マイカが話を終えて、どこか恥ずかしそうな様子だったため、気を取り直すために今度はセイントからこの世界に来た経緯を説明した。
一通りの説明を終えると、彼女は顎に手を当てて考える。
「無限の森からの転移、ベックスの目的は分からないな、どうしてキヴォトスなのかもな」
彼女にも、セイントがこの地に訪れることになった原因は分からないようだった。
「それにしても、」と彼女は続ける。その顔はどこかあきれ顔だ。
「そのまま『先生』になるのは流石に予想外だ。なんでまた?」
「なんだ、そんなことか」とセイントは分かりきったように返す。
「帰る方法がなかったもあるが、それだけではない」
「ユメとの約束を果たすこと、そしてこの世界の少女たちを助けるべきだと私が判断した。理由などない」
当然のように言い切るセイントに、マイカは自身の知る英雄は、どこまでも人々の希望足らんとするその姿は、あの頃と変わっていない。そんな懐かしさと嬉しさを感じた。
「それに、」とセイントは続ける。その声はどこか憂いを帯びていた。
「この世界はどこか歪なように思える。戦争こそないが、銃が身近にある。トラブルが多いにもかかわらず治安維持や政治までもを担っているのが子供たちときた」
「私には、この世界がとても危ういものに見えてならない」
それが、セイントがこの世界に腰を据えてから感じた印象だった。
もちろん、生徒たちの肉体構造や常識の違いも前提にある。だがそれにしても、見過ごすべきではないと思ってしまった。
マイカもそれには同意なようだった。そして、この世界にと自分の関係についても何かがあると考えているようだ。
「実は、ちょっと考えてたんだ。私がこの世界に生まれた意味ってやつなんだが…」
「あ、もう悩みは解決してるからな?」と少し慌てて前置きをいれる。まだ自分の存在意義について悩んでいるわけではないようだ。
「そんな世界に私が、いや違うな、
「君以外にも、同じ境遇の子供がいるのか?」
セイントが驚きと共に聞き返せば、彼女は頷く
「ああ、何人かな。連絡を取り合ってもいる。まだ会えてない奴もいるのかもだが…」
「ただ、お互いの話をすり合わせても、死んだ時期はバラバラでな。どうして自分たちなのかは話し合ってもわからなかった」
「その、『ゴースト」記憶を持つ子供たちは、大丈夫なのか?」
セイントは自身の記憶に蝕まれていたマイカと同じように悩みを持っているのではと心配する。
マイカは少し悩んだそぶりを見せ、歯切れが悪く応える。
「人それぞれって感じだな。良くも悪くも『ゴースト』だった時より自分ってものが大きくなったからな」
「記憶との折り合いの付け方も、それぞれ違う。まだ引きずってる奴もいるし、キッパリ分けてる奴もいる。実際は隠してるだけなのかもしれない」
それは『ゴースト』たちが自我を持てている証拠ではあるが、同時に悩みが増えたということに他ならない。ましてや自身と異なる記憶を持てばなおさらだ。
「まぁ一応?事情を理解できる仲間がいたからさ、普段は生徒として普通に生活してるよ。記憶のことは話せなくても、ちゃんと友達もいるみたいだ」
その言葉に、セイントは少しだけ安堵する。
マイカはセイントに弱音を吐いたが、それはあの世界の存在を証明する自身に出会ったからこその感情の爆発のようなものだったのかもしれない。とはいえ、その生徒たちには遠くないうちに話を聞いていみたいところだ。
「まあ、私から今度紹介するよ。私みたいに会って話してほしいから。ただちょっと待ってほしいんだ、アンタが抱えてる問題にも関わってくるんだが、気になることがあってな」
気になることことと何だろうか、とセイントは思案する。思えば初めて会った時もマイカはこちらの、アビドスの事情について多少の知識があるようだった。
「アンタが『先生』として来たのが分かって、少し調べたんだ。ちょうどアビドスに向かったっていうから何をしてるのかってのも含めてな」
「これでもSRTだからな」
そう言う彼女は少しクロークをめくって制服を見せる。
『SRT特殊学園』という名前はセイントも知っていた。このキヴォトスにおける最高峰の治安維持能力を持つ学校だということを。
そこにいる生徒たちの練度は噂によればかなりのものらしい。
「SRTか、名は聞いたことがある。君もかなりの手慣れというわけだな」
「ああ、SRTの凄腕諜報員、『ローンウルフ』とは私のこと…てのは今はいいか、そもそも学園もガタガタなんだが」
「そっちは後で相談するとして、」と彼女は話題を戻す。
「色々アビドスの事情について調べた。それこそアビドスの襲撃犯の依頼主だとかもな。アンタが連れているのが2年前に死んだってされてる『梔子ユメ』なのは驚いたが」
「1人で調べ上げたのか?秘密を探るその能力は正しくハンターだな!」
「当たり前だろ?そもそも目標が最高のハンターだからな!」
最高のハンター、ケイド6の実力をその目で見る機会は少なかったが、当時のハンターバンガードであるアンダルが信頼を置いていたことからも卓越したハンターだったのだろう。それを目標として努力をしているのであれば彼女の実力も頷ける。
調べた情報はこちらにも提供してくれる上に、今後の協力も申し出てくれた。セイントとしては断る理由がない。ただ、彼女はそのかわりとして1つの頼みをセイントに告げた。
「アビドスの襲撃犯を調べてる時に、1人の男が関わってることがわかった。」
「『ドレドゲン・ヨル』」
『ドレドゲン・ヨル』、レジルも口にした名前、英雄レジルが死んで生まれた男。
彼女はその名前を知っていた。きっとその男があの世界での行いも。
「奴はアンタが現れたのとほぼ同時期に姿を現した。どうも襲撃犯とは別口に見えるが、そこは今はいい」
「奴の狙いを探ってほしい。奴はあの世界で死んだガーディアンだが…」
「同胞を殺した、か?」
セイントの言葉に、マイカは驚いた様子を見せ、そして少し悲しげに続けた。
「知ってたか、なら奴の正体もか?」
「知っている。我が友だとすぐに気づいた。だが『ドレドゲン・ヨル』としては奴の口から少し聞いた程度だ」
「そうか、」と彼女はこぼしたが、その言葉の後が続かなかった。ドレドゲン、レジルについてを教えるのか迷っているのだろうと、セイントは察することができた。レジルのことを友だと言い切ったことも気がかりなのだろう。
しかしセイントのやることは既に決まっている。
「レジルの行いは話さなくて良い、私がこの拳で口を割らせるからな」
「奴はクルーシブルの報酬を用意すると言った。タイタンは約束を守ると、私は信じている」
あっけからんと言い切るセイントにマイカは目を丸くするが、笑いながらため息をついた。嬉しそうだが、どこか呆れている。
「まったくこれだからタイタンは…、でもそれなら任せる。正直、奴がこの世界で何がしたいのかわからなかったんだ」
「どうも契約を切ったヘルメット団の面倒もまだ見てるみたいでな…、私は噂に聞く『ドレドゲン・ヨル』でしか奴を知らないからな」
「私に任せてくれ、どの道、あの腑抜け面には一発くらい拳を入れなければ気が済まなかったところだ」
「ははっ、殴ったら教えてくれよ?」
そう笑い合って、どちらともなく席を立つ。少しばかり長話をしてしまった。
マイカを紹介して、彼女が持っている情報も皆に共有すれば、今後の行動の方向性も見えてくるだろう。
店を出て、少し離れた位置でタバコを吸っていた大将に礼を言い、マイカと共に歩き出す。とにかく彼女たちと連絡を取ろうとした時ーー
どこからか発砲音が聞こえて来た。この世界で銃撃戦も頻発するが、ブラックマーケットは独自の治安を持っていることを考えると、無暗に介入はしない方がいいかもしれない。マイカと対応を相談しようとした時に通信が鳴った、相手はユメのようだ。
マイカにも聞こえるようにスピーカーにして、通信を繋ぐ。
「ユメか、ちょうどそちらと合流しようと思ったのだが、トラブルか?」
「いえ!トラブルは…起きてるんですけど、こっちは大丈夫です!というか来ないでほしいというか…、とにかく!!ブラックマーケットからでたところで合流をお願いします!!」
どうやらトラブルが発生したのは間違いないようだが、別の場所で合流して欲しいとのことらしい。通話口の向こうからは銃声が響いていることから、今起きている騒ぎの渦中に彼女たちはいるかもしれない。
「わかった、合流地点を送ってくれ、すぐに向かう」
「は、はい!本当にごめんなさい!!」
何故か謝罪の言葉を発してユメは通信を切った、一体なにがあったのだろうと首をかしげていると、マイカがスマホをチェックして「まさか…」とこぼす。どうかしたのかと聞いても目を泳がせて、詳細は教えてはくれなかった。
「…とりあえず合流して話を聞こう!そうしよう!」
ハンターヴァンガードはドレドゲン・ヨルを敬愛するとされる集団「ヨルの影」との関わりが深かったと思われます。ケイドだけでなく前任者のアンダル・ブラスクもヨルの影とやり取りをしていた描写がありました。
この世界において、『ローズ』と名乗る男はレジル・アジールなのかドレドゲン・ヨルなのか、それは彼の口から聞くまでわからないかもしれません。
銀行強盗の描写は…セイントが加担するストーリーが考えられなくてこうなってしまいました。次回は説教回かも?ストーリーの進みが遅くて申し訳ない!!