ーーセイントとオシリスの出会い、建設中のシティにて。
セイントとユメは午前にシャーレの仕事を済ませ、アビドスの校舎へ赴く前に柴関ラーメンへと訪れていた。
「大将!調子はどうだ!!」
「よぉ先生、相変わらず閑古鳥が鳴いてるよ」
大将の言葉の通り、店内に他の客の姿は見当たらない。
自治区の端という立地に加えて、そもそも自治区に住民が少ないのだから仕方がないと言える。
「では少しでも貢献せねばは、味噌の大盛りを頼む」
「私は、醬油の並みで。いつもありがとうございます、大将」
大将は「あいよ」と答えて調理を開始する。その様子を見送りつつ、2人は今後のアビドスについての相談を始めた。
「この店の場所も、正確にはカイザーのものだ。何かあった時に学校は手出し出来ないだろう」
「そうですね、アヤネちゃんが改めて記録を確認してくれるみたいですけけど、解決はできるかどうか…」
「とはいえ、強硬策を取るわけにもいかない。銀行では運が良かったと思うべきだろう」
「うぅ、反省してます…」
ユメは体を小さくして誤っている。その後の情報をマイカの助けを借りて集めたが、幸いあの事件にアビドスやヒフミが関わっていることは知られていない。トリニティとの問題になることはないだろう。ヒフミ自身も特に問題はなかったと連絡をくれた。
ヒフミはトリニティの生徒会『ティーパーティー』に協力の依頼を進言するかと申し出てくれたが、ホシノの意向もあってそれは断った。とはいえヒフミ自身は協力を続けてくれるらしく、自身が集められるカイザーについての情報がないか探ってくれているらしい。彼女の行動力と友達思いの優しさは頼りになる。
新たな友に感謝をしていれば、2人の前にラーメンが差し出される。礼を言いながら早速箸をつければ期待通りの味が腹を満たしてくれる。
かつてのセイント達もそうだったが、ラーメン屋の有難さは時代も場所も変わらない。
そう思っていれば、店の扉が開かれる音が聞こえた。
目を向けてみれば、そこには上の空のアルを引き連れた便利屋68の姿があった。
カヨコとムツキはセイントたちの姿を見て焦りの表情を浮かべ、ハルカはオロオロし、アルは白目をむく。
「お、嬢ちゃんたちじゃないか、早く座りな!」
そう大将に声をかけられてしまった為、店を出ることもできずに彼女たちは席に座り、注文をすませる。チラチラとこちらを警戒する様子はあるが、今の時点で彼女たちをどうこうするつもりはセイントにはない。
「そう警戒するな、取って食いはしない」
「そうですよ、せっかく来たんだからちゃんと味合わないと!」
セイントの言葉とユメの笑顔にカヨコはため息をつき、ムツキは笑う。
「はぁ、先生もユメもお人好しだね。学校を襲った敵だっていうのに」
「だね~、でもせっかくおいしいラーメンなんだからそのほうがいいじゃん!」
2人はそうやって警戒を解いてくれたが、アルはどこか釈然としない様子だった。ハルカは変わらずオロオロしていたため、ユメが微笑みながら話しかけている。
そうこうしていれば、大将が彼女たちのラーメンを運んできた。彼女たちはそれらに目を輝かせており、よほど懐事情が厳しいのか感激の声をあげている。
「アビドスさんとこと先生のお友達なんだ、替え玉が欲しけりゃいいな」
柴大将の言葉に皆は感謝する。太っ腹だが商いの才はないなとセイントは思ったが口には出さないようにした。
「……じゃない」
アルがぼそりと何かを呟く。みなその様子に箸を止めて彼女の方を見れば、わなわなと震えて立ち上がり、頭を抱えて声を発した。
「友だちなんかじゃないわよぉーーーーー!!」
「わかった!!なにが引っかかってたのかわかったわ!問題はこの店、この店よ!!」
「私たちは仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!!アウトローっぽく!!」
「なのに何なのよ、この店は!お腹いっぱい食べられるし!!あったかくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!」
「ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「そんなんじゃダメよ!メチャクチャでグダグダよ!私が一人前の悪党になるには、こんな店は要らないのよっ!!」
「私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!!」
ゼーーッハーーッ。
大声で全てを言いきっり、息切れが店内に響く。
「アル様、それっ「言いたいことはそれだけか?」」
ハルカが何か言おうとしていたが、セイントがそれを遮る。
怒気を孕んだその声は、彼女たちをすくみ上がらせるには十分なものだった。
「アルよ、君が何を思っているのかは分からない。だが言った言葉が本心なのだとしたら、私は黙っているわけにはいかないぞ?」
先の学校襲撃は依頼だったとセイントも水に流せる。しかし友情を裏切ることを、彼女たちの憩いの場を貶めることを許すことは彼にはできない。彼女の真意を、セイントは聞きたかった。
しかし、アルはそのセイントの怒りに当てられて声を発することが出来ずにいる。本人に自覚がなくとも、彼の威圧感は常人が無視できるものではなかった。
セイントはアルが返答をしないため、次の言葉を紡ごうとする。その時ーー
「ほら皆、ラーメン伸びちゃいますよ?」
ユメが優しい声でそう言った。雰囲気は少し和らぎ、皆がユメを見つめる。
彼女は微笑み、何かを思い出すように言葉をこぼす。
「誰かと食べる食事ほど大切なものはない、でしょう?」
ユメの言葉に、セイントは感謝をした。
自身が彼女に言った言葉だというのに、それを蔑ろにするところだった。この世界に来てからというもの、彼女には助けられてばかりだ。
ユメに促され、アルたちはラーメンに口をつけ始める。最初は気まずそうにしていたが、小さく声がこぼれる。
「おいしい」
その言葉に、ユメは満足そうに頷くと「食べながらでいいからね」といって話し始める。
「アルちゃんも言ってたけど、いいお店だよね。ラーメンも美味しいし、大将も優しいし」
「でも、それと同じくらいに、ホシノのちゃんたちとアルちゃんたちと一緒にお話ししたり、笑ったりした思い出もあるから、私は好きなの」
「アルちゃんの仕事もあるだろうし、目指してるアウトロー…っていうのが、どういうものかは私には分からないけど、私はお話ししててアルちゃんは優しい、いい子だなって思ったの」
「だから、そんなアルちゃんとはお友達でいたいな」
「ダメかな?」と彼女はアルを見つめる。
少しの沈黙の後に、アルはゆっくりと箸を置いてからユメに頭を下げた。
「ごめんなさい」
「私の我儘で、あなた達の大切な場所を、私とあなた達との思い出を、要らないなんて言って」
「さっき言った通りだけど、この店も出会った皆もあったかくて、私も好きなの」
「ユメや皆とは、私もお友達でいたいわ」
ユメはそっとアルの手を取って顔を上げさせ、照れ笑いを浮かべた。
「うん。改めてよろしくね、アルちゃん!」
アルもつられて照れながら笑いをこぼす。セイントを含め、皆はその様子を微笑ましそうに見守っていた。
それに気づいたアルは更に照れたように顔を赤くするが、大将も同じようにこちらを見ていることに気づいて頭を下げた。店のこと「いらない」と言った事を真摯に謝罪する彼女に大将は「気にしなくていい」と笑う。
一時はどうなるかと思ったが、ユメのおかげで大事にはならなかった。むしろ以前よりも親しくなっているかもしれない。カヨコとムツキは「ユメも人たらし」という結論がでているようだった。
アウトローを目指しているというが、アルの性格は到底向いていないのではないかとセイントは疑問に思ったが、それよりもこの穏やかな幸せに感謝をする。
しかし、それは長くは続かない。
風切り音と共にセイントの培われた勘が危険を訴える。
「全員集まれ!!」
声と共にセイントは自らの光を解き放つ。
紫の幕が彼を中心に広がるのと同時に、爆音と閃光が炸裂した。
柴関ラーメンは、アビドスにとっては憩いの場。
記憶を無くしたユメにとっても、友情を育んだ大切な場所。
セイントはそんな場所を守るために戦う戦士であり、感情的な人間なので、生徒に怖がられることもあるでしょう。ですが真摯さとユメのフォローもあって、生徒との良好な関係を築けるのかなと思います。
少し長くなりそうだったので分けました。アビドス編も終盤です。