用の金融機関や治安機関があるほどです。先程は気づかれなかったようですが、マーケットガードに見つかったら逃げたほうがいいと思います」
「ここは連邦生徒会の手が及びませんから…」とヒフミは嘆息する。
その詳しい説明にホシノはふと考えるそぶりを見せてから、ヒフミに思いがけない提案をした。
「ヒフミちゃん、お願いがあるんだけど…」
「ブラックマーケットでの探し物を、手伝ってくれないかな?」
ホシノは真剣な様子で、そう言った。
「ホシノちゃん⁉流石にそれは…」
「でもユメ先輩、私たちはブラックマーケットをあまり知りません。案内があるに越したことはないです」
「幸い戦力はありますし…」とアビドスの皆を見回して、問題ないと確信しているようだった。
ユメはホシノがアビドスの問題に焦っているかと思ったが、その様子を見て大丈夫だと納得する。
「…うん、わかった。ヒフミちゃん、私からもお願いできるかな?」
「トラブルがあっても、私たちなら対処できると思うから」
ヒフミは当然困惑した様子を見せたが、ユメに加えて他の皆も同じように真剣な眼差しを向けてくることで、決心をしたようだった。
「…わかりました。」
「私なんかでお役に立てるかわかりませんが、皆さんを、皆さんの学校を助ける手助けをさせてください!」
彼女が覚悟をもってそう答えた。きっとこれが彼女の強さなのだろう。
彼女の心意気に感謝を伝え、協力するためにセイントが口を開いた時だった。
「そいつはありがたい!案内の手間も減るし、話題の『先生』を独占できるしな!!」
「誰だ⁉」
全員で声が聞こえた方を向く。
そこは影の落ちる路地裏で、コツコツとこちらに歩みを進める音が聞こえてくる。
銃に手を伸ばそうとした時に、声の主はおどけたように声を続けながらその姿を見せた。
「おいおいやめてくれ、ここは穏便にいこう!私ははただ話をしに来ただけだ!」
両手をひらひらと振りながら現れた少女は、セーラー服の上にクロークを身に着け、フードを被っていた。
そこから覗く顔はへらへらとした笑顔を浮かべている。
赤い髪に金の瞳の少女は背にスナイパーライフルを、右足にハンドキャノンを装備しているが、それをこちらに向ける意思はなさそうだった。
「私に何の用だ?君は?」
「山立マイカ、所属は…今はいいか。ちょっと『先生』を借りたいと思っていたんだが、ちょうどよく手が空きそうだったんでな、声をかけさせてもらったんだ」
どうやらタイミングをうかがっていたようだが、何時から様子を見ていたのかなど疑問に思う部分も多い、他の皆も同じように考えたようで、マイカという少女に喰ってかかった。
「急に現れて何よ⁉こっちはこっちで用事があるんだから!」
「ん、それに見張ってたみたい。怪しい」
セリカとシロコがいう言葉は最もで、ホシノとユメもマイカの真意を図っているようだった。
しかし彼女「悪い悪い」と言いつつもそれに臆することなく言葉を続ける。
「タイミング見てただけだって、それにあんたらアビドスの強さだったら『先生』抜きでもこのブラックマーケットでそうそう遅れをとることはないだろうよ」
「よほど大騒ぎをしなけりゃな」などとおどけて言うため、更に不信感を買っているのはわざとなのかと思うほどだ。とはいえ、こちらの戦力分析まで済ませていることが伺えるため、警戒をしなくてはならない。ユメとホシノも同感のようだ。
「うへ~、キミ、本当に何者?一方的にこっちを知ってるみたいだし、正直信頼できないよ」
「そうです、先生にどんな用事があるんですか?」
「う~ん、こういう登場に憧れてたんだが、まずったか?」などと頭を搔きながらこぼすマイカは降参だとばかりに両手を上げながら答える。
「いやな?ちょっとばかし先生とラーメンでも食べながら内緒話がしたかったんだ、悪いが先生以外に話したくはなくてな…」
「ふむ、私としては彼女たちとの用事を優先したい。今でなくてはだめか?それに、あいにく最近は気にいったラーメン屋があってな。浮気をするのは気が引ける。」
セイントの答えに皆はそう言う問題ではないだろと抗議のめを向けるが、一旦は無視をすることにした。彼女がしたい話というのも気にはなるが、あくまでも今の優先はアビドスの問題だ。彼女の言う通り、皆の実力であれば問題ないのかもしれないが、放り出すつもりはない。
マイカは「そうか?ならラーメンは無しか、残念だ」とこぼす。ラーメンは諦めたようだが、話は諦めていない口ぶりに、そこまで重要なことかと疑問をぶつけようとした時、セイントにとって気になる言葉を続けた。
「いいラーメンなんだがな、
「…今、レーンペールの『飲んだくれラーメン』と言ったか?」
セイントが反応を示したことで、皆はそんなにラーメンが気になるのかと思わずズッコケそうになるが、セイント自身は真剣そのものだ。
なぜならそのラーメン屋はかつてセイントの世界のシティに存在したものだからだ。
「お、食いついたな?やっぱりタイタンは皆あそこの味を知ってるんだな!食べ比べて実際に近い味か教えてくれよ!」
マイカは嬉しそうに笑顔を向けてくる。その表情に悪意はないようで、セイントとしても話を詳しく聞いてみたいと考え始めた。
しかし、ブラックマーケットに来た本来の目的を投げ出すわけにはいかない。
そんな風に考えを巡らせていると、ユメが声をかけてくる。
「セイントさん、行ってきてください」
「ユメ?」
どうやら話の内容からユメは何かを察したようだった。確かにタイタンの存在を知っている生徒は少ないが、すぐに判断するあたりに彼女の成長が見て取れる。
「むこうの世界のことですよね?なら、聞くべきだと思います」
「こっちは私に任せてください!」と胸を張って答える姿に頼もしさを感じる。
彼女は信じるに値する人間だとセイントは知っている。
セイントはフッと息を吐き、ユメの頭を撫でる。少し気を遣わせたかもしれない。
「皆のことは任せる。何かあれば通信を繋げ、すぐに向かう」
「はい!!」
一連のやり取りのを終え、内容に納得いかないのか少し不服そうな皆をなだめつつ、ユメはヒフミの案内の元、皆を連れてブラックマーケットに進んで行った。
その様子を確認してから、セイントは改めてマイカに向き直る。
「では話を聞こう。君が何を知っているのか、何を伝えたいのかを」
「そうだな、だがその前に、もう一回自己紹介させてくれ」
マイカはそういって何度か喉をならし、発声練習をするかのように声をあげる。
なんどか声に出した後、「よしッ」と何かのスイッチを入れるかのようなそぶりを見せてから、おどけた様子でこう言った。
「改めまして、私の名前は山立マイカ。かつての世界では『サンダンス』と名付けられたゴーストです」
サンダンス、ケイド6のゴースト。
主人公のゴーストが言うにはケイドに似て「派手で、生意気で、それでいてとても有能でした」という性格だったようです。DLCの最終形態で少し登場したときはそんな風には見えませんでしたが…(笑)
そんなサンダンス、もといマイカとセイントのやり取りは次回にご期待ください!
ちなみにレーンペールの『飲んだくれラーメン』というのは深淵のシーズンでザヴァラ司令官とスロアン副司令官が話していたラーメン屋です。
ザヴァラがまだ司令官ではなくサラディンの弟子だった頃から存在する店のようで、シティでは今なお営業しているらしいです。何年続いてるんでしょうね?