「それで、何か申し開きはあるか?」
そう仁王立ちするセイントの正面にはユメを含めたアビドスの面々、そしてヒフミの正座をした姿があった。
合流するさいにマイカが周辺を調べた結果、ブラックマーケットの銀行を複数人で襲ったという情報が舞い込んできた。その人数は、6人。
そして事件発生のタイミングは彼女たちがこちらに合流場所を連絡したタイミングに近い。
導き出される解は、彼女たちが銀行を襲い、そこから逃亡をはかったということに他ならない。
「私が、説明します」
そうユメが口を開く。どうやらあの場で任せてくれ、と言った手前、責任を感じているのだろう。
一度、彼女の話に耳を傾ける。
ことの顛末としては、ブラックマーケットの銀行の周辺を捜索していたところ、アビドスから現金を回収していた車両がその銀行と何やら取引をしている場面に遭遇したらしい。
その上、回収したお金をブラックマーケットの銀行にそのまま流していたように見れた。
その場で何か契約書を書いていた様子から、その書類が証拠として重要だと考えた一同は、管理が厳重化される前にそれを奪いだす電撃作戦を計画、そして決行したのだという。
「本当に、ごめんなさい」とユメは再び頭をさげる。
「ちょっ、ユメ先輩が頭を下げることないでしょ!」
「そうです、そもそも借金を回収したカイザーがそれを犯罪に利用したのが悪いんですし!」
そうセリカとノノミは声を上げる。確かに彼女たちのこれまで受けた被害を考えれば、その不満は妥当なものだろう。
だが、怒りで正当化をさせるわけにはいかない、そう思いセイントが口にだす前にユメとホシノが2人を諭すように声を挟む。
「「それはダメだよ」」
「私たちはどんな理由があったとしても、暴力に頼りました。そのことを正当化しちゃダメだよ」
「それに、こんな方法に慣れちゃったとしたら?きっと平気で同じことをするようになるよ」
ユメとホシノの言葉に、皆は口を噤む。
「そうですね、先輩たちのいうことはもっともです」
アヤネがそう言うと、彼女も改めてセイントに向かって頭を下げた。
「軽率な行動をしました、申し訳ありません」
「ん、それにユメが銀行員を落ち着かせなかったらお金も持ち出すところだった。一歩間違えれば取り返しのつかない犯罪だった」
そう言って皆もセイントに頭を下げる。少なくとも彼女たちの反省は受け取った。これ以上ここで彼女たちを責めることはしなくていいだろう。
「ま、こればっかりは仕方なかったってことで今は流そうぜ?正直、あの現金の流れは掴んでいたんだが、証拠を抑える方法には困ってたんだ」
マイカが助け舟を出したタイミングで、次からは相談をするようにと伝えて彼女たちを立たせる。
セイントが纏っていた少しの怒気が霧散し、皆がホッとしながら席につく。
「さて、どんな情報を得られたか見てみよう。マイカが持ってる情報と照らし合わせてもみたいしな」
その言葉に、アビドスのみんなは少しばかり懐疑的な視線をマイカにむける。確かに急に現れた人物の情報を信じられるかと言われれば難しいだろう。そのことを感じ取ったためフォローをいれる。
「彼女はSRTに所属している。その情報の信憑性は確かだ。私が保証しよう」
その言葉で、彼女たちは一旦納得する。先ずは銀行から手に入れた資料を確認する。
その内容は、アビドスで徴収したお金をそのまま襲撃犯に提供しているというものだった。
「やっぱり、アビドスの襲撃の真犯人はカイザーだったか」
マイカが以前から調査をしていた内容の裏付けになったようで、確信したように頷く。
「関わっているのはカイザーローンだけじゃない、本社やPMCもな。奴らはアビドスの各地で拠点を作って調査を行っている」
「ちょっと!それどういうことよ⁉なんで勝手にアビドスでそんなことやってんのよ⁉」
「勝手、とは言い切れないんだよなコレが」とマイカは嘆息する。
どういうことだとセイントが聞いてみれば、全員にとって衝撃の事実を教えてくれた。
「このアビドスの土地のほとんどは、既にアビドスではなくカイザーのものだ」
そうして彼女が見せた地図は色分けがされており、アビドス高校が保持している土地の小ささががすぐに分かった。
「いくつかの取引の記録をみたが、過去のアビドス生徒会が正式な手続きを踏んで行ってる。理由は、推測だけど借金の当てにしてたんだろうな。それも実を結ばなかったみたいだが…」
「何で!?何で生徒会が学校の土地を売っちゃったのよ!?こんな詐欺みたいな手口にだまされて…「セリカ、そこまでだ」…ッ!」
セイントがセリカの怒りによる言葉を遮る。勢いのままに、心ない事を言ってしまえば傷つくのは彼女自身だ。
「…誰でもさ、苦しいと、切羽詰まりやすくなっちゃうから」
ホシノがどこか遠いところを見つめながら呟く。彼女はここではない何かを見ているようだった。
「切羽詰まると、人は何でもやっちゃうから。それだけだったんだと思うよ、セリカちゃん」
そのホシノの言葉に、セリカは悔しそうに唇を噛む。
その様子を横目に見ながらも、マイカは説明を続ける。
「奴らがここ最近アビドスを襲撃してきた理由は、残り少ない土地を手に入れるためだろう」
「でも、どうして?借金の回収よりも何で土地の回収を優先するんでしょう?」
ユメが疑問を投げかける。
アビドス自治区のほとんどの土地は砂に覆われている。利用価値があるようには到底思えなかった。
その疑問にも、マイカは答える。ただしその表情はどこか疑わしげだった。
「これは正直信じがたいが…奴らは砂漠で『宝探し』をしているようだ」
「「「宝探し?」」」
皆の声が重なる。わざわざ企業が土地を押さえて行う行為には到底思えなかったからだ。それにはマイカも同意なようだったが、情報は確かなようだった。
「だが、奴らは今も砂漠を調べてる。まるで何かがあると確信してな」
やれやれと嘆息しながら告げ、彼女は話を締める。彼女の持つ情報は以上ということだろう。
確かに重要な情報は手に入った。だが、だからといってすぐに打つ手があるわけではないということも分かってしまった。
「どうしましょう、目的が分かってもカイザーの襲撃を止める方法もないですし…」
ノノミが現状を口に出したことで皆も表情を暗くし、俯く。
借金の問題も解決はしない上に、土地すら奪われたという事実は彼女たちの努力が無駄だと突き付けているかのようなものだった。
「…マイカ、施設の場所教えて」
「あそこで何をしているのか、調べる。力づくでも取り戻さないと」
シロコが怒りと決意を目に椅子から立ち上がる。
ノノミとアヤネが制止するが、セリカも同じように声を上げた。
「そうよ、もうなりふり構っていられない!」
「借金だって、襲撃だって、このままじゃどっちみち学校がなくなっちゃう!それならどんな手でも使ってあいつらの目的を知るしかないじゃない!」
「そんなこと言って、手段を選ばなかったらただの犯罪だよ!」
「ホシノ先輩とユメ先輩が止めてくれたのに、自分から犯罪者になるの!」
アヤネも声を大にして2人を止めようとする。
状況を正しく認識してはいるようだが、既に皆も冷静さを失っていた。
「4人とも落ち着け、急いては事を仕損じる」
「そうそう、一回頭を冷やそ~」
セイントの低い声と、なだめるようなホシノの声で彼女たちはゆっくりと椅子に座り直す。
シロコとセリカは目をそらしながら謝罪した。彼女たちも自分たちが口にした行為が間違っていることは分かっているようだった。
「うん、みんな分かってるよ。シロコちゃんもセリカちゃんも、いい子だからね」
そう声を掛けるホシノの目は優しく、愛情に満ちている。
この少女たちを苦しめる問題を、何とか解決してやれないものかとセイントはもどかしさを覚えた。
「それじゃあ、今日はここまでにしよう?遅くなってきたし、私も疲れちゃったから」
「…ユメ先輩、体力ないですね」
「ひどいよホシノちゃん⁉」
ユメとホシノのやり取りに、皆の雰囲気が和む。そのやり取りが彼女たちが気を遣いだというのは分かっていたが、その優しさが今は何よりも心強かった。
その日は解散となり、セイントとユメはシャーレのオフィスに帰ってきていたが、そこにはマイカの姿もあった。
彼女曰く外泊許可も取っているとのことで、どれだけ遅くなってもいいとケラケラ笑っていた。
「会ったのは初めてだけど、アビドスは良い奴らだな。良いファイアーチームだ」
「ふふつ、そうでしょう?みんないい子たちなんだよ」
マイカの言葉にユメはどこか誇らしげに答えた。記憶はなくても、彼女にとっては大切な後輩なのだろう。会って間もないというのにすぐに打ち解けるのは、彼女の人の良さ故か。
「それにしても、マイカちゃんが元々ゴーストちゃんだったなんて驚いたよ!ゴーストはゼペットちゃんしか会ったことなかったから」
マイカは自身がゴーストだったことをユメに伝えていた。
彼女があの世界に行っていたことや、セイントの傍にいるには知っていたほうがいいと判断したからだ。
幸い、彼女はすんなり事実を受け入れてくれた。まだ出会っていない元ゴーストの生徒に会うことも楽しみにしてくれている。
「と言っても、気になることがあるんだよな」
マイカには気がかりなことがあった。それは自分たちとセイントとの違い。ユメが向こうの世界に迷い込んだ原因も謎のままだが、決定的な違いがあった。
「この世界に来た奴らは皆死んでるんだ。ゴーストはもちろん、レジルだって、蘇生されない最後の死だ」
それはこの世界に招かれる条件。なぜセイントは生きたままこの世界に足を踏み入れることになったのか、これまでの前提が崩れたことがマイカには気になっていた。
「…そうなの?」
ユメが聞き返してきたので、それに応えるようにマイカは続ける。
「ああ、みんな時代も状況も違うけどな。私が死んだときは…」
そう話を続けようとしたとき、突然ユメがマイカを包むように抱きしめた。
マイカはしまった、と後悔した。
いくらユメもベックスと戦った経験があるとはいえ、元々の住んでいた世界が違うのだ。さらに言えばキヴォトスで『死』というのは余計に忌避されるもの。
ユメを傷つけてしまったと思い、慌てて謝罪をしようとした時、ユメが抱きしめたままマイカに聞いてきた。
「大丈夫?痛く、なかった?」
その声は優しく、マイカの身を案じたもの。
マイカは呆気に取られた。口に出そうとしていた言葉も何処かへ消え、見開いた目をユメに向ける。
すぐ近くにある金の瞳がと目が合った。
急に抱きしめたことに気づいたのか、慌てた様子で謝りながら彼女は顔を離す。しかし、その両手はこちらの手に伸ばされ、包むように握られた。
「私は、セイントさんに助けられたけど、すっごく痛くて、怖かったから」
だからつい、と照れたように彼女は笑う。
言葉と共に、掌から温もりが伝わってくる。
『ゴースト』としては、あの世界で死は身近だった。だから死に対して特別な感情はない、はずだった。
セイントと出会って、『山立マイカ』を受け入れてもらった。不安定だった自身をようやく確立できた。なら『ゴースト』ではない『山立マイカ』にとって死とは?
気づいた時には、涙が溢れていた。手が震えていた。
あの痛みのなんと恐ろしいことか、意識が薄れていくことのなんと恐ろしいことか。
恐怖に飲まれそうになった時、再び体を温かさが包む。
人肌越しに、心臓の鼓動が伝わってくる。母に抱きしめられているような安心感があった。
「大丈夫、大丈夫だよ」
「ごめんね、嫌なこと思い出させちゃったね」
ユメの言葉に、頭を押しつけながら首を振る。
『山立マイカ』となった今、こうなるのも時間の問題だった。むしろユメがいて良かったと彼女は思った。
「…寝る時に、思い出してたかもだから」
「だから、ありがとう」
ユメは泣き止むまでマイカを抱きしめ続けた。
ようやく涙が止まって、腕の中から離れた時にはマイカは恥ずかしさで顔が赤くなっていた。
今日はセイントにもユメにも泣き顔をみられてしまった事実に、穴があったら入りたい。
「…ユメはすごいな」
パタパタと顔を手であおぎながら空気を変えるために口に出す。
見守っていたセイントは気持ちを察してくれたのか、やや大仰に答えてくれた。
「そうだろう、ユメはタイタン流の訓練をこなしたのだ!」
「だから!私はタイタンじゃないです!!」
ユメが抗議の声を上げる。セイントのような強く、良くも悪くも古いタイタンの訓練は、それは大変なものだっただろう。流石のマイカも苦笑いをこぼした。
「へぇ、そりゃ多分SRTの奴らもヒーヒー言うぞ?ユメもそっち側だったか」
「…それ、褒めてないよね!?」
「いや、ユメはウォーロックが似合うだろう」
「そういう話でもないです!!」
楽しそうな笑い声がオフィスを包み込む。
その喧騒は、2人の少女が笑顔で見お寄せ合って眠るまで続いた。
ユメの優しさと温もり
ユメの優しさを書こうと思ったらオリキャラ中心になってしまった。反省反省。
カイザーPMCの基地調査イベント、省略!!
正直、エクソタイタンとカイザー理事って見た目被ってですよ…
それに別に理事武闘派でもないし、いいかなって(すっとぼけ)